第弐十弐話
(凰)
僕が溜め息を吐いた後、エスカーナ様は立ち上がり、船に向かって大声を張り上げた。
「サクヤ!そんな所で縮こまってないで、降りてきて我等が主であるシャイン様に御挨拶なさい!」
「は、ひゃい!!」
と、船の降り口の陰に隠れて、こちらの様子を伺っていたのだろう少女が、慌てたようにピョン飛び出して返事をする。
そして、そのサクヤと呼ばれたシャリーナ姉さまを幼くしたような魔人族の少女は、トタタタタとタラップを駆け降りてくる。と、途中で、ドタ!ズザザザザーーーと見事に顔面ダイブを決めていた。
「イ、イタヒ・・・」と言いながら、サクヤさんは涙目になりつつ鼻を押さえて立ち上がり、ふらふらと歩いてエスカーナ様の側までやって来くると、エスカーナ様の陰に隠れるようにして此方を覗きこむ。
「まったく、この子は・・・・誠に申し訳ありません、シャイン様。この子は父親以外は魔人族しか見たことがなく、その上ひどい人見知りで・・・ほら、サクヤ、ちゃんとシャイン様に御挨拶なさい。」
「は、はい。お母様。し、シャイン様、御初に御目にかかります。サクヤと申します。どうぞ、お見知り置きください。」
と言って、サクヤさんは膝ま付いた。と、思ったら、すぐに立ち上がりエスカーナ様の陰に隠れてしまう。
「あ、あはははは。僕、随分と怖がられています?」
「こら!サクヤ!・・・・全く、もう!」
エスカーナ様は自分の背に隠れているサクヤさんを、なんとか僕の前に出そうとするが、サクヤさんは頑として出て来なかった。
「あははははは、そんな無理して出てこなくてもいいですよ。」
・・・・。
「申し訳ありません。」
「全く、姉さまは何歳になってもダメダメなんだから。シャイン様は優しいから大丈夫なのに。」
「だって~、シャリーナ~。」
僕がサクヤさんに「無理に出てこなくていい」と言うと、エスカーナ様が申し訳なさそうに謝り、シャリーナ姉さまにダメ出しされたサクヤさんは情けない声を上げていた。
『サクヤさんて、シャリーナ姉さまの双子のお姉さんなんだよね。』
『ここまでの流れからして、そのようだな。雰囲気のせいもあるのだろうがシャリーナ姉より随分幼く見えるが。』
『やっぱり鳳もそう思う?』
『ああ。』
と、僕達が思考していると、
「うん・・・・叔父上が、サクヤでなくシャリーナを連れてきた訳が分かった。」
と、カクラ母さまが納得したように呟いていた。
・・・・。
『確かに、あれでは・・・いろいろ問題が有るよな。』
『・・・・うん。』
「あ、そうだ、もう一つお渡ししたい物があるんだった。」
・・・・。
「何でしょう?」
「これです。」
僕は腰にぶら下げた小さな袋から指輪を二つ取り出して、エスカーナ様とサクヤさんに見せた。
「印から見て・・・凰様の神具の指輪ですね。」
・・・・。
「よく分かりましたね。これは、神護の指輪と言います。魔法道具の探知の指輪がベースになってます。これも僕が作った物なんですが、受け取って頂けますか?シャリーナ姉さまにはもう渡してありますから。」
「そうですか・・・それでは有り難く頂戴致します。」
と言って、エスカーナ様はまた膝ま付く。エスカーナ様の後ろに隠れていたサクヤさんも慌てて膝ま付いた。
それを見て、はぁっと、僕は小さく息を吐き指輪を二人に手渡した。瞬間、ボッと、それは光輝き、その光が収まると精緻で美しい紋様のような神印を刻まれた指輪は、淡い炎のような光を纏っていた。
エスカーナ様の物は、紫と透明な光の色を、サクヤさんの物は、菫色と透明な光の色をしていた。
それを見て、サクヤさんは、「凄い・・・・キレイ」と、少し頬を染め呟いていた。
それに対して、僕は微笑むに止めた。
「これ程の物・・・・シャイン様には頂いてばかりで心苦しいのですが・・・」
「いえ、気になさらないで下さい。身近な人や、お世話になっている人達にはお渡ししていますし・・・それに、貴女方にはこの世界の命運を左右する封印を守ってもらっているのですから。」
と、僕が言うと、恐縮しながらも二人共嬉しそうに自分の指に嵌めていた。
「代わりに、と言ってはなんですが・・・私の娘をもらっ・「・」・ごめんなさい。勘弁して下さい。ほんと、もう手一杯です。」
エスカーナ様が全てを言い切る前に、僕は全力でお断りした。
