第参話
(カクラ)
なぜ、私達は魔獣の森に向かっているのか?
真上城から脱出し真都から離れた時点で、カナコは私を自分の故郷である隠者の里で匿おうと考えていた。
何故なら隠者の里は隠れ里であり、その位置は里の者と私しか知らない。
その上、東神名国の外にあり、また東神名国から舟で1日で行ける距離にあるからだ。
しかも、里の長を始め里の者達は皆、私にしか仕えないと操を立ててくれているのだ。
カナコははじめ海から里に向かうつもりだった。
しかし、海に面した領地は私の叔父である神名カネタカが領主を務める神無領だ。
カンザブロウ達からの情報により、この動乱が戦争推進派の者達によるものだとハッキリした今、例え叔父が主犯格でないにしても戦争推進派の急先鋒である叔父の領地を通るのは危険が大きい。
対して、もう一つの経路は、東神名国の東にある魔獣の森と太刀峰山脈を踏破して里のある隠者の森に至ると言うものだ。
魔獣の森は最強の魔獣達が跋扈する森であり、東神名国ではSクラス以上の冒険者が5人以上揃っていなければ立ち入りを禁止している。
太刀峰山脈は東神名国のあるこの大陸最大の山脈で、未だ誰も踏破した事のない未踏の地だ。
戦争推進派の叔父の領地、最強の魔獣達が跋扈する魔獣の森と未踏の太刀峰山脈。
私は叔父の領地を突っ切り、海から行った方が仲間が命を落とす危険は少ないと考えたのだが。
カナコは、水軍で海を封鎖されてしまっては確実に捕まる、と反対した。
で、カナコが選んだのは、魔獣の森と太刀峰山脈を踏破する、と言うものだった。
カナコ曰く、「魔獣の森は中心部を避けて行けば大丈夫です。太刀峰山脈は隠者の里の者だけが知っている子供でも踏破できる抜け道があります。」と言うことだった。
また、真都から魔獣の森までは和平推進派の領地しかなく、私達に対する警戒も薄いだろう。と、言うことで他の者達はカナコの案に賛成した。
・・・で、現在に至ると言うわけだ。
「カクラ様、体の調子はいかがですか?」
「ん・・・ありがとう。大丈夫よ。」
私達は魔獣の森から歩いて半日ほどの位置にある町から少し離れた森の中に身を潜めていた。
カナコは毎日のように私の体調を気に掛けてくれている。
私は父上の死を知った日から、乱世の狂気という名の怨念に取り付かれているらしい。
乱世の狂気が生まれたのは二千数百年前にあった、ある天人の青年と人族である、ある一族の姫の悲恋が発端と言われているらしい。
私も子供の頃、それを元にした童話を乳母に読んでもらい子供心にも余りに悲しい悲恋物語に滂沱の涙を流したものだ。
私は、乱世の狂気は童話の中だけの話だと思っていた。
キリマル殿曰く、「これまでは神武様がその乱世の狂気を押さえてきたが、その力が弱まりこの戦国乱世に拍車をかけている。」という事らしいらしい。
乱世の狂気は人々の、怨み、妬みや我欲といった心の暗い部分に取りつき際限なく増幅する。
例えどんなに心や精神力の強い者でも人ならば必ず少しは隙が出来る時がある、そこに容赦なく忍び込んでくるのだという。
心や精神力が弱い者が取り付かれたら発狂して死に至る者もいる。
しかし、私のように心と精神力が強い者が、ここまで酷く取り付かれるのは珍しいと言うことだった。
「カクラ様、お待たせしました。」
町まで魔獣の森を行くのに長けた騎馬である地竜を買いに行っていた、マタギ姿と旅人姿の影二人と旅の武芸者姿の近衛侍のジロウとサブロウ(この二人は兄弟だ)が戻ってきた。
「ご苦労様・・・。」
「うむ、ご苦労だったの。もう、正午も過ぎた、急いで出発することにしよう・・・。」
私が四人に労いの言葉を掛けると同時に、キリマル殿が即座に出発するように言って地竜に騎乗する。
・・・キリマル殿が、慌てるなんて珍しい、何かあるのか?・・・
と、私は思いながらも地竜に跨がろうと、鞍に手を掛け足を振り上げ・・・
ひゅっ・・・
ドッ・ドッドッドッ「くぁっ!「・・・!ぐっ!!」」
・・・跨がろうとした瞬間、右肩に激痛を感じ地面に倒れ込んだ。
痛みに耐え右肩を確認すると、矢が突き刺さっていた。
・・・・・!!!
