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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第十七話

聖神武歴2144年4月15日 春


(カクラ)

 「カクラ、シャイン!久しぶり!」

と、カルハンは家に入ってくるなり私達に声を掛けてきた。


 「いらっしゃい。久しぶりね、カルハン。」


 ・・・2年くらい前と比べると、別人ね・・・


と、私は思いながらカルハンに挨拶を返した。


 「いやー、光の神子の護符。いい値で売れたわ!」

と、カルハンは私達の顔を見るなり満面の笑みを浮かべた。


 「カルハンさん。そ、その呼び方やめて下さい。は、恥ずかしいです。それに、勝手に神子なんて言葉使ったらシャイナ教に睨まれますよ。」

と、シャインが恥ずかしそうに赤面して言うと、

「あははははは・・・。相変わらず可愛いねー、光の神子様は。大丈夫だよ!カウラスがアルブァロム王国シャイナ教大神官様の許可を頂いて・・・と言うよりも、是非ともその名前でと、勧められたって言うぐらいだからねー。」

と、カルハンは笑って返し、「それに、私にとってはシャインは間違いなく光の神子なのだから・・・」と、意味深なことを少し頬を赤らめて俯き、小さく囁くように言う。

 「・・・アジーナおばさま・・・何考えてるんだろー・・・。」

と、シャインは頭を抱えて呻くように呟いた。


 カルハンの最後の囁きは聞こえなかったのか・・・聞こえなかったことにしたのか・・・



 今から2年前の夏。


 シャインに乞われて護符の作製の仕方を教えたのだが。

 シャインは結局ところ強い力は籠められたようだったが、護符としては非常に微弱な力しか無かった。

 それを、知った時のシャインの落ち込み様は、はたから見ていて痛々しいものがあった。


ーーー


 シャインは物心ついたときから、何かに焦っているようなふうに見えた。

 小さい時から必死に武術や能力を身に付けようとしていた。

 しかし、その度にその才能がないと思い知らされ落ち込み、その傍らで双子の姉は何の苦もなく武技や能力を身に付け才能を伸ばしていく。

 それでも、腐らず諦めず努力を惜しまなかった。


 そんな、シャインに私は何もしてやれず、歯痒い思いをさせられていた。


 私は一度クリスティーンに、「どうして鳳凰の生まれ変わりである、シャインが全く何の能力も身に付けられないのか」と尋ねたことがある。

 対してクリスティーンは、「・・・そうだね・・・まー、自分自身で自分に科した罰と言うか試練なんだろうねー・・・」と答えていた。が、結局、その時は理由は分からず仕舞いだった。


ーーー


 ・・・私は、この子の為に何の力にもなってやれないのか!・・・


 と、この時も悔しい思いをしながら、愛しい我が子を抱き締めるしかなかった。


 それは、十歳の子供が作製したとは思えない程の出来で、そこに施された印は私が手本に書いたものよりも遥かに正確で美しかった。


 私でも、これ程正確な印を描くことは出来ないだろう。


 ふと、この時・・・なぜ、これ程の出来映えの上、これだけの力が込められているのにこの程度の力しか発動しないのか・・・と、腹立たしさと共に疑問が沸いて、シャインの作製したそれを手に取ろうと触れたとき。

