第六十壱話
(凰)
アリファナさんの話によると……
三週間程前、ラスカール公国との国境沿いにあるエシハラ公国最大の領地、アルバテース公爵領の領主が突然シャイナ教から戦神教に改宗し、また、それを領民にも強要し従わない者達には領地からの追放を命じた。
それと同時に、シャイナ教神殿の神官も領地から追放してしまったらしい。
そして、アルバテース公爵はエシハラ大公に国軍の強化と国教の改宗を求めてきた。
その要求をエシハラ大公が飲まないのならば大公位を譲れと迫ってきたのだという。
アルバテース公爵は大公の叔父に当たる人物らしい。
憶測やデマなどが広まり国内が混乱する可能性があるため、国が何とかこの情報が広まらないように押さえている。
その為、まだエシハラ公国全土にこの情報は広まっていないということだ。
『だからエシハラ公国の東部から来た僕達にこの情報が入らなかったんだね』
『ああ、サーシャはシャイナ教神殿を中心に色々なところから情報を集めていたようだが、……シャイナ教神殿は世界各地に散らばっていて精霊通信により繋がっている。その為、何処よりも早く情報を得ることができるということだが、ここ数年乱世の狂気の影響で精霊通信の感度が悪くなっているらしいからな。その影響でこの情報も届くのが遅れていたんだろう』
たが、エシハラ公国西部にある領地ではアルバテース公爵領から追放された人々が流れ込むと同時にデマや噂が広まり混乱し始めているという。
「それで私がこの混乱を収めるため、大公の使いとして内密にアルバテース公爵と話をするために公爵に会いに行ったのですが……」
「逆に捕えられそうになったと?」
僕がそう尋ねると、「……はい」と、アリファナさんは沈んだ声で応える。
『それにしても、戦神の奴、この世界に干渉し始めたばかりだというのに随分と動きが速い。その上、強引なことをするな』
『うん、……先代凰の記憶だと、……神界の神は自分が干渉する生命世界に自分に対する信仰が無くても力を振うことは出来るみたいだけど、信仰が大きければ大きいほど神界の神はその生命世界で力を振いやすくなるみたいだからね』
『だが、どうして戦神はそこまで急いで信仰を集めなければならない? そもそも、この生命世界エルアンドは乱世の真っ只中だ、ここまでしなくても戦神への信仰は集まると思うのだが?』
『うん、……でも、よく考えてみて、この生命世界エルアンドには僕達、鳳凰を崇めるシャイナ教しか無かったんだよ。そして、戦いの時、人々は生と死の神、鳳凰を戦の神としてその加護を求めるってアジーナおばさまから聞いたことがある。エルフであるシャイナ教の神官はそんな時、何とか争いを平和的に解決しようとするらしいけど……。……だから戦神は、この生命世界で神代の頃から続く人々の鳳凰への信仰を戦神への信仰へと変えさせるには、乱世の今スピード感をもって強引にでもしなければ無理だと考えたんじゃないかな?』
『なるほどな、言われてみればそうなのかもしれんな……』
『僕達の場合は生命世界が生まれた時から始まる、生への喜び死への恐怖、世界が形作られる神秘、世界が崩壊する脅威、それらが僕達、鳳凰への信仰に繋がるから戦神が何をしようと別に痛くも痒くもないんだけど……』
『ああ、だが、俺達を心のよりどころにしている者達を迫害しているのは許せんな』
『うん。……だけど、戦神もそんなことをすれば僕達が黙っていないことは百も承知していると思う』
『ということは、俺達に対して喧嘩を吹っ掛けてきているということだな』
『うん……でも、今は戦神なんて相手にしてる暇は無いよ』
『ああ、分かっている。……だが、向こうから仕掛けてきたらどうする?』
『その時は、その状況次第だけど、……その時に考えるしかないね』
ここまで黙って話を聞いていたサーシャは、「これは、シャイナ教としても見過ごせませんね。お母様に伝えなくては……」と呟いた後、何かにハッと気づいたように口を開く。
「そうすると、アリファナさんはエシハラ大公家に連なる血筋の人なんですか?」
