第弐十七話
(凰)
「アジーナおばさま。お渡ししたい物があります。」
・・・・。
「今でなければなりませんか?」
乱世の狂気の邪気邪念を撒き散らしながら騎馬兵が狂戦士の大軍の中を無人の野を行くが如く駆け抜け、アルブァロム王国軍の前面に展開した盾隊の直ぐ側まで近づいてきていた。
アジーナおばさまは僕を背に庇うように立ち、恐らく邪王ガルー・ドラグルの攻撃で折れてしまったのだろうレイピアと細かい罅の入った盾を構え、乱世の狂気の邪気邪念を撒き散らす騎馬兵達が駆けてくるだろう方向を睨み付けていた。
その周りをシャイナ教聖騎士団が守るように囲んでいる。
そんなアジーナおばさまに僕は渡したい物があると声を掛けた。
「はい。今でなければ後で後悔する事になるかもしれません。」
・・・・。
「そうですか、分かりました。」
アジーナおばさまは顔だけ僕の方に向け険しい表情で今でなければならないかと尋ねてきた。
僕は真剣な面持ちで今でなければ後で後悔するかもしれないと応える。
すると、アジーナおばさまは僕に向き直り、僕は懐から魔法武器のブレスレットと神護の指輪を取り出し、それらをアジーナおばさまに見せた。
「探知の指輪と・・・・見た事の無い魔法道具ですね。」
「はい。僕の作った魔法道具で魔法武器のブレスレットと言います。」
「ほぉ。貴方が魔法武器のブレスレットを作ったのですか?伝説級の魔法道具だったと思いますが・・・・確か王城の宝物殿に二個ほどあると聞いたことがあります・・・」
「そうですか・・・・それよりも・・・」
「ああ、そうですね。」
僕が神護の指輪と魔法武器のブレスレットをアジーナおばさまに見せると、魔法武器のブレスレットは初めて見たらしく、また伝説級の魔法道具だったらしい。
それを僕が作ったと言うとアジーナおばさまは感嘆の声を漏らした。
そうこうしている内に、乱世の狂気の邪気邪念を撒き散らす騎馬兵達が近付いてきている気配を感じ僕はアジーナおばさまに早く受け取るように促す。
そして、アジーナおばさまが手を差し出した、その時、僕の目の端にドカン!!と盾ごと吹き飛ばされる盾隊のエルフ達が映った。と同時に、僕はアジーナおばさまの手に神護の指輪と魔法武器のブレスレットを置く。瞬間、二つの魔法道具(神具)はボッと圧力を感じさせる程強く光輝き、夜の帳が朝の光に照らされてうっすらと明るくなりかけているこの辺りを、一瞬真昼のような明るさに照らし出す。
僕達の周りにいたシャイナ教聖騎士団の者達は、その余りにも突然で圧倒的な輝きと辺りを包み込む神々しく清らかで優しい力に目を丸め驚きたじろいでいた。
その時、アルブァロム王国軍の兵達をその圧倒的な力で蹴散らし薙ぎ倒してきた乱世の狂気の邪気邪念を撒き散らす騎馬兵が聖騎士団の頭上を飛び越え僕とアジーナおばさまに襲い掛かってきた。
その騎馬兵が僕めがけて邪悪な魔力が満ちどす黒い闇を纏った真っ黒なバトルアックスを降り下ろそうとした。瞬間、その騎馬兵と騎馬に幾十もの細い翡翠色の光線がシャワーのように突き刺さっていた。
バギン!!
ギッヤヤアアアーーーーーー・・・
ガシャガシャガシャン!!
翡翠色の光線が突き刺さったバトルアックスは砕け散り、僕の直ぐ横を通り過ぎた騎馬はゴーレムだったようで土塊となって崩れ去る。
そして、騎馬兵は悲鳴を上げ地に転げるように倒れ込み甲冑が砕け散る。
その体から今まで吐き出していたものより遥かに禍々しく濃い闇が滲み出し浄化されて消えていった。
その直後にもう一騎騎馬兵が聖騎士団を飛び越えてきていた。
その騎馬兵はランスを後ろに大きな盾を前にして構えていた。
その騎馬が聖騎士団を飛び越え終えようとしていた時には、もう既に騎馬には複数の細い光線が刺さりその盾には先程とは比べ物になら無いほどの翡翠色の細い光線が突き刺さっていた。
バガン!!
