第五十五話
それが自分達が慕う大将軍を何の慈悲もなく切り殺したのだ・・・以降の文を → それが自分達が慕う大将軍を何の慈悲もなく切り殺したと思い込んでいるのだ。その怒りの矛先は東神名国に向くだろう。そうなればここに居る反乱軍だけでなく帝国軍も東神名国へ今すぐ雪崩れ込もうと動き出すだろう。そんな事になれば停戦が吹き飛ぶ という文に変更しました。 12/1
すると、体の自由が戻ったジャカール帝国の者達は、神威を収めたことで下からは雨の影響もあり僕の位置をハッキリと捉える事は出来なくなっている筈だが、それでも僕に向かって歓喜の声を上げ始めた。
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すると、神威を収めたことで下からは雨の影響もあり僕の位置をハッキリと捉える事は出来なくなっている筈だが、それでも体の自由が戻ったジャカール帝国の者達は、僕に向かって歓喜の声を上げ始めた。に変更しました。12/16
(凰)
僕は鳳と入れ替わると、まだ治療を始められていなかったクロガネの治療の為に東神名国共同管理都市トーゲン執政官屋敷の屋根の上に降り立った。
「アカガネ、クリスティーン婆さま来てくれたんだね」
「ああ、お前さんが来る少し前にな……嫌な予感がしたからね。それよりも、お前さん、少し大人っぽくなったね。火の神、いや気象管理装置【テンテルダイジン】に会って、何かお前さんが成長するような事でもあったかい?」
「あー、っと、神力は使えるようになったけど、大人っぽくなったのかな? 僕にはよく分からないけど、……でも、もし僕が成長したように見えるのなら、それはテンテルダイジンに会う前に、ある人に会ったから、かな?」
僕がそう言うと、婆さまは何かピンッときたような表情をして「そうかい……」と一言呟いた。
「それよりも、早くクロガネを治療しないと」
僕はクロガネの隣に膝をつき血が流れ出している脇腹に手を添えて、その傷口を侵している穢れを浄化し傷も残らぬように治癒再生させる。
すると、クロガネの血色の悪かった頬に紅が差し、苦しげだった表情はホッと安堵したようなものになる。
「シャインサマ、アリガトウゴザイマス」
「ううん、ごめんね、戻って来るのが遅くなっちゃって。そのせいで、またクロガネにこんな怪我を負わせちゃって……」
僕が申し訳なさそうに傷のあったクロガネの脇腹を優しく撫でていると、「イエ、ソンナ、ワタシハ、シャインサマ二コウシテイタダイテイルダケデシアワセデス」と、クロガネは何故か頬を赤らめた。
その時、僕の後ろに静かに降り立ち跪く者の気配を感じて僕は振り返る。
「当代鳳凰様、今日まで御身の下に参ぜず、誠に申し訳ございません」
「ああ、うん、貴方はゴオウの……」
「はい。ダイテン・グソンと申します」
「そう、別に謝る必要はないよ。確か、ゼンオウとゴオウは鳳凰に大事がある時には自分達の血と力を受け継いだ者達が馳せ参じる、というような事を言っていたと思うし。……そんな事より、貴方はクロガネを助けに来てくれたんだよね。ありがとう」
「はっ、感謝の言葉、恐れ入ります。ですが、当代鳳凰様に感謝していただくような事はしておりません。我が子の危機に父親として駆け付けてきただけのことですので」
「うん、そうだね……でも、貴方やクリスティーン婆さまが来てくれなければ、ここにいる皆がどうなっていたか分からない。だから、感謝させてよ」
僕が笑顔でそう言うと、ダイテンさんは恐縮するように「恐れ入ります」と頭を下げる。
クロガネの治療も終わり、僕は周りを確認する。
