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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第四章 中東 エシハラ公国 戦神教
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第五十九話

最後の鳳の凰の会話を書き直しました。2/1

スミマセン、同じところを、また、少し書き直しました。2/2


キリマルの、「わしはキリマルと申す」というセリフを「わしはルマリキと申す」に変更しました。2/8

聖神武暦2146年 9月某日 夏


シャイン・おう


 僕達は今、ゴンドアルカ大陸の中東にあるエシハラ公国にいる。



 ゴンドアルカ大陸は大きく分けると、極東全てを支配する東神名国にアルセルク王国のある東部、そして極東と東部に挟まれたジャカール帝国の支配する広大な砂漠地帯、東部の隣にエシハラ公国のある中東とその西隣に中央、西部、そして西部の西隣にゴンドアルカ大陸最大の国土を有する大国アルブァロム王国に分かれている。

 因みに、隠者の里のある隠者の森はアルブァロム王国の西に位置し、ゴンドアルカ大陸は歪なドーナツ状の形をしているということだった。

 旧シグナリア公国は中央諸国の真ん中辺りにあり、南広海に突き出した形をしているということだ。



 僕は破壊邪神の分け身と対決する決意を固め一人で旧シグナリア公国へ向かうつもりでいた。のだけれど、僕の考えなど皆にはバレバレだったようで……。


 東神名国ジャカール帝国共同の晩餐会があった日の翌日、サーシャが起こしに来る前にシャイナ教大神殿を出ようと部屋の扉を開いた時、そこには皆が集まっていた。


 最初に声を掛けてきたのはサーシャだった。


 「シャイン様、お一人で行かれるつもりなのですか?」


 サーシャは悲しそうな声で僕を咎めるように言う。


 「……だって、僕が旧シグナリア公国に向かえば、確実に破壊邪神に狙われることになるんだよ。……僕は僕のために誰かが危険な目にあうのはもう嫌なんだ」


 僕がそう言うと、「ならば尚のこと護衛の者が必要でしょう」と、カナコは笑顔で言い、「うちの人を連れて行って下さい。うちの人は、元、ですが八守天です。例え邪王に襲われても対処出来るでしょう。それに、これは私の夫の強い要望でもあります」と、カナコは僕に有無を言わせないような真剣な表情で言う。


 ・・・昨日のあの意味ありげな笑いは、……あの時にはもうキリマルさんは僕の行動を予測していて、僕に付いてくるつもりでいたんだ・・・


 「それと、お前さんどうやって旧シグナリア公国に行くつもりだい? 旧シグナリア公国の位置もよく知らないだろう?」


 クリスティーン婆さまは片目をつぶって僕の考えを読もうとするように問いかけてくる。


 「それは……中央諸国にいる隠者の里の人達の持つ僕の神具を目印に転移しようかと……で、その人に旧シグナリア公国の位置を教えてもらおうかと……」

 「だったら部屋から出ずにそのまま跳べばよかったんじゃないのかい?」

 うっ、「それはその……」

 「それをしなかったのは、乱世の狂気により破壊邪神の領域となっている中央諸国にお前さんが跳べば、直ぐに破壊邪神の知れるところとなる。そうすれば、今まで駒が足りないため放っておかれたお前さんの神具を持つ者達も破壊邪神に狙われる危険性があるからだろう?」

 「・・・・・・」


 僕がクリスティーン婆さまに図星を突かれ言葉に詰まっていると、「ならば、私が連れて行ってやるよ」と、皆の一番後ろにいたカルハンさんが僕に声を掛けてきた。


 「私なら旧シグナリア公国の位置も分かっているし、丁度商売で中央諸国に行く予定もあるしな!」

 「でも、危険だよ」

 「この商売をしていたら、そんな事日常茶飯事だ! それに中央諸国に行く時は戦闘に長けていない者達は比較的安全な場所に置いて行くからな。今回は東神名国に置いていくことにもう話が付いている」


