久しぶりの帰宅(下)
前回の続きです。
短いことは……目をつぶってくだサーイ(/--)/
その時、光の呟く声が清の耳に届いた。
チリ、と胸の奥に微かな痛みが走る。
何故、と。
何故まだ分からないのか、と。
己の中で何かが叫ぶ。
オレを信じきれないのか、と。
まだ仲直りもしていなくて、最近は顔を合わせることすらしていないのに。
だから、疑うのも当然のことだと思うのに。
なんなのだろう、このもどかしさは。
光が顔を覗き込んでくる。真っ直ぐに清の心を見定めようとする、疑いの色に染まった目。
(…っ、いやだ!)
瞬間、清の中で何かが弾け、眩しい光を伴って四方八方に飛び散った。
「うわ!?」
光の叫び声が聞こえ、清は体が自由になったと同時にそのまま落ちていくのを感じた。床に、尾から着地する。
トン、と。
やけに軽い衝撃音が、静まり返った玄関に響く。
残響が消え、再び訪れる静寂。
「え……?」
そんななか、光は目に押し当てて光を遮っていた腕を退けて辺りを見回し、驚きの声を上げた。
さっきと変わらない家の天井を見上げ、ついで目の前にちょこんと座っている清をまじまじと見つめる。
「お、お前……」
ありえない。
音なく言葉を溢すと、そのまま後ずさろうとした光はツルッと足を滑らせ、派手に尻餅をついた。それでも、手足を使って懸命に清から距離をとっていく。
「本当に……」
せめて。
せめて、その先を言わないで欲しかった。
「……何者なんだ?」
限界まで見開かれた目には、もう疑いの色はない。
だが、代わりに浮かんだのは、…拒絶。
(ああ)
光はそれに気づいてしまった。自分が一歩踏み出そうとすると、なお強くなるその思いに。
ピシリ、と。
ただでさえ傷ついていた清の心に、亀裂が入る音がする。
清はそれを無視し、思いきって一歩を踏み出した。
「く、来るな!!!」
が、光の放った叫びに清の動きが止まる。
「来るんじゃない、化け物め!!」
…同じようなことを、前に一度言われたことがあるというのに。どうしてだろう。
胸が、痛い。
ついに身体中に力が入らなくなって、清はその場に座り込んだ。
「化け物、……か」
前みたいに呟いてみる。呟きながら自分の体を見回し、最後に光を見た。
異常なほどに、震えてしまっている光を。
遠目から見ても、明らかに震えていることが分かる。
光は、歯をガチガチ鳴らしながらも、まだ清を見ていた。
まるで、清に殺される時を待っているかのように。
清はなんだか、笑い出したい気分になった。訳もなく、ただ無性に。
アハハ、と笑ってみる。笑う度にズキンと痛む胸を押さえながら。
視界がぼやけ、何かが頬を伝った。それを清は、あえて気がつかないふりをした。
ふっと、清の中の何かが途切れた。完全に意識完全に意識が無くなる寸前、立ち上がりかけた光が見えた。