第参十四話
2/21 (サーシャ)の考えの部分を少し書き換えました。
(凰)
朝食の後、僕はサーシャに引っ張られるようにして自分の部屋に入った。
そこは、船長室の上にある貴賓室で、まるでホテルのスイートルームのような作りで船の中とは思えないほど豪華な部屋だった。
因みに、サーシャはその貴賓室の隣に設けられた使用人用の部屋を使っていた。
クロガネとシャリーナ姉さまは、毎回室内に異常が無いことを確認すると貴賓室の出入口の所に陣取っている。
アジーナおばさまの部屋は第二貴賓室で船長室の隣にある。
その部屋も豪華な作りにはなっているが、僕の部屋の半分ほどの広さだった。
僕は「一人で寝起きするには広すぎる」ということで「普通の客室でいい」と言ったんだけど、アジーナおばさまにいい笑顔でヤンワリと断られました………。
『僕には逆らえないって言ってたのに……』
『だったらお願いするのではなく、そう命じればいいだろ』
『そうだけど……僕の一言で人の意思を縛り付けたりねじ曲げたりするのは嫌だな』
『だったら諦めろ』
『うーー……鳳のいじわる』
・・・。
エルフの普段着は、基本男女共に肌触りのいいシルクのような薄布をワンピースのように体に纏い腰のところで組紐のような太い紐で括っているだけのものだった。
その布は非常に薄く軽いのだが肌が透けて見えることはなかった。
そこに色違いの薄布を重ねたり、思い思いのアクセサリーを掛けたり付けたりしていた。
僕は、身動きが取りやすいそのエルフの普段着が好きで、今も若葉色の物を纏っている。のだが、サーシャは僕の部屋に入ると、あっという間に僕からその薄衣を剥ぎ取りパンツ一枚にしてしまう。
「うわっ、うわわわわ………」
一瞬の事で、僕は胸を隠し縮こまることしか出来なかった。
・・・・。
「シャイン様、また……大きくなりましたね」
サーシャはそう言うと、自分の慎ましやかなものを見て寂しそうな悲しそうな表情をする。
サーシャは毎回、僕の服を剥ぎ取ると同時に僕の体型身長肌の色ツヤ等、僕の成長や健康状態を一目で見定める。
僕は「服の着替えくらい一人で出来る」と言うのだけれど、その度、サーシャは「私の事がお嫌いになったのですか?」と悲しい表情をする。なので、今は好きなようにさせている。のだが、毎回、サーシャは僕の成長と自分の成長を比較して落ち込んでいた。
特に女性を象徴する部分の成長を比較して……。
『だから、僕は自分で着替えるって言うのに……』
『まあ、サーシャの自業自得だな』
それでもサーシャは気を取り直して純白の聖衣を手に取り言う。
「シャイン様、同じ女の子同士なのですから毎回恥ずかしがらないで下さい!」
「でも、僕はずっと男の子だったんだ……」
「でも、今は女の子でしょ! はい、立って下さい!」
そう言われ、僕が渋々立ち上がると、あっという間にサーシャは僕に純白の聖衣を着せつけてしまう。
その純白の聖衣には、僕の溢れだす力を完全に封じ込める神印を施してある。
もちろん、それはアジーナおばさまに言われ僕が施したものだった。
僕がアジーナおばさまに言われた通りにこの聖衣に神印を施したのは、「シャイン様の力に免疫の無い人間種の者達が、いきなり直にシャイン様の力を受けると大変な事になります」と脅されたためだ。けど、
・・・やっぱり、頭の先から足の先まで包み込まれるこの格好は窮屈で嫌だなあ・・・
(サーシャ)
私はシャイン様を部屋にお連れすると直ぐにエルフの薄衣をシャイン様から脱がせる。
毎回の事なのにシャイン様は私に薄衣を脱がされると、初な少女のように恥ずかしそうに踞る。
私は毎回、そんな一つ年下の少女の成長を見て、自分の慎ましやかなものに心を痛める。
でも私はそんな少女、シャイン様に仕えられる事を心より誇らしく思う。
何故ならシャイン様はこの世界を産んだ神、鳳凰様の転生体であり我らが神なのだから。
そして、私が心から愛してやまない人だ。
いつか必ず私はシャイン様の妻になる。
私はそう強く心に決めている。
今は聖衣に身を包んだシャイン様に目を向ける。と、その頭から足の先までスッポリと体を覆う純白のマントフード、マントフードとは言うが首のところが詰まっていないため一見、純白の聖布を頭から被っているだけのようにも見える。