実際、手一杯だし・・・それに、娘さんの気持ちも聞かずにその将来を親が勝手に決めるのは如何なものかと僕は思うんだ。が、サクヤさんは、母親の言を聞き一瞬真っ赤な顔をして恥ずかしそうしながらも嬉しそうな表情をした後、僕の返事を聞いて悲しそうな表情になる。ごめん、ほんと勘弁して下さい。
シャリーナ姉さまは、楽しそうに微笑んでいるだけだった。
「残念です・・・コホン、では、本題に入りましょう・・・破壊邪神の封印なのですが・・・」
と、本音を呟いた後、エスカーナ様が一つ咳払いをして、エスカーナ様達がここに来た本来の理由に話題を戻す。
「シャイン様から頂いた、このシャイン様の封印を修正強化する神具、確かに素晴らしいものです・・・素晴らしいものなのですが、失礼ながらまだ幼い雛鳥のシャイン様の作る物では、封印をもたせられるのはクリスティーン様が言われたとうり十年程度が限度でしょう。それだけ、破壊邪神の力が増してきているというのもありますが。」
「ふむ・・・分かってはいたが・・・今のシャインの作った物では、やはり、その程度が限度か・・・」
「はい。勿論、今のシャイン様が破壊邪神にぶつかるのはもっての他です。ですので、十年以内にシャイン様には、成鳥へと成長していただかなければなりません。」
「まあ、十年もあれば大丈夫だろ。」
・・・・。
「そうですか。ならば、シャイン様の事はクリスティーン様にお任せ致します。」
「ああ、分かったよ。」
『僕・・・雛鳥だったんだ・・・』
『まあ、そうだろうな。まだ生まれて十二年だし。』
・・・。
『話の流れからいって、成長すれば何らかの力が使えるようになりそうな話だったけど・・・・鳳の心臓を失っている影響も成長とともに無くなっていくのかな?』
『かもしれんが・・・・俺は破壊邪神とぶつかるというのが気になったのだが・・・』
『ああ、うん、そうだね。でも、破壊邪神が封印を破ったら、先ず先に僕達を狙ってくるんじゃないかな?』
・・・・。
『そう言われれば、そうか。乱世の狂気を生み出したのが破壊邪神なら、乱戦の狂気を祓い浄化する神具とかを作り出す凰は目の上のたんこぶ、とも言えるな・・・・』
『そう考えると・・・・この先、今までみたいにノホホンとはやっていけなくなるのかも・・・』
と、僕達が考えていると。
「あ、それと、重要な事を、お知らせするのを忘れていました。数体の邪神将が封印から抜け出し、何体かは滅したのですが何体かがこのゴンドアルカ大陸に向かいました。誠に申し訳ありませんがお気をつけください。」
と、エスカーナ様が申し訳なさそうに不吉な事を言う。
「それは!・・・仕方ないか・・・分かった。」
と、婆さまが不満の声を上げかけたが、思い止まり承知した。
「・・・・用件も済みましたし、シャイン様、皆様これで失礼致します。今、封印を八守天の一人、天魔導アスラバ殿に任せてあるのですが、やはり気になりますので・・・。シャリーナ、しっりとシャイン様をお守りするのですよ!カネタカ様には以心伝心の法で私の方から伝えておきますから。」
「分かりました。お母様。」
「では。失礼致します。」と、エスカーナ様とサクヤさんは僕達に頭を下げて船に戻り、魔人族の島ニーブルローデスへと帰っていった。
その船を見送った後、婆さまが、「それじゃあ、私たちも里に戻るかね。」と言って歩き出した。
「婆さま。エスカーナ様が言っていた邪神将って何ですか?」
と、エスカーナ様が言っていた不吉なものの事について僕は婆さまに尋ねる。
「ああ、二千数百年前、破壊邪神に従い破壊邪神に力を与えられた者達だ。」
「そんな者達がいたのですか。」
「ああ・・・破壊邪神の下には、この世界を恨む者達が多く集まったからな・・・」
「今回、封印から抜け出した者達の数は強い者から弱い者まで約十体近くで、このゴンドアルカ大陸に潜伏しているようです。」
と、シャリーナ姉さまが補足する。
「シャリーナ。そう言えば、お前さん、乱世の狂気の勢力分布とか調べてきたんだったね。」
「はい。」
「邪神将が潜伏していそうな辺りを知らないかい?」
「そうですね・・・・潜伏している可能性が高い所は、二ヶ所、疫病で滅亡し今は全ての土地を濃い穢れに覆われた旧シグナリア公国。それと、アルブァロム王国南部領グランザム、この二ヶ所ですね。」
