第参十弐話
(凰)
『ん・・・んう・・・あ、いい匂い・・・カリン姉さまの匂いだ。』
僕は頭を優しく抱き締められ顔に柔らかで暖かなものを押し付けられている感触に目が覚める。
その嗅ぎ馴れた甘い香りに愛しさを感じギュッと、しかし、彼女に嫌がられないように優しく抱き締めた。
・・・よかった。カリン姉さまを無事に助けられて・・・
僕はカリン姉さまの温もりを感じながら心からそう思った。
・・・カリン姉さまを助け出した後、鳳の力が暴走し始めて、その後どうしたんだっけ・・・
と同時に、カリン姉さまを助けた後どうしたのかが気になった。
『ん、んんー・・くー・・・』
『おはよう。鳳、調子はどぅお?』
『ん?ああ、おはよう・・・何か絶好調だな。お前はどうだ?』
・・。
『うん。僕も何だかスッキリしてて調子がいい感じがする。』
『そうか・・・』
『ところで鳳、カリン姉さまを助け出した後の事、覚えてる?』
・・・・。
『いや。力が暴走し始めた後の事は覚えてないな。』
『やっぱり・・・・みんなに迷惑掛をけてなければいいけど・・・』
『ああ・・・そうだな。』
僕達(鳳・凰)がカリン姉さまを助け出した後、皆に迷惑を掛けたのではと心配していると、「んん、んー・・・」と、カリン姉さまが伸びをして目を覚ました。
「あ、カリン姉さま、おはよう。起こしてしまいました?」
と、僕が微笑んで声をかけると、
「シャイン!よかった!」
と、眠気眼を擦っていたカリン姉さまは徐々に目を見開き僕に抱きついてきた。
「シャイン、もう目を覚まさないかと思った!」
と言って、カリン姉さまは僕を抱き締めたまま肩を震わせた。すると、床下に布団を敷いて寝ていたサーシャ姉さまも、「んー、なーにカリ、ン・・・」と、目を擦りなが起き上がり僕と目が合うと、「あ、」と、声を漏らし次の瞬間、「カクラおば様!お母様!シャイン様か目を覚ました!」と、叫びなが部屋を飛び出していった。
『二人の様子からして、僕達、随分と長い間眠ってたみたいだね。』
『そのようだな。』
・・・・・。
『それに、随分と皆に心配を掛けてしまったみたいだね。鳳。』
『ああ、そうだな。後で皆に謝っておいてくれ。凰。』
『ん、分かった。』
僕達は心配を掛けてしまった皆に後で謝罪する事を決め、泣きじゃくりながら僕を抱き締めているカリン姉さまの頭を宥めるように撫でた。
そうしているうちに僕は、ふと、違和感を感じた。
・・・あれ?なぜ僕はカリン姉さまの寝間着を着ているんだろう?・・・
自分の着ている物を見てみると、カリン姉さまのお気に入りの寝間着が僕に着せられていた。
・・・。
『鳳。ねえ、なぜ僕はカリン姉さまの寝間着を着ているんだろう?』
『・・・・・・』
『ねえ、なぜ黙ってるの?』
『・・・・・・』
『ねえ、何とか言ってよ!』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
何度問い掛けても鳳は答えてくれず、僕は嫌な予感がしたが意を決して腰から下のスカート部分を右手で持ち上げてみた。が、カリン姉さまに抱き付かれた状態では確認したい部分を確認する事が出来なかった。
どうしようかと少しの間悩んだが、覚悟を決めて自分の着ている寝間着のスカートの中に手を突っ込んだ。
『う!ない!・・・・男の子の証であるあれが、ない!どうして、僕、男の子だった筈なのに・・・・チーンがない・・・』
『・・・・・・』
『ねえ、何とか言ってよ、鳳。鳳はこの事知ってたの?』
・・・。
『薄々はな。それを確信したのは力の封印を解いたときだ。お前も気づいていたんじゃないのか?』
『う・・・・でも、だけど、僕、前世からずっと男だったのに実は女でしたなんて・・・・受け入れられないよー。』
僕にとっては衝撃的な事実を突き付けられ涙が出てきた。
未だ泣き続けているカリン姉さまのしゃくり上げる泣き声を聞いていると、僕はとても大事なものを失ったような気がして、何だかとっても悲しくなってきた。
そして、僕はカリン姉さまと一緒にワンワンと盛大に泣き出した。
カクラ母さまが部屋に入ってきたのはちょうどその時だった。