・・・僕の神具を身につけていない人達はまだ気を失っているみたいだけど、精神や肉体に異常は無いみたいだし、シャイナ教大神殿に納めた僕の加護の守護札が上手く機能してこの共同管理都市トーゲンにいる人達を守ってくれたみたいだね・・・キリマルさんやカナコの治療の方も終わったみたいだし、もう大丈夫かな?・・・
僕は立ち上がり、「雨もいい具合に降ってきているし、そろそろメフィール皇子の所に行こうか」とフィーロさんに声を掛ける。
「ナラバ、ワタシモ」とクロガネはふらつきながら立ち上がる。
「無理は駄目だよクロガネ。破壊邪神も退けたし、僕に危害を加えられるような者はここにはもう誰もいないから安心して体を休めていて。これは、命令だからね」
「ソンナ……」
「ダイテンさん、クロガネが無理しないように見張っていてください」
「はっ」
僕はダイテンさんにクロガネのことを頼むと僕の隣に来て体を低くした白虎姿のフィーロさんの背に跨がり、「それじゃあ行こうか」とフィーロさんに声を掛ける。
涙目で僕を見送るクロガネに少し後ろ髪を引かれながら、僕はメフィール皇子達とシルバー大将軍達が対峙しているだろうコンスー河の西、コルクー平野にある砂漠地帯へと向かった。
(メフィール皇子)
砂漠の遥か彼方にある炎神山脈の稜線が白み始めた頃、私とジャカール帝国軍第一軍一五〇〇は共同管理都市トーゲンから一時程離れたコルクー平野の砂漠地帯でシルバー大将軍率いる停戦反対派の反乱軍二五〇〇と対峙していた。
・・・先程の大量の流れ星……嫌な予感がする・・・光の神子が間に合ってくれればいいが・・・
私がそう思っていると、反乱軍から何者かが何人か引き連れてこちらに向かってくるのが見えた。
・・・あれは、シルバー大将軍か・・・
私は相手の姿を確認すると、サンドリザードの脇腹に蹴りを入れガスール達数人の部下を連れてシルバー代将軍の元に向かう。
そして、互いに声の届く距離まで近づいた時、シルバー大将軍が声を張り上げた。
「メフィール皇子! 我らに道を開けられよ! 我らは同胞に刃を向けるつもりはない!」
「異な事を言う! シルバーよ! 皇帝陛下の意に反する行動を取っておきながら、我らに刃を向ける気はないと言うか! ……我らに刃を向ける気がないと言うならば、軍を退き今回の事態に対する皇帝陛下の沙汰があるまで己が屋敷で謹慎せよ!」
「お断り申す! 我らは、我らがジャカール帝国の将来を憂い行動している! メフィール皇子よ! 貴方こそ軍を退き、皇帝陛下に我らが想いを伝え、皇帝陛下に考えを改めて頂くよう諫言されよ!」
私は大きく息を吐き、シルバー大将軍を睨み付ける。
「陛下に諫言せよ、だと……この、愚か者が! お前達のやり方ではこの国は救えぬわ!」
「……メフィール皇子、どうしても退かぬ、と申されるか!」
「・・・・・・」
「……分かった! 我らも味方同士で殺し合う事は望まん! ならば、互いに代表者を一人出し、負けた方が軍を退く、という事で如何か!」
「……いいだろう!」
私の返答にシルバー大将軍はニヤリと笑い、「では、此方は俺が出よう!」と前に出る。
直ぐにシルバー大将軍に付いてきた者達から反対の声が上がるが、シルバー大将軍は一睨みで黙らせ、「俺は負けん! だが、もし俺が負けたら貴様らは軍を退き、メフィール皇子に従い皇帝陛下の沙汰を待て! これは俺の名誉にも関わる事だ! 異議は認めん!」と、シルバー大将軍は部下達に厳命する。
その命を聞き、シルバー大将軍の部下達は渋々ながらも引き下がる。
「そちらは誰が来る! 骨のある者なら誰でもいいぞ!」
・・・さて、誰を出すべきか……恐らく、此方にシルバー大将軍に敵うものはおるまい……いや、あの者なら……だが・・・
