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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第五話

聖神武暦 2130年 7月 22日 初夏


 この日、救世の星とわれる、六つの星と、吉兆か?凶兆か? 七つ目の星が、この地上界へと降り立った。



東神名国 魔獣の森近く・・・キリマル


 「ん、やっと来たか、て、一つはカクラ姫の所か・・・。あれ、一つ多くないか?・・・・・・・カカ・・、これは面白くなりそうだ、カクラ姫達と早めに合流するか・・・。」



東神名国 真都 真上城・・・国主 神名カネタカ 息女 神名シャリーナ


 「父上、やっと救世の星、天人さまが現れたというのに七つとは・・・これは、吉兆でしょうか?凶兆でしょうか?」

 「・・・分からん、が、奴が呪いで封じていた天人界の門を開けるのに必要だったのかもしれん・・・。」

 「でも、これで、世界は救われるのですね。」

 「間に合えば、の話だがな。・・・とにかく我々は我々に出来ることをするまでだ。」

 「はい。」



アルブァロム王国西の辺境 隠者の森 隠者の里・・・大賢者 クリスティーン


 「・・・姉さま、ようやく、姉さまの願いを叶えられる時が来そうです・・・。」



アルブァロム王国 王都エクスラ 王城アルス・エクスラ・・・王妹 アルス公爵(シャイナ教 大神官) アジーナ・ポート・アルス


 「ほぅ、これで・・・ですが、まだ暫く世は乱れそうですね・・・。」



・・・・・・・・・・・




救世の星に気付きし者たち、それぞれに思いを抱く。



ー*ー*ー*ー*ー


・・・それから、二年後・・・


聖神武暦 2132年 7月 22日 初夏


(キリマル)

 「・・・カンザブロウ、少しは落ち着け。まるで檻に閉じ込められたトラのようだぞ。・・・情けない面をして・・・。」

 「だが、キリマル殿、・・・妻が無事に子を産めるかどうかの瀬戸際なんだ。・・・落ち着いてなど・・・。」

 「・・・お前が不安がってどうする。・・・みんな、大丈夫だと言っていただろうが。皆、経験豊富な者達ばかりだ、そんなに心配するな。」


 わしがそう言うと、カンザブロウは渋々といった感じで一度腰を下ろすがまた直ぐに腰を上げ、うろうろとし始める。


 「はぁ。」と、わしは息を吐き、そんなカンザブロウの姿をなぜか羨ましく思い、苦笑しながら眺めていた。



(クリスティーン)