 とたんに、それに込められていたシャインの凄まじいまでの力が開放され、それは本当の姿を現した。


 クリスティーンによると、それは鳳凰の生まれ変わりであるシャインの凰の加護を付与された加護の守護札だという事だった。


 その加護の守護札は、私の護符の力を遥かに凌いでいた。


 私は、その加護の守護札がどの程度使えるか、年に一回この里を訪れる商人のカルハンに試してもらう事にして二枚ほど渡した。


 カルハンは女だてらに武装商隊の主をしており、世界各地を商売をしながら廻っている。

 その為、乱世の狂気などの邪気邪念に侵された土地を通らざるをえない時もあり、前に私の売った呪符や護符が重宝しているという事だった。



 その年は、珍しく冬にもカルハン達は、隠者の里にやって来た。



 私とアジーナが家の居間兼応接間で、お茶を飲みながら談笑していると。


 バーーーーン


と、威勢よく応接間と外との間の扉が開かれた。


 「カクラは居るか!」

 「どーしたんですか?カウラス!そんなに慌てて。」

と、私はカウラスの突然の来訪に、眉間にしわを寄せて尋ねた。


 カウラスは、カルハンの武装商隊の副商隊長を務めている。


 「こないだお前から試しに預かった護符だが、まだ有るか!」

 「え?・・・ええ、有るには有るけど・・・何か問題でもあった?」

 「いや、その逆さ、あれは凄いぞ!」


 カウラスが言うには・・・・


 俺達は隠者の里を出てアルブァロム王国を越え、最初の難所であるアルテバレス王国のダイスの森に入った。

 この森はここ数年、魔獣が大量に発生し魔獣の森程では無いが必ずと言っていいほど、この森に入ると魔獣に出くわした。

 こんな物騒な森を通らなくても、この森を避けていける道もあるのだが、かなり大回りをすることになる。

 そのため俺達は敢えて危険をおかし、近道の森の中を通る道を行く・・・時は金なり、だ。


 俺達の武装商隊は、一国の軍の一個中隊を相手に出来るほどの武力を備えている。


 俺達は商人でありながら、冒険者ランクで言えばカルハンのSクラスを筆頭にAクラスに匹敵する力を持つ武人ばかりだ。なので、魔獣の一匹や二匹、出くわしたとしても蹴散らして行くことが出来る。


 しかし、この時は何故か全く魔獣に出くわさなかった。

 その時は、たまにはこんな事もあるか、と思うだけで全く気にしなかったのだが。


 それから、一月後、ある商品の注文を受け急いで注文主の所へ届けなければならなかったのだが、それにはどうしても乱世の狂気に呑み込まれた村を通らなければならなかった。


 その村は、乱世の狂気に穢れた黒いおどみに包まれているようだった。


 俺達は、乱世の狂気から身を守るためカクラの護符を懐に入れて、その村へと入っていった。


 酷く穢れた土地に入ると、どんなに強い呪符や護符を身に付けている心身ともに健全な者でも気分が悪くなったり、体がだるく重くなったり気が短くなったりするのだが、その村に入ると何故か逆に気分がよくなり体が軽くなったような気がした。


 ふと、気が付くとまるで隠者の森や里に居るときのような、心地のよい力に守られている感覚があった。


 ・・・カクラの護符って、こんなに強力だったか?・・・


 と、思いながら乱世の狂気に取り付かれた村人からの襲撃に、周りを警戒しつつ村の中を進んでいく。


 暫くすると思った通り、家の影から村人達が鎌や鍬を持って、俺達に飛び掛かってきた。のだが、俺達は何もしていないのに村人達は、飛び掛かって来ると同時にみんなバタバタと倒れていく。

 その次々に倒れていく村人達を驚いて見ていると、黒い穢れのような影が村人の体から滲み出してきた。

 そして、滲み出してくると同時に苦しむように消えていった。


 ・・・いったい、何が起きてるんだ・・・


 と、俺は悩みながら、ふと懐に入れた護符を見ると、今までに見たこともない強い輝きを放っていた。


 ・・・なんだ!?これは、カクラの護符の力か?・・・


 と思ったが、今までにカクラの護符がこれ程までの力を放ったことがない。


 ・・・人に憑いた穢れを触れもせずに、祓い浄化する護符など見たことも聞いたこともない・・・


 と、俺が悩んでいると後ろから、「お頭!」と、カルハンを呼ぶ声がして、「今度は、なんだ!」と、俺とカルハンが振り返り、その光景を見て、「な!?」と、絶句してしまった。


 俺はすっかり忘れてしまっていたのだが、カクラが試しに使ってくれと言っていた、荷台に張り付けておいたお試し期間中の護符が神々しく光輝いていた。


 「なんなんだ、この護符は・・・」

と、カルハンは顔をひきつらせて呟いていた。


 この乱世の狂気の穢れに侵された土地に入った時から感じていた、隠者の森に居る時と同じように、優しい力に包み込まれているような感覚を与えていたのは、間違いなく、このお試し期間中の護符だという事がわかった。


