第五十八話
(凰)
一通り挨拶が終わるとアジーナおばさまは僕のことをサーシャに任せて、また、何処かに行ってしまった。
僕はこのチャンスを生かすべく、男性陣が寄ってくる前に行動を起こす。
「サーシャ、僕、ちょっと……」と言って、モジモジすると、「ああ、はい。お花摘みですね」と言って「では行きましょうか」と、サーシャは僕に付いてこようとする。
「え? いいよ、一人で行けるよ……」
「いえ、私もお付き合い致します」
後ろの二人を確認すると二人とも付いてくる気満々のようだった。
・・・ん? 何だかシャリーナ姉さま、難しい顔をしてるけど、……今までトイレ、我慢してたのかな・・・
『……さて、どうしよう。三人とも付いてくるみたいだけど……』
『シャリーナ姉とクロガネは問題あるまい、問題はサーシャだな』
『うん、この晩餐会から抜け出すのに、サーシャは反対するだろうね。何とか撒ければいいけど』
晩餐会はトーゲン館と呼ばれる国賓や外交官を接待する為に共有庭園に建てられた大きな社交場の大ホールで行われている。
僕はサーシャに連れられてそのトーゲン館の広い通路を通りトイレまで来たのだが、複人数を対象にしたトイレはこの世界に生をうけてから初めての体験だった。
『うわー、一応男女別になってるんだー。隠者の里の僕の家にもトイレは有るけど男女共用でボットンだし……やっぱり女子の方に入るのかなぁ』
『……ボットンは余計だ、というか女がボットン言うな。お前はもっとはじらいを身に付けろ』
『えー、何を今さら、僕と鳳の仲ではじらいもなにも無いでしょ……第一僕は元々男の子だったんだから、いいじゃないか、ボットン言うくらい』
などと鳳と話していたら僕はサーシャに手を引かれて女子トイレに引き込まれていた。
『あう、何だか恥ずかしい』
『・・・・・・』
「シャイン様、お顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
僕が恥ずかしさに俯いているとサーシャに心配されてしまった。
「ああ、うん、大丈夫。……それじゃあ僕はここに入るから」
僕は慌てて手近な個室に入る。
『この世界でも女子トイレは個室になってるんだね。……それに思ったより臭くない』
『ああ、そうだな……男子トイレはどうなってるんだろうな』
そこには石で出来たシンプルな形の洋式便器が一つあった。
『うちは和式だけど、ここは洋式なんだね』
『ああ、便器の穴の中から水の流れる音が聞こえてくるな』
『うん、……下に水が流れてるんだね……でも、作りはボットンだ』
『……前々から思っていたが、お前、頑固だよな』
この共同管理都市トーゲンのような大都市には下水道が整備されているらしい。
下水道が整備されているとはいっても、上流の川の水を引き込み下流に排水している簡単なものらしいが、その下水道や下水管には浄化の魔法陣や魔法印が施されていて汚水は浄化して下流に放出されているとのことだった。
その為、汚物の匂いがするなどといったことはなく、都市内は清潔に保たれている。
僕はサーシャが個室に入り布の擦れる音を確認すると、音を立てないようにこっそりと個室から出て女子トイレを出ていく。
そこには、サーシャがいた。
トイレの出口にサーシャがいるなどとは思ってもいなかった僕は「うわ!」と驚きの声を上げる。
その僕の驚きようを見てサーシャはイタズラが成功した子供のような満面の笑みを見せた。
「は、早かったね、サーシャ。何時の間にトイレから出たの?」
「いえ、……シャイン様こそ、もうよろしいのですか?」
「ああ、うん、スッキリしたよ……」あは、あははは……
僕が乾いた笑いを漏らすと、「では、参りましょうか」と、サーシャは楽しそうに言い歩き出す。
僕は「ああ、うん」と言って付いていくしかなかった。
そんな僕達をシャリーナ姉さまは笑いを堪えながら見守り、クロガネは微笑ましげに見つめていた。
