第十参話
(凰)
『・・・この婆さま十歳の子供に、ほんと容赦ないな・・・。』
『・・・・・・うん。』
僕(鳳・凰)は、内心でそう思いながらも、「はあ。」と小さく息を吐き前世の記憶を話し始めた。
最愛の母の死と彼女の惨たらしい死、そして、大切なものを何一つ守れなかった自分の前世の記憶を・・・・。
婆さまは目を瞑り静かに聴いていた。
そして最後に僕は、「今生こそは、なんとしても大切なもの達を守り抜きたい!」と、締め括って話を終えた。
話し終え、「はあ。」と一息を吐いた時、僕は自分が知らぬ間に涙を流していたことに気が付いた。
母さまや婆さまに僕の心の内を、聞いてもらい何と無くだが心が軽くなったような気がした。
その時、不意に母さまが僕を優しく抱き寄せて、しばらくの間愛おしそうに優しく抱き締めながら頭を撫でてくれていた。
何か辛さを押し殺したような悲しみの滲んだ、が、しかし、何か決意に満ちたような複雑な笑みを浮かべ、その頬に幾筋もの涙の跡を残して・・・・・。
クリスティーン婆さまは、そんな僕達親子を優しい眼差しで見つめていた。
「それじゃー、本題に入ろうかねー。」
と、暫らくして婆さまは努めて明るい声で話し始めた。
「シャイン。前に、お前さんには今の状態では魔法は使えないよと言ったね。あと、成長したらその訳も話してやる、とも・・・その約束を今果たすよ。ただ、それは私の憶測の範囲でという事になるが構わないかい?」
と、婆さまが言った時、母さまの僕を抱く腕の力が少し強くなり小さく震えているようだった。
「・・・うん。」
・・・・・・。
「シャイン。悪いけど二つ程単刀直入に聞くよ。お前さんは生まれて十年とちょっとだが・・・精神的な所は自分でどれくらいだと思う?・・・あと・・・・・・・もしかして、お前さんの中にもう一人誰か居るんじゃないかい?」
・・ ・・!!!!・・ ・・
『ぼ、僕・・・・誰にも何にも言ってないよ・・・。』
『ああ、分かってる。俺は表に出られないし、例え言ったとしても頭がおかしくなったか、としか思われないと思っていたしな・・・・・しかし、まさか、婆さまは俺の存在に薄々感付いていたのか?』
『・・・どおしよう。』
『そうだな・・・・・』
僕(鳳・凰)が驚きのあまり絶句し動揺しながらも思案している間、婆さまは口を閉じ、じっと静かに僕の返事を待っていた。
その時、何かに耐え切れなくなったかのように、カクラ母さまが悲痛な声を上げた。
「シャインは、シャインは私の子よ!神でも何でも無い!ただの私の大切な息子よ!」
と、母さまは僕を強く抱き寄せ自分の膝の上に乗せ、苦しくなるほど強く僕を抱き締めた。
「私はもう何も失いたくないのよ!!」
僕を抱くその腕は小刻みに震えていた。
・・・・・・・・。
「母さま、母さま聞いて。大丈夫僕は何処にも行きません。誰が何を言おうと、例え血が繋がっていなくても、今生は今までもこれからもずっと僕はカクラ母さまの息子のシャインです。だから、落ち着いてください。」
と、僕は母さまに微笑んで僕を抱く母さまの手と、その涙に濡れた頬に僕の手を、そっと添えた。
「え!!」と言って、カクラ母さまは愕然とする。
「知っていたのかい!?シャイン!」
と、婆さまも驚きの声を上げた。
「確信は有りませんでしたが、薄々。ですが、血の繋がりなど関係なく僕はカクラ母さまの息子だと思ってます。」
と、僕が微笑んで言うと、
「ふむ、そうだね・・・シャインがそう思っているなら血の繋がりや、遠い昔シャインが何者だったかなど関係なく、今現在、シャインはお前の息子のシャインであることは間違いないだろう。そうは、思わないかい?カクラ。」
・・・・・・・・。
「・・・そうね。そうよね、シャインはシャイン。血の繋がりが無くても、大昔に何であったにしても、誰が何と言おうとシャインは私の息子だわ。」
母さまは婆さまに諭すように声をかけられ、暫らくしてそう自分に言い聞かせるように言って、その表情に寂しさや悲しみの色を滲ませながらも微笑んだ。
「・・・カクラも落ち着いたようだし、続きを話そうかね・・・・それで、どうなんだい?」