 俺達が、倒れた村人達を縁に寄せながら穢れの強い村の奥に進んで行くと、同時にお試し期間中の護符も力を増していく。


 そして、村の中心部辺りに着いた頃には、乱世の狂気の穢れは綺麗さっぱりに祓われ浄化されていた。

 穢れが消えると同時に、お試し期間中の護符も力の放出を収めていた。


 俺は、これ程の護符ならば高値で売れると思い、商品を届けた後直ぐにでも隠者の里まで仕入れに行くべきだと主張したのだが、カルハンが強硬に反対したため二・三ヶ月くらいの間二か国ほど行商して回わり、隠者の里に来るのが遅くなってしまった。


 その間、全くと言っていいほど、魔獣や乱世の狂気の驚異に晒される事はなかった。


 ただ、乱世の狂気に心だけでなくこんにまで取り付かれ、狂戦士等になってしまった者は、お試し期間中の護符でも触れさせなければ祓うことは出来ず、また、そういった者達は、乱世の狂気を祓い浄化すると、精神や自我が幼児にまで後退してしまった。



 ・・・という事だった。



 「で、あの護符を作ったのは、あんたか?カクラ。」

と、カウラスに問われ。

 「いえ、あれ程の護符、わたしには作れません。」

と、私は視線を逸らして否定する。


 「・・・たしか、大賢者クリスティーンもああいった物は専門外だと聞いたことがあるが・・・この里であれ程の護符を作れる者は、いったい誰なんだろうな?」

と、カウラスは探るような視線を向けてくる。


 ・・・・・・・。


 「そうですね。それ程の護符の製作者、私も興味がありますね。」

と、それまで静かにお茶をのみながら聞いていたアジーナがティーカップを置き、子供が新しいオモチャを見つけた時のような笑顔を私に向けてくる。


 「げ!アジーナが居たのか!」

と、アジーナの声を聞きカウラスが渋い顔をした。

 「居てはいけませんか?カウラス。」

と、不機嫌そうな声でアジーナは答える。


 アジーナは、出入口に背を向けた、背凭せもたれの高いイスに座っているため、カウラスは誰が座っているのか気付かなかったようだ。


 「いえ。そういう訳では、ありませんが・・・」

と、カウラスにしては丁寧な言葉で否定した。


 「・・・まあ、いいでしょう。それよりも、その護符の作者です。」

 「お!そうそう!いったい誰なんだ?」


 アジーナが護符の作者について話を戻すと、カウラスも身を乗り出して聞いてくる。


 ・・・まあ、鳳凰の事と加護の事以外は、別に隠さなければならない訳でもないし・・・


と、私は思い、ふっと小さく息を吐き、

 「あの護符を作ったのは、シャインです。」

と、答えるとカウラスは、へーといった表情を見せ、アジーナは納得したような笑みを浮かべてお茶を口にした。


 「シャインは小動物とかには好かれやすいが、何の力もないただの子供だと思ってたんだがなー。」

と、カウラスは楽しそうに言う。


 「で、今、その護符は何枚ある?」

と、カウラスは尋ねてきた。

 「・・・十枚ね。」

と、私が答えると。

 「うちが全部引き取る。」

と、カウラスは即断即決する。


 「カウラス。その護符を、どのような触れ込みで売るつもりですか?」

 「そうだな・・・邪気邪念を祓い浄化する光の神子の護符という触れ込みで、売るかな・・・まあ、シャイナ教大神官様の許可が降りれば、だがな。アジーナ様。」

と、カウラスはアジーナに探るような視線を向ける。

 「いいでしょう・・・と言うか、是非その触れ込みでお願いするわ。」

と、アジーナはニッコリと微笑んで応えた。

 「ほお。前は神子という名を使っただけで、こっぴどく処罰してくれたのに、何故今回は許可するのかなー?」

と、カウラスは探りを入れるような口調で問いかけた。

 「前は何の許可もなく勝手に使ったからでしょう。それに、今回は、それだけの力のあるものですからね。光の神子というと我が神、鳳凰様にイメージが繋がりやすく我がシャイナ教の利益になる、と考えたからです。」

