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11話 野宿の夜に その1

 街へは街道と呼ばれる管理道路が整備され人々に利用されている。その道は木々を綺麗に切り取られ道幅が約8mあり、地盤は締固めが十分に行われている。不陸による歩き辛さは感じられない。

 馬車は道の両端を、進行方向を見て左側を走る事に決められている。夜間、馬車を走らせる時、照明設備の乏しいこの世界で衝突の事故を減らす為の知恵であった。

 徒歩の人は必然的に真中を歩く事になる。盗賊が森から襲ってくる際、少し距離がある為、自己防衛の時間を稼ぐ事が可能となっていた。


 2人は街道を歩きながら、見慣れぬ景色を楽しんでいた。道の両側には森が広がっており、その奥は見通す事はできないが、木々の隙間から日の光が差し込み神秘的な風景を演出していた。


「シャインさん。ファーストブルグには後どの位で着くと思いますか?」


「この速度で移動すれば、明日のお昼頃には到着できると思います」


 ネル達が向かっているのは、ウス地区で最も大きな街であるファーストブルグの街であった。国は街を管理する為に、番号を振り分け、番地にて統治を行っていた。それとは別名も付けられ、ファーストブルグは1番地に該当する。ネルが育った20番地はパニートと呼ばれていた。


 ここまでの旅路は実に順調であった。ファーストブルグへ向かう途中に幾つかの街を経由し、時には街で宿を取り、時には街道沿いの森にて野宿を繰り返しここまでやってきた。


 野宿の時に交代制を主張するネルに対して、睡眠の必要が無いシャインは反対をする。たがネルにはその理屈が通じず。押し切られる形で見張り番を交代する事を了解する。

 実際交代の時間になると、見張りの為に火元で膝を抱え座っているネルの横にシャインが座るという形が出来上がる。その時間を利用し、2人はこれからの事を話し合う。これが毎度のやり取りであった。 


「ファーストブルグには何人か術士がいるはずです。術士に情報を提供してもらい魔法士に会いに行こうと思います。

 魔法士は特異な魔法を使う人が多いと聞いています。魔法士の中にきっとシャインさんの力になってくれる人がいるはずです」


 ネルは自分の考えをシャインへと語った。シャインはネルの顔を見ながら「そうですね」とだけ返していた。


 それから、すこし時間がたった時シャインが暗闇の一点を見つめ警戒の言葉を発する。


「何者かがこちらへ向かってきます。数は2つ…… いえ3つです」


「シャインさん、それは動物や魔獣ですか?」


 ネルは質問を投げかける。


「この距離だとまだ判断できませんが、人だと思われます。相手はまだ此方に気付いていません」


 近接型として作られたシャインの感知範囲は100m程度ある。遠距離型であれば10倍程度は違っていたかも知れない。

 2人は焚き火に土を被せ、闇に身を潜め様子を見る。夜目の利くネルは近づいてくる人物に集中する。現れたのは2人組の男で在った。どちらも長身であったが、1人は体が大きく力強さを感じさせ、残りは細身で不気味な雰囲気をかもし出していた。

 男達は走りながら近づいてきたが、急に立ち止まり周りを警戒する。


「焚き火の臭いがする。近くに誰かいそうだな。バルド警戒しろよ!」


 細身の男が注意を促していた。


「兄貴が言うならそうだろうな」


 巨体の男が肩に担いでいた大きな袋を地面に落し、腰に掛けている剣に手を伸ばす。その様子を木陰から伺っていたネルがシャインへ小声で問いかける。


「シャインさん、男性2人の様ですが後1人は何処でしょう?」


「後1人は、巨体の男が降ろした袋の中にいます。どうやら子供のようですね」


「袋の中に子供? それじゃ人攫いじゃないですか。早くその子を助けてあげないと、シャインさんはあの二人を相手に出来ますか?」


「大丈夫です。任して下さい。それでネルさん、あの二人は捕まえますか? 殺しますか?」


 シャインの物騒な言葉に慣れていないのか、ネルは少し引きつりながらつたえる。


「殺さないで、動けなくして下さい…… 後で街へ連れて行きましょう」


「了解しました」


 口早に伝えた。


 2人の作戦は次の通りであった。

 シャインがまず男達の前に姿を現し注意を引く。その隙に魔法で近づき子供を救う。シャインは倒せる様であったら倒してしまう。実に簡潔な作戦であった。作戦決定後、すぐさま行動へと移っていった。