「ふむ、グランザムか。二十年程前、王位争いで敗れた前王の王弟でもあるグランザムの領主が引き籠り、乱世の狂気が湧き始めているという噂があった。其奴は、変に思い込みが強く頑固者らしいからな。そこに乱世の狂気が付け込んだのだろう。しかも数年前から、そのグランザム周辺は立ち入りが制限されていたようだが・・・」
「はい。それと、アジーナ様から聞いた話なのですが・・・もしかしたら、そのグランザムに討伐軍が近々派遣されるかもしれない、との事でした。」
「なるほど・・・・だから、アジーナ達 は去年から里に遊びにこれずにいるわけか。」
「そのようです。アジーナ様もサーシャ様も隠者の里に来れないのを残念がっていました。」
「しかし、邪神将か・・・その中に、邪神王がいたら不味いね・・・・シャイン、神具の武器は作れるかい?」
「え?えっと、まだ魔法武器製作の本が読めてないから・・・・一月後には・・・」
「半月で作れるようになりな。」
「えー・・・」
「でなければ、アジーナ達が死ぬことになるよ。」
「頑張ります!」
(サーシャ)
私は、今、シャイナ教聖騎士団副団長オスカー・ライガスの駆る騎馬に、オスカーに抱えられるようにして乗っていた。
私はお母様から離れたくなかった、非常に嫌な胸騒ぎがするのだ。
一週間程前、グランザム領の乱世の狂気の浄化及び討伐が決まった。
それには、アルブァロム王国軍二万とシャイナ教聖騎士団五百が向かうこととなっている。
その聖騎士団団長は、シャイナ教大神官でもある私のお母様、アジーナ・ポート・アルスだ。
昨日の、昼前、お母様の出陣前に私はお母様に無理を承知で、この討伐の延期を王に頼んでくれるよう嘆願した。
「お母様、お願いしますからこの討伐の延期を王に頼んでください。」
「サーシャ。無理を言ってはダメですよ。王国軍はもう既に王都を発っているのですから。」
「ですが・・・・私は、胸騒ぎがするのです。」
「・・・・分かりました、サーシャ。オスカーに送らせますから、貴女はこれから隠者の里に向かいなさい。私が迎えに行くまで絶対にシャインから離れてはダメですよ。」
「え?どういう事ですか、お母様?」
「念のためです。貴女は何も心配しないで、隠者の里で待っていなさい。」
そう言われ、私は殆んど無理矢理にオスカーに抱え上げられるようにして馬に乗せられ、隠者の里に向かっていた。
隠者の里の入口には、珍しくアカガネが私を迎えに出てきていた。
「サーシャ様、お久しぶりに御座います。騎士殿、サーシャ姫のお送りご苦労様でした。私大賢者様にお仕えする者で、アカガネと申します。我が主の命で姫様をお待ち申しておりました。」
・・・・。
「うむ。姫様をよろしく頼む。」
アカガネが、私とオスカーに対し恭しく頭を下げると、オスカーは馬上から軽く頭を下げる。
「アカガネ、クリスティーン様とシャインの所に連れて行って。」
と、私は馬上からアカガネに降ろしてもらうと、アカガネにそう言った。
「はい。クリスティーン様からもその様に仰せ付かっております。」
と、アカガネは即応する。
「それでは姫様、私は此れにて・・・」
「ありがとう、オスカー。お母様の事、頼みます。」
「はっ!お任せください!では・・・」
オスカーは、元来た方向へ馬首をめぐらすと私に別れを告げる。
それに対し、私がお母様の事を頼むと、オスカーは力強く応諾の意を表す。と同時に、自分の跨がる愛馬の脇腹に蹴りを入れ、シャイナ教聖騎士団の本体に合流すべく走り去っていった。
私とアカガネは足早に隠者の里のクリスティーン様の館へと続く道を歩いて行く。
一年前までは、その道をお母様とゆっくり歩き、掛けられる声に応えたり纏わり付いてくるハーフエルフの子供の相手をしつつ、その温かくも長閑な雰囲気を楽しんでいた。
だが今は、それが遥か昔のように思えた。
それだけ私の心には余裕が無かったのだ。
・・・クリスティーン様ならば私のこの不安を取り除いてくれる。シャインなら、きっとお母様を危機から救ってくれる・・・
と、私は藁をも掴む思いで隠者の里に来たんだ。
なぜ私はここまで不安になり、気持ちが追い詰められているのか自分でもよく分からない。
ただただ不安で不安で仕方がなかった。
私がアカガネの後ろについて歩いて、暫らくした頃、目的の館が見えてきた。
