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第壱話

 異世界エルドアンド 聖神武暦2130年


 世界の頂点に立つ天の神子、神武の力弱まり。

 世界は、今、戦国乱世の混沌の真っ只中にある。

 群雄割拠し、弱肉強食、下克上が世の常となっていた。



 「カンザブロウ!姫を任せた!」

 「キリマル殿・・・。」

 「ここは、わしが食い止める!早く行け!」

 「・・・・すまぬ。」


(カンザブロウ)

 魔物の森の手前で深い森の道無き所を行くのに長けた騎馬、小型の基本二足歩行の地竜から飛び降り、キリマル殿が追ってに向かって左右の腰に差した刀を両手で抜き放ち叫んだ。


 俺はキリマル殿に一言詫び、「死ぬなよ!」と、言って姫を自分の地竜の前に乗せたまま、他の者達と共に魔物の森へと駆け込んでいった・・・・・・。


ー*-*-*-*-


 ・・・二週間ほど前 ・ 7月2日 初夏  東神名国ひがしかみなこくの都 真都しんと 真上城まかみじょう・・・


 「まったく!どうして叔父上様はああも好戦的なのか!」

 「姫様、その様な大声で・・・。」

 「構うものですか!人がやっとの思いで隣国二カ国と同盟を結んだと言うのに・・・。あの人は、民の、力を持たぬ者達のことをこれっぽっちも考えていないのです!」


 カクラが叔父について愚痴を溢しながら側仕えのカナコと鶯張りの片廊下を歩いていると、前からキリマルがご機嫌な様子で歩いてきた。


 「よう、カクラちゃん、朝からご機嫌斜めだなー。」

 「キリマル様!姫様をちゃん付けで呼ばないで下さいと何度言えば解るのです!」

 「カナコ、いいのです。キリマル殿には好きにお呼びくださいと言ってあります。」

 「ですが・・・それでは、他の者に示しがつきません。」

 「それよりも、キリマル殿もうお昼ですよ。・・・と言うか、また朝からお酒ですか?」

 「おう!酒はわしの力の源だからな!」

 「はあー、・・・そうですか。」


(カクラ)

 私はため息混じりに答え、「仕事がありますので。」と言って頭を軽く下げると、「おう。」と言ってキリマル殿は歩き去って行く。


 キリマル殿と別れ鶯張りの渡り廊下を、キーキーと軋ませながら自分の執務室である書斎へと向かう。


 ・・・本当に叔父上様の戦好きには困ったものね・・・


 ・・・今日も朝早くから城に来て、国主である父上とその補佐を勤める兄上と私が今後の国の方針について話し合っているところに乱入してくる始末・・・


 ・・・今のところは、国主である父上の命には従っている様だけど・・・


 叔父上は十年ほど前、隣国との海戦の折、乗っていた船を撃沈され海を漂流しニーブルローデスという島の魔人族の国に流れ着き、死に掛けているところを魔人族の女王に助けられたらしい。


 その時に魔人の血を輸血されたらしく、外見は普通の人と余り変わらないが額の右上に頭に沿うように小さな角が一本生え犬歯が人より少し長くなっている。


 それと、魔人の血の影響で腕力と魔力が人間離れしている。

 その叔父上が五年前突然、魔人族の女王との間に出来た三歳の娘を連れてこの国に帰ってきたのである。


 魔人族は二千年以上前に存在し、戦では負けなしと言われた伝説の戦人いくさびとの種族である。


 その特徴は、頭に二本の角を生やし髪は黒く、その肌は濃い褐色で瞳の色は黄金色。


 その能力は、ドワーフを遥かに凌ぐ腕力と、天人を凌ぐ魔力、そして高い統率力と言われている。


 魔人族は、海の霧の壁の向こう側にある大陸のような大きな島に住んでいると言われているが、霧の壁の向こう側へ行けた者がいない為今まで確認できなかった・・・。


 叔父上が連れて来た娘は、まさに伝説道理の外見をしていた、ただ混血という事で肌は綺麗な小麦色をしていた。


 叔父上が、娘を連れてきたのは魔人族の女王のふみによると、夫の国との和平の象徴とする為とあったのだが・・・・。


 因みに、叔父上と女王の間には双子の娘がおり、その内の一人を連れてきたらしい。 


 その叔父上に飛び付いたのが、和平推進派の父上に押さえ込まれていた戦争推進派の地方領主達である。


 もともと戦好きの叔父上が取り込まれるのにさほど時間は掛からなかった。

 今では戦争推進派の急先鋒である。


 ・・・これ程しつこく言ってくるとなると。そのうち父上の命を無視して、暴走する可能性も気をつけておかないといけないわね。反乱を起こすとは思えないけど、勝手に隣国に攻め込む可能性は否定できないし・・・それに、父上を追いやり叔父上を国主に、と過激な事を言うような者まで出てきていると言うし・・・ま、叔父上にはその気は無いようだし、今のところは暴走しそうな戦争推進派の地方領主を押さえ込んでくれているようだけど・・・

