第六十参話
大っ大っ大変長らくお待たせ致しました。
言い訳をすると、ここ一月くらい無理が祟って体調を崩していました。
二十台三十台の頃はちょっとやそっとのことでは何ともなかったのですが……歳は取りたくないものですね……。
ではでは、言い訳はこのくらいにして……
相変わらずの駄文ではありますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
(凰)
アルバテース公爵の使者であるデインスさんの話によると、アルバテース公爵の大公への要求は……
一つ、中央諸国で再び争乱が起こり始め、また我がエシハラ公国の南東に隣接するメルクルス国も怪しい動きをし始めている。こうした中、国を守るためには早急に公国軍の増強、強化を図らなければならない。
一つ、この世界を見守る鳳凰様は人間同士の争いに関与したことが無い。対して戦神様は戦の神であり人間同士の戦いに、信仰の度合いにより関与する。故に、この争乱の時代では、戦神様の加護をより強く授かった国が有利になる。ならば、早い段階で国としてシャイナ教から戦神教に改宗すべきだ。
この二つの要求を大公が飲まなければ、我が主、アルバテース公爵は力ずくでも大公の座を奪い取るだろう。
最後に、今後、アルバテース公爵領内へのシャイナ教徒の通行を制限する。
……というものだった。
チッ、「不味いな、通行制限とは言うが事実上の領内立ち入り禁止だろうな」
そう言うキリマルさんに、「ああ、そうだね。そうなると、大きく迂回せざるを得なくなるね」と、クリスティーン婆さまが相打ちを打つ。
デインスさんの話が終わった頃、応接の間の扉をノックする音が聞こえてきた。
ふむ、「やっと来たか」
そう呟くと、オベラス様は入室の許可を出す。
「遅れて申し訳ありません」
そう言って応接の間に入ってきたのは、昨晩の宴にも来ていたこの領都ウェスラーにあるシャイナ教神殿の神官長、エルフのオルフェムさんだった。
純白の神官服を着たオルフェムさんは入室と同時に室内にいる人達に謝罪の言葉を述べていた。
余程慌てて来たのだろうオルフェムさんは応接の間に入室すると、エルフ独特の長く尖った耳に掛かる乱れた薄緑の髪と、その華奢な体に纏う純白の神官服を整えながらオベラス様とアリファナ様の後ろに立つ。
オベラス様は白い顎髭を一撫ですると、「さて、全員そろったところで、私の意見を述べようか……」と、ゆっくりと口を開いた。
「まず、公国軍の増強、強化という話だが、今現在、他国と隣接する国境線近くの要所には砦が築かれ、その全てに常時二千人から三千人の公国軍の兵が常駐している。また、それぞれの砦が密に連絡を取り合い、万が一隣国からの侵攻があった場合、連携してそれに対処する。それとと共に、その国境線の各領地に素早く連絡しその侵攻に対し各領地が早い段階で対処出来るよう体勢を整えられるようにしている。また、国境線近くの領地には隣国からの侵攻の危険度などにより公国への納税の軽減または免除を行い、必要に応じて補助まで行っている。それにより各領地が自国を守るのに十分な領地軍を作り上げられるようにしている。現状、他国への侵攻でも考えていない限り公国軍を増強する必要性があるとは私は考えていない」
ここまで言うとオベラス様は一度言葉を切り、自分の前に置かれているお茶を一口口に含む。
そして、ゆっくりと顎髭を撫でながら再び口を開いた。
「次に、国教の改宗ということだが、私個人の考えとして言わせてもらうと、信仰とはこの儘ならぬ世界で生きていく為に、人々が心のよりどころとするものである。ならば、何を信ずるか、戦神教かシャイナ教か、または別の何かか、それを決めるのは人々であり国や領主が強制するものでは無い。また、国や領地を治める者は、その統治に関する事と信仰は切り離さなくてはならん」