突然のサーシャからの問いかけに、アリファナさんは「えっ?」と驚いていたが、「そうですね、もう隠す必要はありませんか……」と呟いて、僕達に頭を下げる。
「私はこの国の大公女で、本名をアリファナ・デ・エシハラと申します。黙っていて、申し訳ありません」
「頭を下げる必要はないよ、まあ、大体予想はついていたからね」
クリスティーン婆さまはその老婆の優しげな表情で僕達を代表してアリファナさんの謝罪を受け取る。
(調略と謀略を司る戦女神 スィーズ・マーキュリー)
『スィーズ、鳳凰様の加護を授かった者達とぶつかったそうね。……貴女一人で大丈夫?』
『はい、アーリア姉様、大丈夫です。私はこれでも五柱の戦女神マーキュリーの一柱、調略と謀略を司る戦女神スィーズ・マーキュリーです』
・・・アーリア姉様は私達五姉妹の一番上で、一番下の私を何時も気にかけてくれている・・・有り難いことだとは思うのだけど・・・
『……貴女の役目はこのエシハラ公国の者達を戦神トーレス様の信者にすること。ですが、鳳凰様の加護を授かった者達とぶつかったとなると、鳳凰様ご自身が出てこられる可能性があります。そうなると、……戦闘が得意でない貴女一人ではキツいのではありませんか?』
『確かに末の妹である私は姉様達のように戦闘が得意というわけではありません。ですが、もし鳳凰様が出てこられるのでしたら私の得意とする調略で鳳凰様を私達の味方に付けるか、それが無理なら鳳凰様を謀略に填めて戦神トーレス様への貢ぎ物としてみせます』
・・・私ももう一人前の戦女神だと認めて欲しいものです・・・
『そう、本当に無理はしないでね。……戦神トーレス様は平気で仲間を斬り捨てるお方です、何かあったら直ぐに連絡なさい、私が直ぐに駆け付けるから』
『ありがとう御座います、アーリア姉様。戦いを司る戦女神であるアーリア姉様がいれば怖い物なしです。……ですが、私の依り代も上手く動いていてくれますから大丈夫です』
・・・ほんとに、もう、私のことを何時まで経っても半人前としか思ってないんだから・・・でも、姉様の言う通りトーレス様は油断がならないお方だ。トーレス様の命で鳳凰様を崇めるシャイナ教を排除しているけど、そんな事をすれば間違いなく鳳凰様の怒りを買うでしょう。そうなれば、実際にシャイナ教の排除を行っている私が矢面に立つことになる。そうなった時の事をトーレス様から何も指示を受けていない・・・下手をすれば、私は捨てゴマにされるかもしれない・・・ならば、私自身の判断でどのような状況になっても対処出来るよう準備しておくべきでしょう・・・
『そう、でも、くれぐれも貴女一人で鳳凰様をものにしようだなどという無理はしたりしないようにね』
『はい、分かっていますアーリア姉様』
私はアーリア姉様の心配そうな声に溜め息を吐くように返事をしていた。
(凰)
エシハラ大公家直轄領ウェスラーは琵琶湖の五倍ほどの大きさを持つ巨大な湖ウェスラー湖のある緑豊かな所だった。
僕達はそのウェスラー湖の畔にある領都ウェスラーに到着していた。
領都ウェスラーは領都とは言うがそれ程大きな都市では無く、人口二千人ほどの中都市だということだった。
このエシハラ公国は建国以来これまで内乱も無く国力は安定していて、この乱世にありながら比較的平和な国内情勢を保ってきた数少ない国の一つということだ。
そのエシハラ公国の中でも一番の観光地という、このウェスラーには数多くの観光客が国内外から訪れているらしい。
その為、この領都ウェスラーにも多くの観光客が訪れ、人々は明るく都市全体に活気があるように僕には感じられた。
『都市の外には乱世の狂気の靄が多少なりともあるみたいだけど、人々に影響を及ぼす程ではないみたいだね』
『ああ、そうだな。この世界の精霊達は元々邪気邪念を浄化する働きをするというから、破壊邪神達が関与する意外は、戦や飢餓、疫病の蔓延など余程のことでも無い限りは乱世の狂気が人に影響を与えるほど強くなることは無いのだろう。それにカルハン達のお陰で、世界各地の殆どの都市にお前の加護の守護札が行き渡っているらしいからな。そのお陰で最近は乱世の狂気に取り込まれる人間も減ってきているというじゃないか』