「そうですね・・・・・・・クリスティーン婆さまの予測通り僕の中にはもう一人の僕、鳳が居ます。そして、鳳は今現在表に出てくることは出来ません。鳳には僕の事を凰と呼んで貰っています。そして、精神年齢の方ですが、前世の記憶や鳳の影響で・・・・・たぶん、十五・六歳くらいになっていると思います。」
精神的な部分の成長は、鳳は直ぐに前世の頃の状態まで成長したのだが、最初の頃の予測に反して僕(凰)は鳳が目覚めた時から少しずつしか成長しておらず(とは言っても、体の成長よりは早いが)、今現在十五・六歳位にしかなっていないような気がした。
『これで、僕達の秘密は全て話しちゃったね。鳳。』
『そうだな・・・・まあ、別に秘密にしてた訳じゃないけどな。』
『うん・・・確かに、婆さまに薄々でも気付かれてたって事には、驚いたり動揺したりしたけど・・・・・・話しても、どうせ誰も信じてくれないだろうと思って話してなかっただけだものね。』
『あ、でも、もし、人に話して俺が憑き物だと思われたら、今頃祓われてたかも・・・・。』
『えー、それ嫌・・・て、話しちゃってよかったのかな・・・・・大丈夫だよね、鳳。婆さまに祓われたりしないよね。』
と、僕(鳳・凰)が思考していると。
「ふ、あは、あはははははは・・・・・・。」
と、突然、婆さまが目元の涙をため笑い出した。
『な、なんだー?』
『どうしたんだろう?僕、そんな面白いこと言ってないと思うんだけど・・・・・あ、もしかしたら僕らが、鳳、凰と呼び合ってるのが可笑しかったのかな。魔法も使えないのに、この世界を生んだ神様の名前で呼び合ってるのが、そんなに滑稽に思えたのかな。』
『そう、なのか?』
『でも、しょうがないじゃないか。あの時は、まさか鳳凰がこの世界を産んだ神様なんて知らなかったんだから・・・・そんなに笑わなくてもいいじゃないか。』
『婆さまは、可笑しくて笑ってるのか?』
『え?・・・・んう!』
僕(鳳・凰)が婆さまの突然の大笑いについて考えていると、母さまは僕を抱く腕の力を強め、婆さまを睨み付け「クリスティーン!早く話を続けなさい!」と、怒鳴りつけた。
「はあ・・・ああ、悪い悪い。」
と、婆さまは笑い終わると、一息ついて母さまと僕に詫びた。
「いや、なんかね。神代の頃の記憶は無いのに名前だけ偶然にしても、あの頃の名前で呼び合ってるって聞いてね、何だか嬉しくなってさ・・・・つい。」
と、懐かしむような表情をして婆さまが言う。
「え?・・・神代の頃って・・・・どういうことですか。」
と、僕は婆さまの言った内容と昔を懐かしむような話し方を怪訝に思い尋ねると。
「え?・・・・あ!いや・・・その・・・・そうだね。シャインにだけ秘密を話させておいて自分は話さないでは、ちょっと不公平だね。」
と言って、クリスティーン婆さまは、「はぁ。」と、一つ息を吐き。
そして、「これも他言してはダメだよ。」と前置きをして、 婆さまは意を決したように口を開いた。
「シャイン、お前さんはこの世界を産んだ神、鳳凰の生まれ変わりだよ。そして、私は神話に語られている鳳凰の凰と人との間に生まれた娘の一人なんだよ。」
「「え?・・・え"ーーー!!」」
婆さまからの突然の告白に、僕と母さまは一瞬何を言っているのか理解できなかったが、理解した瞬間驚きの余り二人して奇声を上げていた。
「・・・・失礼ですがいったい、婆さまは生まれてどれ程の年月を生きてこられたのですか?」
と、僕は聞かずにいられなかった。
・・・・・・。
「自分が鳳凰の生まれ変わりだと言われたのはスルーして、そっちを気にするのかい・・・」と、婆さまは苦笑して、「・・・そんなもの覚えてないよ・・・・けど、若く見えるだろ。」と言う。
「「いえ。なるほど、と言えるほど皺くちゃババ・・「・・」」やかましいわ!!」
と、僕と母さまが素直に思ったことを口にしたら、婆さまに怒鳴られた。
「全く最近の若い者は、年寄りを気遣うということを知らんからいかん・・・」
と、婆さまが愚痴を漏らし、「はあ。」と、息を吐いた。
「まあいいさ・・・・だけど、シャイン、ある意味お前さんの方が私よりも遥かに長い年月生きてきてるんだよ。なにせこの世界を産んだ神、鳳凰であり私を産んだ凰母さまの何代目かの再生体なのだから・・・・だから、これからはシャインのことを母さまと呼ばせてもらうよ。」