 そう言ってカルハンさんがいい笑顔で親指を立てた時、「それは駄目だね」と、クリスティーン婆さまが横合いから割り込んできた。


 「何でだよ!」

 「お前さん達とでは時間が掛かりすぎるんだよ」

 「だったらシャインはどうやって行く気だったんだよ!」


 そのカルハンさんの疑問に対して、僕は視線を泳がせつつ頬を掻きながら答える。


 「それはその、中央諸国の方角は分かっているし、少し本気で駆けていこうかな? と……」


 その僕の答えに、クリスティーン婆さまは呆れたように一つ息を吐き口を開く。


 「それも駄目だね。お前さんはもう忘れたのかい? お前さんをこの世界から抹殺出来るほどの魔法道具を奴らが持っている可能性が高いということを……少しでも神力を解放して中央諸国に入ればその位置を破壊邪神達に報せているようなものだよ。そうなれば直ぐにでもお前さんは襲われることになる」


 僕は何の反論も出来ず、うっ……、と呻くしかなかった。


 「ということで、シャインに同行するのは私とキリマル、そしてサーシャの三人とする」


 そのクリスティーン婆さまの決定にサーシャは嬉しそうな表情となり、僕が疑問を投げかけようとした時、カルハンさんがクリスティーン婆さまに食いついた。


 「何でクリスティーンが一緒に行くんだよ!」

 「そんな事お前さんにも分かっているだろ。私なら破壊邪神の分け身とも対等に渡り合える。それに、私には破壊邪神達に気付かれずここにいる誰よりも早く中央諸国に行く手段がある」

 「なっ、そんな手段があるのか……」

 「お前さん、私がどれほどの時間生きてきたと思っているんだい? 世界各地にそういった仕込みをするくらいの時間は、嫌っていうほどあったさ」


 そうなのだ、神代と言われる頃から自分の意思に関係なく肉体の再生を繰り返し生きてきたクリスティーン婆さまは、この世界の誰よりも長い時間を生きてきた。

 その長い時間、クリスティーン婆さまは多くの大切な人達を見送り、看取ってきたのだ。


 僕はその事に思い至り、少し胸にくるものがあった。


 「シャイン、お前さんがそんな辛い顔をする事じゃないよ。私の人生、辛い事ばかりじゃなかったのだから」


 そう言ってクリスティーン婆さまはさっぱりとしたいい笑顔を僕に向ける。


 その後、カルハンさんはブツブツと文句を言っていたが、クリスティーン婆さまの決定に反論する人は無く、クリスティーン婆さまとキリマルさん、そしてサーシャが僕に同行することになった。


 そして、僕はカクラ母さまとカンザブロウ父さま、オズヌ、カナコにミーナ、そしてアジーナおばさまに別れの挨拶をした。


 そして、カルハンさんには「絶対に追いつくから」と抱き締められた。


 キリマルさんもカナコとミーナに別れの挨拶をしていたが、何故だかカナコに殴られていた。

 キリマルさんのことだからカナコに何か悪戯したにちがいない。


 『キリマルさんも懲りないなあ』

 『まあ、キリマルは湿ったことは嫌いだからな』


 僕が呆れているとカナコはキリマルさんを強く抱き締めていた。

 それにはキリマルさんも素直に応えていたようだ。


 クロガネは昨晩の内にダイテンさんとアカガネと共にトーゲンを発っていた。


 僕がシャイナ教大神殿を出る時、僕はカクラ母さまに強く抱き締められた。


 「シャイン、貴女に助けが必要な時、私達は必ず力になるから。それだけは忘れないでいて」と。


 その後、僕達はクリスティーン婆さまの転移魔法でトーゲンを離れた。


 

 ……で、どうして僕達はゴンドアルカ大陸中東三国の一つ、このエシハラ公国に一月近くもいるのか? ということなのだが……。


 結果から言うと、クリスティーン婆さまの転移魔法でも中央諸国まで跳べなかったのだ。


 僕達はエシハラ公国の東端にある深い森の中のクリスティーン婆さまの転移ポイントに転移していたのである。


 どうやら中央諸国全てを巻き込んだ、長年続いている戦乱のためにクリスティーン婆さまが設置しておいた転移ポイントが殆んど破壊されていて中央諸国まで転移出来なかったらしい。


 然も、この中東三国に設置してあった転移ポイントも僕達が転移してきた中東の一番東の端にあるもの以外は、中東全域を支配していたナブラスカ帝国が今の三国に分断される切っ掛けとなった内乱を起こし時に破壊されてしまっていたようだ。


 「まあ、何と言うか、長年放置しておいたのがいろんな意味で悪かったんだろうね……何にしても私の読みが甘かったようだ。……シャイン、偉そうなことを言っておいて、目的地まで跳べなくて申し訳ないね」

