第弐十四話
三十年程前・・・・
(アルカイザル・ポート・グランザム)
・・・愚か者共め。アルスの小娘では生命を良き方向へ導く事など出来ぬと今の世界の状況を見て分からぬとは。何が賢人十二人会議か。ここまで生命が穢れてしまったのは、乱世の狂気のせいばかりでは無い。慈愛だけでは生命は堕落するだけなのだ・・・
鳳凰様がこの世界を産み、この世界で生命は誕生した。
我らエルフの祖は、その生命を良き方向へと導くために創造されたのだ。
生命がまだ誕生したばかりの無垢な赤子の内は、我らエルフは慈愛を持ってその生命を導けばよかった。
しかし、生命が自我を持ち生きるための最低限の欲以上の欲を持つようになった。
その欲は高度な知性を持った者達ほど際限がなく、我らが幾度となく修正しようとも肥大を続けた。
その結果、欲にまみれた者達は邪気邪念を放ち始める。
そういった者達が暴走し世界を破壊するのを止める役目を担っているのが天人達なのだが、そこにまで至らねば天人達は動かない。
高い知性を持った者達が邪気邪念を撒き散らすのを阻止する役目を担うべきは、生命に寄り添い良き方向へと導く役目の我らエルフだ。
だが、今まで我らエルフはその役目を放棄してきた。
今の世界の状況はその結果であり、乱世の狂気はそこに付け入っているだけなのだ。
そんな、我らエルフと高い知性を持った者達を変えることがメルリーサに出来るとはとても思えん。
そんなある時、わしの兄である前王が次代を指名せず亡くなった。
わしは兄上は嫌いではなかったが、これは好都合だと思った。
何故なら兄上は間違いなく次代の王にメルリーサを指名すると思っていたからだ。
兄上が次代の王を指名せずに死んだことにより、賢人十二人会議が次代の王を選ぶ事になる。
賢人十二人会議のメンバーは王家十二支族の長からなり、皆各分野で優れた能力持つ者達ばかりだ。
ほとんどの者が、わしと同じ事を感じ同じ考えにたどり着いているだろう。
ならば、これまで通りの慈愛のみをもって生命達を導こうと考えているメルリーサを選ぶことはないだろうと、わしは考えていた。
だが・・・・
「何故メルリーサなのだ!」
「グランザム卿。貴方のお気持ちも分かるが貴方では招かなくともよい混乱を招く。」
「内務卿殿の言う通りですな。高い知性を持った者達はもう我らの手から離れる時期なのやも知れない。後は彼等の自浄作用に任せるべきでしょう。でなければ、我らの価値観の押し付けになってしまう。」
「それで、この世界が滅んでもよいというのか!卿らは!」
「ふむ。それでこの世界が滅んでしまうのであれば、それも我らが神の思し召しであろう。」
「座して滅びを受け入れると?」
「しかし、この世界、これでなかなかしぶといと私は思いますよ叔父上殿。」
「メルリーサ・・・・・もう、よい!後で後悔してもわしは知らんからな!」
・・・・賢人十二人会議が選んだのは、愚かにもわしではなくメルリーサだった。
・・・やはり、自分達に火の粉が降りかからぬ限り分からぬか・・・ならば、わしが火の粉、いや大火となって分からせてやるわ!・・・
*グランザム公爵領・領主館・地下*
「レグザム。わしが許可した者以外はこの地下研究室に誰も近付けるな。分かったな。あと中央に気付かれぬよう身寄りの無いハーフエルフの者共を集め暗殺技術を身に付けさせよ。」
「はい。アルカイザル様。」
わしは地下研究室に誰も近付けさせぬ事と暗殺者を養成するよう腹心の部下であるレグザムに言いつけ、そのまま乱世の狂気の研究の為に作られた地下室へと入っていく。
この地下研究室では約二千年間に渡り我がグランザム公爵家の当主が乱世の狂気について研究を重ねてきた。
乱世の狂気を祓い浄化する方法や、この世界から完全に消滅させる方法などの研究を行なっていた。