と、アジーナは微笑みを絶さず答えた。


 「あー、だからって売り上げをシャイナ教に納める気はないぞ。」

 「必要ありません。光の神子という名が広まれば、それでいいのです。」

 「へぇー・・・シャイナ教の利益以外にも何かあるな。」

 「ふふふ・・・・」

 「まあ、いいか。今は、乱世の狂気が世界中で猛威を振るっている。シャインの護符は高値で売れるぞ!」


 アジーナとカウラスは、しばらくの間、悪代官と悪徳商人のように笑いあっていた。


 ・・・ごめん、シャイン。あなたの居ないところで色々と決まってしまったわ・・・


 それから、私達三人はしばらくの間談笑していた。が、二階でサーシャと遊んでいたカリンが、私達の居る一階に降りてきて苦しそうに胸を押さえて、ぽろぽろと涙を流しながら私にすがり付いてきた。「たすけて、母さま。シャインが胸を、刺されて苦しんでる。」と。

 一緒に降りてきたサーシャも、心配そうな顔をしている。


 昔から、カリンが怪我をすると、何か繋がるものがあるのか、それと同じところをシャインが痛がった。が、シャインはああ見えて体は丈夫であまり怪我をすることは無かったし、体質的に怪我をしても直ぐに治ってしまうため、カリンが同じところを痛がるということは無かった。


 だが、今、カリンが胸を押さえシャインの非常事態を訴えている。


 ・・・これは、シャインの身が何か危険な状態に陥っているのではないか・・・


と、私が不安になりイスから立ち上がった時、突然、応接間と外との間の扉が開いた。


 そこには、少し顔色の悪いシャインを抱き抱えたクロガネが立っていた。


 「シャイン!」と、私が驚いてクロガネに近づくと、「ダイジョウブ、イマハ、ネムッテイルダケ。」と言って、クロガネはそのままシャインを寝室までつれて行きベットに寝かした。


 私は泣いてシャインにすがり付こうとするカリンを、なんとか宥めて落ち着かせる。

 サーシャは心配そうにシャインを覗き込んでいた。


 「いったい、何があったのですか?」

と、シャインの寝室までついてきたアジーナがクロガネに尋ねた。

 「ジジョウハ、イマデ、ハナス。」

と言って、クロガネは寝室を出ていく。


 私達もクロガネについて寝室を後にした。


 居間に戻ってくると、いつの間にか家に入ってきていたクリスティーンが居間で私達を待っていた。

 「お邪魔してるよ、カクラ。シャインの事で知りたいことが有るんじゃないかと思ってね。」

と言って、クリスティーンはアカガネの淹れたお茶に口をつけた。


 クリスティーンの話では・・・


 私達がシャインの護符について話をしている最中さなか、シャインは傷付いていたカルハンの心を救おうと、カルハンについて隠者の里を出た。


 そこで、シャインは賊に襲われ一時カルハンに助けられたが、カルハンが危機に陥った為、シャインは身をしてカルハンを助けようとした。


 賊の一人は倒したが、もう一人に胸をロングソードで胸を貫かれた。

 しかし、その一人も何とか倒したのだが、カルハンはその賊達の乱世の狂気に取り付かれていた。

 シャインは、胸にロングソードを刺したままカルハンに取り付いた乱世の狂気を祓い浄化する為に力を注ぎ込み、そのまま意識を失った。

 その乱世の狂気を祓い浄化すると同時に、カルハンの心を救うことにも成功したようだった。


 シャイン達を襲った賊達は結界の魔法印を施した衣服を着用していたため、乱世の狂気に取り付かれていても隠者の森で自由に行動できたようだ。


 ・・・という事だった。


 私は賊にシャインが胸をロングソードて貫かれたと聞き血の気が引く思いになった。隣で私にしがみついているカリンが震えているのに気づいて見てみると、カリンも顔を青ざめさせ涙を溢していた。が、クリスティーンから傷は既に完治していると聞き、私とカリンはホッと安堵の息を吐いた。