「あらあら、どうしたの?カリンだけでなくシャインまでそんなに泣いて。」
と言って、カクラ母さまは僕とカリン姉さまを両脇に抱き締めるようにして僕のベッドに腰掛けた。
「だ、だって母さま・・・・僕の大事なものが、大事なものがー・・・・こんなんじゃ好きな娘と結婚出来ないよー。」
・・・。
「いいじゃない。男の子と結婚すれば、貴女ならきっといいお嫁さんになれるわ。」
・・・・・・。
「嫌だー。母さまのいじわる!」
『そうだな。それもいいかもしれん。』
『だったら、鳳、替わってよ!』
『無理だし、断る!』
『鳳のいじわる!』
ぅわああああん。と、僕は再び泣き出した。
・・・・。
「あはは・・・冗談よシャイン。そうね。でも、もう一人のシャインは男の子なんでしょ。」
・・・。
「うん。」
「だったら、好きな娘と結婚出来るじゃない。」
「でも、それは鳳であって僕じゃないもん。」
「それじゃあ、その鳳と貴女は全く別人なの?」
「ううん。鳳と僕は全く別人って訳じゃないけど・・・」
「それじゃあ、好きな人は違うの?」
「ううん。同じ・・・」
「なら、好きな娘とも結婚出来るじゃない。」
「うー・・・・」
・・・・。
『凰、お前、本当に精神年齢、シャインの実年齢よりも上なのか?』
『うー、だってしょうがないじゃないか・・・前世からずーっと男の子として生きてきたのに、突然、お前は女だと言われても、ハイそうですかとは受け入れられないよ。』
『まあ、そうだろうが・・・お前は本来は女性体なんだから仕方がないだろう。』
『う・・・・少しくらい、駄々をこねてもいいじゃないか・・・』
僕はズズッと鼻水をすすり、ハアーと小さくため息を吐いて泣くのをやめた。ふと、カリン姉さまの方を見ると、母さまに抱き付いて少しシャクリあげながらも泣き止んでいた。
・・・・。
「二人とも落ち着いた?」
僕は、「うん。」と返事をし、カリン姉さまはコクリと頷いた。
母さまは微笑んで僕とカリン姉さまを優しく抱き締めた。
「皆、入ってきていいわよ。」
と、母さまが言うと、クリスティーン婆さまを先頭に家の人達とアジーナおばさまにサーシャ姉さまがぞろぞろと部屋に入ってきた。
どうやら、僕とカリン姉さまが落ち着くまで皆部屋の外で待っていたようだ。
部屋に入ってくると直ぐに、シャリーナ姉さまとクロガネが膝ま付いた。
「シャイン様。シャイン様がお倒れになられるような事態を想定できませんでした。我等の失態です。如何様な処罰もお受け致します。」
と言って、シャリーナ姉さまとクロガネは深々と頭を下げた。
「いやいやいや、シャリーナ姉さまクロガネ止めてください。カリン姉さまの事は婆さまも予見出来なかった事ですし。」
と、僕が慌ててシャリーナ姉さまとクロガネを止めると、
「では、我々はこのままシャイン様にお仕えしても宜しいでしょうか?」
と、シャリーナ姉さまとクロガネは真剣な眼差しを向けてくる。
それに対し、僕がスッと視線を逸らし、「仕えるとかでなく、友人として付き合えませんか?」と言うと、シャリーナ姉さまとクロガネは徐に懐から短刀を取り出し抜き放つと、「分かりました。この場で自害させていただきます!」と言って、首筋に刃を当てた。
「わーわーわー、ご免なさい冗談ですずっと僕に仕えてくださいお願いします!」
シャリーナ姉さまとクロガネの首筋に沿って赤い血が一筋流れるのを見て、僕は慌ててシャリーナ姉さまとクロガネを止めた。
「ありがとう御座います。」
「二人とも、ほんと、勘弁してください。」
シャリーナ姉さまとクロガネは、僕に対しいい笑顔を見せ後ろに下がった。
それに対し、僕は「はあ。」と大きく溜め息を吐く。
次にアジーナおばさまとサーシャ姉さまが膝ま付く。
「あのー、アジーナおばさま・・・約束をお忘れですか?」
「シャイン様、申し訳ありませんが、通過儀礼だと思って少しお付き合いください。」
・・・。
「ここには、顔見知りしか居ませんよ。それでも?」
「はい。」
・・・・・・。
ハアー、と僕は再びため息を吐き、「分かりました。」と、了承する。