「「「「「「姫様!!!」」」」」」
私が矢に射られた事に皆が絶句し、叫んで私の方へ駆けてくる。
完全に油断と言う隙を突かれた。
ここまで追っても何もなく来れたので、完全に気の緩みが生じていたのだろう。
そんな中でキリマル殿だけが反撃に出ていた。
マタギ姿をした影から弓と矢を奪う様にして取ると矢を四連射していた。
「ちっ。一人逃がしたか・・・。」
「「カクラ様!大丈夫ですか!!」」
「ええ、・・・大丈夫よ、急所は外れてるは・・・。それよりも、彼は?」
カナコが顔を真っ青にさせて駆け寄ってきた。
カンザブロウは私の近くまで来ると刀を抜き、近衛侍の二人と辺りを警戒する。
私は自分の命に別状がないことを伝えて、私を庇ってくれたのであろう私の後ろで矢を三本受け倒れている旅人姿の影に目を向けた。
旅人姿の影の脇にマタギ姿の影が片膝をつき様子を見ていたが、暫くしてこちらに顔を向け頭を振った。
それを見たカナコは、「兄さま・・・」と、小さく呟き唇を噛んだ。
その頬には一筋の涙が流れ落ちていた。
「・・・カナコ、ご免なさい・・・私の所為で・・・。」
と、私は震える手でカナコの頬に優しく手をあてる。
「いいえ、いいえ!・・・カクラ様、謝らないで下さい!・・・兄さまを誉めてやって下さい! 兄さまは自分の心に従い、自分の責務を全うしたのですから!」
と、カナコは、頭を振る。
「・・・カナコ、貴女は強いのですね・・・私よりも・・・。」
「いいえ・・・私には守りたいものがありますから!・・・兄さまよりも、家族や里よりも!・・・兄さまも同じ思いだと思います・・・。」
カナコは私の頭を、ギュッと優しく抱き抱えた。
私はそのカナコの腕の中で、「カクラ様、カクラ様!・・・」と言う、カナコの心配そうな声を聞きながら意識を失った。
私は肩に焼けるような激痛を感じ意識を取り戻した。
しかし、目を開けることも出来ないような目眩に襲われ、しかも体の芯から凍えそうな程の寒気を感じ体を縮めて震えているしかなかった。
「カクラ様、気が付かれましたか?」
耳許からカンザブロウの声が聞こえてきた。
どうやら私はカンザブロウに抱き抱えられる様にして地竜に乗っているようだ。
普通なら、恥ずかしさの余り頭の先から足の先まで真っ赤にしているところだが、今の私にそんな余裕はない。
「もう暫くご辛抱下さい。あと少しで魔獣の森に着きます。そこに、解毒の薬草がありますから。」
と言う、カンザブロウに私は頭を少しだけ動かして応えた。
肩の矢は抜かれ応急処置はされているようだが、矢に塗られていた毒に効く薬は持ち合わせてなく、また治癒魔法の効かない毒だったようだ。
(カンザブロウ)
俺達が何故あそこに身を潜めていたことがばれたのか。
キリマル殿曰く、「もしかしたら我々が魔獣の森を通るかもしれないと魔獣の森に入る為の地竜を売る店に網を張っていた、そこに冒険者でもない者達が地竜を買い求めてきた、これは怪しいとつけて来たのだろう。」と言う事だった。
我々はカナコの兄だったという、カクラ様を庇って死亡した影を弔ってやることも出来ず、そこから逃げるように離れなければならなかった。
何故なら、直ぐにでも追っ手が掛かるだろう事は誰にでも容易く予測できたためだ。
日も暮れかけ、あと半時程で魔獣の森に着くというところで、「ちっ。思ったより、早かったな・・・」と、キリマル殿が後ろを振り向いて、苦々しい表情で呟いた。
俺も後ろを確認すると砂塵が舞い上がっていた。
・・・まだ騎馬の姿は見えない、ということは、まだかなりの距離があると見ていいだろうが・・・。
俺達が向かっている魔獣の森までの土地は町から離れて暫くすると、少し傾斜のついた上り坂となり石と砂の痩せた土地になっていて身を隠せる場所はない。
「地竜は森の中ならいいが、こんな平地で軍馬が相手では直ぐに追い付かれる。・・・仕方がないか・・・カクラ姫、辛いだろうが少し飛ばすぞ!」
と言うと、キリマル殿は自分の地竜の腹に蹴りを入れた。
俺達もキリマル殿について地竜の速度を上げる。
「カクラ様、すみません暫くのご辛抱を・・・。」
と言って、俺はカクラ様が落ちないように抱き寄せる。