ガン!!ガラガラガラ・・・・
二騎めの騎馬兵の大きな盾には防御魔法が施されていたようだが、何百という翡翠色の光線に耐えられず砕け散る。
また、騎馬も土塊となって崩れ去り騎馬兵は真っ黒な甲冑を豪快に響かせて、先程の騎馬兵とは反対側のアジーナおばさまの横を前転をするように何回も転げていく。
僕が一連の騎馬兵の攻撃を防いだ光を発した光源に、ふと目を向け確認すると、そこには魔法武器のブレスレットを変化させた、淡い炎のように揺らめく翡翠色と無色透明な光を纏った光の精霊の刺突剣を手に持ち構えるアジーナおばさまがいた。
ブウウンンンーー・・・
その時、邪悪な魔力を纏った投斧が高速回転しながら僕めがけて飛んできた。
バキン!!
ダガガガガ!ダカカ!!
その投斧に、アジーナおばさまが光の精霊の力を借り目にも止まらぬスピードでレイピアを振るい幾十もの光の精霊の力による翡翠色の光線を発し破壊する。と同時に、それとは反対方向から、三騎目の騎馬兵が聖騎士団を飛び越えてくる。
その三騎目の騎馬兵は僕達には目もくれず転げる二騎目の騎馬兵に手を伸ばし腕を掴まえると自分の騎馬に引き上げ、そのまま取り囲む聖騎士団の頭上を飛び越えていった。
三騎目の騎馬兵はそのままアルブァロム王国軍の兵達を蹴散らしつつ、アルブァロム王国軍を撹乱していた残りの六騎の騎馬兵達と共にアルブァロム王国軍の盾隊の頭上を飛び越えそのままグランザム領へと狂戦士の大軍と共に去って行った。
(邪王ガルー・ドラグル)
バキキキキキキン!
バカアアン!!
「ヌオオオ!?」
妖怪人の女が妖力の翼を生やし妖扇を振るって無数の妖力の刃を私に向かって発しながら飛び掛かってくる。
私は前面に無詠唱で魔法の防御陣を張って妖力の刃を弾くが、妖怪人の女はその防御陣を妖扇で思いっきり叩き付けてきた。
その体格に似合わぬ、その凄まじいまでの剛力に防御陣ごと私の巨体が吹き飛ばされる。
・・・く、成る程これ程の力ならば私の放った邪神将ごときでは足止めにもならなかったか・・・
更に向かってこようとする妖怪人の女に私はブレスを放った。
ゴアアアアアーーーー・・・
だが、私のブレスは妖怪人の広げた妖力の込もった妖扇に阻まれ無力化された。
「ぬお!?」と、その時、真下からとてつもない魔力の高まりを感じ反射的に下方に三重の防御陣を張る。
バキキン!キイィィィィン!!
巨体の私の体も両断出来そうな、強大な魔力を帯びた巨大な真空の刃が真下から迫ってきていた。
それは私の張った防御陣を二枚破壊し威力を弱めたにも関わらず三枚目をも破壊しようと、その刃を押し当てて魔力のぶつかり合いによる火花を豪快に散らしつつ力を消失させていった。
・・・い、今のは、ヤバかった・・・
と、思っていると真下で斧槍を振り抜いた格好で魔人族の小娘が「ちッ。」と舌打ちしているように見えた。
・・・これは、少し本気で相手をせねばならんか・・・
私は高速で迫ってくる妖怪人の女に避けられないタイミングとスピードで拳を繰り出す。と、妖怪人の女は妖扇で私の拳を受け止めたが、「くっ!」と呻いて吹き飛ばされる。
同時に、私は吹き飛ばした妖怪人の女と魔法武器であろうハルバードの能力を繰り出そうとしている真下の魔人族の小娘に高速で翼をはためかせ暴風と真空の刃を放つと共に魔法の高速詠唱を行う。
それに対し、妖怪人の女は大きく開いた妖扇を大きく振ってその暴風と真空の刃を無力化し、魔人族の小娘はハルバードを高速回転させて防御していた。
「トラゴニック・サンダー!!」
私が詠唱終了と共に魔法の名を叫ぶと、私の中に蓄積してあった乱世の狂気の強大で邪悪な力が私の魔力に変換され、どす黒い雷柱を形成し敵を殲滅せんと妖怪人と魔人族に襲い掛かった。
「グア!」
「くっ!」
妖怪人と魔人族は小さく呻いたが、咄嗟に防御したらしく大したダメージは与えられなかったようだ。
「チッ!」