『うん、でも、サーシャの情報だと中央諸国ではまた乱世の狂気が猛威を振いだしてるっていうし、破壊邪神の動きも気になる……』
『ああ、油断は出来ないな』
『うん。だから、こんな所でモタモタせずに早く旧シグナリア公国に向かいたいんだけど……』
「ようこそウェスラーへ、サーシャ様、クリスティーン様、そのお連れの方々、よくぞ参られました。そして、我がエシハラ公国大公女であり我が孫でもあるアリファナ様を救っていただき、心より感謝申し上げます」
僕達はエシハラ公国大公家のお姫様であるアリファナ様の招待でウェスラーの領地執政官屋敷にやって来ていた。
ウェスラーは大公家の避暑地で、エシハラ公国の前宰相であるアリファナ様の母方の祖父オベラス・ノイス・グランという人が領地執政官をしているということだった。
僕達は領地執政官屋敷の門前に馬車を止めると、アリファナ様に少し待つように言われ、アリファナ様が馬車を降りたあと、少し待たされたのち、領地執政官屋敷から出てきた迎えの使用人に案内されて領地執政官屋敷の貴賓室に通された。
そこで、このウェスラーの執政官であるオベラス様の歓迎を受けている。
オベラス様は、髪の毛は茶髪混じりの白髪で白い立派な顎髭を蓄えた、かなりご高齢のお爺さんのようなのだけど、その青い瞳は意思の強さを感じさせ、グレイを基調にした落ち着いた服装に背筋をピンッと伸ばしたそのオベラス様の姿は、その優しげな表情とは裏腹に、年齢を感じさせない気力と周りを圧するような雰囲気を身に纏っていた。
「突然の来訪にも拘わらず、オベラス様自らこの様に歓迎して頂き心より感謝致します」
僕達はサーシャの言葉に合わせて腰を折り礼をする。
もちろんクリスティーン婆さまも、車椅子に座ったままだが頭を下げていた。
因みに婆さまの車椅子はアテート・オオトリ作の魔法道具で婆さまの意志に従い自走しどんなところでも振動無く進んでいく。
「いやいや、可愛い孫娘を救って頂いたのだ。今はこの程度の歓迎しか出来ませんが、今晩はそれなりの宴を準備させております。それと、このウェスラーは酒と料理が旨く、また美しい湖と豊かな緑に囲まれたところでエシハラ公国でも一二を争う観光の地、好きなだけ滞在して楽しんでいって頂きたい」
そう言うオベラス様に同調するように、「そうです、そうして下さい。サーシャ様、クリスティーン様」と、アリファナ様は言い僕に微笑みかける。
『……まさか、こんな所に僕達の行く手を阻もうとする伏兵がいようとは……』
『まあ、伏兵かどうかは知らんが……こいつらが本当に感謝の気持ちから言っているは確かだ。だが、多少は俺達の足止めになってはいるのは間違いないな』
そう僕達が行程の遅れを危惧していると、「有り難いお申し出なのですが……まことに申し訳ありません」と言うサーシャに合わせて、「そうだね、私達には急いで向かわねばならん所があるからね。明日にはここを発たせてもらうよ」と、クリスティーン婆さまが応える。
キリマルさんは少し残念そうにしていた。
『まあ、キリマルには今晩一晩だけで我慢してもらうしかないな』
『うん。そうだね』
「そうですか、お急ぎのご用があるのでしたら、残念ですが無理にお引き留めするのも失礼ですね。アリファナ様が皆様をウェスラー湖の周辺を案内して回りたいと仰っていたのですが……」
そう言ってオベラス様がアリファナ様に目を向けると、「お爺様、それは内密にと言ったではありませんか!」と言って、アリファナ様は恥ずかしそうに俯いてしまった。
ハハハ、「済まん済まん」
そう言ってオベラス様は恥ずかしそうにしているアリファナ様に優しげな目を向けていた。
「ところで、アルバテース公爵の事はよろしいのですか? シャイナ教としても見過ごせない話なのですが、心のよりどころを決めるのは人々なので、この事に関しては戦神教が直に我がシャイナ教を討ち滅ぼそうとしてこない限りは、あなた方からの協力の要請が無い限り我々は基本見守るだけになってしまいます」
サーシャが遠慮がちにオベラス様とアリファナ様に問い掛ける。