『離れた所に音をたてる精霊魔法もあると聞いたことがあるけど、サーシャは個室に入らずに直ぐに外に出たんだね。……僕もサーシャの持つ僕の神具でサーシャのいる場所を確認するべきだった……』
『お前は詰めが甘いというか何というか……バカだろ』
『うっ、落ち込んでるのに追い討ちをかける?』
『事実を言ったまでだ……まあ、今日は晩餐会から抜け出すことは諦めるんだな』
『うわ、傷つくなぁ……まあ、しょうがないよね……』
僕は一つ息を吐きトボトボとサーシャの後に付いていく。が、ふと気がついた。
「あれ? サーシャ、方向、違うんじゃない?」
僕達は来た方向とは逆の方向、出口へと向かって歩いていた。
「いえ、間違っていませんよ。シャイン様はトーゲンの街へ行きたいのですよね?」
「うん、そうだけど、……いいの?」
「はい。お母様、いえ大神官様にも、シャイン様は堅苦しいことはお好きではないでしょうから一通り挨拶が済めば好きにしてもらうのがいいでしょう、と言われていますから」
「そうなんだ……」
『だったら、アジーナおばさまも最初っからそうと言っておいてくれればいいのに……無駄な努力をしちゃったじゃないか』
『……まあ、アジーナも光の神子が当代鳳凰であると東神名国とジャカール帝国の者達に十二分に知らしめる事ができたからこの晩餐会からお前が途中退席する事を許したんだろう。アジーナが黙っていたのはお前をすんなりと行かせるのも癪だったんだろうな』
『えー、……それって、もしかしてアジーナおばさまの可愛い嫌がらせってこと? それにサーシャも乗ったってこと?』
『……まあ、そんなところじゃないのか?』
僕達は一度大神殿に戻り、少し着替えてから停戦に沸くトーゲンの街へと繰り出した。
着替えとはいっても、僕の場合、白いマントフードから灰色のマントフードに替えただけだけど……。
サーシャは灰色のローブを着てフードを目深に被っている。
そのローブの中には晩餐会の時に着ていた神官の正装ではなく、普段着ている肘まであるゆったりとした袖の純白の神官服と膝上までのスカートのような純白のパンツをはいている。
後ろに付いてきているシャリーナ姉さまとクロガネも普段着ている服の上に灰色のマントフードを纏っていた。
僕はシャイナ教大神殿から出るとカルハンさん達の持つ僕の神護の指輪を頼りにカルハンさん達を探すことにした。
『ん? あれ? カルハンさん達の所にキリマルさんとクリスティーン婆さま、アカガネもいるみたいだ』
『カクラ母さん達が婆さまとダイテンを晩餐会に誘っていたようだが、部外者だからと辞退されたとアジーナが言っていたな』
『うん。でも大神殿にいても仕方が無いから、カルハンさん達の所に遊びに行ったんだね』
『遊びにって……まあ、そんなところか。キリマルは、まあ、何時ものことだな』
『うん、でも、キリマルさんもカナコも元気になってよかったよ』
『ああ、シャイナ教の神官達が必死になって二人を治癒してくれたらしいからな』
カルハンさん達は僕がこのトーゲンに初めてきた日の夜に連れていってくれた〈ベラ〉という落ち着いた雰囲気のある酒場に集まっているようだった。
・・・カルハン武装商隊の皆がいると、落ち着いた雰囲気もなにも無くなっちゃうんだけどね・・・
僕達四人は素顔を晒したままだと目立つのでフードを目深に被り、停戦に浮かれる人々でごった返している通りを、僕はサーシャの手を引いて、歩いていく。
トーゲンの街全体に飾り付けられた色とりどりの飾りが魔石灯の光を受けて輝き街全体を色鮮やかに照らし出している。
通りを埋め尽くしている人々は、東神名国、ジャカール帝国など関係なく肩を組み、ある者は歌い、ある者は楽器を奏で、ある者は踊り、ある者は酒を飲み、ある者は酔いつぶれ、ある者は口論をし、ある者は笑い合っている。
皆、思い思いに停戦を喜び祝い合っている。
