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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第七話

 翌年 2月 2日 冬


シャイン・ほう

 『んん・・・ここは・・・。ん?』


 おれ・・・僕は目を覚ますと、知らないベッドで寝かされているようだった。

 僕は左手を握られている感じがして、そちらの方に顔を向ける。


 『わ!!!・・・でかい顔!』

 「ぶ!!!・・・ぶううう!」


 ビックリして、つい叫んでしまった。

 そこには、僕の顔と同じ大きさの赤ん坊の顔があった。

 いや、よく見ると顔だけでなく体の大きさも僕と然程さほど変わらない。


 その銀髪の将来、間違いなく別嬪べっぴんになると思えるような可愛らしい顔の赤ん坊は、くりくりとした藍色の瞳でこちらを、じーっと見つめていた。


 『え!?』

 「ぶ!?」


 その藍色の瞳には、僕が映っていた・・・しかも、赤ん坊の姿をした、僕が・・・。


 『・・・なんで・・・どういうこと・・・。』

と、僕が混乱して怒りが湧き上がりそうになっていると、

『ん・・・やあ・・・やっと目が覚めたね。鳳。』

と、頭の中で起きたばかりと言う様なかすれた声がしたと思うと、今まで自分の目で見ていた赤ん坊の顔が何かを通した映像として見ている様な感覚になる。


 僕はその声を聞いて、湧き上がりかけていた怒りが収まっていく感じがした。


 『え?君は誰?どうして僕の中に居るの?』


 その声の主は、どうしてか僕の中に居ると感じていた。


 『だって、僕は君だもの。・・・あ、そうそう、勝手に僕達の呼び方を決めさせてもらったよ。君はほう僕はおう。どお、カッコいいでしょ。あ、それと今の僕達の名前はシャインだからね。』

 『・・・・・・・・。』

 『あ、あれ?どうしたの?鳳って呼び方いやだった?』


 ・・・・・。


 『・・・わっけわかんねーよ!ここ何処だよ!何で赤ん坊なんだよ!お前誰だよ!!』

 『・・・ご、ごめん。そ、そうだよね。訳、分かん、ないよね。・・・ふ・・ふえええええーーー・・・・・ん・・・』


 「ふええええーーー・・・・・ん、ふ、ふえええん、ひっくひっく、ふえええーーー・・・」

と、僕の中に居る凰と名乗った奴が泣き出すと、僕自体も泣き出した。


 「ふえ、ふえーーーー・・・ん・・・・」


 すると、隣に居た赤ん坊も泣き出す。


 ・・・・・・・・・。


 『ああ!もう!わかった、わかった!分かったから泣き止め!・・・五月蝿うるさい!!』

 『うう、ひっく、ひっく、ご、ごめんよ。ひっく・・・。』


 僕はこいつが何故か僕とは別の一面をになっている、もう一人の僕自身だと感じ何時の間にか受け入れていた。


 『分かったから、現状、お前のわかる範囲で話せ!』

 『・・・凰・・・。』


 目には見えないが一瞬、うるんだ瞳で訴えかけてくるような上目遣いの小動物の顔が頭に浮かんだ。


 『ああ、わかった、わかった!凰、話せ!』

 『・・・うん。でも、僕が知ってる事は鳳の知ってることだよ。』

 『・・・いいから話せ。』

 『うん、わかった。・・・・』


 凰の話では・・・


 ・・・僕は空から落下して地面に激突、普通なら死んでいるが何故だか僕は死んでいなかった。で、気が付くと目の前に化け物が居て(この世界では、魔獣という物らしい)、そいつの頭を殴り飛ばし後ろに居た女性に声を掛けようとしたら、気を失った。


 次に気が付いた時には既に赤ん坊の姿になっており、このベッドに寝かされていた。で、隣に寝ている赤ん坊はカリン、姉か妹だろうという事だ。


 まだ、こちらの言葉が名前以外は理解できない為にハッキリしたことは分からない。


 そして、今の両親は母親は、なんとあの声を掛けようとした銀髪の別嬪さんだった、名前はカクラ。

 父親は名をカンザブロウと言い母親と同郷の人間らしく、銀髪を背中まで伸ばし何時も首の辺りで組み紐で纏めている。顔はキリッとした精悍な顔立ちで、体は鍛え抜かれた武人のようなガタイをしている。 