「……その事でしたら、アリファナ様の事も含めて大公陛下に私の方から使者が出してあります。今度は国としてアルバテ-ス公爵の考えを質す使者が派遣されることでしょう。アルバテ-ス公爵も内乱は望んではいないはず。なぜなら、アリファナ様やその護衛の者達は無傷とは言いませんが無事にここまで戻ってきているのですから。アルバテ-ス公爵がアリファナ様を拘束しようとしたのは恐らく交渉を有利に進めようとしたが為だと私は考えています。もしアルバテ-ス公爵が内乱も厭わないと考えているのでしたら、アリファナ様達が今ここに無事にいられるはずがありません。なので、当分は我々にお任せ下さい。ただ、話し合いにはシャイナ教の神官にも立ち会って頂くことになると思います」
サーシャの問い掛けにオベラス様はサーシャを安心させるような笑顔を作り答えていた。
「……分かりました。大神官様にもその様にお伝えしておきましょう」
その晩、ウェスラーの領地執政官屋敷の中庭には数十本もの魔光石が立てられ、昼間のような明かりに満たされた中、僕達を歓迎する宴が催された。
「この宴は我がエシハラ公国大公女アリファナ様を救ってくれた方々に感謝を込めて行うものだが、私は皆も知っての通り堅苦しいのは好かん。またアリファナ様を救ってくれた方々も堅苦しくない方がいいと言って下さった。なので今宵は皆立場に関係なくこの宴を楽しんでくれ!」
主催者の始めの言葉通り、この宴は立食形式で立場に関係なく皆が気軽に会話できる堅苦しくない雰囲気のものとなっていた。
キリマルさんはこのウェスラーでも極上と言われる酒の樽に張り付いて、他の酒豪と思しき人達と酒談義をしたり飲み勝負をしたりしている。
クリスティーン婆さまは婆さまで、老若男女問わず多くの人に囲まれて魔法やこの世界の成り立ち、果ては大賢者にまつわる伝説や逸話について質問されたり、婆さまの若い頃の冒険物語を皆に乞われて仕方なくといった感じで話して聞かせたりしていた。
僕とサーシャは柑橘系のジュースを片手に料理の載ったテーブルを回りその豪華な料理に舌鼓を打っていた。
僕達の近くにはこの領都にあるシャイナ教神殿の神官というエルフが三人サーシャと談笑しているだけだった。
他の人達は何故だか僕達を遠巻きに見ているだけでいる。
然も僕達が近づくとソソクサとそのテーブルから離れていってしまうのだ。
『う~ん、何だか僕達、避けられてる?』
『ああ、だが、サーシャを含めた僕達ではなく、お前がな』
『うっ、何だか傷つく言い方だなあ』
『本当のことだし、何時ものことだろ。お前のことを気にしながらも遠巻きに見ているだけ、というのは』
『……それにしても、言い方があるでしょ』
『俺とお前の間で気を遣ってどうする?』
『むー』
僕はこの領都ウェスラーの領地執政官屋敷に着いた時からフードを被らずにいた。
最初、迎えに来た執政官屋敷の使用人の女性は僕を見た時、驚きと同時に頬を染め固まっていた。
オベラス様は流石というか何というか僕の顔を見ても片眉を上げただけで普通に接してきていた。
僕はこの宴の間中、フードを被らずにいた。
この宴に集まった人々は僕のことを気にしながらも近づいてこようとはしなかった。
シャイナ教の神官であるエルフ達は僕の正体に気づいているようだけど、恐らくサーシャに口止めでもされているのだろう、サーシャとばかり話していて僕にはチラチラとたまに視線を向けるだけだった。
僕が溜め息を吐いていると、「シャインさん、楽しんでいますか?」と声を掛けられ、その声のした方へ僕は目を向ける。
「ああ、はい、アリファナ様。飲み物も料理も美味しいですし、楽しんでいますよ」
僕が微笑んで応えるとアリファナ様は頬を染め恥ずかしげにするが、少し視線を逸らしただけで、「そ、それならいいのですが、何だか見ていて元気が無いように見えたものですから」と心配そうに言う。
あははは、「そんな事無いですよ。大丈夫ですよ」
僕が更に笑って応えると、「そうですか……」と、アリファナ様は言い、「……ところで、」と話題を変えてきた。
「シャインさんのご出身はどちらなのですか? 髪の色から極東の方だとは思うのですが、瞳の色まで銀色というのは聞いたことが無いのですが……」