僕はそんな人々を見て、そんな人々の思いに触れて、この世界は、この人の世は捨てたものじゃないと思う。
確かに人は弱い。
その弱さの為、人々は互いに妬み蔑み恐れ、場合によっては啀み合い憎しみ合い傷つけ合い悪くすれば周りを巻き込んで滅ぼし合う事もあるだろう。
だけど僕は思う。
人は自分の弱さを知る生き物だ、故に人々はその弱さを乗り越えるために努力をする。
その方法として自分とは別のものを理解しようとし他者を理解しようとし、その結果として支え合い助け合い協力し合いより良き方向へ向かおうとする。
だからこそ、人はこの世界をより良き世界へと導いていける存在となりうる。
例え一時その弱さに負けようとも、必ず人はその弱さを克服し乗り越えてゆく。
僕はそう信じている。
『……だよね、鳳』
『ああ、そうだな……対して神界の神は己が存在を強固なものとするため、その存在理由に従い、ある者は生命達に試練を与え、ある者は生命達に奇跡を与える。それは災厄の力であり、それは救いの力だ。だが、それは生命達が乗り越えられるものでなければならないし、それは生命達を堕落させるようなものであってはならない』
『うん。でも、破壊邪神を依り代にしている邪神は人だけでなく他の生命達にも乗り越えられない災厄をもたらし、最終的にこの世界自身を殺し吸収しようとしてる』
『ああ、破壊邪神達の人に対する恨みを、この世界に対する怨みに大きく膨れ上がらせ、その怨みを利用してな、……だが、それだけは何があっても阻止しないとな』
『うん、……問題はこの世界に取り付いている他の神界の神がどう動くかだけど……』
『どんな神かにもよるが……タイミング的に嫌な感じがするな』
『……うん』
「シャイン様……痛いです」
「ああ、ごめん、サーシャ……」
知らず知らずのうちに僕はサーシャの手を握る手に力を入れ過ぎてしまっていたようだ。
「……シャイン様、何をお考えですか? もし何かあれば私に話してください。私では何の力にもなれないかもしれませんが、辛いことや悲しいことでも誰かに話せば少しは楽になることもあります。……私は私の命がつきるまで何時もシャイン様のお側にいてシャイン様を支え続けますから」
サーシャはそう言ってフードに隠れている僕の顔を真剣な眼差しで覗き込んでくる。
「……うん、ありがとう、サーシャ」
僕が感謝の言葉を言いサーシャに微笑み掛けると、サーシャは恥ずかしそうに頬を染め、その可愛い表情をフードの中に隠してしまう。
『何だか、サーシャに心配させちゃったみたいだね』
『……まあ、サーシャとは長い時間一緒にいるからな、お前のちょっとした仕草や表情で何かを感じとるんだろう』
『うん……』
僕達は停戦に沸く人々により埋め尽くされた通りを、その賑やかしさを楽しみながらゆっくりと進んでいく。
そして、細い通りに入り交差点を二三度曲り、その先にある〈ベラ〉と書かれた木製の看板が掛かった扉の前に辿り着いた。
僕はその木製の扉を押し開く……
「うおおおおおお! シャイーン!!」
……と、いきなりカルハンさんに抱き付かれた。
「なっ?! カ、カルハンさん?」
「ごめんよーごめんよー、お前が大変な時に駆け付けられなくて」
いきなりの事に僕が驚いていると、「済まんなシャイン。お前が大変な時に駆け付けてやれなかったと、ずっと落ち込んでヤケ酒を飲んでいたんだ」と、カウラスさんが説明してくれる。
「まあ、うちの商隊は商隊員だけでなく、その家族も一緒にいるからな。破壊邪神の襲来なんて事があった後だ、俺はお前を探しに行っていいと言ったんだが、責任感の強いカルハンがその商隊をほっぽっといて個人的な行動を取れるわけがなかったんだ。まあ、許してやってくれ」
「許すも何も、……逆に心配をかけた僕がカルハンさん達に謝らないといけないくらいなんですから、そんな気にしないで下さい。ね、カルハンさん」
「許してくれるのか? シャイン」