 剣を手に持ち警戒する男の前へシャインが姿をみせた。物音に気付いた男は殺気をシャインへと放つ。だがそれも彼女の姿を見るまでの間であった。


「すげぇ美人のね~ちゃんじゃね~か! 何している? こんな夜に1人で森にいたら悪い人に襲われちゃうぞ。へへへ」


 舌を出し、口の周りを舐めながら巨体の男がいやらしい笑みを浮かべそう告げた。


「おいバルド! こんな場所で時間を喰っている場合じゃない。見られたからにはそいつを始末して先を急ぐぞ!」


 細身の男が急いでいる素振りを見せながら、シャイン横へ回り込もうと動き出す。

 今は丁度シャインを挟み込む陣形になっていた。


「おぉぉぉ~!近くで見ると、こいつ本物の上玉だぁ! なぁ~ 兄貴! 気絶させて連れて帰っていいだろ?」


 下種な男の言葉に、兄貴と呼ばれる男は「好きにしろ!」とだけ呟いた。

 2人の会話を無言で聞いていたシャインが、刀を抜きバルドと呼ばれる男の方へ構えを取る。それに答える様にバルドもシャインへと意識を向けた。


 その時、バルドの後ろで突然現れる気配があった。

 バルドもすかさず後ろを向こうとするが、シャインは手に持つ剣をバルドへ投げつけた。バルドは最優先事項を投剣と定め対応する。

 シャインが投げた投剣をバルドはなぎ払ってみせたが、後ろにいたネルに太ももを切られていた。


「くぅぅ!」


 痛みに顔をゆがめ後ろを向こうとしたが、見えた景色は袋を担ぎ闇へ消え行くネルの後ろ姿であった。


「バルドなにやっている。お前は女を殺しとけ!」


 そう言葉を掛けたのは兄貴と呼ばれた男であった。

 彼はネルが現れた瞬間から動き出していた。シャインの横を素早く走り抜けネルを追いかけていた。すれ違いざまに、ナイフをシャインの顔めがけて投げつけていた。彼の失敗はシャインの後ろまで移動していた事である。

 そしてシャインの失敗はナイフへの対応に一瞬気をとられ、兄貴と呼ばれる男を通してしまった事である。

 シャインはすぐさま追いかけようとするが、バルドに阻まれてしまう。


「そこをどきなさい! 殺しますよ!」


 シャインはバルドへ鋭く怒気を含んだ声で言った。


「兄貴に言われたんでな。あんたの事は、残念だが殺すしかない!」


 バルドは手に持つ大刀を構えた。

 シャインはその言葉を聞き流し、バルドへ突っ込んでいく。

 その動きに合わせ、バルドは大刀を振り回す。シャインは横払いの斬劇をジャンプし前方回転しながらかわすと共に、バルドの頭上へ踵落しを浴びせる。バルドは片膝をついたが直ぐに立ち上がる。


「つえ~な! こんな強くて美人は見たことがねぇ~ぞ! だが俺にはきかねぇな。大人しく死んでくれや!」


 バルドは下種な笑みを更に強調させて余裕感を見せ付けてきた。


「頑丈な人ですね。私には時間がありません速効に終わらせます」


 初めに投付けた剣を拾うと。会話する時間を惜しむように、攻撃へ移っていく。実際バルドはシャインのスピードについて行けず、急所を守るのが精一杯な状況であった。そして体中が傷だらけになったバルドは雄叫びを上げた。


「がぁぁぁ~! ゆるさねぇ~! 絶対ゆるさねぇ~! 【大地の精霊よ! 俺を硬く固めろ! ソレイユー!】」


 その叫びを聴き、シャインが警戒心を強める。その瞬間バルドの肌の色が黒く変色していくのが見てとれた。何やら感じたシャインは追撃を繰り出していく。バルドは切り刻まれているが、顔には笑みが見てとれていた。その後シャインは攻撃を止める。


「剣が通りませんね。もしや魔法?」


 シャインはバルドが行った事を素早く分析していく。


「がははは! お前はもう俺に傷一つ付ける事はできんぞ。俺の体はどんな剣でも傷が付かない程、魔法で固められている」


 その答えが出る前にバルドが自分で語り全てが明確になる。


「体が硬くなっては、動けなくなりませんか?」


 シャインはバルドへ疑問を投げかけてみてみた。


「若干動きは鈍くなるが、ほらこの通り動けるぞ。解ったか?」


 バルドは親切に自分が動ける事を強調しながら、動いて見せた。シャインはその動きを注意深く観察していく。その結果、間接部分の硬質化は行われていない事が推測できた。

 そしてシャインは剣を手放し行動へと移していく。手刀を構え、超振動モードを起動させバルドの肩へ叩き込む。結果バルドの肩を少しだけ引き裂いた程度であった。


「超振動モードでも駄目ですか。出力が最大で在ったなら、そのまま引き裂く事も可能でしたが仕方ありません。幾らでも方法はあります。次で終わりにしましょう」


 シャインの呟きは、バルドに届く事はなかった。だがバルド自信はシャインの攻撃が通じなかった事にたいして、安堵の表情を浮かべていた。


「俺の皮膚を引き裂くとは、お前も術士か? だが威力が少し足りね~よ!」


 そう言うとバルドは大刀で切りかかってくる。


「御託はもう沢山です。貴方は私に勝つ事ができません」


 シャインはその言葉と共に一度距離をとり、そして自分が今出せる最大の速度をもってバルドへ近づいていく。

 変化を付けながらジグザクに迫るシャインの動きをバルドは目で追う事が出来なくなっていた。シャインはバルドの後ろへ回り込むと両膝の裏側へ手刀を叩き込んだ。


 シャインが予想していた通り、間接の裏側は他の部分ほどに硬質化しておらず、手刀はバルドへ喰い込んでいく。


「がぁぁ」


 バルドは両膝に力が入らなくなり、前かがみに倒れて行く自分の体を両手で支える形となる。

 シャインはそのまま両肘の内関節へ手刀を叩き込んだ。今度は両手にも力が入らなくなり、バルドは人形の様に地面へと倒れこむ。


「くそぉ~! くそぉ~!」


 その姿を確認し悪態をつくバルドを尻目にシャインはネルの元へ掛けていく。


「ネルさんの元へ急がなくては……」

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