・・・だって、顔は何時も通り微笑んでるんだけど目が、了承してくれなければ私なにするかわかりませんよ、て自己主張が半端無いんだもの・・・
「シャイン様。この度は我がアルブァロム王国の危機に際し救いの手を差し伸べて頂きました事、心よりお礼申し上げます。つきましては、後日、我がアルブァロム王国の女王と十二支族の族長達が、シャイン様への謁見のご許可を賜りたいとの事。何卒ご許可を頂けますようお願い申し上げます。」
・・・・・・。
『謁見って・・・・・ハア、堅苦しいのは嫌だなー。』
『だが、アジーナのあの目からは了解するまで引き下がらない、という強い意思を感じるな。』
・・・・。
「どうしてもですか?」
「はい。」
「ハアー。分かりました。」
「ありがとう御座います。」
と、アジーナおばさまは頭を下げ、そして、ここからが本題と言わんばかりのいい笑顔で、「お約束の側仕えなのですが、花嫁修行も兼ねてサーシャに任せようかと考えておりますが宜しいでしょうか?」と言う。
「え"!?」
僕は、花嫁修行と言う言葉に慌てて変な声が漏れてしまった。
「花嫁修行って・・・・サーシャ姉さまは女の子になってしまった僕でもいいの?それに、もう一人の僕、鳳の事はどう思っているの?」
と、僕が言うとサーシャ姉さまは、ポッと頬を染め俯きつつ、「はい。私はシャイン様が男の子でも女の子でも構いません。それに、鳳様はとっても凛々しくて優しい方だと思います。」と、鳳の姿を思い返しているのか、ポーと物思いに耽るような表情で呟くように言う。
・・・・・。
『鳳。爆発しろ!』
『やかましい!』
・・・・・。
「ハア、もう。好きにしてください。」
と、僕が言うと、「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願い致します。」と言って、サーシャ姉さまは頭を下げた。
それを見て、アジーナおばさまが、ウンウンよかったよかったというように頷いていた。
『アジーナおばさま、サーシャ姉さまも。まだサーシャ姉さまを妻として娶った訳ではありませんから!』
・・・・。
『いや、アジーナは、このままなし崩し的にサーシャ姉さんを妻の座に収める気かも・・・』
『う・・・・この人の事だから有り得るかも・・・』
サーシャ姉さまが僕に挨拶し終えると、「では、失礼します。」と言って、アジーナおばさまとサーシャ姉さまは立ち上がり「サーシャ、良かったわね。」「うん。」等と嬉しそうに話しながら後ろに下がった。
それから、クリスティーン婆さまが、カリン姉さま達が邪王ガルー・ドラグルに襲われた時の状況と、僕がカリン姉さまを助けた後の事を話してくれた。
それによると、ガルー・ドラグルがカリン姉さま達の直ぐ側に姿を現すまで僕の作った神護の指輪は全く反応していなかったという。
その原因は、ガルー・ドラグルが首から下げていた魔法道具のペンダントの影響だったらしい。
その魔法道具のペンダントは、無のペンダントといい、それを身に付けた者は一切の感知、探知等の探索系の能力には引っ掛からなくなるという物なのだそうだ。
それは、僕の作った神護の指輪も例外ではなかったという事だ。
しかも、それを身に付けた者の姿を完全に隠蔽するという。
何故そこまでそのペンダントについて婆さまが詳しいのかと疑問に思っていたら、婆さまの姉のアテート・オオトリが作ったものだという事だった。
そのペンダントの他にもアテート・オオトリ作の魔法道具が幾つか破壊邪神の手に落ちているという。
その中には、かなりヤバイ物も有るらしい。
因みに、僕がその無のペンダントに触れた時その術式や能力について一瞬にして解析できたので、後で皆の神護の指輪をそれに対応できるように改良する事にした。
今の僕になら簡単に改良できるだろう。
次に、僕がカリン姉さま達を助けた後の事だが、鳳の力が暴走しかけていた鳳に婆さまが保管していた神代の頃の鳳の心臓から零れ出た血を鳳に飲ますことで鳳の力を抑えたという事だった。
僕達(鳳・凰)が眠りについてから二日後、シャリーナ姉さまとクロガネが満身創痍の状態で隠者の里に帰ってきたらしい。
