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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第参章 東神名国、ジャカール帝国 停戦条約
42/65

第四十話

共同庭園→共有庭園に変更しました。


シャイナ教神殿をシャイナ教大神殿に変更しました。1/14

(凰(シャイン・おう))


 ジャカール帝国から共同管理都市トーゲンのある中洲に渡る為の橋の袂には、停戦条約の調印締結を祝う為に多くの人達が集まっていた。

 橋を通る人数は制限されているようで、橋の入口には簡易のゲートが作られ整理券が配られている。

 それは、橋の上での混乱を防ぐ意味合いもあるが、橋を渡る前に手荷物検査を厳しく行い停戦反対派によるテロ行為を防止する意味合いが大きいという。


 僕達の乗る馬車が橋を通る時には完全に人の出入りが止められ橋上には誰もいない状態になっていた。


 そのコンスー河のジャカール帝国側の川辺にはテントばかりでなくモンゴル高原の遊牧民が使用しているゲルのような移動式住居が幾つも立ち並び長期間の順番待ちに備えている人達もいる。

 そんな人達相手の露店もチラホラと見てとれた。


 ・・・いったい、こんなに大勢の人達、この砂漠の何処から来てるんだろう?・・・


 これだけ人が集まればトラブルも頻発する、結果として砦に常駐する帝国軍が治安のために見回りを定期的に行うはめになっている。


 橋のゲートは停戦条約の調印締結に伴う式典が終われば取り払われ人数制限も解除されるということだった。




 僕の乗る馬車は橋を渡り終えると、共同管理都市トーゲンに入る為に並ぶ人達の列の後ろには向かわず、そのままトーゲンの入場門へと向かった。


 橋を渡り始める前は人々の停戦に対する喜びと将来に対する希望に膨らんだ想いと感情が殆んどだったが、この共同管理都市トーゲンに近付くにつれ嘆きと悲しみを含んだ想いと感情が少なからず混じり始める。


 入場門に向かう途中、馬車の窓から外を見ると入場門に並ぶ人達とは別に壁に貼り付くようにしている人達が目に入ってくる。

 ある者は壁に刻まれているだろう最愛の人の名を探し、ある者は壁にすがり付くように泣き崩れ、ある者は壁に向かって一心不乱に祈りを捧げている。


 僕達(鳳・凰)は最愛の人を亡くした我が身を八つ裂きにされ焼き尽くされるような苦しいほどの嘆きや悲しみを知っている。戦争でではないが、前世で僕達は最愛の人達を守ることも救うことも出来ず亡くしているのだから。


 ・・・・・。


 『鳳、この停戦条約、人として何がなんでも調印締結させないとね……こんな悲しい想いをする人達を少しでも減らすためにも』

 『ああ、そうだな……皆その為に最善を尽くしている』

 『うん、そうだね』


 僕達(鳳・凰)はシーガルで感じた人々の想い、そしてここで感じる人々の想いを受けて、人として改めてこの停戦条約の調印締結を成功させなければと強く思う。


 『まあ、停戦条約の交渉はもう済んでいて、俺達はただ停戦条約の調印の立会いをするだけだけどな』

 『せっかく人がやる気を出してたのに……鳳はそうやって直ぐに人のやる気を削ぐようなことを言う』



 僕が神(凰)としてこの世界を全て凰(ぼく)の神域としてしまえばこの世界から争いや悲しみ憎悪など人が抱える苦しみを全て無くすことは出来るだろう。だが、そうすれば鳳凰(ぼくたち)がこの世界から去ることとなったとき、凰(ぼく)の力で無菌培養されたこの世界はその後どうなってしまうのだろうか・・・想像しただけでも背筋が凍る。


 というか、そもそも生命はその存在を脅かす驚異に遭遇することにより、その驚異を乗り越えるために進化をする。また、人は大きな苦難を乗り越えてこそ発展をするのだと思う。

 故に凰(ぼく)の神域により何の障害も無くしてしまっては生命は退化どころか、下手をすれば存在することすら危ういものになるんじゃないだろうか。


 それ故に、人と深く関わり合うのは神である鳳凰ではなく人である光の神子、若しくはシャインでなければならないと僕達(鳳・凰)は強く思っている。

 その自制が鳳凰(神)としての能力の殆んどを無意識に抑えているのかもしれない。



 僕達の乗る馬車が、人々がトーゲンに入場する為に検閲を受けている小門とは大門を挟んで反対側にある中門の前まで来ると、駆け寄ってきた門衛の一人に御者が何やら紙の束を渡していた。