そう結論付けオベラス様は後ろに立つオルフェムさんに目を向け、「そうであろう? オルフェム殿」と、問い掛ける。
「はい。確かに、我々シャイナ教は極力その国の国政には関与せず人々の救済を目的として活動しています。オベラス様が先ほど仰られた通り、信仰で国政が左右されるべきではないと私も考えます」
オベラス様はシャイナ教の神官であるオルフェムさんから同意を得たことに満足するように、うむ、と頷くと、「これらの結論により、アルバテース公爵の主張は全て根拠が無いもので、私は大公家直轄領ウェスラーを預かる者として、大公に対するアルバテース公爵の要求に賛同することはできない」と、アルバテース公爵の大公に対する要求をオベラス様は拒絶した。
『シャイナ教は神代の頃から人々と共にあり心の支えとなってきた存在で、然も人や国からは気持ち程度のものしか受け取ってこなかったっていうことだけど。その神官であるエルフ達は宗教家というよりは奉仕家って感じだよね。そのためなんだと思うけど、神代の頃からこれまでの間にシャイナ教が人々の負担になるような事は無かったんじゃないかな。まあ、シャイナ教=エルフの大国(アルヴァロム王国)と言ってもいいから財政的に人や国から寄付を集めなければならないわけではないし。それに、エルフ達はこの世界の生命を守り導くことを自分達の存在意義だと考えている。まあ、そういうふうに先代凰がエルフの祖を創造したんだけど、……その存在意義の為やむを得ない場合を除いて、国政に関与するようなことはしてこなかったんだろうね』
『まあ、そうだな、……この世界はエルフ達によって導かれてきたが、人はそんなエルフ達の手から離れ始めている。その結果として宗教も人が信じ求めるものにより多様化していくんだろうな』
『戦神教はその始まり、ということになるのかもね……それにしても、オベラス様、アルバテース公爵の要求をバッサリと斬り捨てたね』
『そうだな……アルバテース公爵の使者は、この回答を予想していたような表情をしているが』
『うん、きっと分かってたんだね。それでも敢えてオベラス様に話を通したということは、それだけオベラス様はこの国にとって重要な人物だってことなんだろうね』
「……なるほど、全く交渉の余地も無い、と言うことですな……」
「デインス、私がどんな回答をするかなど分かりきっていたことだろう」
デインスさんは、一つ息を吐くと、「戦神教の神官巫女であるアリアンナ様からは何かありませんか?」と、後ろに立っているアリアンナさんに声を掛ける。
アリアンナさんは手に持つ神杖で一回、シャン! と床を突いてから、「そうですね、……」と口を開く。
『鳳……』『ああ、昨日のやつだな』と、僕達は昨日アリファナ様達を助けた時に感じた戦女神の領域が、その神杖を中心に広がるのを感じる。
それと同時に、僕は僕の腰で姿を消していた鳳凰刀に左手で触れる。すると、鳳凰刀は姿を現し、僕はその鍔に親指を当てる。
僕の側に居る他の皆も、何時でも飛び出していけるように身構えていた。
「……オベラス様。私は戦女神様の加護により貴方が心の内に隠しているものを感じることが出来る。……貴方は今まで多くの政敵の命を奪ってきましたね。時には汚い手を使って」
そのアリアンナさんの言葉を聞いて、オベラス様の片眉がピクリと動く。
ふむ、「国を守る為には手を汚す事が必要な時もある。アリアンナ、公爵の娘の貴女なら分かるだろう」
「確かに……ですが、何時かはその報いを受ける時がくる。貴方の場合、今がその時のようですね」
「何? どう言うことだ? アリアンナ」
オベラス様がアリアンナさんに問い掛けた時、応接の間の扉が、バン! と勢いよく押し開かれ慌てた様子の男性使用人が入ってきた。