祓い浄化する方法についてはある一定の成果は上がっていたが、この世界から完全に消滅させる方法については我等エルフには不可能だと言うことが分かった。
その研究の中で乱世の狂気に少し手を加え、逆に自分の中に取り込み乱世の狂気の力を自在に操るという試みが行われた。
乱世の狂気は人の怒りや恨み、嫉妬や欲望といった負の感情だけでなく、周りに存在する他の乱世の狂気を力の強い乱世の狂気が吸収し更に力を増すという性質を持つ。
乱世の狂気を自在に操る事が出来れば、世界中の乱世の狂気を一ヶ所に集め一度に浄化出来るのではないかと考えられたのだ。
そして、その研究は一定の成果を上げ、研究に参加していた若いエルフ数人が自由意思で実験体として名乗りを上げ、実際に乱世の狂気を自分の中に取り込む実験を行った。
しかし、その実験に挑んだ若いエルフ達は乱世の狂気の邪気邪念に耐えられず皆一日ともたずに発狂死したという事だった。
その後も研究は続けられたが、乱世の狂気の邪気邪念が邪魔をして我らエルフには扱えないと結論付けられた。
そして、その実験に使われた乱世の狂気は封印用のクリスタルに封印され研究室は閉鎖された。
わしは過去の実験で乱世の狂気を取り込むのに何故失敗したのか、その当時の研究資料や実験データーを調べ上げた。
それにより分かった事は、乱世の狂気の核ともいうべき邪気邪念を消さずに、乱世の狂気とは全く正反対の存在である我々が乱世の狂気を取り込むには、その邪気邪念が自分の中で暴れ回らないようにしなければならないという事だった。
その方法としては、やはり邪気邪念とは正反対の存在である精霊とその乱世の狂気とを混ぜ合わせ互いにその存在を抑えあわせる事により、その邪気邪念を抑えることが出来るというものだった。
そうやって邪気邪念を抑えて、乱世の狂気の力だけを引き出そうとしたのだ。
精霊と乱世の狂気を合わせ互いにその存在を抑えあわせ、乱世の狂気の力だけを引き出す魔法回路を乱世の狂気に組み込むまでは上手くいったようだ。
しかし、それを取り込むと乱世の狂気の邪気邪念は生命として存在するための最低限の欲に触れただけでも精霊の抑えを破って暴走した。
その結果、若いエルフ達は発狂死したのだ。
・・・生命として存在するための最低限の欲でも邪気邪念は膨れ上がるというのか・・・
と、わしが思考していると研究資料の間に挟まっていたのだろう手紙がヒラリと足元に落ちた。
宛名は、わしの祖父ナーガス・ポート・グランザム、差出人はクリスティーン・オオトリとなっていた。
この研究室は祖父の代で閉鎖されたと聞いていた。
乱世の狂気の操作法の研究資料に、その祖父宛に大賢者からの手紙・・・・
わしは興味を引かれ、その手紙を開いた。
その手紙には・・・
**ナーガス・ポート・グランザム殿へ
乱世の狂気の操作法の可能性についての質問にお答えする。
乱世の狂気は、ある天人の青年がこの世界を怨み呪う怨念から生まれたもので、この世界を破壊し無に来そうとするものだ。
それを取り込み制御出来る者は、その天人の青年と同等以上にこの世界を怨み破壊し無に来そうと思う者でなければ無理だろう。
お前達エルフの祖は、全ての生命を見守り導くために創造された者、その為お前達の種族は慈愛に満ちている。
そんな者達が乱世の狂気を御するなど不可能だ。
今すぐ手を加えた乱世の狂気を含む研究資料は全て処分すべきだ。
クリスティーン・オオトリ**
・・・と記されていた。
「なるほど・・・・死者が出た上に大賢者からの意見もあり、祖父殿はこの研究室を閉鎖したのか。しかし、無理だと言われれば逆にやってみせると思うのは、我がグランザム公爵家の血のせいか・・・・」