そのフード部分には白いベールが付いていて外からは顔が見えないようになっている。
純白のマントには全体に神涙銀フェニシリウムの銀糸により精緻で美しい神印が刺繍させている。
その肩の部分にはパッドが入っているため体全体を包み込むマントは肩部分から足元までシワ無く真っ直ぐに下りている。
そして、そのフードの頭部には銀に輝く神涙銀で出来た美しいティアラ、そのマントを閉じた胸の前には黄金に輝く神涙銀で出来た美しい胸飾りが掛かっている。
そのマントの下は、シャイン様の体を美しい神印が刺繍された純白の聖衣が首から下、手の先から足の先まで包み込んでいる。
私は今のシャイン様は、美しい神印の施されたマントを纏い凛々しいお姿をしていると思う。のだけど、そんなシャイン様はマントの下でモゾモゾと身動ぎしていた。
・・・あー、シャイン様の事だから、きっと、こんな窮屈な格好は嫌だあ、なんて思われているんだろうなあ・・・
「それではシャイン様、私も着替えて準備をして参ります。………何かあればお呼びください」
私はそう思いながらシャイン様に声をかけ丁寧に頭を下げる。
そして、シャイン様から剥ぎ取り、いえ、脱がせて天蓋付きのベッドの上に置いておいた薄衣を手に取り胸に抱えるようにして持つと自分の部屋へと向かった。
シャイン様は二年前、私のお母様を助けて下さった時に本来のお姿を取り戻された。
その姿は、背中まで伸ばし三つ編みにした白銀に輝く髪、顔はまだ幼さを残しながらも目鼻立ちはハッキリとして神々しい程に美しい。そして、その白銀に輝く瞳は意思の強さを感じさせる。
白磁のような白い肌を持つ体は、やはりまだ幼さを残すが神々しい程に均整の取れた美しくも女性らしい姿をしている。
その美しさだけでも誰もがシャイン様に畏怖を抱くだろうと思われるのに、更にその体全体から凰様の神威を含んだ神々しい白銀の淡い炎のような光を放っている。
・・・シャイン様のご家族のようにシャイン様の神威に慣れ親しんでいる者や天の神子候補などの特別な者達ならばいざ知らず、そのシャイン様の神威に慣れていない普通の人間種の者達が突然シャイン様の神威に直接触れれば、間違いなく人として生きていくのに最低限必要なものまで浄化され、悪くすれば死に至るでしょう・・・残念ながら、シャイン様はその事を実感されていないがために理解なされていない・・・
私は小さくため息を吐き、ふと、食事の準備が出来てシャイン様を呼びに行った時の事を思い出す。
・・・あのシャイン様の頬をぷっくりと膨らませた愛らしい表情は、可愛らしくて堪らなかったわ・・・
私は胸に温かなものが沸き上がってくるのを感じる。と同時に、暖かくなった頬が自然と緩むのを感じつつ、シャイン様の寝室の隣にある自分の部屋の扉を開いた。
(凰)
妖精種の中でも美形揃いと言われるエルフ、その中でも特に美形と言われエルフの王族でもあるハイエルフ。
そのハイエルフで幼馴染みの少女であり、お側仕えでもあるサーシャの後ろ姿を僕は見送る。
その姿が、見えなくなると僕は体を天蓋付きの豪華なベッドに投げ出し仰向けに大の字になった。
ハアッ、・・・幼馴染みなのにサーシャは僕のお側仕えになってから、ずっとこんな調子で接してくる・・・昔みたいに、冗談を言い合ったり遊んだりして、もっと気軽に接してほしいのに・・・もう、昔みたいな関係には戻れないのかなあ・・・
などと少しの間、子供の頃の事を思い出しながら考えているとサーシャの部屋の方からノックをする音が聞こえ、僕は慌ててベッドを下りて立ち上がる。と同時に「失礼します」と、サーシャが僕の寝室に戻ってきた。
そのサーシャの姿を見て、その美しさに僕は息をのむ。
新緑色の艶やかな髪の毛は何時もは三つ編みにして纏めているが、今は三つ編みを解かれた癖のない真っ直ぐとしたその髪は腰の辺りにまで達していた。その髪の間からハイエルフ独特の少し尖った耳が顔を覗かせている。
その頭にはシンプルだが美しい銀環を嵌めていた。