 

 「カナコ、一応、神無かんな領主の叔父上様と戦争推進派の地方領主達の動向を探るように、貴女の手の者にお願いできるかしら?」

と、私の御付きの者であるカナコに訪ねると、「わかりました。」と、彼女は了承してくれる。


 カナコの一族は人間とエルフのハーフで、隠者の森に住み光と闇の力と技に秀でている。

 その為、諜報活動など裏側の仕事を得意としていた。


 ハーフエルフはエルフと同じく争いを好まないため、基本的にどの勢力にも付かないと言うことだが、とある経緯いきさつがあり、今のところは私個人のもとに付いてくれている。

 因みに、私にはカナコの他に二人、影と呼ばれる者が護衛として付いているそうだ。


 と、いろいろ思い巡らしている内に私の書斎に着いた。

 私は執務を行うため机につき、カナコは入り口の障子付近に控える。

 書類を確認しながら、また、あの叔父上の事が頭によぎると同時にキリマル殿と出逢った時のことを思い出す。



 あれは・・・そう、半年前の事。


 私が難航を極めた三国同盟を何とか成立させ、都への帰路の途中、国内最大の森林地帯に入って半日程経った頃だった。


 突然馬車が止められた。


 何事か?と、思っていると、トントンと馬車の扉が叩かれ、

「野盗の襲撃です!道が倒木で遮られています。野盗を蹴散らしますので、暫くお待ちください。」

と、護衛の武士が伝えてきた。


 それからすぐに、刀を切り結ぶ音と呪術や魔法の炸裂する音、気合いを入れる声や呪文を唱える声が聞こえてきて、私とカナコが乗る馬車を中心に激しい攻防が繰り広げられているのが伝わってくる。

 

 私の護衛は皆歴戦の猛者ばかりで、野盗ぐらいならすぐに蹴散らせる実力を持つ者達ばかりである。が、刀を切り結ぶ音や呪文の声を聞いていると、相手も只の野盗ではないのが感じ取れる。


 これは、早めに動くべきだ!と、私の勘が叫ぶ。

 カナコの方を見やると、彼女も気付いているようだ。

 私とカナコは別々の扉から馬車を飛び降り、馬車に繋がれている馬を馬車から離し飛び乗った。

 

 「護衛の者共よ、今から私が血路を開く!我に続け!」


 私は左右の腰に差した愛刀、弐刀一対の小太刀、陰陽五行刀おんみょうごぎょうとうの左の腰に差した陰刀おんとうに念を込めて手を掛た。そして、馬上から数十メートル離れた倒木に向け、居合い抜きの要領で陰刀を鞘走らせた。


 念を込められた黒い陰刀の刃から陰の黒い光の刄が放たれ、地を這い数人の野盗諸とも倒木を両断する。と同時に、陰陽五行刀の能力の一つ、五行を操る能力の内、陰刀の能力である金行を操る力が発動した。

 その切断面から無数のやいばが出現し、ズババババーーーーンと倒木と野盗を木っ端微塵に切り刻んでいく。


 その有り様を愕然と見ている野盗の間を、その木片と肉片が舞い散るなか私とカナコは馬を駆り走り抜けて行く。

 その後ろについて護衛の者達が馬で走り抜ける。


 少しして、後ろから怒声と魔法を放つ音が聞こえてきたが野盗の虚を突けた為、ある程度の距離をとれたのと一番後ろの者が防御陣を張れたため、損害は軽い怪我をした者がいるだけで逃げおおせそうだった。


 野盗を振り切りあと数刻、馬で走れば森から出られる所まで来た。


 気がつけば、日が暮れ始めている。と、ザザザ---・・・、不意に周りの森がざわついた、瞬間、黒く大きな影が3つ目の前に躍り出た。「!?・・ヒヒーー・・・!!」驚いた騎馬達が急停止し2本足になって仰け反った!