・・・ゴオウ、ゼンオウの力をまだ受け継いではいないとはいっても、やはり妖怪人と魔人族の祖の直系か・・・まあ、力を受け継いでおれば私など舜殺であろうが。何せゼンオウの力を受け継いでいる魔人族の女王は、破壊邪神さまがまだ力を完全に自分の物とはしていなかったにしても、あの破壊邪神さまを一人で押さえ込んだのだからな・・・
「タタカイノサナカニ、カンガエゴトトハ、ズイブントナメラレタモノダナ。」
「ぬ?しまっ・・・」ガシュ!!「ぐあ!!」
相手を舐めていた訳ではないが、ほんの少し考え事をしている間に妖怪人の女に間を詰められ妖扇で一太刀浴びてしまった。
私の皮膚は強力な魔力を常に帯び、そんじょそこらの魔法防御陣より強靭なのだがその妖扇は軽々と私の皮膚を切り裂いた。
皮膚一枚切られてもどうということはないが、その妖扇に込められた清浄で清らかな力は私の内に染み込み私のこの世界に対する憎悪と怨念により育てられた乱世の狂気の邪気邪念を浄化し私の心に良心と安らぎを与えようとする。
その苦しさに一瞬怯み喘いだが、私の中に流れ込んだ浄化の力は少なく私の中の邪悪な力が直ぐに浄化の力を駆逐した。
しかし、その力の強さに私は全身に脂汗をかいていた。
・・・不味い。この力を何度も受けたら、いかな私といえども耐えられぬ・・・天の神子の加護の力よりも遥かに清らかで強い力だ。やはりあの小僧・・・破壊邪神さまの予見通りか・・・
そう私は考えつつ無詠唱の小型の魔法防御陣を四肢と体数ヶ所に展開しつつ妖怪人と魔人族の攻撃を受け躱しながら、こちらもこまめに攻撃を繰り出す。
・・・このままでは、いつか大技を繰り出す隙を与えることになる・・・
戦いのため足下から少し離れてしまったアルブァロム王国軍の本陣の様子を、ふと見やると乱世の狂気の軍がグランザム公爵領に向かって撤退を始めていた。
・・・ふむ。この辺り一帯を浄化され、しかも清涼な力で満たされてしまってはいくら狂戦士どもに乱世の狂気の邪気邪念の力を供給しても本来の力の半分も出せまい。ここは退き時か・・・
私は妖怪人の女を殴り飛ばすと、「カッ!!」と気合いと共に一瞬力を爆発的に放出し、妖怪人の女を更に吹き飛ばし魔人族の小娘の動きを封じる。と同時に、力を一気に内に凝縮すると共に体を普通サイズの人型に変型させ地に降りる。
カッ!!
「ヌアアアアア!!」ドオオオオオ・・・・
カッ!!
「チイイイイイ!!」ブオオオオオ・・・・
私は地に降りると同時に妖怪人の女と魔人族の小娘にどす黒い光線のようなブレスを放った。
そのブレスは山を一つ軽く吹き飛ばす威力を有するのだが、妖怪人の女と魔人族の小娘は、それぞれ妖扇で殴り付けるようにしてハルバードを高速回転させてブレスを拡散させ無力化していく。
・・・チッ!やはり、これでも倒せんか。これだけ力を使って、この清涼な力の中にいるのは流石の私でも辛い・・・
「この勝負、預ける!!」
妖怪人の女クロガネと魔人族の小娘シャリーナが私のブレスを無力化しようとしている内に、私はそう叫んで踵を返しグランザム公爵領へと一目散に駆け出した。
(凰)
乱世の狂気の軍が撤退していってから程無くして、クロガネとシャリーナ姉さまが戻ってきた。
シャリーナ姉さまによると、邪王ガルー・ドラクルはかなりの強敵のようだったが何とか退けることが出来たという事だった。
僕は戦いが終わり負傷者を救護班のテントに運んだりする者達や被害状況等を確認するために指示を出す指揮官クラスの者が出す声を聞きながら、慌ただしい中にも命を掛けた戦いの緊張感から周りの人達が解放されていく雰囲気を感じ「ふぅ。」と小さく息を吐く。
そして、ふとアジーナおばさまの方へ視線を向け、そしてビシリと僕は固まった。頬がひくひくと引き釣るのを感じながら。
そこには、シャイナ教聖騎士団を従えてアジーナおばさまが膝ま付いていたのだ。
「あの・・・・アジーナおばさま、何をしておいでですか?」
