吐き出された本音
ドカッ。
下校中、行きなり背中を蹴られた清は、地面に倒れこんだ。
「何すんだよ!」
そう言って振り向こうとしたら、脳天を何かで殴られた。
グワン、と視界が歪む。
とにかく起き上がろうと地面に手を付くも、腕に力が入らない。
力なく投げ出した腕を掴まれ、そのままどこかへ引きずられていく。
連れてこられたところは、暗い所だった。
ああ定番の体育館の裏か、とぼんやりした頭で考えた。
ずっと掴まれていた腕が解放される。ダン、という音を立てながら地面に落ちたけれど、不思議と痛み
は感じなかった。
「覚悟しろ」
聞いたことのある声が、する。
どこか遠いところで。
ガツン
何か、鈍い音と共に。
(なん、なんだ)
朦朧とする意識を奮い立たせ、震える体を起こした。
霞む視界に映るのは、ただひたすらに自分を殴る男たち。
繰り出された拳の一つが、清の頬を抉った。
ドォン!
耐えきれず、また地面に転がる。
「かはっ」
うつ伏せになったためか、喉から息の音が漏れる。
「――…」
男たちが自分に向けて何か言っているけれど、上手く聞き取ることが出来ない。
ブンッという唸りを挙げて、またひとつの拳が清の鼻を強かに打ち据えた。
「はっ」
清は、人から殴られたり蹴られたりするのは初めてだった。母と父は清を撫で回したり、褒めたり、ひたすら溺愛するばかりで、手を上げたことなどは一度も無かった。
それゆえなのだろうか。
清は、厭まれる、ということを知らない。
どうやって、己の身を守れば良いのかも。
誰かが清の背に触れた。同時に、今まで降り注いでいた拳が止む。
「…?」
不思議に思って、目だけで背後を見れば。
そこにいたのは、――光、だった。
「…光」
目を見開いて、その名を呟く。
見上げた光の顔は、苦しんでいるように見えた。
歯を食い縛って、何かに耐えているかのように。
「…どうして」
端正な顔を歪ませながら、光は呻くように呟いた。
さっきの男たちの声は聞き取ることが出来なかったのに、何故か光の声はすうっと頭に入ってくる。
「どうして、ここまできて…!」
背中の足が震えている。
ただ触れられているだけで、他には何もしてこない。
「オレは、お前を踏み倒したかったのに……!」
…倒す?どうして?
理由を聞きたいのに、声が出ない。
声帯が上手く振動しない。
「なんで、なんにもできないんだ!!!」
足を下ろして叫んだ光は、目を清に合わせてきた。あとからあとから出てくる、光る粒が零れるのも構わず。
そして、更に叫んだ。
「いい加減にしろよ、いつもいつも調子に乗りやがって、ふざけんなよ!お前のせいでオレは、オレは」
息を、飲む。
光の目によぎった、一欠片の感情を垣間見てしまったから。
それは、あまりにも嫌な色をしていて。
――もう、俺の知ってる『光』じゃない
『ニィなんか、死んじまえばいいんだ!!!』
遠くで、光の叫び声が 聞こえたような、気がした。