 私は振り落とされないようにしがみ付きながら、何とか馬を宥めて落ち着かせる。

 そして、前方の3つの黒い影を睨み付ける。


 グルルル・・・と、影どもは威嚇をしながら、少しずつ此方に詰め寄ってくる。

 此方はそれに合わせジリジリと後退する。


 

 そんな睨み合いを続けていると、後ろから野盗どもが追い付いて来るのが聞こえ私は小さく、「チッ!」と、舌打ちをした。




 私達の前には殺気を放つ3つの巨大な黒い影、後ろからは30人以上の野盗。

 対する此方は私とカナコ、護衛の者達10人、私を守護する影2人を入れても14人。


 しかも、前の3つの巨大な黒い影を凝視すると、体躯はヒグマほどの大きさのある狼の姿をしていた。

 そして、鼻先から額と背中を通り尻尾に至るまで龍の鱗の様な物がびっしりとあり、尻尾は龍と同じ形をしていた。


 これは、龍の劵属と魔狼の混血である、ロンロウと呼ばれるS級の魔獣だ。

 妖獣の様な知能は無いが、妖獣とほぼ同等の力を持っていると言われている、最強の魔獣の一つだ。


 ・・・何故かこの三匹、すぐに襲ってこない・・・と言うことは、野生のロンロウではなく魔獣使いに飼われて使役されていると見るべきだろう・・・


 ロンロウを使役するには、最低でもプロフェッショナル クラスの魔獣使いが二人は必要になる。


 ・・・恐らく、その魔獣使い達と後ろから迫る野盗共は仲間だろう。しかし、そんな魔獣を使う野盗など聞いたことがない・・・


 ・・・これは、やはり三国同盟反対派による妨害工作か・・・


 ・・・ロンロウ一匹だけだったら突破出来るかもしれないけど・・・この状況、どう考えても不利だ・・・


 ・・・どうする?森の中に逃げ込むか?・・・いや、恐らく、森には罠が仕掛けてあるか・・・


 と、考えている内にも、野盗共が追い付いて来る。


 ・・・チッ、仕方あるまい。同盟締結書だけでも父上のもとに送る・・・


 と、私は、懐にある鳥の形をした形代を数枚手に取り念を込め空中に放つ。

 「中の位式神召喚!神鷲!」と、唱える。と、同時に同盟締結書の巻物を懐から空中に投げ上げた。


 瞬間、ロンロウが此方に駆ける。


 それと同時に、形代が普通の鷲より一回り大きい瞳の色が黄金色の神鷲に姿を変えた。


 その内の一羽が巻物をくわえて急上昇し、他の神鷲は2羽一組でロンロウ共を牽制している。


 なかくらい式神召喚の神鷲では、ロンロウを牽制する事くらいしか出来ない。

 だからと言って、かみの位式神召喚で複数の神鷲を召喚すれば暴走の危険性がある。


 陰陽五行刀の五行の能力では、ロンロウの鋼より硬く、絹のようにしなやかで、かつ、魔力等の力に耐性のある体毛には効果が薄い。


 私は陰陽五行刀最強の能力を発動するため、腰の両側に差した陰陽五行刀に最大の念を込め左右の手にそれぞれ握り締める。

 そして、先頭のロンロウに向け、最大の念を込めた陰陽五行刀を鞘走らせた。


 陰陽五行刀の陰刀、陽刀みょうとうの刃それぞれから、陰の黒い光の刄、陽の白い光の刄がロンロウに向かって放たれる。


 ギャギャガアアァアァ!!