 歳は、2人とも二十二から二十四くらいのように見える。 


 そして、この家には僕を含めたこの4人以外に後3人住んでいる。


 その1人は、なんとエルフの見た目十五・六の少女だった、もしかしたらハーフエルフかもしれないが。

 その少女は名はカナコと言い、緑色の髪を肩まで伸ばし長く尖った耳に端整な顔のつくりだが、意志の強さを表すような少し切れ長の目が印象的だ。体は、まだ成長期の少女の体だが随分と鍛えられているように見える。


 2人目は、腰まで伸ばした黒髪を後ろに束ね、白磁のような肌に端整で中性的な顔で独特な高い鼻が印象的な女性だ。体は女性らしいメリハリの有る柔らかな曲線を描いている。

名前はクロガネ、年齢は二十台半ばと言ったところか、年齢の分かりにくい容姿をしている。


 最後の3人目は、頭は黒髪に白髪しらがまじりのボサボサで丁髷ちょんまげを立てている。

 精悍な顔立ちをしているが何時も無精ひげを生やしている。体は僕の父親と同じく鍛え抜かれているが、歌舞伎者のような姿をした四十台ぐらいのオジサンだった。

 たしか名前はキリマルと言っていた。 


 そして、この世界、魔法が使えるようだ、エルフの少女が使うのをチラッと見たことがある。それ以外にも何か不思議な力が存在している気がする。

 あと、男性は何時も帯刀しているみたいだ・・・。


 ・・・と言う事だった。


 『どうだった?鳳。』

 『・・・ああ、経験と記憶は共有してるみたいだな・・・。』

 『だから最初にそう言ったでしょ。同じ人間なんだから。』

 『本当にそうなのか確認をしたかったんだ。』

 『もう・・・。でも、この世界って剣と魔法の世界なんだよね・・・。なんだかすごいね。そんなの小説やゲームの中だけの世界かと思ってた。』

 『ああ、だが感心している場合じゃないな。・・・問題は、何故こんな事になっているのかだ。』

 『・・・うん。そうだね・・・。』

 『・・・まず最初は、なぜ、僕はこの世界・・・て、なんで、一人称が僕になってるんだ?』

 『ああ、たぶん、生まれ変わって精神年齢も子供になったからだと思う。でも直ぐに戻ると思うよ。体は普通の速度で成長するみたいだけど、精神の方はすごいスピードで成長してるみたいだから。僕が気づいたのは二日前だったけど、その時は親が直ぐ側にいないと不安で不安で、ずっと泣きっぱなしだったんだ。だけど今は全然平気になってる。たぶん、あと二日か三日もたてば元に戻るんじゃないかな。』

 『そうか、わかった。まあ、それはいいとして。疑問のほうだ。まず、なぜ、僕はこの世界に来たのか?次に、なぜ、人格が二つに分かれたのか?凰、どう思う。』

 『うーん、そうだねー・・・て、これ、自問自答だよね。それで答えが出るのかなー?』

 『まあ、自問自答だけでは、正解は出ないだろうな。』

 『じゃー、なんで?』

 『問題や疑問だけでなく、何事も自問自答して自分なりに進む道や答えを出して検証し、そして間違いや誤差を修正していく。それで初めて正解を得られるんじゃないか?』

 『・・・うん、そうだね。じゃー、まず最初は何故人格が二つに分かれたのか?でいいかな?』

 『ああ、好きな順で答えろ。』

 『うん、分かった。何故二つに分かれたのか、うーん・・・・・・・・・情報が少なすぎて分かりませーん。』


 ・・・・・・・。


 『・・・空から落ちてきたショックと、生まれ変わったショックでとか。』

 『あ、それ何か聞いたこと有る。ある程度の期間、強烈な苦痛や耐え難い恐怖を味わった人は別人格を作り出して、その人格にその記憶を押し付ける。それで、全く別の人格になり二重人格になる。だったかな?』

