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12話 野宿の夜に その2

 ネルは肩に袋に入れられた子供を担ぎ全力で森の中を走っていた。

 人が通れる道など整備されておらず、ネルは木々の間をすり抜けていく。途中、小枝などで擦りむき顔に幾つもの傷ができて行った。

 その後 突然ネルは転んでしまう。樹木の根が地面から這い出していた所で躓き転倒したのだ。転ぶ途中、身体を回転させ子供を守る様に背中から倒れた。


「痛ぅ!」


 背中に痛みが走り顔をしかめた。


 子供が入った袋を大事そうに抱え、立ち上がる為に体勢を立て直す。ネルが正面を向いた時、つまずく原因となった根の土部分がえぐれており、自然の小さな木の洞窟がそこにはあった。小さな子供を隠すにはそれは丁度良い大きさである。

 ネルは直ぐ様、袋を縛る紐に手をかけ袋の口を開け、中に居た子供を慎重に表へ出す。中からは赤い服を着た、7歳位の女の子が出てきた。

 少女は手足を縛られ気絶している。少女の手足を縛っている紐をナイフで外している時に少女が目覚めた。

 少女は目をこすって周りを確認しようとしていた。

 ネルは、少女に声をかけた。


「君は二人組の男に連れ去られようとしていたみたいだ。でも大丈夫。僕が君を元の場所へ帰してあげるよ」


 少女が少しでも落ち着く様に、優しい口調で伝える。

 少女は拐われた時を思い出して震えだしたが、ネルの笑顔に安心したのだろうネルを見ながら頷いた。

 ネルは少女に伝える。


「この木の根の隙間に隠れていて欲しい」


 少女は頷き根の隙間に潜り込む。完全に隠れたのを確認すると、小枝や落葉を上からかけ、入り口を隠した。


「助けが来るまで、ここから出ては駄目だよ」


 ネルが少女へそう伝えると、根の隙間から少女の頷く様子が伺えた。ネルは直ぐ様、袋に落葉や小枝を詰め込み袋の口を締める。

 その時、奥の方から足音が聞こえてきた。ネルは警戒を強め、その場から移動しようとした時。少女が語りかけてきた。


「貴方は誰?」


「僕はネル! ネル・ダブル。大丈夫! 君は必ず助けるよ」


 そう伝え走り出した。その姿を少女は見つめていた。

 少女が隠れている場所より少し先の大木にネルは身を潜めていた。少女との距離は15m程度で、彼女に何か在ったとしても、ネルが跳ぶ事が出来るギリギリの距離である。

 大木の陰から顔だけを覗かせ、近付く者を確認する。


「シャインさんじゃない!」


 近付くのは二人組の男の片方であった。


「シャインさんはどうなった?」


 ネルは不安げに呟いた。その後、少女が隠れている方を向いた。


「今あの少女を守れるのは僕しかいない。しっかりしろ。ネル・ダブル!」


 ネルは自分自身へそう叱咤する。

 男はその間も足早に近づいてくる。まるで、大体の居場所が解っているかの様であった。


「この付近で血の匂いがする…… 居るのは解っている。出てこいよ!」


 男が大声で叫んだ。その声にネルは身構えた。

 男は片手に剣を持ちネル向かって走りながら言葉を発する。


「来ないなら、こっちから行ってやる。そこで大人しくしていろ!」


 男との距離が2m程まで近づいた時、ネルは横へ10m程テレポートで跳ぶ。

 男はネルがいた場所に斬撃を放ったが空振りになってしまう。


「おかしい? 確かにいた筈だ!」


 そして、ネルが跳んだ方へ向きを変えた。


「そっちに居るのか! チョロチョロすんじゃね~よ!」


 ネルは袋を担いだ状態で走り出した。男もネルの姿を確認し後を追いかける。

 

「何故、僕の居場所が解る? あの男は何をやっている?」


 少女との距離が30m程度離れた所でついに追い付かれてしまう。


「観念して、それを返しな! 今返せば楽に殺してやる」


 ネルは袋をそっと地面に寝かせ男と向かい合い、ネルは剣を抜き、構えを取る。


「返す訳にはいかない」


 ネルは強い口調で言葉を返した。 


「はっ! 威勢がいいな」


 男が不気味な笑みをみせた。


「1つ聞いていいか? 何故僕の居場所が解っている?」


 その質問を投げたネルは冷静な様子と変わっていた。


「ああ? そんな事か! まぁ~ それ位なら冥土の土産に教えてやってもいい。俺は匂いに敏感でなぁ、色んな物が嗅ぎ取れるんだよ。

 その中でも一番解る物が血の臭いでな。今まで一番嗅いで来たから、間違える事はない。そうお前が今流している物だよ。だから何処へ逃げても無駄だ、観念して殺されろ」


 男は得意げに講釈を垂れた。ネルは左片手で自分のわき腹を擦る。手には血の「ヌルリ」とした感触があった。どうやら、つまずいた際にわき腹に怪我をしていた様であった。


「シャインさんはどうなった?」


「また質問か? 知らね~よ! バルドが殺したんじゃね~のか?」


 その言葉を聞いたネルは、怒りの形相で突っ込んでいった。


「お前たちは絶対に許さない!」


 その言葉と共にネルは男へ切りかかっていく。最初は低い姿勢から相手の足を狙った横払い、それを男は後ろ跳びでかわす。

 男の着地地点を予測し素早く近づく、そして肩へ目掛けてややジャンプぎみ上段から切りかかる。男は剣を横にして剣を受けた。そして鍔迫り合い。ネルは相手を弾き飛ばす事は出来なかったが、相手もネルを弾き飛ばす事が出来ていない。互いにそれを感じ一旦同時に後方へ下がった。