それから四半時もしない内に、すぐ後ろに騎馬の蹄の音が聞こえるようになってきた。
後ろを見ると、もうあと少しで追い付かれるというところまで追っ手の騎馬隊が迫ってきていた。
「ざっと見、三十と言うところか・・・。」
「キリマル殿、まさか、一人で三十の騎馬の足止めをする気か?」
「なあーに軽い軽い。わしはこの国一の武技の達人を手玉にとったのだぞ。」
「だが・・・・しかし・・・・。」
「はあ・・・・・これは言うつもりは無かったのだがな・・・わしは八守天の一人、だった事もある・・・。」
「え!?」と、驚いて俺がキリマル殿の方に顔を向けると、右手の親指を立て白い歯を見せ、子供のような悪ガキのような満面の笑顔をこちらに向けていた。
八守天とは、天の神子を守る世界に並び立つもの無しと言われる八人の世界最強の守護者のことだ。
「はあ~・・・。」
・・・嘘か真か・・・この緊迫した状況下で・・・・・・この人には勝てんなぁ~・・・・・・。
俺は、天を仰いで、苦笑いを浮かべていた。
ー*-*-*-*-
「カンザブロウ!姫を任せた!」
「キリマル殿・・・。」
「ここは、わしが食い止める!早く行け!」
「・・・・すまぬ。」
魔物の森の手前で地竜から飛び降りたキリマル殿は、追ってに向かって左右の腰に差した刀を両手で抜き放ち叫んだ。
俺はキリマル殿に一言詫び、「死ぬなよ!」と、言って姫を自分の地竜の前に乗せたまま他の者達と共に魔物の森へと駆け込んでいった・・・・・・。
(カクラ)
薪のはぜる音で、私は目を覚ました。
「カクラ様、気が付かれましたか?」
私はカナコの膝枕で眠っていたようだ。
心配そうなカナコの顔が私の顔を覗き込んで、「体のお加減は如何ですか? 目眩とかは、有りませんか?」と、優しく声を掛けてくれる。
「ええ、大丈夫よ。」
と言って、私は頭を巡らせて周りを確認する。
焚き火を挟んで反対側に、カンザブロウは胡座をかいて座りうつらうつらしている。
カナコの左にはサブロウが横になって眠っていた。
マタギ姿の影とジロウは、見張りに立っているようだ。
キリマル殿の姿は、見当たらない。
・・・まあ、あの人の事だ、きっと無事でいるだろう・・・
と、何故だか思えた。
「よかった。・・・熱も下がっているようですし・・・薬草が効いたようですね。」
カナコは私の額に手を当てながら、ホッと息を吐き安心した笑顔を私に向けてきた。
「あの矢には、治癒魔法の効かないジャッコの毒が薄めて塗ってありました。あと少し遅かったら手遅れになるところだったんですよ。・・・薬草もまたカンザブロウ様に口移しで飲ませて貰いました。」
「ぇっ・・・!」
カナコは、話の終わり掛けに口許に右手をやりニヤ付いた。
私は恥ずかしさの余り小さく悲鳴のような声を上げ、カンザブロウとは反対側のカナコのお腹に顔を向けた。
・・・は、恥ずかしい! カンザブロウの顔を、もう、まともに見れない・・・。
と思いながら、私は顔が熱くなるのを心地よく感じていた。
魔獣の森は他の森と比べ人が殆んど入らないためか、他の森より遥かに鬱蒼としている。
湿気の強いヒンヤリとした空気に、噎せ返るような濃い緑の香りが魔獣の森全体に充満しているようだ。
他では見ないような大木が多く、遥か頭上高くに枝葉が密に生い茂っており、天気のいい昼間でも日がかなり高くならないと日の光は地上まで届きにくく、昼間でも薄暗闇といった感じだ。
地竜は夜闇にも目が効くので、薄暗闇の中でも平然と進んでいく。
足元には両腕で抱えきれない程の太さの苔むした木の根が幾重にも積み重なっていて、まるで巨人の森に迷い込んだ小人のような感覚に襲われる。
カナコ曰く、魔獣の森を抜けるには森の精霊の助けがあっても魔獣に全く遭遇しない場合で、最低でも十日、若しくはそれ以上かかるとの事だった。
しかし、ここは魔獣の森である、一度も魔獣に出会わないなどとは誰も考えていない。
が、「いくらなんでも、出会いすぎでしょ!」と、言いたくなるぐらい魔獣に出会すのだ。
魔獣の森の外縁部に沿って、しかも森の精霊の加護を受けて移動しているというのに、A級B級の魔獣には平均して日に三回、D級以下の魔獣に関しては約百メーター移動する度に出会した。