「・・・はぁあ!?ヤメテェェェェ!!・・・・婆さまを産んだ記憶はないし!それに僕、男ですから!!」
僕は最初、鳳凰の生まれ変わりだと言われても、そんな記憶は僕には無くピンと来なかったのでスルーしたのだが、流石にクリスティーン婆さまに悪戯っ子のような笑みを向けられ、皺くちゃ婆と言われた仕返しとばかりにとんでもない事実を告げられれば、僕が驚きと困惑に襲われ拒否を含んだすっとんきょうな声を出しても仕方がないだろう。
「ふむ、まぁ冗談はさておき・・・シャイン、お前さんは間違い無く神代の頃、鳳凰と呼ばれたこの世界を産んだ神の何代目かの再生体だよ。その頃の記憶が無いのは恐らくこの世界に戻ってくる前に居た世界で気の遠くなるほどの長い時間、人の体内に宿り何度も何度も転生に近い再生を繰り返し人として生きてきたせいだろう。」
と言うと、ここで婆さまは何かを思い出すように物思いに耽り、ふと、悲しみに耐えるような表情をする。
そして、何か思いを振り切るように軽く頭を振り話の続きを始める。
「鳳凰は一つの体を鳳と凰という男神と女神が共有していた。その半身とも言うべき男神、鳳がこの世界を救うために心臓を失った。恐らくその結果として力のバランスを崩し、本来ならこの世界のありとあらゆる能力を行使できるはずが、その殆んどを行使できなくなった。それが、生まれ変わりのシャインにも影響しているのだろう。」
『神さま、鳳凰の再生体ということは鳳凰そのものという事だよな。だが、そんな事を言われてもなー。』
『そうだね。魔法の一つも使えないし。その当時の記憶が有るわけでもないし・・・・それに一つ齟齬があるよね、鳳凰が男神と女神からなるというのなら。僕達二人とも男だものね。』
『・・・そうだな。』
「婆さま、一つ聞きたいのですが。鳳凰は男神と女神の二神一体の神なんですよね。」
「ああ、そうだよ。」
「僕と鳳は二人とも男なのですが・・・」
「私もお前さんが生まれた時、疑問に思ったんだがね。恐らく、それも鳳が心臓を失った影響なんじゃないかね。」
『うーん。そうなのかなー?鳳はどう思う?』
『どうだろな・・・』
『どちらにしても、僕達には記憶も自覚も無いから、この世界を産んだ神だと言われても困るよね。』
『・・・しかも他言無用って、この事がここに居る五人以外にバレたら自由がなくなるんだろう。』
『うん・・・・そんなんじゃ、お前は神さまだと言われても嬉しくないよね。・・・あ、でも、もしかしたら・・・』
「それじゃー、鳳の心臓を返して貰えば、僕も魔法とか使えるようになるの?」
「ああ・・・・・魔法だけでなく神としての鳳凰の力が使えるようになるだろうね。」
『そうか、鳳の心臓を失って本来の力が使えなくなっんだから心臓を取り戻せば神としての力も取り戻せるよね。そうしたらどんな状況でも大切なもの達を守ることが出来るようになるよね。』
『どうだろうな・・・・ならば何故、俺は心臓を失い他の世界に行かなければならなくなったのだろうな・・・』
『う・・・・それは・・・』
『まあ、心臓を取り返してみれば分かる事だろう。』
『・・・そうだね。』
・・・・。
「確か・・・鳳凰の神話では鳳が心臓を凰の娘二人に預けた事になってたよね。」
「・・・ああ、そうだね。」
「それじゃあ鳳の心臓はここに有るの?」
「・・・・いや、ここには無いよ。」
「それじゃあ、何処に?」
「それは・・・・・・・お前さんが、心臓を取り返せるようになったら教えてやるよ。」
と言った、婆さまはほんの一瞬、苦渋の表情を浮かべたように僕には見えた。
『今の僕たちでは自分の心臓を取り戻すのにも力不足ということなのかな?』
『・・・まあ、そうなんだろうな。』
『・・・・・なんか、凹むなー・・・』
『凹んだって仕方が無いだろう。』
『はぁ・・・取り敢えず、今までどうり努力していくしかないかなー。』
と、僕(鳳・凰)が考えていると。
「それよりも、随分と回りくどくなっちまったがシャインの作った加護の守護札さ!」
と、婆さまは突然話を変えた。