グランザム公爵家の血筋の者には探究心の強い者が多く、無理だ不可能だと言われれば言われるほど可能となる方法を探りたくなる。
「わしは必ず乱世の狂気を御してみせる。そして、その力をもって愚か者共に現実を知らしめてくれるわ!」
(レグザム・ルーオ)
アルカイザル様が乱世の狂気の研究を始め半年程たった頃「乱世の狂気に対する抵抗力をつける薬だ」と言われ、館の使用人達は錠剤を渡された。
それから、一年程した頃には研究室から少しずつ乱世の狂気が漏れ始めた。
私がアルカイザル様から命じられた暗殺者の養成は、私自身が関われば足がつくと考え隣国の裏社会に存在する暗殺者ギルドに依頼することにした。
その暗殺者の引き入れには、鳳凰様を崇拝するエルフでありながら我が国にも僅かだが入り込んできているある宗教の信奉者となった者達を利用することとした。
奴等はその宗教の教義を成就させるために邪魔な我が国を内から崩壊させる事を目的としていた。
其奴等との交渉も全て暗殺者ギルドに任せた。
そこから足がつくことはないだろう。
アルカイザル様が中央からの呼び出しに全く応じなくなって、最初のうちは中央からの使者がひっきりなしに館を訪れたが、領内にも乱世の狂気が溢れ出すようになった頃には使者は館に辿り着いても乱世の狂気の邪気邪念に耐えられずすぐに引き返していった。
そして、そのうち中央からの使者は訪れなくなった。
乱世の狂気が領内に漂い始める頃には多くの領民がグランザム公爵領を離れていった。
しかし、先祖代々この土地に暮らしてきた領民達はグランザム公爵領を離れられずにいた。
そんな者達に、なんとか日常生活が出来る程度の自我が保てるように我々館の使用人達に与えている物と同じ錠剤を与えていたが、乱世の狂気の邪気邪念の為に喧嘩や犯罪が横行し始めていた。
恐らく錠剤を与えられなくなれば、殆んどの者がすぐにでも乱世の狂気に呑まれ発狂死するか狂戦士と化すだろう。
中央からの使者が訪れなくなって暫くすると今度は密偵が領内に入り込むようになった。
密偵は精霊魔法でも最も高度の魔法とされる精霊の加護魔法が使える者達で、乱世の狂気が溢れかえる我がグランザム公爵領を自由に動き回っていた。
しかし、そんな密偵達は簡単に見つけ出すことができた。
何故なら乱世の狂気の穢れの中では余りにも異質で非常に目立つのだ。
捕まえた密偵達はアルカイザル様の行う実験の実験台とされ殆んどの者は発狂死した。
アルカイザル様が地下の研究室に籠り乱世の狂気の研究を始め二十九年程が経とうとしていた。
しかし、研究は未だに上手くいかず乱世の狂気を操る手だては見つからなかった。
そんなある日の事、一人の人物が館を訪れた・・・・
「私はガルー・ドラグルという者、グランザム公爵殿にお目通り願いたい。」
そのガルー・ドラグルと名乗った人物はフード付きのローブを羽織、手にはグローブをはめ素肌を一切外気に触れさせないような姿をしていた。
その顔があるだろうフードの中はどす黒い澱みにより表情はおろか顔の輪郭さえも確認する事が出来なかった。
「ご当主に乱世の狂気の御し方を知っているとお伝え願いたい。」
(アルカイザル)
「乱世の狂気の御し方をご存知だとか?」
「・・・・ああ、それと、フードは被ったままで失礼させて頂く。まだ大賢者クリスティーンに私の存在を気付かれたくないのでね。」
目の前にいるガルー・ドラグルと名乗った人物が身に付けている物全てに結界の魔法印が施されているようだが、此奴の纏っている乱世の狂気が強すぎるのか服の裾などの隙間から乱世の狂気の黒い澱みが溢れだしていた。
「ああ、それは構わんが・・・ガルー・ドラグルと言ったか、確か二千数百年前の大戦時に名を馳せた破壊邪神の部下で十大邪王の内の一人の名だったと思ったが?」