因みに、カンザブロウは冒険者ランクでいうと、Aクラスの上位Sクラスの下位ぐらい、カナコとマタギ姿の影はAクラス、ジロウとサブロウはBクラスだとみている。今の私は・・・ただのお荷物だ。
昔、私が家の慣わしで冒険者をしていた頃、二度ほど魔獣の森に入ったことがあったが、これ程まで魔獣には出会さなかった。
「はあ~・・・。異様に魔獣が活性化しています。食料には事欠きませんが・・・体力的には不味いかも・・・。」
と、疲れた口調でカンザブロウが話した通り、魔獣の森に入ってから五日経つがひっきりなしに出会す魔獣の為に予定よりも進んだ距離は遥かに短く、皆、疲労の色を濃くしていた。
その上、今はまだ毒の後遺症で一人では立っていられない私というお荷物を抱えているのである。
・・・このままでは、いずれ皆魔獣の餌食になってしまう・・・。
最悪の未来の場景が頭を過った。
・・・足手纏いの私さえ居なければ、皆、助かる筈だ・・・。
私は皆が寝静まるのを見計らい、見張りの目を盗んで這いずるようにして地竜に跨がった。
「よかった。地竜には何とか一人でも乗っていられそうだ・・・。」
と、私は小さく呟きながら手綱を持ち、地竜の腹に蹴りを入れた。
何とか見張りの者に気付かれずに皆から離れることができたが、少し移動したところで目眩に襲われ地竜にしがみ付いていないと振り落とされてしまいそうな状態になってしまっていた。
しかも、また、あのどす黒い感情が沸き上がってきた。
私が目眩とどす黒い感情と戦っているとき、そいつは突然私の目の前に現れた。
ドスン!!
・・・・・・・!!
「・った!!」
黒く巨大な影が、突然私の目の前に落ちてきたのだ。
それに驚いた地竜は、私を振り落として一目散に逃げていってしまった。
私がその巨大な影を凝視していると、うっすらと木洩れ日が差してきた。
その木洩れ日に照らされ輪郭のハッキリしてきた巨大な影の正体を見て、私は息を飲んだ。
そいつは獅子のような鬣を持ち、虎のような顔と体で全身に虎縞模様、尻尾には巨大なコブラが生えているジャッコと呼ばれるSS級の魔獣だった。
ジャッコは弱い妖獣なら逆に食らってしまうという最強の魔獣だ。
よく見ると、ジャッコの口から人の腕がはみ出していた。
その腕は東神名国の兵装の袖を纏っていた。
・・・こいつ、私達の追っ手を食らったがまだ食い足りず、私達を付け狙っていたと・・・そこで、私が一人集団から離れたから私に狙いを定めてきた、と言うところか・・・。
私が、この状況でどうして落ち着いて状況分析出来ているのか?
それは、私にもよく分からないが、恐怖心と押さえ込もうとしているどす黒い感情が拮抗しているせいなのかもしれない。
強い感情は、肉体と精神に限界を越えさせる。
それは、私が幾つもの修羅場を越える時に幾度となく経験したことだった。
・・・ならば、このどす黒い感情に身を委ねれば、この魔獣に勝てづとも相討ちくらいには出来るかもしれない・・・それで、狂戦士になったとしても・・・。
グルルアアアアアーーーーー・・・・・
カアアアアアアアーーーーー・・・・・
ジャッコが唸り声を上げて襲いかかってくる、と同時に、私もどす黒い感情に身を委ねて立ち上がりながら雄叫びを上げ、陰陽五行刀を抜き放つ。
その時、
ドッガアアアアアーーーー・・・・・ン
空から光輝く星が私とジャッコの間に落ちてきて、私とジャッコはその衝撃波に吹き飛ばされた。
その星は何本もの巨大な木の根を突き破り、クレーターを作り上げていた。
私はそのあまりの出来事に、あのどす黒い感情も綺麗サッパリ吹き飛ばされ真っ白になりながら呆然とその光輝く星が作ったクレーターを眺めていた。
逆に最強の魔獣ジャッコは、食事の邪魔をされた事に腹を立てたのか、怒りを露にして唸りながらクレーターに近付いていく。
すると、そのクレーターから炎のような淡い光を全身から放つ男が立ち上がった。
「いけない!」
そこに、ジャッコが襲いかかろうとした。
私は彼を助けようと思ったが、体に力が入らなかった。殺られる!と思った瞬間。
バゴオン!!