「シャイン。お前さんが何時も首に掛けているペンダントの裏に刻まれている魔法印と、お前さんの加護の守護札の印を見比べてごらん。何処と無く似ていると思わないかい?精緻で神秘的なところが・・・・・。」
「・・・言われてみれば。」
と、僕が言うと、「たしかに・・・」と、僕の肩越しから覗き込んできているカクラ母さまが同意する。
僕が母さまに抱き締められると、母さまの暖かく柔らかで弾力のある二つの大きな肉球が背中に当たる。
僕はそれに意識を持っていかれそうになるのを耐え話に集中する。
「その印は、そのペンダントに鳳凰が加護を与えている証拠さ。ま、シャインの作った加護の守護札に付与されているのは凰の加護だけだけどね。」
「加護が与えられると、どうなるのですか?」
と、僕が尋ねると。
「凰の力は産み育む力。凰の加護の守護札は分かっているだろうが、それを持つものから邪気邪念などの邪悪を退け守護する物。しかも、さっき見た通り対象は生きとし生けるもの、この世界の全てが対象になり邪悪を退けるだけでなく命を繋ぎ止める力もある。そして、凰の加護を付与された魔法道具などの道具類は邪気邪念などの邪悪を退けるのはもちろん、それを持つ者は世界の産む力等を魔力などに変換するために必要な体力や精神力などが強化され、また、回復力や治癒力なども強化される。これに関しては、シャインが直にそれを与えた者にしか加護は働かないだろう。」
「・・・・と言うことは、僕が作製した魔法道具とか使う人は、どんなに魔法などを使っても疲れないという事ですか?」
「まあ・・・・そうだね。」
「それじゃー、それを僕の大切な人達に渡せば、その人達を守れる事になる?」
「まあ・・・間違いなく、助けにはなるね。」
「きゃッ」
『ぃやったー!!やっと、今現在の僕でも大切な人達を守れる力が見つかったよ!鳳!』
『・・・ああ、良かったな。凰。』
『うん!』
僕はあまりもの嬉しさに跳び跳ねそうにり、僕をずっと抱き締めていた母さまを少し驚かせてしまったが、「良かったわね。シャイン。」と、母さまも嬉しそうに満面の笑みを見せ、僕を愛おしそうに、さらに優しく抱き締めた。
「うん!ありがとー!母さま。母さまのお蔭だよ!」
「それじゃー、今晩はお祝いね。」
「やったー。」
クリスティーン婆さまは喜び合う僕達親子を微笑ましげに見つめていた。
そして、暫らくすると、「はあ・・・」と、小さく息を吐き、スッと真剣な顔になる。
「シャイン。お前さんに頼みが有るのだが。」
その晩は、何故か、里総出でのお祝いとなった。
カリン姉さまが、僕に護符や魔法道具などの作製に才能があったと自分の事のように喜んで里中に言って回ったからだ。
加護の守護札の事は護符と言ってあり、加護の事は伏せてある。
・・・僕はまだ自由を失いたくないから・・・
里の者達は、まるで自分の事のように喜び僕の事を祝ってくれた。
『ふー、本当に、この里の人達はいい人ばかりだね。鳳。』
『ああ、まったくだな。凰。』
『・・・・この里は、ずっと守っていきたいよね。』
『ああ・・・。』
祝宴も終わり、風呂から出て家の居間で寛ぎながら僕がそんな事を考えていると。
風呂から出て来た、カリン姉さまとサーシャ姉さまが僕の座るソファーの両隣に体をくっつけて座る。
今日あった出来事などを話したりして、暫らくの間三人で楽しく過ごした。
マロはカリン姉さまの後ろ辺りに控えて立っている。
母さまとアジーナおばさまは別のソファーに座り談笑している。
カナコさんとクロガネは、キッチンで後片付けをしているようだ。
父さまとキリマルさんは、明日朝早くから魔獣の森まで魔獣討伐に行くため既に就寝している。
僕が欠伸をするとカリン姉さまが、「もう、寝ようか。」と言って、僕の手を取って立った。
僕も、「うん。」と言って立ち上がり二人の寝室へと向かう。
僕達姉弟は生まれた時から、ずっと同じベットで寝ていた。
二人してベットに入り寝ようとすると、もう一人誰かが僕達のベットに潜り込んできた。
「だれ?」と、僕が声を上げると同時に、「・・・ライト」と言って、カリン姉さまが生活魔法のライトを使った。
カリン姉さまの掌の上に浮く小さな光源が、室内をボンヤリと照らした。