 黒い光の刄と白い光の刄がロンロウに当たると、そこに陰と陽の太極が現れ、ロンロウを回転しながら吸い込むように元素レベルで無に還していく。


 今の一撃でほぼ力を使い果たした私は、意識が遠退きそうになるのをどうにか耐え腹に力を入れて叫んだ、「我に続け!!」と。

 それに対して追い付いてきた野盗の相手をしていた護衛の者達が「おう!」と応える。


 そして、私は気力を振り絞りロンロウの3頭の内1頭が無に還ったことにより、空いた隙を駆け抜けようと馬の腹にけりを入れた。


 その時、残り2頭のロンロウが私の神鷲を全て、その強靭な爪と牙で葬りただの形代へと還したところだった。


 咄嗟とっさにカナコが私の馬の手綱を引いて止めてくれなければ、そこに、私はそのまま突っ込んでいき、私もその爪と牙の餌食になっていたことだろう。



 2頭のロンロウは最初の内警戒していた。


 その内の1頭は、私の神鷲に片目を潰されている。

 そのため、怒りが警戒心を上回ったのか、私達に一唸りして飛び掛かろうと跳躍した。

 瞬間、私の影と共にカナコが愛剣のスモールソード、風の精霊剣を抜いて私の盾になる様に前に出る。


 カナコは、風の精霊剣を抜くと同時に魔力を送る。

 すると、風の精霊剣の周りに存在する風の精霊の力が、風の精霊剣に濃縮するように渦巻きながら纏わり付く。

 そして、カナコは風の精霊剣の能力を発動させようと構えた。


 瞬間、2頭のロンロウの体に幾筋もの切り筋が入った。と、思ったら、ズバン!!と、肉塊となって弾ける。


 その突然の出来事に、私達は呆気あっけに取られていた。が、はっと、気が付くと、すぐ目の前に一人の男が立っていた。


 その男は、白髪しらが混じりの黒髪はボサボサで、後ろ髪を荒縄で結んでチョンマゲの様に立てている。

 無精髭を生やした40才前後の精悍な顔立ちをしているが、全体的に見ると歌舞伎者の様な格好をしていた。


 男は、片手で持った携帯用の酒甕さかがめから、ぐびぐびと酒を飲んでいる。

 彼は酒を飲み終わると、口の右端みぎはしを楽しげに引き上げて口を開いた、「余計な手出しをしてしまったかな~?」と。


 私達の後方で私の護衛と小競り合いをしていた野盗どもは、ロンロウが肉塊となるのを私達同様唖然と見ていた。が、我に返ると同時に撤退と言うか逃げ去っていた。


 私は馬から降り、

 「いえ、危ういところお助けいただき有り難う御座いました。わたくし東神名国ひがしかみなこく国主、神名トラカツの娘カクラと申します。あなた様は?」

 「ん?わしか?わしは、キリマルと申す。」

 「キリマル様ですか。・・・では、キリマル様、此度こたびのお礼をさせていただきたいので、誠に申し訳ないのですが我が城までご同道願えないでしょうか?」

 「む?そうだな・・・、旨い酒と肴が出るのなら、同道させていただこう。」

と、キリマル殿は酒甕を肩に担ぎ、チャプチャプいわせながら応えた。


 「勿論もちろん、この国で一番の酒と肴を用意させましょう。」


 私は満面の笑みで応えて、そのままの状態で意識を失ってしまった。

 力を使い果たして限界を迎えたのである。


 気付いたときには、カナコにかかえられる格好でカナコの馬に乗せられていた。

 キリマル殿は、私が乗っていた馬に乗ってカナコの後ろに付いてきている。


 周りを確認すると、護衛の者8人が私とカナコ、キリマル殿を囲むような配置で馬に乗っている。 

 他の2人は、野盗に殺られてしまったようだ。


 影は恐らく、私から付かず離れずの距離で姿を消して付いて来ているのだろう。と、ボンヤリ考えていると。


 「カクラ様、気付かれましたか?」

と、カナコが私に声をかける。


 「お、カクラ姫、目ー覚ましたかい?・・・しかし、笑顔で立ったまま気を失うなんて、器用な姫さんだな。」


 カカカと笑いながらキリマル殿に言われ、どういう状況で気を失ったのか思い至り、「うっ・・・」と、呻いて、恥ずかしさの余り俯いて赤面してしまった。


 「キリマル様!いくら命の恩人と言えど、カクラ様を侮辱するような 発言は許しませんよ!」

と、カナコがキリマル殿を睨み付ける。


 「お、カナコ殿もわしに構って欲しいのか?」

 「・・・どこをどお聞き取ったら、そうなるのですか?」

 「カカカ、照れるな照れるな。」

 「・・・話を聞けよ!ジジイ!!」


 いつも冷静で生真面目なカナコが、キレた。

 明るく軽い性格のキリマル殿は、カナコにとってイラつく存在のようだ。

 こうして、カナコとキリマル殿の漫才を聞きながら道中を進んで行く。


 私の神鷲によって城では私達の危機を感じ取り、救援のために数十人の配下を連れた近衛侍大将のカンザブロウを出撃させていた。

 そのカンザブロウ達と合流したのは、それから二日経ってからだった。


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