久しぶりの帰宅(上)
遅くなって、すみませんー(T-T)
インターホンを押す。
ピンポーン
家の中から馴染みのある音が聞こえてくる。
頑張って腕を伸ばせばギリギリ前足がプッシュボタンに届くことに気がついたのは、ほんの10分前の出来事。それまでは尾を伸ばしたり逆立ちしてみたり跳んでみたり、色々な方法でどうにかあの憎たらしいボタンを押そうかと実験していたが、やっと正確に押すことのできる体勢を発見したのだ。
(よっしゃ、押せたー!!)
と、一時的に喜んだ清であるが。
「……どなたですか?」
カメラに映らない事実にようやく気づき、撃沈。
「オレだよ、オレオレ!」
「……インターホンでオレオレ詐欺ですか」
一生懸命話しかけるも、あえなく玉砕した。
「………… 」
多大なるダメージを受けて沈んでいる清が何も言えずに黙りこんでいると、さらなる追撃が清を容赦なくドン底へと突き落とした。
「…インターホンでオレオレ詐欺なんて珍しい…どんだけバカなんですかあなた……。ドア開けたら顔がバレちゃうじゃないすか……」
(オレって……そんなにバカなのか……)
ズーンズーンズーンズーーーーン♪
聞いたことのある効果音が、どこかから流れてきたような気がする。
「……ところで、ダレデスカ?」
警戒しまくっている弟の声に、これはもうダメだと清は名前を自分でいうのは恥ずかしいからイヤだ!という思いを捨てた。
そのままインターホンに向かって叫ぶ。やっぱり名前を自分で言うのはなんだか照れる。
「清!セ、イ、だ、よ「聞こえてる」」
ニィなら早くそう言えばいいじゃんか、と不満そうな声が中から聞こえてくる。
ガチャ
「はいおかえーって、どこにいるんだうわぁ!?」
…何が起こったか、お分かりになられただろうか。
顔も見たくないとばかり無愛想にドアを開けたものの、肝心の清がいなくて若干焦りつつ下を見れば、子狐がちんまりと座っていたのだ。そりゃ驚くだろう。
「なっにっえっどっ」
「何江戸?なんじゃそりゃ」
脳が絶賛フリーズ中らしい光は放っておき、脇をすり抜けて家の中に入る。木の独特な匂いが清の鼻を優しくくすぐった。
「ああーやっぱり家は落ち着く」
しばし懐かしき(?)我が家を堪能する。一日家を空けただけなのに、空気を吸って吐くだけのものがとてつもなく昔のことのように感じた。
「あれれ?」
突如うなじに走る違和感。急激に床が遠ざかっていく。
「離せー!」
力一杯バタバタともがいても、所詮は子狐の力。小さい子供ならともかく、中学生男子の力に敵うわけがない。
「お前…誰というか、何だ?」
すぐ傍から聞こえてくる声に顔を上げると、目の前に光の大きな目があった。元々大きな目をしている光だが、近づくともっと大きく見える。
「?…清だよ?」
「いや、そうじゃなくて」
意味が分からず首を傾げると、光は眉を潜めた。
その顔を見ながら、清は考える。
(そういえば、もう夏になったんだっけな…)
虐められ始めて、早2ヶ月。まだ声変わりはしていないようだが、こうして久しぶりに光を見ると過ぎ去った時間の重みをひしひしと感じる。
(でも、やっぱ童顔だな相変わらず)
光のコンプレックスその一、顔が年齢より幼く見えること。ベースは清とあまり変わらないが光の方は可愛らしさを保っている。良く言えば可愛い顔、悪く言えば童顔。それがある一部のお姉さまがたのハートをガッチリ掴んでしまったことも、勘の良い光は知ってしまっているだろう。
「………おい!!」
「はいっ!?」
ほくそ笑みながらいろいろ想像していた清は、光が目の前で何かの説明をしていることなど、とうの昔に忘れ去ってしまっていた。冷や汗をダラダラ流しつつ、怒っているだろう光の方に体を向ける。
「なな、なんでしょ「忘れたのかコラ」」
前言撤回。怒っているなんてレベルじゃない。光の周囲に、見事な殺気のオーラが立ち上ってる。
恐い。恐いです光さま。
「まぁいいや」
「あ、ありがとうございます」
本能的に頭を下げてから、清はアレ?と思った。
(なんで敬語になってんだろ?)
良くわからん。これは難しい問題だと判断した清は、疑問をさっさと捨てて、光の顔を見上げた。
「…性格はニィだな…」
「いや中身もそうだよ」
ツッコむ。清は心の中で、大きく息を吐いた。
「……まだ、ニイじゃない」
中途半端ですが、集中切れ&恐ろしい睡魔に負けそうなので、ここらで一回切ります。
次回は早めに更新できるといいな…☆