そう私が考えていると、私の隣から、「よろしければ、私がいきましょう」という声が聞こえ、私は驚きそちらに目を向ける。
何時の間にか私の隣には、マントフードに身を包んだ人物が佇んでいた。
「……願ったり叶ったりだが、よいのか?」
「はい。我が主、光の神子様には貴方を守るように言われています。それに、我が主は無駄に人が死ぬことを嫌います。ただ、私が相手をすることを相手が認めるかどうかは、貴方の交渉次第かと……」
「それは任せてもらおう」
私は不適に笑い彼女に応えた。
「此方は私の代理として彼女に出てもらう! 彼女は一時的にフィーロに代わり我が側付きとなってもらっている者だ! 文句はあるまい!」
私の口上にマントフードに身を包んだ人物が私の前に出て、その被っていたフードを脱ぎ、魔人特有の黒髪に白い角、小麦色の肌の美しい顔を露にする。
その姿を見た、両軍の将兵達から敵意の籠ったどよめきが上がる。
一瞬、シルバー大将軍は驚きの表情を浮かべたが、「いいだろう! 相手にとって不足なし!」と不敵に笑い、サンドリザードから降りて腰に差した大剣を引き抜く。
「双方の将兵達よ聞け! これは正当な一騎討ちである! その勝者にケチを付ける者はこの俺が許さん!」
シルバー大将軍の宣言に両軍の将兵達は口をつぐんだ。
周りが静かになるとシルバー大将軍はシャリーナ殿に向き直る。
「貴様とは決着を付けたいと思っていた。シャリーナ姫」
「……奇遇ですね、私もです。ですが、姫はやめてください。一時的とはいえ今は一応、メフィール皇子のお側付き、という事になっていますから」
「そうだったな、では、シャリーナ殿、決着を付けよう」
そのシルバー大将軍の言葉にシャリーナ殿はその背に背負っていた全体的に黒いハルバードを地面に突き立てる。と同時に、左腕に嵌めている恐らく光の神子の神具であろうブレスレットを銀色に輝くハルバードへと変えた。
・・・ふむ、交渉の必要はなかっようだ・・・シャリーナ殿の持つあのハルバード、かなりの力を秘めているな……だが、シルバー大将軍の剣も我がジャカール帝国の宝剣の一つで神涙銀フェニシリウス製の大剣、シーバの刃だ……どんな魔法剣と打ち合っても刃毀れ一つせず、如何なる金属も切り裂くと言われている・・・勝負の分かれ目は武技の才能と練度、経験、そして武運、か・・・
「ゆくぞ!!」と言うシルバー大将軍に「応!!」とシャリーナ殿は応る。と同時に、二人は大剣とハルバードを構え一気に間合いを詰め目にも留まらぬ早業で数合打ち合う。
・・・シャリーナ殿が舞うようにハルバードを振うのに対し、シルバー大将軍は隙の無い鋭い動きで剣撃を放つ・・・シャリーナ殿の武技の才は恐らくこの世の誰の手にも届かない域にある。シルバー大将軍の武技の才もかなりのものだが、彼女の足下にも及ぶまい。だが、その練度と経験はシャリーナ殿の遙か上を行く筈だ・・・
シルバー大将軍とシャリーナ殿は大剣とハルバードを打ち合わせ鍔迫り合いをはじめる。
「シャリーナ殿、腕を上げたな」
「シルバー大将軍、相変わらず素晴らしい技量ですね。長年のたゆまぬ努力により磨きあげられた技、非常に勉強になります」
「……普通なら、舐めた事を、と言いたくなるが、成人した魔神族に言われると誉め言葉に聞こえるな」
「実際、私は誉めたつもりだったのですが?」
二人はニヤリと笑うと互いに相手の武器を弾くようにして距離をとる。
その時、シャリーナ殿が一瞬ビクリと体を震わせた。と思った時、私は一瞬にして闇の中に捕らえられる。と同時に、私の中から気が狂いそうな程のどす黒くおぞましい感情が涌いてくる。