「僕が怒る事なんて何もありませんよ……それよりも、心配かけてごめんなさい、カルハンさん、皆さん」
僕がカルハンさんとカルハン武装商隊の人達に謝ってカルハンさんの頭を撫でてあげると、カルハンさんはその泣き腫らした顔に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「シャリーナでも見つけられなかったんだ。ま、お前さんがシャインを探しに行っていたとしても見つけられなかっただろうがな」
奥で僕達の様子を見ていたのだろうクリスティーン婆さまが、僕達に声を掛けてきた。
それに、「うむ、違いない」と、その隣で酒を飲むダイテンさんが相づちを打つ。
・・・ダイテンさんも来てたんだ・・・
それに対して、「ンなこたぁ分かってるよ! ほっといてくれ!」と、カルハンさんは僕に抱き付いたまま拗ねたように言う。
「ところで、カルハンさん。何時までシャイン様に抱き付いているんですか?」
サーシャがこめかみに青筋を立ててカルハンさんを睨み付けていた。
「お前と違って私はなかなかシャインと会えないんだから、少しくらいいいじゃないか」
そう言うとカルハンさんはサーシャに、んべー、というように舌を出す。
その態度にサーシャの堪忍袋の緒が切れた。
♪~♪♪~♪~、とサーシャは精霊魔法の呪文を唱えだす。と同時に、カルハンさんも精霊魔法の呪文を唱えだす。と、二人の周りに精霊達が集まりだし室内に風が生じ始める。と同時に、サーシャとカルハンさんカルハンさんに抱き締められている僕以外の物や人が宙に浮き始める。
僕が二人を止めようと口を開きかけた時、パンッ! と手を叩く乾いた音が室内に響き渡り集まっていた精霊達は驚いて何処かに逃げていった。そして、二人の精霊魔法は不発に終わる。
サーシャとカルハンさんは驚きに目を見開いていた。
多分、今のシャリーナ姉さまとクロガネには無理な芸当だろう。
ダイテンさんになら精霊を散らすことぐらい容易いことだろうが、ダイテンさんが使うのは妖力だ。
その手を叩く音には精霊の嫌がる波長の魔力が乗せられていた。
そんなふうに魔力の波長を自在に変化させて使うことが出来るのは、ここには一人しかいない。
「この馬鹿者共が! こんな所でそんな大きな精霊魔法を使ったら大変なことになるということが分からんか!」
室内に子供を叱りつけるようなクリスティーン婆さまの怒声が響き渡る。
何時も穏やかなクリスティーン婆さまが怒声を上げたことに僕は驚きを隠せなかった。
一喝されてサーシャとカルハンさんはシュンとしてしまう。
「クリスティーンが怒るのなんて、初めて見た」と、カルハンさんが呟くのが聞こえてきた。
・・・そう言われてみれば、僕もクリスティーン婆さまが怒るの初めて見た・・・
「で、シャイン、お前さんはここに何しに来たんだい?」
クリスティーン婆さまの突然の問い掛けに「え?」と僕は声を漏らす。
さっきの騒ぎの影響があるせいか皆僕に視線を向け何故だか僕の応えに聞き耳をたてている。
そんな雰囲気に、「えっと、……何しに、と言われると困るんだけど……」と、僕はしどろもどろになる。
『ついでだ、婆さまにはここで話しておくべきだと思うぞ』
そう鳳に言われて、「『そうだね、婆さまには話しておくべきだよね……』」と、僕が呟くように言うと、「お前さん、あのちびっ子破壊邪神との決着を付けにいくきかい?」と、婆さまが核心を突いてくる。
「ちびっ子……まあ、はい、あの破壊邪神の分け身を放っておく訳にはいきませんから……姿はあれでも、この世界にとってはその生存を揺るがすほどの驚異ですから」
僕の応えに、「……そうかい」と、婆さまが溜息を吐くように言うと、「シャイン様、まことに申し訳ありません!」と、僕の後ろの立っていたシャリーナ姉さまが突然跪き頭を下げる。
「なっ、……どうしたの? シャリーナ姉さま」