 その賊がアルブァロム王国の者だと聞いて、アジーナは一瞬愕然としたが直ぐに立ち直り私に深く頭を下げ、自国の者がシャインに害を為したことを深く詫びた。


 クリスティーンの話が終わり少しした頃、応接間と外との間の扉がコンコンとノックされた。カナコが、「はい。」と言って、扉を開けると、そこにはカルハンが立っていた。


 「あの・・・シャインは大丈夫ですか?」

と、カルハンが心配そうに私に声を掛けてきた。

 「ええ、大丈夫です。今は、寝ていますよ。」

と、私が言うと、

 「そうですか・・・よかった。それじゃあシャインが目を覚ましたら、私が「ありがとう」と言っていたと、心から感謝していると伝えておいて下さい。」

と言って、カルハンは行ってしまった。その頬には少し紅がさし、その表情は憑き物が落ちたように明るく爽やかなに見えた。


 今日、この里に着いた時とはまるで別人のようだった。



 その後、私と顔をあわせたカウラスは、「おいおい。シャインは、どんな魔法を使ったんだ。」と、引きつった笑顔で言っていた。



 ・・・と、私が、2年前の事を思い出していると。




 「それじゃあ、そろそろ仕事をしようかね。先ずはカクラの呪符と護符、計百枚の売り上げのカクラの取り分AV(アルブァロム)金貨2枚。シャインの護符、計十枚の売り上げのシャインの取り分AV銀貨 60枚。確認してくれ。」

と、カルハンは言って、私の前に金貨を2枚と、シャインの前に銀貨の入った革袋をジャラといわせて置いた。


 「・・・しかし、2年前に比べて私の物で2倍、シャインの物は更に3倍ですか・・・」

 「ああ、それだけ乱世の狂気が世界中で猛威を振るっている、という事さ。」

と、カルハンが私の感想に答えると。

 「・・・何だか、人の弱味に付け込んで儲けてる感じがしますね」

と、シャインが申し訳なさそうな顔をする。

 「大体、商売なんてそんなものさ。」

と、カルハンが答える。

 「僕は別に、ただで配ってもいいんだけど・・・」

と、シャインが言うと、

「バカを言うな!料金というものは、人が努力して身に付けた技術や能力、その成果としての物やサービス等にお客が納得して出すものだ。それを受け取らないというのは、そのお客に対して失礼だし、それを生業にして生活している他の者達を苦境に追い込む事にもなりかねない。」

と、カルハンが語気を強めて言う。

 「ごめんなさい。考え無しな事を言いました。」

と、シャインは素直に反省する。

 「わかればいいさ。」

と、カルハンは言い微笑んだ。


 「でも、ここまで高くなると、一般の人には手が届かないんじゃない?」

と、私が言うと、

「ああ、それなら大丈夫さ。カクラの物は、地方領主や町や村の長、その守備隊に売り。シャインの物は、国主や地方領主、町や村の長に売る。」

「・・・なるほど。私の物は領主や長、守備隊や病院か持つことで緊急の場合に使ったり配ったりできる。シャインの物は国主や領主、長が持つだけで広範囲がカバー出来るから一般の人が持たなくても守られる、という事ね。」

と、私が言うと、「その通り。」と、カルハンは右手の親指を立てた。


 それを聞いて、「それなら、よかった。」と、シャインは微笑んだ。


 その神々しいまでの、シャインの微笑みに私は一瞬見惚れてしまった。


 ・・・シャインて、日に日に美しくなっていくのよね。最近は特に・・・シャインにそんなこと言ったら、僕はもっと男らしくなりたいと言いそうだけど・・・


と、私は思いながら、ふと向かいに座るカルハンを見ると手を胸の前でギュッと握りしめ、頬をほんのりと紅潮させてポーとシャインを見つめていた。


 私はそれを見て心の中で、はあーと深い溜め息を吐いた。


 その後、二階からカリンが降りてきて、「シャイン、時間だよ。クリスティーン婆さまの所へ行こう。」と、シャインに声を掛けた。

「 うん。それじゃあカルハンさん、母さま失礼します。」

と言って、シャインは家を出ていった。


 その姿を、カルハンは目で、ずっと追いかけていた。


 「カクラ!話がある!」

 「はい!?」


 私は唐突にカルハンに声を掛けられ、返事の声が裏返ってしまった。


 「シャインに、恋の歌を歌うことを許してほしい。」


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