「シャイン様・・・・・いえ、我等が神、鳳凰様。我等が世界エルドアンドへの御帰還、心よりお慶び申し上げます。そして、此度の戦への御助力、心より感謝を申し上げます。また、これまでの度重なるご無礼、誠に申し訳なくお詫び申し上げます。」
アジーナおばさまとシャイナ教聖騎士団の面々は深々と頭を下げる。
その中には感極まったのか、はたまたこの世界を産んだ神、鳳凰への畏怖の為か幾人かの者がその身を小刻みに震わせていた。
『・・・・ゴメン、鳳。やっぱりアジーナおばさまにバレちゃった。』
『仕方ないだろう。アジーナおばさんには死なれたくなかったしな。サーシャの為にも。』
『うん、そうだね。でも・・・神殿とかに閉じ込められるのは嫌だなー。』
『そこは、何とか交渉するしかないだろ。』
『う~ん。そうだね・・・・すっとぼけるっていうとは通らないかなー。』
『まあ、無理だろうな。アジーナおばさんは何だか最初っから薄々勘づいていたような気がするしな。』
『あ、やっぱり。僕もアジーナおばさまにはそんな雰囲気あるような気はしてた。各国のシャイナ教の神官に光の神子は鳳凰様の生まれ変わりだと吹聴もさせてたみたいだし。』
『となると、誤魔化しは通じないだろうな。』
『はー、やっぱり神殿送りかなー。』
『とりあえず、すっとぼけてみて、それが通らなければ交渉するしかないだろうな。』
『・・・うん。そうだね。』
僕はアジーナおばさまが死なずにすんだ事に、ホッとしながらも今度はこの先自分の身に降りかかる可能性のある不幸を何とか回避する努力をする事を心に決め口を開く。
「あはは、い、嫌だなーアジーナおばさま。何の力もない僕がこの世界を産んだ神、鳳凰様な訳ないじゃないですか。」
「何を仰いますか。この辺り一帯に満ちていたあれ程の乱世の狂気の邪気邪念を一瞬にして祓い清めた上に、この探知の指輪と魔法武器のブレスレットから溢れ出る清浄で清らかな力・・・間違いなく鳳凰様の加護の力ではありませんか。」
『うぐ。やはり誤魔化しは通らないか。』
・・・・。
「百歩譲って僕が鳳凰様の生まれ変わりだとしましょう。ならばアジーナおばさまは僕をどうなされるおつもりですか?」
「?・・・言っておられる意味がよく解りませんが。我等エルフは鳳凰様に仕える身。ならば鳳凰様の生まれ変わりであるシャイン様をどうこう出来る立場には御座いません。」
・・・・。
「と言うことは、僕を神殿に閉じ込めるような事はしないと?」
「そんな!我等が神である鳳凰様の意にそぐわないことを我等が出来ましょうか?」
「神って・・・・では、閉じ込めたりしないと?」
「しません!第一そんなことをすれば鳳凰様の守護神であった貴方の両隣に控えて立つゼンオウとゴオウを祖に持つ者達が黙ってはおりますまい。そんな命知らずなこと我等には出来ませんしする気もありません!」
それを聞いて僕は、ホウ、「よかった。」と安堵の息を吐き一人呟く。
「ですが。お側に仕える者は派遣させていただきます。」
・・・・・。
「分かりました。ただ、条件をつけさせて下さい。」
・・・・。
「どういった条件でしょうか?」
「僕の事は、あなた方の神としてではなく今まで通り人族のシャインとして接してください。これだけは譲れませんのでお願いします。」
「それは・・・分かりました。シャイン様の事に気付いた他の者達にもそれを徹底させておきましょう。」
「宜しくお願いします。」
そこまで話すとアジーナおばさまは徐に立ち上がり、シャイナ教聖騎士団の者達に今の会話の内容を徹底させるように言い付けるとアルブァロム王国軍を手伝い本陣の立て直しを命じた。
ふと、周りを見回すとアルブァロム王国軍の者達は後片付けに忙しいようでこちらの事には気付いていないようだった。
その後、アジーナおばさまは僕に近づくと「では、サーシャとの婚約もそのままで宜しいのですね。」と楽しそうな笑みを浮かべて囁いてきた。
僕は顔を赤らめ一瞬固まったが、一つ息を吐きぎこちなく首肯する事で応える。
すると隣に立つシャリーナ姉さまが、「シャイン様、そろそろ。」と声をかけてきた。