 その紙の束を受け取った猫顔の門衛は見るからに他の門衛とは身分が違うと分かる意匠の軽装鎧で身を固めている。


 その猫顔の門衛はその紙の束を捲りながら騎馬に乗った者達の人数と顔を確認していく。

 メフィール皇子の部下達は顔を表に出しているためそのままで顔の確認が出来ている。だがエルフであるシャイナ教聖騎士団の者達は、港湾都市シーガルのような騒ぎを避けるため聖甲冑の上からマントフードを被りその姿を隠していた。その為、門衛はそのフードを覗き込み姓名を聞き顔を確認しなければならなかった。


 その門衛がシャリーナ姉さまの名前と顔を確認した時、一瞬表情を険しくした。が、それは一瞬のことで直ぐに表情を平静に戻して確認を続ける。


 そして、全員の確認が終わると門衛は、「失礼致しました。トーゲンでの御滞在が良きものとならんことを」と、僕達の乗る馬車に向かって最敬礼をする。他の門衛達もそれに倣った。


 その門衛達の脇を通り僕達の乗る馬車はトーゲンの入場門を通り抜ける。

 その時、メフィール皇子とフィーロさんは壁に名を刻まれている戦死者達の冥福を祈るため少し頭を垂れ黙祷をした。


 僕達もそれに倣い黙祷をする。




 共同管理都市トーゲンの都市壁を越えると、そこは別世界だった。


 都市の建物という建物にはまるで競い合うかのように華美な装飾が施され、数多くの装飾がなされた紐がこれでもかというほどの本数建物と建物の間に渡され僕達の乗る馬車が通る大通りの空を派手に飾り立てている。

 その大通りには所狭しと露店が立ち並び、その道には人と獣人が溢れ返っている。

 そこに居る人々は皆、明るい未来を確信し生きる希望に満たされた表情をしていた。

 そして、ある者達は歌い踊り、ある者達は大道芸人の職人技に喝采を浴びせ、ある者達は呑んで食ってドンチャン騒ぎをしている。


 「うわー、もうすでにお祭り騒ぎになってる」


 その混雑のため遅々として動かない馬車の中からそのエネルギー溢れる情景を見て、その雰囲気に呑まれたように僕の口から意識なく言葉が零れた。

 その僕の言葉を聞いたメフィール皇子が徐に口を開く。


 「そうですね。ここまで来るのに半年以上掛かりました。十年もの長い年月戦って殺しあって来たのです。人々の心の蟠(わだかま)りは尋常ではありません。また、文化や生活習慣も違います。半年掛けてその蟠りの解消と、文化や生活習慣の相互理解にお互い勤めてきました」


 メフィール皇子はこれ迄の努力を思い返しているのか、その金色の瞳に疲れの色を僅かに滲ませ一度言葉を切る。

 その表情から、ここに至るまでの道程が並大抵のものではなかっただろうことが察せられた。


 「行政の運営について意見交換等を行い、どのように行政を進めていくか話し合う必要もありましたので、先ずはトーゲンの建設と平行してトーゲンの行政を担うジャカール帝国と東神名国の文官とその家族、そしてその治安を維持するための衛兵とその家族をトーゲンの建設が完了していた区画に住まわせて、隣人としての暮らしをさせ、その上で自分達の国の文化や生活習慣を押し付け合うのではなく互いに理解し尊重し合うようにさせました。また、世界各地への行商の経験がありそれぞれの国の文化や生活習慣を理解している商人達とその家族を入れてトラブルが起きたときの調停役を任せました。この時点で出来るだけ問題点を洗い出し対処法を確立しました。その後、建設関係以外の職人や一般住人を少しずつ入れて住人を増やしていったのです。それと平行して、更に問題点を洗い出し対処法を改善する、それを繰り返す事によってやっとこの共同管理都市トーゲンが出来上がったのです」


 ここでメフィール皇子は息を継ぎ馬車の窓から賑やかな外を遠い目で眺め見る。

 恐らく、この共同管理都市トーゲンを造り上げるのは口で言うよりも遥かに険しい道のりだったのだろう。


 「ジャカール帝国の者も東神名国の者も、誰もが皆非常に協力的でした。皆、戦争に疲れ平和を渇望しているのです。ですが、それで互いの蟠りが解消され相互理解が出来たかというと、残念ながら、まだまだ、全然、と言わざるを得ません……と言うか、たかが半年で成せるものでは無いのです」