 「陣痛の感覚が短くなって来ましたねー。大丈夫ですよー、カクラ様。私達が付いていますからねー。」

 隠者の里で唯一助産師の経験のあるハーフエルフの娘が、カクラの腰をさすりながら安心させるように元気ずけるように声を掛ける。


・・・まー、私がやっても良かったのだが。卵の方の面倒も見なけりゃならないしね・・・。


 昨日まであれほど脈動していた、全体に幾何学模様の魔法印が施された卵が、今日はピクリとも動かない。


・・・こちらも、そろそろのようだ・・・。


 この卵の正体をはっきりと見極める事が出来たのは、約一ヶ月前のことだった。




 私の屋敷で私とカクラがお茶を飲みながら、カクラの出産について私がカクラから相談を受けていた時だった。

 カクラが、お腹の子供も私もなんだか落ち着くようで、と何時もの様に卵を抱えていると、突然ドクン!と卵が脈動したのだ。


 その時、一瞬、ぶわっと卵から力が放出された。


 私とカクラは、それを心地の良い風のように受け止めていたのだが、近くに居た妖怪人あやかしびとの血を引くアカガネとクロガネは違っていた。

 アカガネとクロガネは、その力に触れた瞬間、卵に向かって臣下の礼を無意識の内にとったのだ。

 カクラが驚いた顔をしていると、アカガネとクロガネは、はっと気が付いた様に立ち上がり私とカナコに、「失礼致しました。」と言って頭を下げていた。


 私にはその力の気配に心当たりがあった。


 私はその気配とアカガネ達の様子を見ていて、今は語られなくなったある物語を思い出していた。


 それは、この世界とこの世界を生んだ神 鳳凰との物語だった。


 たしか、その物語では・・・


 鳳凰がこの世界を産む時、無防備となる自身を守護させる為に、魔人族の祖と妖怪人の祖を創造し。

 また、大地に生命が芽生え始めた頃、その生命を見守り導かせる為にエルフの祖が創造される。

 そして最後に、生命が知恵を付け力を付け始めた頃、その生命の暴走を監視させる為、世界と交わり天人の祖を世界に生ませた。


・・と言う、内容だったはずだ。


・・・この話が、事実だとすると・・・。


 有史以前から妖怪あやかしの森に引き篭もっている妖怪人が臣下の礼をとるのは、この世でただ一神 鳳凰だけだろう。


 アカガネとクロガネは、妖怪人の血を半分受け継いでいる。


 命の恩人である私にでさえ、膝を地に付けた事はなかった。

 そのアカガネとクロガネが、臣下の礼をとったのだ。


 「ふむ、・・・これで、卵の正体がハッキリしたね。」


・・・たしかに、ハッキリした。だが・・・だとすると、ちょっと厄介なことになるね・・・何か手を打たないと・・・


 「え、この卵、天人さまの卵ではなかったのですか? クリスティーン。」

 「ああ・・・。」


 私が卵を見てひとちていると、カクラが興味深そうに尋ねてきた。


・・・まあ、当然だろう。私はまず間違いなく天人の、鳳凰族の卵だろうとは言ったが、絶滅したはずだとも言った。害が無い者だと分かっていても、これから育てていこうという者の正体がハッキリしないのは、気持ちのいい物ではないからな・・・。


 しかし・・・


・・・教えてしまっていいものだろうか?・・・カクラは受け入れられるのだろうか・・・


 と、私が悩んでいると。


 「・・・もしかして、何か悪いものなんですか?」

と、カクラは、不安げな顔を向けてくる。

 「ああ・・・いや、そういう訳ではないが・・・。」

と、私が言い淀むと。

 「・・・私は、この卵から生まれてくる子も私のお腹から産まれてくる子と同じ私の産んだ子だと思っています。どんな外見を持っていようとも、どんな異能を持っていようともそれは変わりません。立派に育てて見せます。」

と、強い意志の篭った顔を私に向ける。

 「いい顔だ・・・そうだね。どうせ立派に育てるなら。その子に対して不安の無い気持ちで接したいしね。・・・分かった、ただし他言は無用だよ。」

と、私が言うとカクラは神妙な顔で頷いた。

 「その卵から産まれてくる子は・・・この世界を産んだ神・・・鳳凰だよ。」


 カクラは一瞬大きく目を見開いたが、直ぐにその事実を受け入れたのか、愛おしそうに卵を抱きしめて優しく話しかけていた。


・・・母は強しか・・・。


 私は、そんな微笑ましいカクラの姿を見て自然と笑みが零れた。


 その後、直ぐに我が家に伝わるある種の気配と力を抑えるとわれている魔法印を卵に施したのだが、力の放出を押さえることは出来なかった。

 しかし、力に含まれる鳳凰の気配を消すことは出来た。





 「はい、カクラ様!いきんで!!」

 「ふんんんああああんん・・・・・・!!!」


 出産が始まったようだ。


 カクラは可愛い我が子を自分の胎内と言う小さな世界から、この大きな世界へ産み出そうと必死に産みの痛みや苦しみと戦っている。


 ほんぎゃあ!ほんぎゃあ!・・・・・・・


 「・・・カクラ様、おめでとう御座います!元気な女の子ですよ!」


 助産婦のハーフエルフの娘は赤ん坊を取り上げてそう言うと、隣で待ち構えていたカナコにその赤ん坊を受け渡した。

 カナコは赤ん坊を受け取ると、脆く儚いものを扱うように優しくかつ手早く事前に用意しておいたお湯で、その赤ん坊の体を洗い清めていく。

 洗い清めた後その赤ん坊を清潔な白いタオルにくるみ、カクラの枕元にそっと寝かせた。


 「本当に、元気で可愛い女の子ですね・・・お仕えしがいがありそうです。」


 カナコは、赤ん坊とカクラに優しく微笑み掛けながら、そう言った。


 ・・・・。

 「ん、ありがと、カナコ。」


 微妙な間を空けた後、カクラは無事元気な子を産み終えた後の心地よい疲労感、そして達成感と充足感を滲ませた表情に笑みを浮かべた。

 そして、枕元に寝かされた我が子を左腕で優しく、愛おしそうに顔の方へ抱き寄せた。


と、その時だった、


 ピシリ!