あれほど強い二人に何があったのか、と婆さま達が尋ねるとシャリーナ姉さまとクロガネはグランザム公爵領の都市グラベーナから一直線に道なき道を障害物は全て粉砕してトップスピードの全力疾走で駆け抜けてきた、という事だった。
そのせいで身体中ボロボロになったらしい。
クロガネ曰く「シャインサマ二、ナニカアッテハ、ワレラガソニ、モウシワケガタタナイ。」という事で、光のスピードで飛んでいった僕を必死に追いかけた、という事だった。
それを聞いた僕は、クロガネとシャリーナ姉さまに申し訳なく思って謝ったら、それ以上に平身低頭謝られた・・・。
それから、十日後カンザブロウ父さまとキリマルさん達里の者達が帰ってきた。
更に、その十日後、アジーナおばさまがアルブァロム王国の女王と十二支族の族長達がを伴って隠者の里を訪れたらしいが、婆さまがアジーナおばさま以外は追っ払ったらしい。
そんな事をして大丈夫なのかと僕は思ったのだが、アジーナおばさま曰く立場的にはクリスティーン婆さまの方が上なのだそうだ。
それから三日後の今日、僕が目覚めたという事だった。
「なるほど、これ迄の経緯は分かりました・・・・・ところで、母さま一つお聞きしたいのですが、何故僕はカリン姉さまの寝間着を着ているのでしょうか?」
「え?だって、シャイン女の子ものの寝間着持ってなかったでしょ?」
・・・・。
「別に僕自信の寝間着で良かったじゃないですか。」
「えー、だって、そんなに見目麗しい女の子の姿しているのに男の子ものの服なんて着せられないわよ。」
と、母さまが言うと、何故か皆ウンウンと頷いていた。
「見目麗しいって・・・ただ女性体になっただけでそんなに変わって無いでしょ。」
と、僕が言うと、シャリーナ姉さまが水面鏡という魔法を使って僕の姿を写し出した。
「う"!?」
それを見た僕は絶句した。
『誰これ?・・・・いや、自分だとは分かるけど。姿形は変わらないけど神秘的な自ら光るような白銀色の髪に白銀色の瞳、体全体を包み込む淡い炎のような白銀色の光・・・・自分で言っては何だけど、神秘性が半端ない。』
『これは、確かに俺でも男物の服を着せるのは納得いかないな。』
『・・・・・』
「納得した?シャイン。」
僕が、ボーッと水面鏡を見詰めていると母さまがニコニコとして声を掛けてきた。
それに対し僕は、ハア、と溜め息を吐き「はい。」と応えた。
・・・・。
『溜め息を吐くと寿命が縮むと言うけど、今日でどれだけ縮むだろう・・・』
『まあ、無限に近い寿命があるんだ微々たるものだろ。』
「そう言えば母さま、僕達が里を出るとき、僕達が里に帰ってきたら伝えることが有るようなことを言っていませんでしたか?」
「え?・・・ああ、そう言えばシャインにはまだ言ってなかったわね。貴女に新しい兄弟が出来そうなのよ。あとキリマルとカナコにもね。」
と言って、母さまは愛しそうにお腹をさすり、カナコさんの方に目を向けるとカナコさんも同じようにお腹をさすっていた。
「それは・・・おめでとう御座います。母さまカナコさん。」
と言って、ふと、僕は違和感を覚えた。
・・・何だろう?何だか・・・
「母さま。肌がツヤツヤしてて・・・若返っていません?」
「あ、気が付いた?そうなのよ、シャインに鳳様の血を飲まそうと口にその血を含んだだけなんだけどね。こんなに若返っちゃった。」
と、母さまが嬉しそうに言うと、
「あと少し鳳の血の影響を受けていたら、カクラは死んでいたけどね。」
「う"。」
婆さまが母さまの喜びに水を差し、母さまは絶句する。
「まあ、そうならなかったんだからいいさ。それよりも、シャインこれを持っておきな。」
と言って、婆さまは拳大に膨らんだ巾着袋を僕に手渡した。
「これは?」
「神代の頃の鳳の心臓から零れた鳳の血だよ。大小幾つかの玉になっている。もし、また鳳が力を使わざるをえない時があったらそれを飲みな、少しの間なら力の暴走を抑えられる筈だよ。」
・・・・。
「ありがどう、婆さま。」
「出来ればお前さんが、それを使わずに全てが終わる事を祈るよ。」
そう言って婆さまは少し寂しそうな笑顔を見せた。