「オベラス様、カーサス男爵領との領境の関所がアルバテースとカーサスの領地軍に破られバレスランド(ウェスラーの都市の一つ)が落とされたとのことです! アルバテースとカーサスの領地軍はそのままこの領都に向かって進軍中とのことです!」
その連絡を受けて、「なに?!」と、立ち上がったオベラス様は、ぐっ! と呻き胸を押さえ倒れかける。
「お爺様!?」
それに驚いたアリファナ様はそのオベラス様の身体を抱きとめる。
その時、何処に隠れていたのか、何処からともなく現れた黒ずくめの者達がアリファナ様達を囲む。
オルフェムさんはそんなアリファナ様達を庇うように立っていた。
『この黒ずくめ、一体、何処から?』
『恐らく、戦神トーレスの加護を受けた者達だろう、だから気づかなかった』
だが、流石と言うべきだろう、キリマルさんとクリスティーン婆さまは黒ずくめの者達が現れると同時に隠し部屋の隠し扉を押し開き飛び出していた。が、その動きをいち早く察知したアリアンナさんは、「我らに敵対する者達よ! その動きを禁ず!!」と言うと共に神杖で、シャン!!、と床を突くと戦女神の領域が一瞬にして聖域に格上げされキリマルさんとクリスティーン婆さま、サーシャの動きが止まる。と同時に、黒ずくめの者達がキリマルさん達に襲いかかった。
僕は・・・不味い!・・・と思い『鳳凰刀、力を貸して』と言うと同時に、僕の神力を乗せて鳳凰刀の鍔を、チン!! と鳴らす。途端、僕の神力の乗ったその鍔鳴りの波動に戦女神の聖域は崩れ去りキリマルさん達の身体に自由が戻る。瞬間、間近まで接近していた黒ずくめの者達をキリマルさんの双刀の滅斬刀が両断しサーシャのレイピアが貫いていた。が、その黒ずくめの者達が忍び装束のような黒服の内に着込んでいた戦神の加護を受けた鎖帷子にその斬撃と刺突は弾かれていた。
「退きます!」
そのアリアンナさんの命にデインスさんと黒ずくめの者達がアリアンナさんの元に集まると、アリアンナさんは再び神杖を鳴らす。と同時に、アリアンナさん達は応接の間から姿を消した。
『おかしい……』
『何がだ?』
『昨日のクリスティーン婆さまの時といい、今といい、神界の神である戦女神の聖域にしては簡単に壊れすぎる、と思う』
『言われてみれば……クリスティーンは先代凰の娘とはいえ、もうかなりの歳で力も衰えている筈だし、今のも、例え当代凰のお前が力を込めたとはいえ、ほんの僅かな神力に鍔鳴り一発で崩壊するのは戦の神の聖域にしては余りにも脆すぎるな』
『うん』
僕と鳳が戦女神の聖域について話していると、「み、皆さん、助かりました」と、アリファナ様に支えられたオベラス様は椅子に座り直し、胸を押さえて苦しそうにしながらも僕達に礼を言う。
「しかし、アルバテース公爵が反乱を起こすとは……」と言いながら、ぐっ! とオベラス様は再び胸を押さえ呻く。
それに、「お爺様!」と、アリファナ様が悲痛な声を上げると、「大丈夫だ! 大公女たる者が、この程度のことで狼狽えるな! 馬鹿者!」と、オベラス様はアリファナ様を叱責する。
「今は私のことよりも、ウェスラーに住まう者達を救うことが先決であろう!」
オルフェムさんはオベラス様の治癒をしようと近づくが、それに対しオベラス様は拒絶するように手を振る。
そんなオベラス様にアリファナ様は目を潤ませながらも、「はい、分かりました。ウェスラーの者達は必ず私が守ります!」と、強い意志を込めて言う。
うむ、「任せたぞ」
僕にはオベラス様に初めて会った時からオベラス様の寿命が見えていた。
『恐らく、オベラス様も自分の寿命に気づいてるね』
『ああ、もう長くないことは気づいているだろうな』
『恐らくアリアンナさんもオベラス様の心の内と寿命が見えていてオベラス様に強く負担が掛かるタイミングであんな言い方をしたんだろうね』
『ああ、あいつ等にとってオベラスは早めに排除しておきたい存在だったんだろうな』