「如何にも、私は十大邪王が一人、邪王ガルー・ドラグルだ。」
「・・・・なるほど、ならば乱世の狂気の御し方を知っていても不思議はないか。」
「ふむ。私が邪王と知っても動ぜぬか。」
「わしが乱世の狂気を御しようと思った時点で、こんなことも有るだろうと思っておったからな。それと、人伝に聞いた話と違い礼儀をわきまえておるようだしな。」
「ふん!人の話ほどあてにならぬ物は無いわ!特に戦中の話など勝者の都合のいいように歪めて伝えられるからな。」
「我らエルフが事実を歪めて伝えていると言うか!」
・・・・・・・。
「・・・・いや。だが、感情が少なからず入るのは否定できまい?」
「・・・・・」
「まあ過去の事はよい。それよりも乱世の狂気の事よ。エルフが何故この世界を無に帰すためにばら蒔かれた混沌の種を御したがる?」
「・・・・・貴様には分からぬよ。」
「ふん。まあよい・・・・・我らの目的達成のため力を貸してやろう。」
そう言い、ガルーは懐から闇よりも冥いと思われる黒く禍々しい指輪を数個取り出した。
「これは、破壊邪神様の加護を付与された指輪だ。此を嵌めればエルフでも乱世の狂気を御することが出来よう。」
(アジーナ)
「アジーナ様!見えました!王国軍本体です!」
私達は朝急使を受け慌てて王国軍本体に合流すべく馬を走らせ続けた。
グランザム公爵領に近づくにつれ異様に強まり始めた乱世の狂気の気配に焦りを募らせながら。
正午を過ぎ日が西に傾き始めた頃、やっと遠くに王国軍本体の上げる土煙が目に入った。
あと半時もしない内に王国軍本体に合流できるだろう。
王国軍本体が視認できる位置まで来た時には、グランザム公爵領から溢れ出た乱世の狂気のどす黒い澱みが王国軍を今にも呑み込もうとしているところだった。
「全軍停止!!」
長時間全力疾走させてきた騎馬をゆっくりと減速させ、全軍五百からなるシャイナ教聖騎士団を停止させる。
「ここより王国軍全体に、精霊の加護斉唱魔法[精霊王の息吹き]を掛ける!皆、魔力を一つに纏め上げよ!」
私は聖騎士団全てが停止したのを見計らって、聖騎士団に向かい声を張り上げた。
そして、王国軍に向き直り右手を上げると聖騎士団全体から魔力が立ち上ぼり纏まり膨らんでいく、と同時に聖騎士団の周りに精霊が集まりだしその存在密度が増していくのを感じる。
その魔力と精霊の存在密度がギリギリまで充実したのを感じた瞬間、上げていた右手を降り下ろした。
♪♪~♪♪♪~~♪~~♪♪~♪♪♪~~
腕を降り下ろすと同時に聖騎士団全員が精霊の斉唱加護魔法の詠唱を一糸乱れぬ呼吸で始める。
すると、聖騎士団の周りに存在密度が限界まで膨らんだ精霊達は力と輝きを増していく。
そして、その力と輝きが限界に達したとき、大地に溢れる精霊達と大気に満ち満ちた精霊達は、まるで弓から放たれた光の矢のように王国軍に向かった。
その精霊達は大気と大地の聖なる加護を纏いながら大きなうねりとなって王国軍を包み込む。
(軍務卿ガライアス)
カンカンカン!!「敵襲!!敵襲だ!!」
「ガライアス総大将!敵襲です!」
と、我の側近で副官を勤めるアドモスが慌てて我の天幕に駆け込んできた。
「分かっている!敵の兵力は!」
「それが・・・・」
「どうした?はっきりせんか!」
「我が軍を襲って来ているのは、先日先行させた我が軍の先行部隊です。」
「なに!?どういう事だ?」
「分かりませんが・・・・精霊の加護の羽根だけではグランザム公爵領の乱世の狂気は防げなかったのでは?」
「くそ!!・・・・・すぐにこちらに向かっているはずのシャイナ教聖騎士団に早馬を出せ!乱世の狂気に呑まれ・・・」
「ご報告します!」