 「いえいえ、そんな、婆さま頭を上げて下さい。トーゲンからこの中東のエシハラ公国までクリスティーン婆さまのお陰で一瞬でこれたんだから……」


 クリスティーン婆さまは僕に対して深々と頭を下げていた。

 確かに中央諸国、旧シグナリア公国近くには着かなかったが、僕はクリスティーン婆さまに感謝していた。


 ・・・だって、ここ中東のエシハラ公国にまで来るのに、こちらの動きを破壊邪神に悟られずに済んだのだからクリスティーン婆さまには感謝こそすれ僕に腹をたてる理由はないよ・・・


 エシハラ公国への転移は確かに力の強いクリスティーン婆さまが行ったものだから、破壊邪神達に警戒される可能性はあったが、クリスティーン婆さまが行ったのはあくまでもこの世界にある魔法であって、力の強い者ならば使おうと思えば使えるものだ。多分……。


 だから、僕が神力を解放しない限りは僕の動きを破壊邪神に気づかれることはないだろう、と思う。


 実際、この一月近く僕達は破壊邪神の手の者に襲われることも監視されているようなことも無かった。



 エシハラ公国に着いてからはサーシャが活躍していた。


 僕達は転移したクリスティーン婆さまの転移ポイントがあるエシハラ公国の東端の深い森から出ると、近くの小都市に立ち寄った。

 そこでの宿の手配から翌日からの移動手段となる馬車の入手、このエシハラ公国と中東三国の現在の情勢、そして中央諸国の情報の入手等々、サーシャが一手に引き受けてくれたのだ。


 それから一月かけて、エシハラ公国を横断して中東三国の一つラスカール公国に抜ける街道を、二つの小都市、大小複数の町や村を経由してエシハラ王国を三分の二ほど横断してきた。


 何故、旧シグナリア公国に向かうには遠回りになる、中東三国の内、北に位置するラスカール公国に向かっているかというと、中東三国の一つで南に位置していたグラディウス公国は数十年前、中央諸国の戦乱に巻き込まれ滅亡してしまっていたからだ。

 今はそのグラディウス公国のあったところにメルクルス国という国が出来ているということだが、まだ国内情勢は安定せず内戦状態だということで、ラスカール公国を抜けて中央諸国へ向かった方が早いだろう、ということになったのだ。


 「中央諸国の戦乱も収まりかけてきていたようなのですが、ここ数年、乱世の狂気が強まり始め、その影響でまた中央諸国の各地で大きな争いが起こり始めているそうです」


 サーシャの説明に僕は、「それは、破壊邪神の分け身が力を増した影響なんだろうね」と、溜息を吐くように言う。


 「まあ、そうだろうね。だからといって焦れば奴らに足を掬われかねない」

 「うん、分かってる、婆さま」

 「ですが、エシハラ公国に入って一月、ほんの少しずつですが乱世の狂気が薄まってきているような気がするのですが……」


 そのサーシャの言葉に、「うん、僕もそれは気がついていた」と、同意する。


 「恐らく、事を起こす前に破壊邪神の分け身が乱世の狂気を回収して更に力を付けようとしているのだろう」

 「だったら、僕達も急がないと……」

 「だから焦るなと言っているだろう。恐らく、奴が力を付けて動き出すのにはまだ時間がかかる筈だよ。こちらの動きを知られない限りは奴も無理して動こうとはすまいよ」

 「……そうならいいけど……」


 僕達は丘陵地帯の林の中を通る街道を、相変わらず歌舞伎者のような姿をしたキリマルさんが、酒を片手に操る馬車に揺られながら話をしていた。

 その時、僅かだけど空気が変わったことに僕は気がつき馬車の外に目を向ける。


 「……婆さま、気がついた?」

 「ああ、……この丘陵地帯に入ってから人気が無くなったと思っていたが、これが影響していたのかもしれん」


 サーシャは感じたことのない空気に不安そうな表情を浮かべていた。


 その時、突然馬車が止まる。


 「キリマルさん?」と、僕が御者台のキリマルさんに声を掛けた時、随分と離れているけど林に隠れた街道の先から複数の人が争うような気配が感じられ、それがこちらに向かって来ているのがわかった。