そのどす黒くおぞましい感情は理性や自我等私の全てを食らい尽くそうと私の中で暴れまわる。
私は何とかそのどす黒くおぞましい感情に抗おうとしたが、この闇がその感情を増幅しているようで抵抗虚しく私はそのどす黒くおぞましい感情に呑み込まれ発狂寸前になる。
その時、そのどす黒い感情が突然潮が引くように、すっと退いていく。と同時に、私は優しく温かなものに包まれているのを感じる。
・・・い、一体、何が起こった?・・・
私は冷や汗を流しながら自身の体を確かめる。と、私を闇から守るように光が私の体を包み込んでいた。
いや、私の体だけでなくその聖い光はこの辺り一帯をその邪な闇から守るように包み込んでいた。
私が目だけで周囲を確認すると、両軍の将兵も光に包まれていたが、半分ほど意識を失い倒れていた。
シャリーナ殿は光の神子の加護のおかげか平然と立ちトーゲンの方角を険しい表情で睨み付けている。
シルバー大将軍は剣を地面に突き膝を突いていたが意識はハッキリとしているようだ。
・・・この闇は何なのか分からんが話に聞く乱世の狂気よりも遥かに強い穢れを持っている・・・そして、この光は恐らくトーゲンのシャイナ教大神殿から来ている、ように感じる・・・とすれば……噂には聞いていたが、これが光の神子の護符の力か・・・
聖い光により私達は邪な闇の穢れから完全に守られていたが身動きは出来ずにいた。
それだけ、この邪な闇の力が強いということが分かる。
・・・恐らく、トーゲンで何かが起こっている・・・この邪な闇の中心もトーゲンの執政官屋敷、若しくはシャイナ教大神殿だろう・・・乱世の狂気に類するものなのだろうが、一体何なんだこの邪な闇は、……クソッ! こんな人が抗うことの出来ない力、こんな事態、予測がつくものか・・・
私が今出来ることは考える事だけだった。
だが、混乱していたせいもあるだろうが、この世のものとは思えぬ力、その現象の中心地にいない私には何が起こっているのか全く見当がつかなかった。
・・・・とりあえず、今分かっていることは、光の神子の護符のお陰でトーゲンの者達も我らも全滅せずにいられる、ということだけか・・・だが、これもそう長くは持つまい・・・
私がそう思った時、頭上に一筋の鋭くそれでいて優しい金色に輝く光が走った。と思った瞬間、あの凄まじいまでに邪な闇が一瞬にして浄化され弾けるように霧散した。
「おっ、体の自由が戻った」
私がそう呟いた時、シャリーナ殿は此方を向いて、「光の神子様がトーゲンに戻られましたから」と言い、もう大丈夫ですよ、と言うように私に微笑んだ。
今の一連の事象でシャリーナ殿の言葉を私は信用できた。
・・・光の神子は、火の神の怒りを静められたのか?・・・と、私が思った時、「ならば、続きといこうか」と言う、シルバー大将軍の声が聞こえてきた。
その声に、シャリーナ殿はシルバー大将軍に向き直る。
「そうですね、この一騎討ちに決着がつかねば貴殿方も収まりがつかないでしょうから……」
そうシャリーナ殿が応えた時、私の頬にヒヤリとしたものが触れたように思った。
・・・そういえば、もう日が上がっていてもおかしくない時刻の筈だが・・・
私はそう思い空を仰ぎ見る。
そこには、何時もの青空も星の瞬きもなく、ただ、どんよりと重く暗いものが立ち込めていた。
・・・どうやら、光の神子は上手くやってくれたな、……待っていたものが漸く来たようだ・・・
その時、誰かが「雨だ!」と叫ぶと同時に、ガキン! と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「どうやら、光の神子はうまく火の神の怒りを静められたようだな」