その突然のことに僕は驚きながらシャリーナ姉さまに問いかける。
「はい、」と、シャリーナ姉さまは難しい顔をして、「……今のままでは、破壊邪神にもこの世界に干渉しようとしている神界の神にも私では歯が立たないどころか、シャイン様の足手まといになってしまいます……」と悔しげに言う。
「そんなことは……」と、言いかける僕の言葉を、「……ですので」と遮り、シャリーナ姉さまは強い意志の籠もった表情で話を続ける。
「私は一度、ニーブルローデスに戻ります」
「ニーブルローデスって、たしかシャリーナ姉さまの生まれ故郷で、魔人族の島、でしたよね」
「はい。母上にも一度戻るように言われています」
『ああ、それでトイレに行く前、あんな難しい顔してたんだ』
『恐らく、あの時以心伝心で連絡を受けていたのだろう』
「私は必ずシャイン様のお力になれるようゼンオウ様の力を継いでまいります」
シャリーナ姉さまのその真剣な表情に対して「……うん、分かった。僕、シャリーナ姉さまのこと待ってるから」と、僕が笑顔で言うと、「ありがとう御座います」と言って、シャリーナ姉さまは立ち上がり酒場を出て行こうとする。
「えっ? もう行くの?」
僕が驚いたように言うと、「はい。迎えの船がもう東神名国に向かっているそうなので……」と、シャリーナ姉さまは振り返り、「クリスティーン様、シャイン様のことをお願い致します」と、婆さまに頭を下げる。
そんなシャリーナ姉さまに、「ああ、任せておきな」と、婆さまが応えると、「では、シャイン様、失礼致します」と、シャリーナ姉さまは僕に向き直り、一礼して酒場を出て行った。
そんなシャリーナ姉さまを見送り、ハア、と僕は一つ息を吐く。
カカカ、「何だシャイン、お前、シャリーナがいなくなって寂しいのか?」
そんな僕にダイテンさんの隣に座っているキリマルさんがからかうように声を掛けてくる。
ここにカナコがいれば、きっと殴り飛ばされていたことだろう。
「カナコがキリマルさんを置いて旅に出たら、キリマルさんだって寂しいでしょ」
フフフ、「まあ、そうだな……」
僕の問いかけにキリマルさんは意味ありげな笑いを溢し僕に応える。
その時、「シャイン様、クロガネを当分の間お借りしたい」と、ダイテンさんが僕に深々と頭を下げる。
「出来れば、わしがシャイン様に付いていきたいのですが、……わしももう歳です。ゴオウ様の力に身体が耐えられなくなるのも時間の問題でしょう。なので、アカガネかクロガネ、どちらかにゴオウ様の力を継がせシャイン様にお付けしたい。シャイン様がお生まれになった時からクロガネがお側に付いていた、ということなので出来ればクロガネにゴオウ様の力を継がせたいとは思うのですが、こればかりは、わしの一存で決められることでは御座いませんので……」
「うん、分かっています。二人ともゴオウの力を受け継ぐ資質と才能は持っているでしょう。あとはゴオウの判断次第ですね」
僕がそう言うと後ろからクロガネに優しく抱き締められた。
「ワタシハ、シャインサマカラハナレタクアリマセン」と、クロガネは僕を抱く腕に優しく力を込める。
「デスガ、シャリーナモイッテイマシタガ、イマノママデハ、ワタシハ、シャインサマノアシデマトイニナッテシマイマス。デスカラ、ワタシハカナラズ、ゴオウサマノチカラヲツイデ、シャインサマノモトニマイリマス」
「うん、待ってるよクロガネ」
僕達のやりとりを皆聞いていたせいか、何だか酒場全体が湿っぽくなってしまった感じだ。
「よーぅし、野郎共! シャリーナには逃げられたが、我らが親友達の旅立ちの前祝いだ! 飲むぞ!」と、カウラスさんが叫ぶと、酒場にいる人達は、「オオオ!」と、酒の入った木製の大きなカップを打ち鳴らす。
そんな中、サーシャは僕の腕に抱き付き、「私はシャイン様に付いていきますから」と、呟いていた。
(生命世界エルアンドに取り憑いた神界の神達の会合)