今は柔らかな笑みを浮かべているその顔はまだ幼さを残してはいるが絶世の美女と言っていいだろう。
サーシャの纏う、その何の飾り気も無い純白の神官服はまるでシルクのカーテンのようにサーシャの体を包み込んでいる。その胸には美しい細工の施された金のネックレスが掛かっていた。
その神官服の上からでもサーシャの女性らしい柔らかな曲線を見て取ることが出来る。
「すごく綺麗だ」
僕は無意識の内にサーシャを抱き締めていた。
サーシャは一瞬体を強張らせたが、直ぐに僕に体を預けるようにして優しく抱き返してきてくれた。
「ありがとう御座います、シャイン様。……こうしてシャイン様に抱き締められマントに包まれているとシャイン様の温もりが私の体を包み込んで、………地肌でないのが残念ですが……まるでベッドの中でシャイン様に抱かれている気がします」
『おお、やるなぁ、凰。お前にこんな事が出来るとは……随分と成長したな……だが、女性同士というのが残念だ』
サーシャの嬉しそうな言葉と鳳の茶化すような言葉を聞いて、僕はハッと我に返る。
そして、顔が熱くなるを感じながら「ご、ごめん!」と慌ててサーシャの体を離した。
「あん、……残念です」
そう呟いて微笑んだサーシャは、頬を染めスカイブルー瞳を潤ませているように見えた。
「ほ、本当にごめん……」
僕が、そんな表情のサーシャから顔を背けるようにして再び謝ると、
「そんなに謝らないで下さい。私は嬉しかったのですから……それともシャイン様は私など抱き締めたくなかったのですか?」
と、サーシャは悲しそうに問い掛けてくる。
それに対して僕は慌てて首を横に振り否定する。
それを見たサーシャは、「よかったぁ」と、嬉しそうな声で胸を撫で下ろすように言った。
その時、リビングルームとベッドルームの間の扉がノックされ開かれる。
そして、そこに姿を見せたシャリーナ姉さまが、「アジーナ様がお迎えにみえました」と知らせてくれる。
(アジーナ)
私が貴賓室の前で待っていると、その貴賓室の出入口から聖衣に身を包んだシャイン様が姿を現された。
「アジーナ……、お待たせしました」
「滅相も御座いません。……では、参りましょうか」
私はシャイン様に返事をすると共に、私は纏っているシャイナ教大神官の正装の上から胸に手を当て軽く頭を下げる。
そして、シャイン様を先導し下船するため歩きだした。
「アジーナ……、この聖衣は何時まで着てないといけませんか?」
歩き出して直ぐにシャイン様のウンザリとした声が聞こえてくる。
「そうですね、今日はこの港湾都市シーガルに一泊致します。ここの神殿に宿泊の準備がしてありますので、取り敢えずは神殿の奥殿に着くまではご辛抱下さい」
・・・・。
「このシーガルには何時までいるんですか?」
「今晩遅くにはここを出ます」
「そうなんだ………アルヴァロム王国も殆んど素通りしただけだし、神殿に着いたら少しシーガルの街並みを見て回ってもいいですか?」
「申し訳御座いません……シーガルはジャカール帝国の中でも治安はいい方ですが安全のためご辛抱下さい。」
「えー、……シャリーナ姉さまやクロガネが一緒でもダメですか?」
・・・。
「シャリーナやクロガネの強さは知っています。……ですが、シャイン様に何かあればシャイン様の警護を担当したこの国の者達にどのような罰が与えられるか分かりません。その者達の事を考えていただけるのであれば幸いに存じます」
・・・・・。
「分かりました」
「ご理解いただき感謝致します」
シャイン様は私の説明を受けて不服ながらも私の意見に従う返事を返してくれる。
・・・昔からそうだけど、シャイン様は本当に優しい方だ・・・我を通そうと思えば幾らでも通せる立場にあると言うのに人の気持ちを考えて、こちらの意見を聞いてくださる・・・この方が我らが主、我らが神であってよかったと心から思える・・・
「でも、ここまでして僕の力を抑え込まないといけないのかなぁ……先代鳳凰の神代の頃と違ってこの世界も成長し生命達は凰の力で変異することはまず無いってクリスティーン婆さまは言っていたけど……」
・・・・。