 『よくは知らん。だが、僕には当てはまらないな。その記憶は共有しているわけだし。』

 『うーん、そうだねー。・・・あ、そうだ、一つ聞きたいんだけど。』

 『ん?なんだ?』

 『鳳は喜怒哀楽の感情すべて持ってる?』

 『んー・・・・・たぶん、前と変わらん。怒りの感情しか無い様だ。』

 『・・・やっぱり、そうなんだ。・・・ごめんね。ぼくは、怒り以外の感情を全て持ってるんだ。もしかしたら怒りの感情だけ鳳に押し付けちゃったのかも。それに・・・多分だけど、この先、成長してみないと分からないけど。基本的に僕が起きている時表に出られるのは、僕だけかもしれない・・・。』

 『・・・ワザとじゃないんだろう、凰が謝る事じゃない。それに、怒りの感情しか持たない僕が表に出るより、それ以外の感情を持った凰が表に出ているほうがいいだろう、と僕は思うぞ。』

 『・・・ありがとう、鳳。・・・でも、怒りの感情しか持ってないのに怒らないし、それどころかなんか優しいね?』

 『優しいかどうか分からないけど・・・・・経験と記憶を共有するのなら、どちらが表に出ていても同じように思うからな。それに、怒りの感情しか持っていないからといって常に怒っているわけじゃないさ。それに、僕は昔から我慢強かったからな。』

 『うん、そういえば、そうだったね。・・・でも、もしかしたら前世の、あの辛い思いをした時に怒りを鳳に押し付けて僕が逃げ出したのが人格の分かれた理由の一つかも知れない。』

 『・・・ああ、そうかもな・・・だが、もう過去の事だ・・・。』

 『でも・・・』

 『・・・あの時、どちらかが引き受けなければならない感情だったんだ・・・そして、優しい凰には無理だった。だから僕が引き受けた、ただそれだけの事だ。』

 『・・・ありがとう、鳳。ほんと優しいね・・・。』

 『・・・・・・わかったら、気分を変えて次にいけ。』

 『ふー・・・うん、わかった・・・じゃー、次は、僕がこの世界に来た理由・・・・・・うーん、やっぱり情報が少なすぎて分かりませーん。』


 ・・・・・・・・・・。


 『・・・もう少しがんばれよ。』

 『だってー。』

 『まったく、同じ頭を使ってるんだろ・・・、そうだな・・・前の世界で、女に抱きつかれて海に突っ込んだ・・・普通だったら死んでるよな。』

 『あ、鳳、もしかしたら神様がチャンスをくれたのかも。僕がもう一度大切な人達を見つけて、その人達と一緒に幸せに暮らす事が出来る様に。』

 『・・・だから、今の母親を助けて、その子供になった・・・・・・そうだな・・・そうかもしれないな・・・ならば、今度こそ大切な人達を守らないと。』

 『・・・大切な人たちを守る・・・。うん、そうだよ。今度こそ大切な人たちを守らなきゃ!鳳!』

 『・・・ああ、そうだな。今度こそ守ろう!凰!』

と、固く決意した所で、僕は嫌な事に思い至った。


 『そういえば、凰。お前さっき、体は普通の速度で成長するけど精神は急速に成長するって言ってたよな。』

 『うん、言ったよ。それが?』

 『今は、精神が幼くて周りのいろんな刺激を受けて、喜怒哀楽が大きく揺れ動くことによって気が紛れているが、これが前の精神レベルに戻ったら、まだまともに身動きも取れない体で、どうなる?』