 「シャイン、お前達は馬車にいろ」

 「うん。キリマルさん気をつけて、……恐らく……」

 「ああ、分かっている。お前()や破壊邪神以外の神の加護を受けた者がいるな」


 キリマルさんはそう言うと御者台から降りて馬車の前に立つ。すると、そのキリマルさんの先、林に隠れた街道から数騎の騎馬がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。

 次の瞬間、キリマルさんの先、百メーターほど離れた所の林の中から巨大な獣が二匹その騎馬の行く手を遮るように現れた。


 「シャイン、この先急ぐなら関わらぬ方が得策だと思うが?」

 「うん、でも、……見て見ぬふりは出来ないよ」


 僕の応えにキリマルさんは、「お前ならそう言うと思っていた」と、嬉しそうに言うと僕の神具、マジックアームスのブレスレットを双刀の滅斬刀に変え走り出していた。


 林からの中から飛び出してきていたのは体中を鋭い針状の体毛に覆われたニードルベアーと呼ばれるA級の魔獣と緑色の半透明をした巨大なコブラの姿のミミックリーコブラというA級の魔獣だった。


 ニードルベアーは体長三メーターほどで鋼の針のような体毛により体は守られている。

 そして、その体毛は武器として打ち出すこともできる熊型の魔獣だ。

 その指先から生えた巨大な爪でも攻撃を仕掛けてくる。


 ミミックリーコブラは、その半透明の体を周りの景色に合わせて擬態し、獲物が気づかないように近づいて捕食する蛇型の魔獣だ。

 その牙からは溶解液を出し捕食対象に打ち出したり、体長五十メーターほどの細長い体を使い捕食対象を絞め殺す。


 『だけど、あの二体の魔獣よく見ると体に縄状の魔力が絡み付き体の中にまで入り込んでいるのが見えるんだけど』

 『……魔獣使いという者達もいるらしいからな、恐らく何らかの魔法で操られているんだろう』

 『うん、キリマルさんもその事に気づいているみたいだね』

 『ああ、……食料も十分にあるし、キリマルも無駄な殺生は好まんからな』


 魔獣は外敵の接近に敏感だということを聞いたことがあったのだけど、キリマルさんはその魔獣二体に気づかれることなく一瞬の間に間合いを詰め、ニードルベアー、ミミックリーコブラ共に双刀の滅斬刀であっという間に切り刻む。


 ニードルベアーとミミックリーコブラは悲鳴を上げズズンと倒れ込んだ。が、直ぐに立ち上がり林の中へと逃げ込んでいった。


 ()の神具であるキリマルさんの持つマジックアームスのブレスレットを変化させた双刀の滅斬刀は、ありとあらゆる物を切り裂くことが出来るが、生き物の生命を奪うことは出来ない。

 よく出来て相手の戦意を喪失させることぐらいだ。

 だが、その生き物に取り憑いている邪気邪念や害をなす力を打ち祓ったり解除する力を有している。


 その為、キリマルさんの持つ双刀の滅斬刀により魔獣使いの拘束を解かれたニードルベアーとミミックリーコブラは戦意喪失して逃げ出したのだ。



 ニードルベアーとミミックリーコブラを退けたキリマルさんは此方に駆けてくる騎馬に向かい、「御助勢致す! 馬車の所まで行かれよ!」と叫んでいた。


 「どなたか知らぬが感謝する!」


 八騎の騎馬の先頭を走っていた者がそう言いながらキリマルさんの横を通り抜け僕達の乗る馬車の所まで来た。


 その時には、その八騎の騎馬を追ってきていた数十騎の騎馬が両手を広げて仁王立ちしているキリマルさんの前で停止していた。


 双刀の滅斬刀はブレスレットに戻ってキリマルさんの左腕に嵌まっている。


 『普通なら、そのまま強引に邪魔しようとする者を突破しようとするんだろうけど……』

 『ああ、厄介だな。統率がとれている上に相手の力量を測れているようだ』

 『うん、それに、全員神界の神の加護を受けている。……然も、もう僕達はその神の領域に入ってる』

 『このままだと、お前()の加護を受けているキリマルでもキツいだろうな』

 『いざとなったら僕も神威を解放しないといけないかも……』

 『最悪、この神とやり合う覚悟をしておけよ、凰』

 『うん。……出来れば、やり合わなくて済めばいいけど』


 「貴様! 何故我らの邪魔だてをするか!」


 追っ手の指揮官らしき者が苛つき自分の乗る興奮状態の馬を落ち着かせながらそう叫ぶと、「わしはルマリキと申す。……多くの人が通る街道で争い事をされては迷惑だ、と我が主が申されるのでな。わしが仲裁に来たのだ。剣を納めては貰えぬかな?」と、キリマルさんは明るい声で応えていた。