その前には、車イスに座った老婆が何時もの柔和な笑顔で私を迎えてくれていた。
「クリスティーン様!!」
私は、その姿を見るや否や駆け出していた。
そして、その膝にすがり付き、「お母様を助けてください!きっと大変な事になります!」と、懇願した。
「おやおや、可愛い顔が台無しだよ。そんなに大粒な涙を流して・・・不安で仕方がないんだね。でも、大丈夫、お前の大好きなお母様は助かるよ。」
「ほ、ほんとう?クリスティーン様。」
「ああ、本当さ。この千里眼の大賢者が言うんだ、間違いないよ!安心おし!」
「・・・うん!」
「それに今、お前のお母様を助けるためにシャインが魔法道具を作っている。あと二日もすれば全て完成するだろう。」
「本当?」
「ああ、だから、お前は、私とシャインを信じて大人しく待っておいで。」
「はい!」
私は、クリスティーン様の姿を見て張り詰めていた気持ちが弛んだのだろう、知らぬ間に流していた涙をクリスティーン様に優しく拭ってもらい。その後、シャインが魔法道具を作っている作業場へと移った。
私はそれから二日間、一心不乱に魔法道具を作っているシャインの後ろ姿を見て過ごした。
(凰)
「で、できた!!」
十日で三十個のSクラス魔法道具(神具)の作製は流石に過酷だった。
この十日間、食事も寝起きも作業場でする羽目になった。
「お疲れさま、シャイン。」
「あれ?サーシャ姉さま来てたの?」
「二日前からずっといたよ。」
「ゴメン、気づかなかった・・・」
「ううん、いいよ。シャイン、お母様の為に一生懸命作ってくれてたんでしょ。」
「・・・うん。」
「ありがとう。」
「ん・・・・」
サーシャ姉さまは僕に感謝を言うと同時に、優しく抱き締めてきた。
「それで、どんな魔法道具を作っていたの?」
「ああ、うん・・・えっと、魔法武器のブレスレット。」
「魔法武器のブレスレット?」
「うん。普段はブレスレットなんだけど魔力を少し流し込んでやると、その人にあった武器に姿を変えるんだ。例えばサーシャ姉様なら光の精霊剣とかにね。で、その剣から手を離すとブレスレットに戻って腕に嵌まるようになってるんだ。しかも、魔法は使い放題。」
「え?魔法が使い放題って・・・光の精霊剣なら、その付与されている光の精霊魔法が使い放題ってこと?」
「そ。」
「なにそれ、それを持ってる人はすっごい有利じゃない・・・・。」
「しかも、神具化してる。」
・・・・。
「神具化って?」
「え?・・・・あ、えっと、護符と同じ邪気邪念を退ける力もついてるっていうこと。」
・・・・。
「ふう~ん。」
『あ、危なかった。普通の人間が神具なんて作れないのに。頭にのって口が滑った。』
『おいおい、気を付けろよ。一生幽閉暮らしなんて嫌だぞ。』
『だよねー・・・』
と、僕達(鳳・凰)が冷や汗をかいていると、「おや、出来たかい?」と言って、婆さまが作業場に入ってきた。
「はい。」
「よし。アカガネ、皆を呼んできておくれ。」
と、婆さまが言うと、
「畏まりました。」
と言って、アカガネは作業場を出ていった。
「シャインは、皆にその魔法道具を渡したら少し休むといい。」
「分かりました。そうさせていただきます。」
それから、僕が皆に魔法道具を渡し終えたのは正午前だった。
その後、食事を摂り少ししてから横になった。
ふと、目が覚めると辺りはもう暗くなってきていた。
むにゃ「・・・シャイン・・」
何気無しに声のした方を向くと何故かカリン姉さまが寝ていた。
『そういえば、このところ自分のベッドで寝てなかったよね。』
『ああ・・・・カリン姉も寂しかったんだろう。邪魔したら悪いと思ってたのか作業場にもほとんど来てなかったからな。』
『うん・・・・もう少し一緒に寝ててあげようか。』
『そうだな・・・・』
それから、少しして母さまが食事に僕達を呼びに来た。
食後、僕達はカナコさん達や婆さまも含めた家族全員で作戦会議を開いた。
「これ迄の情報によると王国軍本体はクランザム近傍に既に到着しており、三日後にシャイナ教聖騎士団はその王国軍に合流するそうです。」
「ここからクランザムまで、馬で約五日・・・・」
「ふむ・・・・なんとか間に合うかね。」