『戦神殿、闘神殿、よくぞ我が呼びかけに応えて下さった。戦神、闘神の中でも最強で最古の神といわれるあなた方が我が呼びかけに答えて下さるとは思ってもみませんでした』
フン、『貴様が何を目的に我に呼びかけたのかは知らんが、邪神などに我が力を貸すつもりは無い。戦神たる我がここに来た理由は、ここに戦場があり我を求める者達がいるが為。……それに、貴様の言う通り生と死の神、鳳凰が代替わりしたばかりならば、上手くすればその自我を取り込むことも出来るやもしれんからな』
『戦神トーレス、気に入った神は自我をそのまま取り込み、気に入らぬ神は自我を殺してその力を我が物とする。相変わらずの悪趣味だな』
フン、『そういう貴様はあらゆる強者に挑みその全てを食らい尽くす。そんなお前にだけは悪趣味だなどと言われたくはないな、闘神御雷。それに、貴様も鳳凰が目当てなのだろう』
『わしは闘いがあり力を求める者がいるところなら何処へでも行く。まあ、貴様の言うとおり今回は死と破壊の神鳳と闘うことが主目的だがな。生命世界では鳳凰といえども使える力の上限はわしらと同じ、神界そのものと言っていい鳳凰と対等な条件で闘える機会などそうそう無いからな』
『そうですとも、お二方が相手では流石の鳳凰でも敵いますまい』
『何を言っておる、我らが共闘することなどあり得ぬわ。そして、我の邪魔をするものは何ものだろうと排除する』
『ほお、面白い。ならば長年決着のつかなかった勝負、ここでつけるか? トーレス』
『いいだろう、相手になってやるぞ御雷』
『お、お待ちを! お二方とも! 勝負をつける、と言われるのならば、先に鳳凰を獲ったものが勝ちということでは如何でしょうか。お二方が今すぐにでも力を振るえる依り代は見つけてあります』
・・・・・・。
フム、『いいだろう、我は貴様のその提案に乗ってやろう』
『よかろう、わしもその話に乗ろう。……だが、貴様、何を企んでいる? 邪神としての邪気邪念やそれに伴う恐怖などによる生命達の畏怖を糧にしている貴様ならば、逆にわしらが干渉することを嫌うはずだが?』
うむ、『確かに、……貴様は我ら以外にも手当たり次第に神界の神に声をかけていたようだが? 何が目的だ? 答えよ小僧。事と次第によってはこの場で貴様を殺すことになるぞ』
『そ、それは、その……』
フン、『身体に対して貴様の自我が弱々しいのが理由の一つではないのか? 恐らく、何かミスを犯してこの生命世界の者達に封印でもされたのだろう、違うか?』
『うっ、……』
『なるほど、……それと、この生命世界の防衛システムの主要な部分の一部が機能していないのは貴様の仕業だな。鳳凰は生命世界が成長し我ら神界の神に対抗できるようになるまで、我ら神界の神に破壊されないように鉄壁と言っていいほどの防衛システムを生命世界に与えている。しかも、その防衛システムはそれぞれの生命世界で全て違うという徹底ぶりだ。その防衛システムの一部を作動不能にしたことで、お前は鳳凰の怒りを買ったのだな』
『それで、わしらを鳳凰にぶつけてその隙に封印を解いて逃げ出そうという魂胆か……』
『………お恥ずかしながら、そんなところです』
フン、『邪神などに我が力を貸す形になるのは癪だが、まあ、いいだろう。鳳凰と対峙できる機会などそうそうないものだからな、今回は見逃してやる』
『そうだな、まだ、何か隠しているようだが、……事が済んでも、まだわしの目の前をウロチョロしているようならその時は容赦なく殺して吸収してやるからそのつもりでおれよ』
『は、はい……』
・・・フン、ジジイ共め威張りくさりおって・・・まあ、よいわ。邪神の俺がこの生命世界エルアンドを食らい尽くせば、例え鳳の心臓を失ったとしても此奴等にも負けん力を得ることが出来るのだからな・・・その時には此奴等に目にものを見せてくれるわ・・・フフフ、その時が楽しみだ! フヮアーハハハハハ・・・