「ああ、うん、そうだね。アジーナおばさま、僕達はそろそろグランザム公爵領に出発させていただきます。」
「え?あなた方三人だけでですか?」
「はい。別行動の父さま達とグランザム公爵領の領主館近くで落ち合う約束になってますので。それと、アジーナおばさまの信頼のおける方二人に探知の指輪と魔法武器のブレスレットを渡しておきたいのですが。」
・・・・・。
「分かりました。オスカー・ライガス!クーレ・カトレナーゼ!」
「「は!」」
オスカー・ライガスと呼ばれたエルフの男性は緑色の髪に緑黄色の瞳、エルフ独特の尖った耳に端整かつ精悍な顔付きをしており、先の戦いでヒビ割れたシャイナ教聖騎士団の聖甲冑の上からでも鍛え上げられた逞しい体型が見てとれる。
クーレ・カトレナーゼと呼ばれたエルフの女性は新緑色の髪に緑黄色の瞳、エルフ独特の尖った耳にエルフの中でも美人の部類に入るだろう少し幼さを残す端整な顔付き、聖甲冑を着込むその体はかなり鍛え上げられているが女性独特の柔らかな曲線を失っていない整った体型をしている。
「クーレ。乱世の狂気の軍を抜けられなくて正解でしたね。」
と、アジーナおばさまが言うと、
「はい!」
と、クーレは嬉しそうに微笑んで応えていた。
探知の指輪(神護の指輪)と魔法武器のブレスレットの二人への受け渡しは、目立ちたくなかったのでアジーナおばさまの天幕の中で僕、アジーナおばさま、オスカー、クーレの四人だけで行った。
クロガネとシャリーナ姉さまには、他の人が近づかないように天幕の外で入口に見張りについてもらっていた。
「最後に、注意事項ですが僕の作った魔法武器は如何なる物でも破壊し邪気邪念の穢れを祓い清める事が出来ますが、生き物の命を奪う事はできませんので気をつけてください。」
「という事は、邪気邪念によるものでなく自分の意思で攻撃を仕掛けてくる者を倒すことは出来ないと?」
「はい。ただ相手の武器を破壊したり、一時的に戦意喪失せることは出来るとは思いますが。」
「分かりました。邪気邪念に囚われているかい無いかを正確に判断して使用しなければならないという事ですね。」
僕が、僕の作った魔法武器の説明をすると、アジーナおばさま、ク-レ、オスカーの三人は納得したように頷いていた。
「それではクーレ、直ぐに出発の準備を。オスカー、聖騎士団は任せます。これだけ痛い目をみたのだから大丈夫だとは思いますが、ぐれぐれも援軍が来るまでアルブァロム王国軍が動かないように手綱を掴んでおいてください。」
「は!お任せください。」
僕の説明が終わるとアジーナおばさまは直ぐにクーレとオスカーに次の指示を出した。
クーレとオスカーはアジーナおばさまから指示を受けると直ぐさま天幕を出ていく。
「アジーナおばさま、出発の準備って、まさか・・・」
「もちろん、私とクーレはシャイン様にお供します。クロガネとシャリーナ姫は確かに強いですが、やはり二人だけではシャイン様を守りきれないという事もあるかもしれません。」
と、アジーナおばさまは真剣な顔で言う。
「だけど・・・」と、僕が反論しようとした時、天幕の入口から顔を覗かせたシャリーナ姉さまが、
「私はアジーナ様の意見に賛成です。もし邪王と乱世の狂気の騎馬兵が襲ってきたら私とクロガネさんだけではかなり厳しいと思われます。それにアジーナ様もクーレ様もシャイン様の加護を受けています。あの騎馬兵ごときに遅れをとる事は無いでしょう。」
「そういうことです。」
アジーナおばさまはシャリーナ姉さまの援護を受けて満面の笑みでシャリーナ姉さまの言を肯定した。
「あと、アジーナ様、前にも申しましたが私は今、東神名国とは一時的とはいえ絶縁している身。名を呼ぶ時は呼び捨てでお願いします。」
「・・・・分かりました。」
シャリーナ姉さまはアジーナおばさまの了承の返事を聞き微笑んで顔を引っ込めた。
それから暫くして、僕達はアルブァロム王国軍の本陣を後にした。