 そう言いながらメフィール皇子はその外の賑わいを否定するように弱々しく頭を振る。


 「表面上は見ての通り上手くやっているように見えますが、心の底から信頼しあっている訳では無いのです」


 メフィール皇子の言う通り、周りから感じられる想いや感情は未来に希望を持つものばかりだが、それは極個人的な欲求や願望を元にした自己本位的なのものばかりで隣人ましてや隣国の者達と協力して平和や両国の発展を望む想いからは程遠いように思う。


 『まあ、国の政治や経済を牽引する立場の者達でもなければ、自己本位になっても仕方がないんじゃないかとも思うけど……』

 『凰、人の想いが感じられるせいもあるだろうが、お前が言っている事はメフィール皇子の言っている事と少し焦点がずれているような気がするな……恐らく、メフィール皇子が言っている事は、蟠りの解消も相互理解もまだ殆んど出来ていないため、表面上は平和に見えるがちょっとした切っ掛けでこの平和は簡単に瓦解してしまう、今、平和に見えているものはそんな薄氷の上に成り立っているようなものだ、と言っているんだろう』

 『ああ、うん、なるほどそうだね』


 僕は周囲のその場限りの一時的で雑多な想いに影響を受けてメフィール皇子の話の内容について少しずれた解釈をしていたようだ。

 それに対して、鳳からその指摘を受け僕は赤面する。


 ・・・良かった、内面(僕と鳳)だけの話で、他の人たちに聞かれてたら羞恥心に耐えられなかったかも……ベールで顔を隠してるから赤面してるのもバレてないし・・・


「ですが、やっと始めの一歩を踏み出せたのです。そして、この歩みは止めるわけにはいきません。着実に一歩ずつ進めて行かなければならないのです」と決意を口にして、「そして、その相互理解をトーゲンからそれぞれの国中に広げて行き本物の和平を築いていかなければなりません」と、メフィール皇子は自分の思いを吐露する。

 その後、メフィール皇子が何か呟いたように僕には思えた。が、誰もその事に気付かなかった。


 ・・・僕の思い過ごしかな・・・


 そのメフィール皇子の想いの籠った話の後、少しの間、馬車内は静まり返り外の喧騒だけが聞こえてくる。


 突然、何かその静寂に耐えられなくなったように、メフィール皇子は僕の手を取り跪く。


 「なので、両国の和平の為に貴女のお力もお借りしたいのです。後程その事について私と一緒ニェゲッ!」

 「まったく、たまに良い事を言うと思えば直ぐこれだ」


 メフィール皇子は僕にまるで恋を囁くような態度で声を掛けてきた直後、全てを言い切る前に白目をむいて昏倒した。その傍らで、フィーロさんが手刀を構えながら盛大に息を吐いていた。


 『今のメフィール皇子の態度は照れ隠しだったんじゃないかな・・・余りにも真面目なことを言い過ぎて恥ずかしくなったんだろうね』

 『ああ、……この二人、ほんとにいいコンビだな』


 白目を剥いたメフィール皇子が、馬車内の全ての人から残念なものを見るような視線を浴びせられている間も僕達を乗せた馬車はユルユルと周りの人の流れに乗るように進んで行いった。




 僕達を乗せた馬車は、ジャカール帝国側の大門と東神名国側の大門を繋ぐ共同管理都市トーゲンを東西に貫く道幅一五〇メーターはある大通りの中間あたにり辿り着いた所で、その大通りから南側に伸びる道に右に折れる。

 その南に向かう道も道幅は広く、一〇〇メーター程有るのように見えた。

 だが、その道には露店などは一切無く、人通りも疎(まば)らだった。

 その道の両側には各種のギルドや役所等の建物が立ち並び官庁街のような様相を呈している。

 その道を三〇〇メーター程行った突き当たりに威容を放つ巨大な神殿が建っていた。


 僕達の馬車はそのシャイナ教大神殿の西隣に建つ屋敷の前に止まった。


 「光の神子様、混乱を避けるため神殿へは此方のジャカール帝国の共同管理都市トーゲン執政官屋敷を通っていかれたほうがいいでしょう。それと、共同庭園の方でこのトーゲンの執政官を務められる両国の方々と、今回の停戦の調停を引き受けて下さったアルセルク王国の方々が光の神子様にご挨拶をしたいとお待ちですので先ずはそちらにご案内いたします」