「えっ? あっ? あはははは、これは、その、……」
アリファナ様の突然の問い掛けに僕は戸惑い笑顔を引き攣らせ、「僕の目は突然変異なんですよ」と、無理な言い訳をする。
「突然変異?」
「えっ? あっ、いや、その、極東では千人に一人くらい僕みたいな子供が生まれるらしいんですよ」
「そうなんですか……それじゃあ、その輝くような肌や髪も?」
「えっ? ああ、まあ、はい」
『突然変異という言葉はこの世界に無かったかー』
『お前の苦しい言い訳にアリファナが難しい顔をしているぞ』
『流石にこの言い訳は無理があったかなあ? こんな事言われたの初めてだったから……って、アリファナ様、僕の事薄々気づいていたんじゃなかったのかなあ?』
『あの馬車の中での事は、只者じゃないんじゃないだろうかと、ただ単に鎌を掛けてただけなのかもな』
『そうなのかなあ……』
僕が困惑し次に何を聞かれるかドキドキしていると、アリファナ様が真剣な表情で口を開いた。
「もしかして、シャインさんは乱世の狂気が見えますか?」
「えっ? あー、うん、見えるけど」
僕は予想外の質問についつい何も考えずに答えていた。
その僕の答えを聞くと、アリファナ様の表情は明るいものとなり、「やっぱり、そうなんだー」と呟いていた。
僕はそのアリファナ様の呟きに、「えっ? どういうこと?」と問い掛けていた。
「えっ? ……もしかして知らなかったんですか? 乱世の狂気などの邪気邪念は普通の人には見えないんですよ」
「えっ……僕、普通に誰にでも見えるものだと思ってた……」
アリファナ様の話によると、乱世の狂気を見ることが出来るのはエルフやその血を受け継いだハーフエルフ、人間では非常に魔力の高い者にしか見れない、ということだった。
『そんな話し、聞いたことが無いよ。僕の周りの皆は乱世の狂気が見えていたから、それが普通だと思ってた』
『まあ、カウラス武装商隊の者達は相当な魔力の持ち主ばかりらしいしな。俺達が隠者の里にいるうちは、こんな話しをする必要も無かったんだろう』
『結局の所、僕達はこの世界について何も知らないって事なのかな』
『まあ、俺達は隠者の里に今まで引き籠もっていた、ただの無知なお子ちゃまだったって事だろうな』
『うっ、そう言われると身も蓋もない』
だが、それほど魔力の高くない人でも、希にそういったものを見ることの出来る鋭敏な感覚を持った者が現れるらしい。
アリファナ様もその一人だということだった。
アリファナ様は僕もそういう人間だと思ったらしく、仲間がいた、というように僕に嬉しそうな表情を向けると、まるで昔からの友人に話し掛けてくるように僕に話をするようになっていた。
『自分と同じような人間に初めてあ合って、余程嬉しかったんだろうな』
『うー、何だかアリファナ様を騙しているようで良心がズキズキと痛むんだけど』
『騙しているようで、ではなく完全に騙してるよな』
『うっ、仕方が無いじゃ無いか、ほんとの事を言うわけにもいかないし……』
『まあ、ほんとの事が言えるようになったら謝りに来るんだな』
『……うん』
因みに、非常に濃い密度で乱世の狂気が集まると普通の人にも黒い靄として見ることが出来るようになるということらしい。
アリファナ様の話には出てこなかったが天人にも乱世の狂気は間違いなく見えるだろう。
恐らく、僕の神具を身に着けていれば普通の人にも見えると思う。
僕とアリファナ様が談笑していると知らぬ間に他の人達も僕達の周りに集まりだし会話に入ってくるようになっていた。
そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎ去り夜は足早に更けていく。
翌朝、僕達がオベラス様とアリファナ様と供に朝食を摂っていると、ノックの後、「お食事中失礼致します」と、執政官屋敷の男性使用人が入ってきて、「オベラス様とアリファナ様に面会したいというアルバテース公爵様の使者の方と戦神教の神官巫女という者が参っておりますが、如何致しましょう?」と告げた。
公女を大公女に変更しました。3/1