 「「「!?」」」


 私の横に置かれた、ダブルのベビーベッドの中に寝かされていた卵にヒビが入った。と、同時に、カナコと助産婦のハーフエルフの娘、クロガネがビクリと動きを止めた。


と、次の瞬間、


 バキャ!!

 ふんぎゃ~ふんぎゃ~・・・・・・

 「「「「「!!・・」」」」」


 卵が割れ、元気な赤ん坊が生まれた。と、同時に、膨大な力と鳳凰の気配が流れ出す。


 カナコと助産婦のハーフエルフの娘、クロガネはその赤ん坊に平伏ひれふし、私はその力の奔流に気持ち良く意識を持っていかれそうになりながらも、事前に準備しておいた魔法印を圧縮して施し鳳凰の紋様を彫りこんだペンダントをその赤ん坊の首にかける。と、同時に、眠りの世界へと引きずり込まれていった。


ーーーーー


その頃・・・

アルブァロム王国 最西端の領地 アルス公爵領 グリーンズヘイブン アルス公爵の館・・・アジーナ・ポート・アルス


 !・・・・・・。

 「どうなさいました?アジーナ様。」

 「・・・いえ、何でもありません。」


・・・一瞬だったけど、今の気配と力・・・隠者の森の方からでしたね。フフフ・・、久しぶりにクリスティーン様に会いに行きましょうか・・・。



東神名国 真都 真上城・・・国主息女 神名シャリーナ


 !・・・・・・?

 「どうした?シャリーナ。」

 「・・・いえ、何でもありません、父上。」


・・・何だったのかしら、ほんの一瞬だったけど、畏怖を感じる気配を感じたけど・・・。



妖怪あやかしの森・・・妖怪人の長 ダイテン・グソン


 !・・・・・・・。

 「ふん!やっとの御光臨か!」

 「グソンさま?」


ーーーーー


 ふと、私が目を覚ますと、出産部屋に居る全員が気持ち良く寝息をたてていた。

 カナコと助産婦のハーフエルフの娘、クロガネは平伏した姿勢のままで・・・。


・・・この部屋と屋敷全体に何重にも結界を張り、隠者の里の結界もかなり強化したが、どの程度力が漏れ出すのを抑え込めたか・・・。


 ベビーベッドで大量の力の放出を終えた赤ん坊が、気持ちよさそうに寝息をたてている。

 その赤ん坊を見て私は驚かずにはいられなかった。


 ・・・男の子、男性体だと、バカな・・・女性体として生まれてこなければおかしい・・・・・・しかし、さっき発したこの子の気配は間違いなく鳳凰の凰の気配だった・・・血を継いでいるとはいえ神の御心は人である私に分かろうはずも無いか・・・


 そう結論付けた私は炎のような淡い光を放つその赤ん坊を、魔法印を施した清潔なタオルで優しく包む。


・・・まぁそれはいいとして、光を放っているという事は、力を放出しているという事のはず。だが今、私はこの子から何も感じない。凰の力はもっと温かなものだと思っていたが・・・カナコも気付いていたようだが、生まれたばかりのこの子の力は魔力でも妖力でも妖精の力でもない、凰の力に成長する前の純粋無垢な力なのかもしれないね。そのため、さっきみたいに大量放出した場合か、その力を受ける人間が病気か怪我、呪い等で体力や精神力が弱っている場合、もしくは、この子がその人間に加護を与えようと、意識もしくは無意識に思わなければ影響を受けなのかもしれない・・・。