 「……魔獣が二匹いたはずだが貴様が追い払ったのか?」

 「如何にも……」


 その時、キリマルさんの伸ばした両手の先で破裂音と共に炎が上がる。

 そして、キリマルさんの纏った着物の両袖がまるで突風にでも煽られたように激しく揺れていた。


 「ほお、大した腕だ……」


 それを見て、追っ手の指揮官は感嘆の声を上げていた。


 キリマルさんは左右の林から高速で飛来したファイヤーアロー(魔法の火矢)を普通の人では視認出来ないほどのスピードで両方の腰に差した刀を左右の手で引き抜きファイヤーアローを切り裂いてまた腰の鞘に戻していたのだ。


 「隊長、どうしますか?」

 「……これ程の腕を持っていればA級魔獣など容易く倒すことが出来よう。此奴が相手では我らもただでは済むまい……だが、我らは戦神トーレス様の加護を授かっている身、我らも退くわけにはいかんのだ。然も戦神トーレス様の従属神である五柱の戦女神の一柱、スィーズ様の庇護の元にある。これで負けたらスィーズ様に顔向けが出来ん」


 指揮官を隊長と呼んだ若い男とその隊長との会話を聞いて、キリマルさんは、「やはり話し合いの余地無しか」と、一つ息を吐いた。


 フン、「端から話し合いの余地など無い! 事情も知らぬ余所者が首を突っ込むな!」

 「わしの今の主人は優しいからな。どんなものでも助けようとされる」

 「ぬかせ!」


 キリマルさんは相手との間合いを計りながらマジックアームスのブレスレットを再び双刀の滅斬刀に変化させる。

 追っ手の者達もその隊長がキリマルさんと会話をしている間、キリマルさんを突破すべく体勢を整えていた。



 僕達のいる馬車からキリマルさんの所まで約百メーターほどあるけど、僕は馬車の窓からキリマルさん達を見ながらキリマルさんの持つ僕の神具を経由してキリマルさんと追っ手との会話を聞き取っていた。


 『面倒だな、相手は戦神か、……然も従属神を従えているとなるとかなりの力を持った神だぞ』

 『うん、……戦神トーレスって言ってたよね。関わった事は無いみたいだけど、先代凰の記憶にもその名前は残ってる……変に正義感を出したのは不味かったかなあ』

 『まあ、キリマルも言っていたが、お前は優しいからな』

 『……それにしても、この神界の神である戦神、この世界に干渉してくるのが予想よりも随分と早かったね』

 『ああ、恐らく邪神が関与しているのだろう。邪神が戦神と相性のいい依り代を前もって見つけていたのかもしれんな』

 『ということは、邪神が戦神達を呼び寄せたっていうことだよね。そうすると、目的は何だろう?』

 『恐らく、破壊邪神本体の封印を解くまでの間の俺達の足止めだろうな』

 『だったら、直に封印のあるニーブルローデスに行けばいいのに、何故、破壊邪神の分け身は旧シグナリア公国に戻ったんだろう?』

 『それは、直ぐに俺達がその封印の場に駆けつける事が分かっているからだろう。今の奴では俺達に歯が立たないからな。それに、ゼンオウとゴオウの力を受け継いでいる者達が封印の守りについている。実際、ゴオウの力の継承をダイテン達もニーブルローデスで行うらしいし。ダイテンの話だと、俺達が当代の鳳凰だと認めた事で今度は先代鳳の心臓の欠片を持っている破壊邪神の分け身相手でも闘う事が出来るようになったと言っていたからな。破壊邪神の分け身もそれは分かっているのだろう』

 『だから、破壊邪神の分け身は、僕達の足止めのために神界の神を呼び、力を蓄えるために旧シグナリア公国に戻ったんだね』

 『多分な。俺達とすれば、出来れば、力をつけて動き出す前に破壊邪神の分け身を倒してしまいたいのだがな』

 『うん。戦神が僕達をすんなりと通してくれればいいけど……』

 『まあ、そうはさせてはくれんだろうな』

 『だーよねー』

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