 執政官屋敷に到着する前に意識を戻していたメフィール皇子はそう言うとフィーロさんの後に付いて馬車を降りアジーナおばさまの後に付いて降りようとする僕に手を差し出していた。

 僕がその手を取るのに一瞬躊躇した瞬間、そのメフィール皇子の手を断ち切るようにサーシャが脇から僕の前に出て僕の手を取り馬車を降りながらサーシャに付いて降りる僕を支えてくれる。


 メフィール皇子は行き場を失った自分の手と僕達を交互に見て苦笑いを浮かべていた。



 メフィール皇子がフィーロさんと共に執政官屋敷の扉の前にある石段を上がり、その扉の前に立つとメフィール皇子に敬礼していた扉の両脇に立つ獣人の衛兵がその扉を押し開く。


 僕達はメフィール皇子とフィーロさんの後について執政官屋敷の中へと入っていった。

 シャイナ教聖騎士団の人達は執政官屋敷の前で僕達と別れシャイナ教神殿の方へと向かった。


 僕達が扉を潜ると正面にはカウンターがあり、一見その部屋は小さな役場の中のような内装になっていた。


 「ここは、この共同管理都市トーゲンの住民からの各種申請や嘆願等を受け付ける部屋となっています」


 僕が部屋をキョロキョロと見回していると、後ろに付いてきていたメフィール皇子の部下の隊長格らしい虎顔の人が教えてくれた。


 「では、メフィール皇子、我々はこれで」

 「うむ、ご苦労だった」


 メフィール皇子の部下の人達はメフィール皇子や僕達に一礼するとその部屋の正面にあるカウンターの右後ろにある扉の中へと入っていった。


 「この執政官屋敷の一階は、この部屋意外はここで働く事務官等の事務室や警護の者達の待機室となっています。そして二階と三階が執政官とその家族の私生活の場となっています。東神名国の執政官屋敷も似たような造りとなっています」


 そう説明しながらメフィール皇子はカウンターの左後ろにある扉を開き入っていく。

 その扉の先は長い通路になっていた。

 その通路は大人が五人並んで歩いても余裕があるくらいの幅があり、その壁には数個の扉が存在していた。

 そして突き当りの扉をメフィール皇子が開く。と同時に緑と水の匂いをのせた爽やかな風がその通路に居る者達の体を優しく撫でるように吹き抜けていく。


 その扉を抜けた先には樹木などの緑や池、小川などを芸術的に配した広大な日本庭園のような庭が広がっていた。


 僕達は執政官屋敷を出るとメフィール皇子、フィーロさん、僕、アジーナおばさま、サーシャ、クロガネ、シャリーナ姉さまの順で自然石で造られた小道を進んでいった。


 「この共有庭園はシャイナ教大神殿とジャカール帝国、東神名国の共同管理都市トーゲン執政官屋敷そして中央行政区の建物の壁と都市壁に囲まれていて、神殿とそれそれの執政官屋敷を通らなければ入れないようになっています」


 メフィール王子は説明しながら僕達を先導して小道をゆっくりと歩いていく。


 「ここはこのトーゲンで私の一番のお気に入りの場所になっていましてね。この庭園は東神名国の職人の手によるものなのですが……我が国には無い感性で創られています。自然を模しつつもとても芸術性に富んだ素晴らしい庭園だと思いませんか?」

 「……そうですね」


 メフィール皇子がフィーロさんの後ろにいる僕の方に顔を向けながら流し目で問いかけてきたのに対し、僕は懐かしいものでも見るような気持ちになりながら返事の言葉を口から零していた。


 その僕の返事に何を感じたのかメフィール皇子は嬉しそうな笑みを零して頷いていた。



 執政官屋敷を出て少しすると大きな池が目に入ってきた。

 その池の上には東屋が建っていて、そこに複数人の人物を確認することができた。

 そこに近付くにつれ、その人達の談笑する声が徐々に聞こえ始める。

 その談笑する声の中に懐かしい聞き覚えのある声が混じっているのに僕は気が付きその人物達に目を凝らす。と、その人達も此方に気が付いたようで此方に向かって席を立った。


 その中には、一年前と変わらぬ姿のカクラ母さまとカンザブロウ父さま、カナコの姿があった。


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