「ですが、シャイン様が鳳凰様の力に目覚められた時、一瞬とはいえアルヴァロム王国全土にシャイン様の神威が満ちシャイン様の加護を受けていなかったエルフ達はその清浄な力に善心を強められ、邪心の僅かなエルフでも生活に支障をきたす程ではありませんでしたが己が良心の呵責に苛まれ一週間は苦しんでいました。エルフでもそんな状態になったのです、人間種の者達がシャイン様の神威に耐えられるとは思えません」
「でも、あの時、アルヴァロム王国全土を覆ったのは凰の力じゃなくて鳳の力で……」
「どちらでも同じ事です。確かに凰様の神威は鳳様のものとは違い生命を弱らせるような力では無いでしょう。ですが、神代の頃のような事が絶対に無いとは言い切れないのではありませんか?」
「う″っ……確かに婆さまも絶対とは言っていなかったけど……」
・・・・。
シャイン様は少し戸惑うような口振りになると黙り込んでしまわれた。
・・・シャイン様にどう言って乗って頂こうか悩んでいたけど、この流れで押しきってしまいましょう・・・
私とシャイン様は歩きながら話している内に船を下りシャイン様の為に仕立てられた馬車の前に立っていた。
「あの、アジーナ……これは?」
「はい。シャイン様の為に仕立てさせた神輿馬車です。」
「はっ?」
(凰)
僕達は船のタラップを下りる前から聖甲冑に身を包んだシャイナ教聖騎士団の人達が持つ白い幕に隠されていた。
アジーナおばさまが言いたい事も分からない訳ではない。
・・・確かに断片的ではあるが僕の記憶でも凰が垂れ流した神力のせいでこの世界の多くの生命達が変異を起こしたのは間違いない事実だ・・・だが、あの頃、この世界はまだ幼く生命達は未熟だった・・・今、この世界は成長し生命達は成熟している・・・その証拠に僕が生まれてずっと一緒にいた、カンザブロウ父さまやカクラ母さま、カリン姉さまにそんな兆候は見えなかったし、父さま達自身もそんな変化をしている自覚があるような風には見えなかった・・・ということは、少なくとも僕の神力が人に影響を与えるとしても、それは一時的なものであり人の本質を変えるものではないのでは無いだろう・・・たとえ人の精神などに影響を与えるとしても、よくて一時的に聖人化させるだけなんじゃないのかなぁ・・・それとも父さま達が気付いていなかっただけ?・・・いやいや、だったらシャリーナ姉さまやカネタカ大叔父さまが気付いていたはずだが、そんな感じはしなかった・・・
『・・』『・・・う』『おい!凰!』
『んあ、な、なに?鳳』
『何考え事をしていたか大体想像は付くが、今はそんな事より何か変なものに乗せられそうな気がしてならないのだが……』
『え? ……って、何これ?』
僕が考え事をしながら聖騎士団が掲げ持つ白幕に覆われたまま船を下りアジーナおばさまについて歩いていたら、いやに派手な馬車が目に飛び込んできた。
その前で、サーシャと同じ神官の装いに、青地に金糸銀糸で彩られた袖無しカーディガンのよう大神官の正装を纏った、サーシャを大人っぽくしたような絶世の美女アジーナおばさまが微笑んでいた。
「あの、アジーナ……これは?」
「はい。シャイン様の為に仕立てさせた神輿馬車です。」
「はっ?」
それは、馬車の台車の上を取っ払い銀の棒で枠が取り付けてある。
その周りを一メーター程の幅を持つ金糸銀糸で彩られた赤と白の帯が、その銀の棒の枠の上から車輪の上まで垂らしてあり、馬車の上部、多分僕が乗る所を囲っていた。
そして、その銀の枠や馬車の台車には色とりどりの花が飾られていた。
その中央、幕の上に見えるのは羽を広げた黄金の鳥の彫像だった。恐らくその鳥は鳳凰を象ったものだろう。
この世界のを産んだといわれる鳳凰の本来の姿は炎を纏った大鳥の姿をしていると云われている。
その尾には金と銀の細く長い帯が取り付けられていた。
その馬車の周りには多くの精霊がまとわりついている。恐らく何らかの精霊魔法が掛けられているのだろう。
「どうぞお乗りください」
・・・・。
「どうしても、この派手な物に乗らなければなりませんか?」
「はい。これもお役目とご理解下さい」
「・・・・」
僕はアジーナおばさまの、そのいい笑顔に背中を押されるようにして、その派手な馬車に渋々乗り込んだ。