我が副官のアドモスに指示を出しいると、別の部下が天幕に駆け込んできた。
「今度は何だ!」
「は!乱世の狂気に呑まれた友軍の後方より敵軍約一万が迫ってきています。それと、グランザム公爵領に留まっていた乱世の狂気が敵軍と共にこちらに向かって溢れて来ています!」
「何だと!!」
・・・今までは精霊の力の方が強かったが、グランザム公爵領の乱世の狂気は今までのものとは違い精霊の力を凌駕するまで力をつけていたというのか?・・・
昨日の正午過ぎ、我は大神宮の聖騎士団を待てという指示に反し先行部隊として槍兵盾部隊を含む歩兵部隊約四千騎馬部隊約千をグランザム公爵領へと向かわせた。
王国軍全部隊一人一人に精霊の加護の羽根が一枚づつ渡してある。
今までは、その精霊の加護の羽根一枚で十分乱世の狂気の邪気邪念から兵達を守ることができていた。
故に今回も精霊の加護の羽根さえあれば大丈夫だと判断していたのだ。
しかし、今朝早くにその先行部隊がグランザム公爵領から我の指示無く引き返してきたのだ、どす黒い乱世の狂気の邪気邪念の澱みを纏い狂戦士となって。
その後方からはグランザム公爵領から溢れ出した乱世の狂気に乗ってグランザム公爵領軍が我が王国軍に迫ってきた。
しかも精霊の加護の羽根ではグランザム公爵領の乱世の狂気は防ぎきれない。
このまま乱世の狂気に呑まれれば先行部隊の二の舞となるだろう。
「近接戦闘は避けよ!罠魔法陣を中心に敵軍の足を止め遠距離攻撃を行え!それと、急ぎ聖騎士団に早馬を出せ!」
今朝早くに戦闘を開始してから、今はもう正午を過ぎていた。
我々は罠魔法陣の足し止めと精霊魔法や弓矢による遠距離攻撃を行い近接戦闘を避けてきた。
相手は狂戦士ばかりの部隊で魔法や弓矢などの遠距離攻撃は全く無かったが、矢が刺さろうが腕や足が吹き飛ばされようがお構いなしに生きている限り我々に襲いかかろうと向かってきた。
しかも、ただただ向かって来るのではなくしっかりと部隊として統制されているような動きをしていた。
そして、正午前には遂にその死をなんとも思わない狂気の軍団に我が軍は捕まってしまったのだ。
そして、近接戦闘を開始して暫くしてどす黒い乱世の狂気の邪気邪念が我が軍に襲いかかってきた。
「く・・・・精霊の加護の羽根がなければ直ぐにも乱世の狂気に呑まれいたかもしれないが、それも時間の問題か・・・」
乱世の狂気のせいで体は重く気分は吐き気を催すほど悪くなった。
「ガライアス様。ここは大神宮様の命どうり本陣を下げるべきです!」
「いや、恐らく奴等は我らを逃がす気は無いだろう。それにここで我等が退けば間違いなく我が国は乱世の狂気に呑まれだろう。」
「ですが・・・・」
「何とかして、聖騎士団が来るまで頑張るのだ!」
「は!分かりました!」
それから、一時程した頃には全軍乱戦模様となり乱世の狂気に呑まれるのも時間の問題となっていた。
「キシャーーーー」
ギン、ドッ!「グッ!」
我に狂戦士が奇声を上げ剣を振り上げ襲いかかってきた。
その剣を払い心臓を一突きにする。狂戦士は呻き倒れた。
「ガライアス様!大丈夫ですか!」
「うむ・・・だが、最早これまでか・・・」
「我が軍も奮戦しておりますが、この乱世の狂気の中では・・・・」
「もう、精霊の加護の羽根の力も尽きる頃だな・・・・」
我が副官のアドモスとこの敗戦色濃くなった戦いについて話していると、不意に我が軍の後方から、強く優しい清らかな力を含んだ風が吹いたかと思うと我らの周りを満たしていた乱世の狂気の邪気邪念が一瞬にして払い清められた。と同時に四肢に力が湧いてくる。
ギャーーーーー!
グガーーーーー!
ガーーーーーー!
同時に周りにいた狂戦士達が突然苦しみ出した。
「援軍だ!!シャイナ教聖騎士団だ!!」
と、誰かが叫んだ。