「おい! やるじゃね~か。今度はこっちから行くぞ」


 男はリズム良く右や左にフラフラ揺れながら近づいてきた。

 そして攻撃範囲に入った瞬間、下からすくい上げる様な剣筋で首を狙ってきた。とっさに後ろへ下がってかわす。男は更に一歩詰め、振り上げた剣を叩きつけてくる。ネルは其れを斜めに受け剣筋をずらしていく。止まらない連撃に防戦一方のネルであった。

 ネルと男の身長差は約20cm程度、それはリーチの違いでもあった。懐に入ればネルが有利であるが、土俵が相手の間合いである場合は逆に不利に陥っていく。

 剣撃を受けるたびに、一歩、一歩と下がっていく。男の顔には余裕が伺えている。

 ネルが下がりながらの防戦を繰り返していると、足を何かに引っ掛け転がってしまう。

 男は勝機と見ると、先ほどから斬り続けて来たリズムを変える事なく。ネルを串刺しにする形で剣を突き刺してきた。男は笑みを浮かべ勝ちを意識する。

 だが男が希望した光景は見ることが出来なかった。その瞬間、男の背中へ衝撃が走る。


「ぎゃ~! 何故お前がそこにいる?」


 男は理解出来ていない様であった、男は上着の下に鉄繊維で編んだ防具を着込んでいたようであった。

 だが、無防備な背後からの一撃はそれさえも切り裂き、肉を裂いていた。男の顔は痛みに歪んでいたが、構えはといでおらず、視線も熱くネルを伺っている。

 少しの間に睨み合いをしていたが、男が悟った風に話だす。


「今の動き、お前術士だな! でないと説明つかねぇ」


 だがネルは無言を貫いている。油断している様子は無かった。


「へっ! だんまりかよ! まぁいい。それじゃ俺もとって置きを見せてやろう。【撒き散らせ!フレイバー】」


 男が呪文を唱えるのを確認し警戒しようとしたが、その瞬間ネルが喉を押さえ苦しみだす。


「がぁぁ! 息が…… できない」


 ネルは下を向き、剣を杖の様に突き刺し片膝を突く。

 男はネルへ近づき「終わりだ!」と声を掛けながら剣を振り下ろした。だが男の斬撃がネルに達する前に、剣が弾き飛ぶ。

 男は横へすかさず顔を向ける。同じ方向からまた男に向かって飛んで来たのは、拳程の石であった。それが凄い速度で男へ向かって投げられている。

 男が投石をかわすと、大木にめり込む石を確認した。男の顔から汗が流れていた。


「遠距離かよ、俺との相性最悪だな……」


 男は小さく悪態をついた。

 もちろん、投石を行っているのはシャインであった。約20mの距離を正確に狙っていく。ただの石が今は凶悪な兵器と化していた。

 男が距離を取ったのを確認したシャインはネルの元へと駆け寄っていった。


「ネルさん、大丈夫ですか? すみません遅くなりました。巨漢の男は行動不能状態にしています」


 ネルはシャインの方を向いて、目に涙を浮かべていた。


「シャインさん、無事でいてくれた。僕はシャインさんが……」


 ネルは目を擦りながら、シャインの生存を喜んでいた。


「ネルさん、敵はまだ前にいます。後は私がやりますので、下がって居て下さい」


 そう告げるシャインにネルは首を横へ振る。


「僕がやります。相手の魔法もなんとなく理解できました」


 そしてネルが男と向かい合う。男はナイフを手に取り警戒している。


「もう大人しくして下さい。衛兵に引き渡します」


 ネルはその言葉と共に男の方へ駆け出していく。


 【撒き散らせ!フレイバー】


 まだ2人の距離が在ったが男が呪文を詠唱しはじめた。ネルはお構い無く相手の間合いに入っていく。

今回はネルが剣で男がナイフである。リーチ的にもネルに分があった。何度か攻撃を繰り返し。ネルはテレポートにて一度距離を離れる。


「予想通りです。貴方の魔法は臭いを操る魔法ですね。僕の息が出来なかったのは、強烈な臭いの為、そして貴方が一定距離はなれた時は症状が治まった。とう事はその魔法には有効範囲がある!」


 ネルは自分の予想を言葉にする。


「ちっ! ばれているのか! 邪魔くさい奴だ!」


 男は回答を、悪態をつく事で返した。


「次で終わりにします」


 その言葉と共にネルは肺一杯に息を吸い込み、息を止め男の背後へテレポートを掛けた。


 男はまだ、消えたネルを探す為、左右を見渡すが、その時点で終わっていた。背後からの一撃から時計周りに左に廻りラッシュが始まっていく。最初は上から下へ、次は右下から左上、更に左上から右下、そして最後は、右横から左横。全ての攻撃が男を切り裂き、そして白目をむき倒れた。


 男が倒れたのを確認するとネルは大きく息を吐き出し。シャインに「僕は大丈夫!」と手をあげていた。


 シャインは男のそばへ行き、首筋に指をあてた。


「ネルさん、この男は生きています」


「はい、鉄製の肌着を着ていたみたいなので、きっと死んでいないと思っていました。シャインさん彼ら2人を動けない様に縛ってくれますか? もちろん止血とかもお願いします」


「了解しました。では早速取り掛かります」


 シャインはそう言うと、男を担ぎもう1人が倒れている所へ歩いていった。

 ネルは少女が隠れている場所へ急ぐ。その場所へ到着すると、すぐさま入口の枝や落葉を払い、中へ向って声を掛ける。


「もう大丈夫だよ! 出ておいで」


 中から声が聞こえる。


「ネルなの?」


 ネルは優しく、安心感を与える顔で伝える。


「ネルだよ。だから安心して出ておいで。そして僕に君の名前を教えてくれないか?」


 そしてネルは木の洞窟へ手を差し伸べる。

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