と、ジャッコの巨大な頭が木っ端微塵に吹き飛んだ。
私は開いた口をそのままに、その信じられない光景を眺めていた。
「・・・・!? 」 「・・・・・・・・・・・・。」その炎のような淡い光を全身から放つ男は、聞いたことのない言葉を発しながらこちらに近づいてくる。
と思ったら突然立ち止まり、眩しいくらいの光を放つと同時に徐々にその体が小さくなっていく。
最後には、産まれたばかりの赤ん坊を一回り大きくしたような大きさの、炎のような淡い光を放つ卵になってしまった。
私は暫らくの間呆然としていたが、驚くことばかりで、もう何でも受け入れられるような心境になっていた。
だからなのだろうか、私はその卵に愛おしいものを感じ自然と抱き締めていた。すると、何か母上の腕の中のような、暖かく心休まるものに身も心も包まれるような感覚に襲われ、私は深い眠りについてしまった。
ふ、と気がつくと、・・・やはりと言うか・・・、カナコの膝を枕に私は卵を抱いたまま横になっていた。
・・・・・!!
「カクラ様! よかった! 気付かれましたか!」
私が目を開けるとカナコが、はっと気付き泣き腫らし充血した目で私の顔を覗き込んできた。
「・・・ひどい顔・・・。」
と、私は微笑みながらカナコの頬に、そっと手をやると、わっとカナコは私の頭を抱いて泣き出してしまった。
カナコは暫くの間泣き続けた。
その後、私は卵を抱いたまま正座させられ、暫くの間カンザブロウとカナコに叱り続けられた。
最後に「私の生きる支えを奪わないで下さい!」と、カナコに泣き声で言われ抱き付かれた。
真上城が陥落した日、「この身果つるまで・・・・。」と、誓ってくれたカナコの気持ちを踏みにじるような行動を取ってしまった事に、心の底から反省し私に抱きつき震えている小さな肩を、「ごめんなさい・・・。」と言って抱き締めた。
「・・・ところで、カクラ様、幾つかお聞きしたい事が有るのですが・・・。」
と、私がカナコの頭を撫でていると、カンザブロウが声を掛けてきた。
私は軽く頷いて問いかけを了承する。
「では・・・、先ず一つは、あそこに転がっている魔獣はジャッコですよね、あれはカクラ様お1人で仕留められたのですか?それと、あれ程感じていた魔獣の気配が、カクラ様のいるこの辺りだけ全く感じないのは何故ですか?カクラ様は何か心当たりは御座いませんか? 次に、その卵は何なんですか?カクラ様の意識がない間、何とか引き剥がそうとしたのですがビクともしませんでした。 ・・・カナコが言うには、悪いものではない、との事だったのでそのままにしておきましたが・・・。」
「・・・ハッキリ言うと、私にもよく分かりません。が、ジャッコは人が空から降ってきて、この卵になる前に退治してしまいました。それと、この卵が今私達を守ってくれている、ということは言えます。それに、この卵は人の体と精神を癒す能力があるようです。」
と、私が答えると。
「確かに、卵の側で体を少し休めただけで回復魔法では回復しきれない、あれだけの疲労が、あっという間に癒えてしまっていました。」
と、カナコが思い出したように相槌を打った。
「それから、その卵から魔力でも妖力でもなく、ましてや精霊の力でもない全く無垢で純粋で優しい力が溢れ出しています。そのせいか、卵にも相当数の精霊が纏り付いていますが、この辺り全体にかなりの数の精霊が集まっています。」
と、カナコが告げた。
「あ、やっぱり、これ精霊なんだ・・・。」
と、私が呟くと、
「え?カクラ様見えるのですか?」
と、カナコが驚いた顔を見せた。
カナコが驚くのも当然である。
精霊はエルフやハーフエルフにしか見えないと言われているからだ。
「・・・ええ、うっすらとだけど・・・恐らく、卵の力の影響でしょう・・・。」