「当然の事ですね……さて、こちらもそろそろ決着をつけましょうか」
ハルバードと大剣で攻防を繰り広げていたシャリーナ殿とシルバー大将軍だったが、雨脚が強くなり始め足元に濡れた砂が纏わり付き始めた頃、シャリーナ殿の振うハルバードの斬撃が早さを増し更に鋭くなり始める。
最初の内、シルバー大将軍はそのスピードに反応できていたが、次第にシャリーナ殿に押され始める。
その時、バキン! とシルバー大将軍の大剣はシャリーナ殿のハルバードに大きく弾かれる。
「チィイ!」と、シルバー大将軍は反射的に右手を大剣の柄から離し右の腰に下げていた小型の炎神鎚を引き抜こうとする。が、シャリーナ殿のハルバードの斧部分がシルバー大将軍の胴を捉える方が早い。
その時、シルバー大将軍とシャリーナ殿のハルバードとの間に、シルバー大将軍を押し退けるように人影が割り込んできた。と同時に、シャリーナ殿のハルバードがその人影を切り裂いた。
「ミーニャ!!」
シルバー大将軍はその人影を抱き留める。
「シルバー様、貴方一人で死なさはしません。私がお供します」
「馬鹿者が」
シャリーナ殿はミーニャを切った勢いのままハルバードを回転させ何の躊躇も無くその斧部分でシルバー大将軍を頭から縦一文字に切り裂く。
シルバー大将軍はミーニャを抱えたまま地面に倒れ込んだ。
それから少しの間、ザーザーという雨音だけが世界を埋め尽くしているように感じた。次の瞬間、帝国軍、反乱軍双方の将兵全ての殺気がシャリーナ殿一人に注がれた。
「待て!」と言う私の制止を聞かず、両軍の将兵がシャリーナ殿に殺到しようと動き出す。
その時、「全員動くことを禁ず!」と言う声と共に清らかで優しい光が辺り一帯を覆い尽くした。
その声に私を含む両軍の将兵はピクリとも動けなくなる。
・・・何とか間に合ってくれたか、ヒヤヒヤさせてくれる・・・
白銀に輝く大翼を開き神々しく輝くものが我らの頭上に現れた。
(凰)
僕とフィーロさんがジャカール帝国軍と停戦反対派の反乱軍が対峙しているコルクー平野の砂漠地帯の上空に着いた時、雨はザーザーという音を立てるほど降っていた。
『どうやら、シャリーナ姉さまとシルバー大将軍が一騎討ちをしているみたいだね』
『ああ、……前に二人が戦った時は、シャリーナ姉はまだ子供だったのだろ?』
『うん、そんな様なことを聞いたと思うけど……』
『だとしたら、心配する必要はあるまい。それにシャリーナ姉はマジックアームスのブレスレットをハルバードに変えて使っているのだろ?』
『……べ、別に僕は心配なんかしてないよ。僕、シャリーナ姉さまの事信用してるもん』
『そうか? ……まあ、お前がそう言うなら、そういうことにしておこうか』
僕は鳳の楽しげな言葉に、ムスッ? としながら会話を切り上げる。
『そろそろ決着が着くぞ』
鳳のその言葉に僕はシャリーナ姉さまとシルバー大将軍の一騎討ちに意識を向ける。
その時、雨の中、雨でぬかるむ砂漠の砂をものともせず猛スピードで二人に近付く人影を僕の目が捉えた。
『あれは……』
『ああ、衛兵の詰所でお前を案内した女だな……』
『二人の間に割り込むつもりみたいだけど……』
『……ああ、あれは、間に合うな』
鳳の言う通り彼女はシルバー大将軍を押し退けるように二人の間に割って入り、シャリーナ姉さまに胴をそのハルバードの斧の部分で切られていた。
『うわ、シャリーナ姉さま容赦ない』
僕がそう言った時、シャリーナ姉さまはシルバー大将軍を頭から空竹割りのように両断した。
『本当にな、……これで二人は死なないと分かってはいても、多少は躊躇するものだと思うが……まあ、乱世に生きるにはこれくらいの冷徹さが必要だと言うことなのだろう』