『それだけオベラス様の発言がこの国に大きく影響するということだね』
その後のアリファナ様の動きは速かった。
アリファナ様は大公陛下に事態を知らせるため、大公都へと早馬を走らせると共に大公家直轄領ウェスラーに戒厳令を敷くため他都市へと、また他領地へは警告のため早馬を走らせた。
そして、領都ウェスラーに緊急の戒厳令を敷くと自分は少数精鋭の偵察部隊を編成し自らアルバテースとカーサスの領地軍(反乱軍)の偵察にバレスランドへと向かった。
僕もそれに同行する。
僕は何故かアリファナ様に同行しなければいけない気がしたのだ。
キリマルさんは僕の護衛ということで僕に同行してくれた。
アリファナ様は大切な客人である僕達の同行を最初の内拒絶していたが、クリスティーン婆さまの、「この子は役に立つよ。連れていきな」との一言で、アリファナ様は渋々ながらも僕達の同行を認めてくれた。
サーシャも僕に付いてきたがったが、クリスティーン婆さまの「お前さんが付いていっても足手纏いになるだけだね」との一言で悔しそうにしながらも領都ウェスラーで僕を待っていることにしてくれた。
クリスティーン婆さまにも領都ウェスラーの守りのために残ってもらうように頼むと、心よく引き受けてくれた。
バレスランドは昨日僕達が通っていた街道とは別の街道沿いにある小都市で、領都ウェスラーから馬を目一杯走らせて一日で着くかどうかといったところにある、ということだった。
『クリスティーン婆さまには僕がアリファナ様に付いていくことに反対されると思ったんだけど……』
『ああ、だが、アルバテース公爵だけでなく他の領主も反乱に加わっている可能性が出てきた。恐らく、その領主達も戦神の加護を受けている可能性がある。となると、この先のその者達の領地を迂回する事も突き抜けることも難しい。その上、この国の大公女が囚われたら、悪くすればこのエシハラ公国自体が戦神の手に落ちる可能性がある。そうなれば、それこそジャカール帝国に戻るか若しくは婆さまの転移ポイントのある西部諸国まで転移せざるをえなくなるからな』
『……どちらにしても、大きなタイムロスになるね。ああ、もう、急いでるっていうのに! いっその事直に旧シグナリア公国に転移しようか』
『それは、邪神の罠に填まりに行くようなものだな。それに、旧シグナリア公国の位地も分からんだろう』
『位地は婆さまかキリマルさんに聞けばいいじゃないか』
『婆さまやキリマルが罠に填まりに行くようなことを容認するとは思えんが? それに転移ポイントのないところに無理に跳ぶのはこの世界に負担を掛けすぎるんじゃなかったのか?』
『そんな事分かってるよ。……ただ言ってみただけ』
『……怒りの感情を持たないお前がイライラするなんて珍しいな』
『別に……イライラなんてしてないよ』
僕が内心焦りを感じながらアリファナ様に付いて馬を走らせていると併走していたキリマルさんが声を掛けてきた。
「すまん、お前に力を使わせた」
「ああ、うん。だけど、あれは仕方ないよ。それに、多分だけど、大丈夫だと思う。使った力もほんの僅かだったし」
「そうか……」
僕はキリマルさんに気づかれないように一つ大きく息を吐く。
『まあ、何にしても、神界の神である戦女神や戦神が襲ってきたら俺達が力を使わないというわけにはいかんだろう』
『うん、まあ、今のところは僕達を狙ってきているわけじゃないけど、……でも戦神が信仰を集めようとする過程で、今回みたいにシャイナ教を迫害するなら、シャイナ教の主神である僕達を放っておく訳がないよね』
『ああ、そうなれば破壊邪神に俺達の動向を知られることになるだろう。だが、俺達の動向が破壊邪神にしれたとしても、奴は余程のことが無い限り動くことはないだろう。でなければ、戦神達をこの世界に招き入れる意味がない』