カナコさんが里の者達が集めてきてくれた情報を皆に伝えると、カンザブロウ父さまが里からクランザムまでの日数を口にする。
それを聞いた婆さまは顎に手を当て、少し考えるようにしてから呟いた。
「僕は先ず、アジーナおばさまに神護の指輪と魔法武器のブレスレットを届けたいのですが。」
と、僕が手を上げて発言すると。
・・・・。
「そうだね。王国軍と聖騎士団の方はシャイン達に任せよう。後は、他の者達の作戦行動を決めるとしようか・・・・・」
と、クリスティーン婆さまが言うと、皆、それぞれ意見を述べ始めた。
一時近くアルブァロム王国軍、シャイナ教聖騎士団援護作戦の議論をし作戦が決まった後、翌朝日の出と共に行動を開始する事になり、各々準備をする為その場を後にした。
婆さま、母さま、カナコさん、カリン姉さま、サーシャ姉さまは里に残ることとなった。
母さまとカナコさんは、自ら今回の作戦行動を辞退した。
その理由については「皆が帰ってきた時に知らせる」と二人して微笑みながら「だから、みんな無事に帰ってきて」と言っていた。
婆さまは、「今回は、私の出番はないね」と言って辞退した。
カリン姉さまとサーシャ姉さまは、「「絶対にシャインに付いて行く!」」と聞かなかった。
「カリン姉さま、あまり聞き分けが悪いと嫌いになりますよ。」
と、僕が言うと、
「むー・・・」
と唸って涙目で睨み付けてきたので、
ハア「分かりました・・・帰ってきたら何でも一つ言うことを聞いてあげますから。」
と言うと、パアッと笑顔になって、
「何でも!!」
と、カリン姉さまは念を押してきた。
「はい・・・」
と、それに対し僕が応えると、
「分かった!私待ってる!」
と、嬉しそうにカリン姉さまは言った。
そのカリン姉さまの素敵な笑顔に一抹の不安を感じながら僕は一つハア、と大きな溜め息を吐いた。
次に、サーシャ姉さまの方を見ると、
「私は、絶対にシャインに付いて行くから!お母様に「絶対にシャインから離れるな」と言われてるんだから!」
と言って、そっぽを向いてしまう。
『ハア、これは、どうしたものかなー。』
『・・・カリン姉に使った手は通じないか・・・』
『うん。アジーナおばさま厄介なことを言ってくれるよね。』
・・・・。
『そういえば、サーシャ姉にはまだ神護の指輪渡してなかったんじゃないか?』
『うん?・・・そういえば・・・そうだ!』
「サーシャ姉さま。もし、この里で僕を待っていてくれると言うのなら、この指輪を差し上げますけど、どうします?」
と、僕がサーシャ姉さまの分の神護の指輪を懐なら取り出す。と、それを見てサーシャ姉さまは、パアッと目を輝かせた。が、直ぐに悩み顔になる。
・・・ふむ、もう一押し・・・
「帰ってきたら、魔法武器のブレスレットも作ってあげますよ?」
と、僕が言うと〈どうしようどうしよう〉というサーシャ姉さまの心の葛藤が表情にありありと現れる。
・・・・・・。
「言うことも聞いてくれる?」
と、サーシャ姉さまが上目ずかいで聞いてくるので、
・・・・・・。
「もちろん。」
と、僕は応えた。
・・・・。
「なら、待ってる。必ず母様を守って、そして帰ってきてね。」
と言って、サーシャ姉さまは少し微笑んで、「ん・・・」と言って、頬を赤らめながら左手を差し出した。
『ですよねー・・・』
と、僕は心の中で呟きながら、その左手の薬指に神護の指輪を嵌めてやる。と同時に、神護の指輪は強く優しい光を放ち、その光が収まるとその神護の指輪は淡い炎のような揺らめく新緑色と透明な光を纏っていた。
それを見て、サーシャ姉さまは最初の内驚き目を丸くしていたが、直ぐにその指輪を胸に抱き締め、「暖かい、シャインに抱き締められてるみたい。」と、幸せそうな笑みを見せ呟いていた。
『やれやれ・・・』と、僕が思っていると、「ずるい!サーシャ姉さまばかり!」と、カリン姉さまが膨れっ面になっていた。
その顔を見て、僕はハアッと盛大な溜め息をついてしまった。
「私も、魔法武器のブレスレット欲しい!!」
と、カリン姉さまが言うのを聞いて僕は正直ホッとした。
「勿論、カリン姉さまにも作ってあげますよ。」
と、僕が言うと、「やったー!」と、カリン姉さまは喜んでいた。
『もっと、何かごねられるかと思った。』
『よかったな、大したことでなくて。』
その後、僕達は明日に備えて早めに眠ることにした。