『うん、でも、その冷徹さが今は逆効果になったみたいだけど……』
シルバー大将軍はどうやらジャカール帝国軍の将兵達に非常に慕われていたようだ。
帝国軍、反乱軍関係無く将兵全てに動揺が走っていた。が、次の瞬間、帝国軍、反乱軍全ての将兵が殺気立ちシャリーナ姉さまに殺到しようと動き出す。
・・・これは、……シャリーナ姉さまなら上手くかわし脱出出来ると思うけど、帝国の将兵達にとってはシャリーナ姉さまはにっくき敵国の姫だ。それが自分達が慕う大将軍を何の慈悲もなく切り殺したと思い込んでいるのだ。その怒りの矛先は東神名国に向くだろう。そうなればここに居る反乱軍だけでなく帝国軍も東神名国へ今すぐ雪崩れ込もうと動き出すだろう。そんな事になれば停戦が吹き飛ぶ・・・
これは不味い、と思った僕は慌てて神威を微弱ながら開放し、僕の聖域をこの戦場全体に広げると同時に口を開く。
「全員動くことを禁ず!」
僕がそう言うとその場に居た全員がピタリと動きを止める。
「皆に告げる。生命の神たる我、凰の加護を受けた神具で生命を奪う事は出来ない。故にシルバー大将軍とその女性は私の加護を受けたシャリーナのその銀に輝くハルバードに斬られたとしても死ぬことは無い」
僕がそう言うと帝国軍、反乱軍が放っていた殺気は潮が引くように退いていった。
それに僕はホッと胸を撫で下ろす。
「そして、これがお前達ジャカール帝国の民にとって最も重要な宣告である! 長きに渡りこの国を苦しめてきた火の神の怒りは静まった! これより先は、ジャカール帝国全土に恵みの雨が降り、土地は生命を芽生えさせる力を取り戻すだろう! 生きるための土地を得るお前達ジャカール帝国の戦いはこれで終結した!」
僕が高らかに宣言すると帝国軍、反乱軍双方から歓喜の感情が沸き起こるのを感じる。
・・・僕の役目はここまでかな?・・・どうも、メフィール皇子にいい様に扱われたような気がしないでも無いけれど……これで東神名国、ジャカール帝国が平和になるのなら、まあいいかぁ・・・
僕はそう思いながら神威を収め聖域を消滅させる。
すると、神威を収めたことで下からは雨の影響もあり僕の位置をハッキリと捉える事は出来なくなっている筈だが、それでも体の自由が戻ったジャカール帝国の者達は、僕に向かって歓喜の声を上げ始めた。
「鳳凰様、万歳! ジャカール帝国、万歳!」と。
僕は照れ臭くなりながらフィーロさんに声を掛ける。
「フィーロさんご苦労様でした。もう、メフィール皇子の元に戻って下さい。それと、シャリーナには、ご苦労様トーゲンで会いましょう、と伝えておいて下さい」
「……分かった。そのように伝えておこう」
僕はフィーロさんの背中から離れると、一人でトーゲンへと向かった。
トーゲンの商店が建ち並ぶ地域近くの緑地帯に人が居ないことを確認しながら降り立つ。
・・・さてと、あまり目立たないマントフードを買って大神殿に戻ろうかな・・・
僕はそう思いながら商店が建ち並ぶ地域に向かう。
・・・テンテルダイジンは、僕の頼んだ通りにしてくれたみたいだね・・・
その時には、雨は上がりはじめ雲の切れ間からは青空が見え始めていた。
「おじさん、この灰色のマントフードをもらっていくよ」
僕はまだ朦朧としている店主に言いながらそのマントフードの代金をカウンターに置いていく。
・・・トーゲンの一般の人達は体力のある人以外はまだ意識を失っているみたいだ・・・
そう思いながら買ったばかりの灰色のマントフードを僕が纏おうとした時、不意にドンッ! という衝撃を後頭部と首の付け根に受け、僕は意識を失った。