 私は、そう考えながらカクラの眠るベッドの横まで車椅子で移動し、カクラの産んだ子とは反対側の枕元にその子をそっと寝かしてやる。

 そして、生まれたばかりの子供達を見比べる。


・・・おや、性別と髪と瞳の色以外は、まるで双子のように同じじゃないか・・・。


 性別以外はカクラの産んだ子は、カクラや父親のカンザブロウと同じ銀髪で藍色の瞳、卵から生まれた子は黒髪で左が銀色右が金色のオッドアイの瞳だった。

 それ以外の所は、姿形だけでなく、黒子ほくろの位置まで同じだ。


 私が、子供達の観察をしていると、「ん・・・。」と、少し呻いてカクラが目を覚ました。


 「おや、起こしてしまったかい。・・・体の調子はどうだい?」

 「ん・・おはよう、クリスティーン。体の調子?ん?あれ?・・・子供を産んだ喜びと充足感は残ってるけど、疲れと痛みはキレイさっぱり無くなってる・・。」

 「ふむ、それは、この子のお蔭だね。ちなみに男の子だよ。」

と、私が言うと、カクラは自分が産んだ子とは反対側に寝かされている子を右腕で、同じように優しく愛おしそうに顔の方へ抱き寄せて「ありがと」と、額に優しく口づけをした。


 「そうそう、言い忘れていたが、鳳凰は死と誕生の神、お前さんが愛情をこめめて卵を抱いていたからそういう力を持って生まれたが、もしよこしまな気持ちで抱いていたら、まず間違いなく死と災厄を撒き散らす力を持って生まれてきた事だろうよ・・・。」


・・・ま、その場合、卵のままでかえらなかっただろうがね・・・そっちの力は今持っていないはずだから・・・。


 「・・・だから、その子を産んだのは間違いなくお前さんだよ。」

 「ん、ありがとう、クリスティーン。2人とも立派に育てて見せるから。」

 「ああ、楽しみにしているよ。」


 部屋の中の他の三人も目を覚ました。

 カナコと助産婦のハーフエルフの娘は、何が起こったのか分からない、といったふうに周りを見回している。

 クロガネは何事も無かったかのように壁際に戻っていた。


 私は素知らぬ振りをして、部屋の結界を解いた。


 バン!!

 「カクラ!大丈夫か!!子供は!」

と、カンザブロウがいきなり扉を開いて飛び込んできた。


 「カンザブロウ!うるさいよ!寝てる子供達が起きちまうじゃないか!」

 「あ、いや、すまない。赤ん坊の泣き声が聞こえた、と思ったら、突然意識が気持ちのいい眠りにさらわれる感覚に襲われてうたた寝をしてしまったものだから、魔術師にでも襲われたのかと思って・・・。」

 「私が、結界を張っているんだ、そんな訳なかろう。」

 「そんな事より、あなた、こっちに来て子供達を見てあげて。可愛い男の子と女の子よ。」


 カクラが上半身を起こし、カンザブロウに声を掛ける。


 「ああ、カクラ、そのまま寝ていて。」

と、カンザブロウは妻をいたわる様に声を掛けベッドに近ずく。

 「ん、体はもう大丈夫よ。それより、ほら2人ともよく寝てて可愛いわよ。近くでよく見てあげて。」

 「ん、お、ほんとだ。こっちの銀髪の子は、目元と口は君にそっくりだな。鼻の形は俺かな?こっちの黒髪の子は、目元が俺で鼻が君そっくりかな?」

 「んふふ、そーね。」


 カクラとカンザブロウは、2人の赤ん坊を愛おしそうに眺めながら談笑を始めた。

 そして、2人の赤ん坊に名を付けた、銀髪の赤ん坊にはカリン、黒髪の赤ん坊にはシャイン、と。


 その後、赤ん坊の状態が落ち着いているのを確認して、今か今かと待ち焦がれている里の者達を屋敷の中に入れた。

 屋敷の中は直ぐに一杯になったが、皆主役の2人の赤ん坊にお祝いの言葉と、祝いの一輪の花を捧げていた。里の者は皆、自分の子が生まれたかのようによろこびあっていた。


 まだ、屋敷の外で何人か寝ている者もいたが・・・。


 里の結界の外で様子を見させていたアカガネによると、魔法印を施したペンダントのお蔭で、鳳凰の気配が漏れたのは一瞬で済んだようだ。


 それと、何重にも結界を施したお蔭で、力の方もそれほど漏れ出さなかったようだ。


 アカガネ曰く、

 「隠者の森から離れた所では、余程鋭敏な感覚の持ち主でなければ気付かないでしょう。」

との事だった。


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