『うん。クリスティーン婆さまは破壊邪神に僕達の動きを悟られることに警戒してるけど、……まあ、邪王とかが僕を殺せる魔法道具を持って来たとしても、油断さえしていなければ何とかなるよね』
『ああ、そのはずだが、……お前は何処か抜けているからなあ』
『うわ、ひど! けど、あんまり否定できないところが悲しい』
『まあ、何にしても戦神がこの世界の何処に拠点を置いているか分からない現状、西部諸国に跳んだとしても戦神とぶつからないとは言えない』
『うん、このエシハラ公国に居るのは、その従属神である戦女神だしね。だとすると、戦神本人が居るのは中央諸国か西部諸国ということになるけど……』
『恐らく、戦乱が続いていた中央諸国だろうな』
『ということは何処から旧シグナリア公国に向かっても戦神とぶつかることになるね。どうせ戦神とやり合うことになるなら、このままアリファナ様達に力を貸して進んでいった方が遠回りするより早いんじゃないかな』
『ああ、そうだな。邪神の思惑道理に事が運んでいるようで癪ではあるが、仕方が無いな』
領都ウェスラーを出て馬を駆ること半日、日が東の山並みに沈み始めた頃、僕達は林の切れた丘の上の街道の脇で夜営の準備をしている百人ほどの集団を発見した。
「アリファナ様!」
その一団の中で指揮を執っているグレーの軽装鎧を身に着けた人物がアリファナ様に気がつくと此方に駆けてくる。
その人物にアリファナ様が「お前は?」と声をかけると、「はい、私は大公家直轄領ウェスラー領地軍バレスランド駐屯部隊のカリスパー兵長であります」と、その青年はアリファナ様に敬礼する。
「そうですか、楽になさい。ところでカリスパー兵長、ここにいる者達は?」
アリファナ様は返答の分かりきった質問を、少し険しい表情でカリスパー兵長の投げ掛ける。
「はい。ここにいる者達はバレスランドから逃れてきた者達です」
カリスパー兵長は敬礼を解くと手を腰に回し休めの体勢になってアリファナ様の質問に応える。
「そうですか、バレスランドで何があったか貴方の分かる範囲で話なさい」
「はい。……」
カリスパー兵長の話によると……
二日前の日が昇る前、突然バレスランドが敵の襲撃を受けた。
アルバテース公爵の事もあり警戒はしていたが、アルバテース公爵領とこの大公家直轄領ウェスラーの間にはカーサス男爵領があるため気の緩みもあったという。
初めに西の都市壁上で警戒に当たっていた者達が討たれ、複数の敵兵に都市を囲う堀と都市壁を気づかぬ間に越えられ、駐屯部隊が敵に気がついた時には橋が下ろされ大門が開かれるところで、もう敵軍の都市内への侵入を防ぐことは出来なかった。
バレスランド駐屯部隊の隊長ベルセクと都市行政長官ケルエスは即座に住民の避難を決め、混乱の中なんとか都市内に防壁を築き都市が完全に落とされるまでの時間を少しでも稼ぐと共に、敵兵の侵入のまだなかった東壁の大門を開き出来るだけ集められる駐屯部隊の兵でバレスランドを囲う敵兵の一部に道を作り、出来るだけかき集めた馬車に乗せた女子供を脱出させることにした。
馬車二台と駐屯部隊数十人が犠牲になったが、馬車五台分七十五人の女子供と駐留部隊の兵十六人が脱出に成功し、ここまで逃げてきた。
……ということだった。
険しい顔をしてカリスバー兵長の話を聞いていたアリファナ様は少し考えた後、「分かりました。カリスバー兵長、貴方は明日このまま領都に向かいなさい。領都に着いたら後はお爺様の指示に従いなさい」と指示を出す。
「はっ! 了解致しました」と、カリスバー兵長は敬礼をし応え、「失礼ながら、アリファナ様は明日以降どうされるのでしょうか?」と問い掛ける。
「私はこのままバレスランドに向かいます」
アリファナ様がそう答えた時、僕は戦女神の気配を感じ、「アリファナ様、敵が来ます!」と、警告を発する。直後、鈴の音が僕達のいる一帯に響き渡ると同時に僕達は戦女神の聖域に覆われる。