 『・・・・・・・・う・・た、退屈で死ぬかも・・・どおしよう・・・・。』

 『いや・・・・死ぬことは、無いと思うけど・・・。』

と、自問自答していると・・・。


シャイン・おう

 「あらあら、・・・・・・・・おなか・・・・・カリン。シャイン・・・・・・・・・ね。」

と言いながら、まだ泣き続けているカリンの泣き声を聞きつけて、1人の女性が僕達の居るこの部屋に入ってきた。


 銀髪に藍色の瞳、どこか懐かしい面影のある欧米系の見目麗しい今の僕の母親だった。

 彼女、カクラは最初カリンだけを抱き上げようとしたが、カリンが僕の手を離そうとしなかったのであきらめて僕も一緒に器用に抱き上げた。


 「・・・したの、カリン。・・・・でしょ。・・・・」

と言いながら、カクラは体をすりカリンをあやす。

 そうしている内に、「・・・・・ふえ、ひっくひっく・・・」と、カリンも徐々に落ち着いてくる。


 僕は、母親の暖かくて柔らかな体に包み込まれるように抱きしめられ、幸せな気持ちになっていた。

 『僕、母さんに抱きしめられるの大好き。おっぱいもおっきくて柔らかいのに弾力があって気持ちいい。鳳はどお?』

 『・・・ああ、僕も嫌いじゃないな。』


 僕は抱かれた状態で、母さんの顔を見上げ手を伸ばす。

 それに気付いた母さんは、優しく教えるようにゆっくりと口を動かす。

 「シャイン。・・・お・か・お、お・か・お、ね。」と。


 そして、僕がその手を、口の方へ移動させると、

「それは、お・く・ち、お・く・ち、ね。」

と、教えてくれる。


 僕は嬉しくなって、「おむう、おむう。」と、真似して言おうとしたが、まだ発声器官と口が未発達なためか上手くしゃべれなかった。


 だが何だか、とっても嬉しくなって、きゃっきゃ、きゃっきゃ、はしゃいでいると、

「ぶうう、ぎゃああーーー・・・ん!ぶうう・・・」

と、またカリンが不機嫌になり母さんに抱かれた状態で僕の方へ来ようと暴れだした。


 それに、一瞬母さんは驚いた顔をしたが、

「あらあら、カリンはシャインの事が本当に大好きね。」

と、微笑みながら僕らを抱えなおして、ゆったりとしたソファーに腰掛けた。


 それを聞き、僕はビックリしていた。


 『鳳。なんか、突然言葉が理解出来るようになったんだけど・・・。』

 『ああ、驚いたな。なぜだろう?』

 『あ、もしかして、鳳が目覚めたことで脳が活性化したせいかも。』

 『んー、脳が活性化ていうのはいいけど、それでいきなり知らない言葉を理解出来るようになるのか?』

 『・・・分かんない。でも、僕は生まれて何ヵ月か経ってると思うんだけど、今までずっと話し掛けられてるはずだよね。』

 『・・・と言うことは、いきなりと言うわけでもないのか?・・・あー、分からん・・・けど、理解出来るんだからそれならそれでいいじゃん!』

 『う、うん、そーだね。』

と、僕達が自問自答していると、


 「ぶあぶーーー。」

 『!?・・・うわ!!』

 「・・・・・ぶう!!」


 突然、カリンが負ぶさってきた。


 『ちょっ、びっくりしたなあ。・・・離してよ、カリン!ぼく、今、鳳と話してるんだから!』

 「ぶ、ぶびゃぶーー、・・・だぶたば、だぶー!だ、ぶ、ばあーぶんぶあーだ!」

と、僕は言うが通じるわけもなく。

 力加減を知らない赤ん坊のカリンは、ぎゅっと抱き付いてくる。


 『あ、イタイイタイ・・・・』

 「う、ふえ、ふえええーーー・・・ん」

と、耐えきれず、ぼくは泣き出した。


 「あらあら、カリン、もっと優しくしてあげなくちゃダメでしょ、お姉ちゃんなんだから。」

と、カクラ母さんが僕を助けに入る。

 「あ、そうそう、カリン、シャイン。今日は大事なお客様がいらっしゃるんだから、いい子で大人しくしててね。」

と、母さんは僕とカリンを優しく抱きかかえ、それぞれの頬に優しくキスをしてくれた。


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