「サーシャ姉さま!何してるの!」
「何してるのって、シャインといっしょに私も寝るの。」
「サーシャ姉さまは、アジーナおばさまと客間で寝るんでしょ!」
「婚約者なんだからいいでしょ。お母さまとカクラおばさまにはちゃんと言っていいよって言われたもの。」
「えー、もー、サーシャ姉さま、あっち行って!」
「やー、カリンが、あっち行って!」
カリン姉さまとサーシャ姉さまは、ぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた。
「カリン姉さまサーシャ姉さま。静かに寝ないと僕が母さま達の所で寝ますよ。」
と、僕が言うと、
「「やー!」」
と、二人揃って叫んだ。
「なら、静かに寝てください。」
と言うと、二人供むくれながらも大人しく僕の両脇で横になった。
・・・今日は長い1日だったなー・・・
と、思いながら僕は目をつぶった。
それから、僕達3人は少しして静かな寝息をたてはじめ眠りについた。
六日後の昼頃・・・・
「よお、カクラ、シャイン、元気だったか!」
「・・・・・・・・。」
「お久しぶり、カウラス。相変わらず無愛想ね、カルハン。」
「お久しぶりです。カルハンさん、カウラスさん。」
「・・・・無愛想で悪かったね。カクラ。」
と、カクラ母さまにカルハンと呼ばれた見た目二十歳前後のハーフエルフの女性は、不機嫌顔でそっぽを向いた。
僕達は、今、僕の家の居間兼応接間で行商人のカルハンさん達と呪符と護符の取引をしている。
アジーナおばさまと姉さま達は婆さまの家に行っている。
カンザブロウ父さまとキリマルさんは、里の人達と魔獣の討伐をしに活性化している魔獣の森に行っている。
カナコさんとクロガネは、キッチンでお昼の準備をしていた。
「カルハン、よくそれで商人としてやっていられるはね。」
「ふん!・・・私は愛想が悪くても交渉力と商才が有るからね。」
「まあまあ、二人ともいがみ合いはそこまでにして、取引といこうじゃないか。ほら、シャインが怯えてるだろ。」
と、母さまにカウラスと呼ばれた二十歳前後の人族の男性が二人の間に割って入った。
「ふん!そうだな、とっとと荷の積み降ろしを澄ませてこんな寂れた里からはおさらばだ。」
と、言ってカルハンさんは家を出ていってしまった。
「たく、あいつは・・・。済まねーな二人とも、あいつの商才は本当にすごいんだがあの性格がなー。特にこの里に来ると不機嫌になりやがる。」
と、言ってカウラスさんは渋面を作って頭をガシガシと掻いた。
カルハンさんは子供の頃一時期クリスティーン婆さまに育てられていたらしく、一年に一度は顔を見せにこの隠者の里に立ち寄っているのだという。
「ほんとは無愛想だが面倒見のいい、いい奴なんだがな。まあ、二人ともあいつを嫌わないでやってくれ。」
と、カウラスさんは頭を下げた。
「分かってます。こんな西の最果てまで年に一度だけとはいえ、婆さまに顔を見せに来る人です。心根は優しい人だと僕は思いますよ。」
と、僕が言うと隣に座る母さまが優しく頭を撫でてくれた。
「そう言って貰えると助かる。・・・じゃあ、取引といこうか。」
「そうね・・・頼まれてた呪符と護符、それぞれ50枚ずつね。」
・・・・・・・。
「・・・確かに、それじゃあ・・・・AV金貨1枚でいいか?」
「・・・・・・・そうね、相場からいけばそれぐらいかしら。」
「よし、これで取引成立だな・・・それじゃあ・・・・。」
と、カウラスさんが立ち上がろうとすると、「ちょっと待って。」と、母さまが引き止める。
「一つ試して貰いたいものが有るのだけど。」
「ん?何だ?」
「この・・・・・護符なんだけど。新しく作ってみたのよ。一度試してもらえないかしら。里の者達にも里の外に行くときには試して貰うために渡すつもりなのだけど、あなた達にも試して貰いたいのよ。」
と言って、六日前に僕が作った加護の守護札を二枚取り出した。
「・・・ほお、かなり強力そうだな。」
「ええ、間違いなく今までの物よりも強力よ。」
「分かった。カルハンに渡しておこう。結果は、今度来た時に知らせよう。」
「ええ、お願いね。」
僕達は立ち上がりカウラスさんを家の外まで見送った。