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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第十壱話

シャイン・おう

 『ハアーーーー・・・本当に、どうしよう・・・。』

 僕は鳳に痛いところを突かれ(自分で自分に言っているようなものだが)、これまでの自分の報われない努力を思い返し盛大にため息を吐いた。


 僕は練武場の前にある井戸の縁に腰を掛けて、僕(鳳・凰)が自爆ぎみな自問自答を繰り返して気が滅入っていると、何時もの事なのだが僕を慰めてくれるように、僕の回りに小鳥やリスなどの小動物達や、風や井戸の回りの草木に宿る精霊達が集まって来てくる。


 小動物達は僕の頭や肩、膝や手の上に乗ったりし、精霊達は僕の髪の毛や服で戯れている。

 僕はそういったもの達が好きで、小動物達に優しく触れたり、精霊達を指で優しくもてあそんだりしていると、落ち込んで重たくなった気持ちを徐々に浮上させてくれる。


 『精霊達が、こんなに戯れてくるんだから、精霊魔法が使えてもいいように思うんだがなー。』

 『う・・・しょうがないじゃないか。エルフかハーフエルフにしか使えないんだから・・・どっちにしても魔力をうつわに留められなければどうしようもないけど。』

と、僕はまた陰鬱とした気分になりかける。


 ふと、気が付くと、練武場の出入口の壁際に何時ものように立っているクロガネが僕に向け優しげな笑みを浮かべている。


 その横に、サーシャ姉さまが立っていた。

 サーシャ姉さまは僕より一つ年上の女の子だ。

 サーシャ姉さまは、母親譲りの新緑色の髪を肩まで伸ばし少し尖った耳がちょこんと顔を覗かせている。顔は子供どくどくの可愛らしい丸顔だが、その端整な作りは将来絶世の美女になる事を容易に想像させる。

 その目は、くりくりっとしていて、そのスカイブルーの瞳は、今、ぼーっと見惚みとれるとうにして此方を見ている。


 「サーシャ姉さま。どうしたの?」

と、僕が尋ねると、

 「な、なななななんでもない!」

と、慌てて練武場の奥に引っ込んでいってしまった。


 『・・・どうしたんだろう?』

 『さあー。・・・それよりも、凰、そろそろ戻ったほうがいいんじゃないか?カンザブロウ父さんに叱られるぞ。』

 『ん?ああ、そうだね。』

と、僕は井戸の縁から降りて練武場へと戻る。



(サーシャ)

 ・・・び、びっくりしたー。突然声掛けるんだもん。でも、シャイン綺麗だったー・・・。


 「カリン!カリン!」

と、私は練武場の出入口から練武場の中央で、まだ木刀で素振りをしているカリンの所まで駆けていく。


 カリンはシャインの双子の姉だ。


 彼女は銀髪を背中まで伸ばし、三つ編みにして一つに纏めている。汗に光るその顔は、とても可愛らしい。


 ・・・将来、カリンのお母さまのカクラおばさまように綺麗になるんだろうなー・・・負けてられない・・・。


 カリンは、今、その深い藍色の瞳の目は真剣な眼差しで木刀を振っている。


 弟のシャインはカリンと顔は瓜二つだけど、髪の毛は黒真珠のような光沢のある黒色をしていて、その神秘的な瞳は、左が銀色、右が金色のオッドアイになっている。

 そして、体全体が淡い炎のような、神秘的で透明な光に包まれている。そういう特異体質らしい。


 「どうしたの?サーシャ姉さま。」

 「あのね、シャインてすごいね。なんだかシャイン、キラキラしてて。シャインの周りに一杯小鳥とかリスとか、それだけじゃなくて精霊も一杯集まってたよ。」

 「うん!シャインが外に出ると何時もそうだよ。キラキラしてるのは何処でもだけど。」

 「そうなんだー。シャインの側にいると、何だかホンワカして気持ち良いもんねー。」

と、私がニヘーと顔を崩して言うと、

 「むー、サーシャ姉さま!シャインはあげないから!シャインと結婚するのは私なんだから!」

 「えー、私もシャインと結婚したーい!」

 「こらこら、二人とも、まだ練習中だぞ。」

 「「はーい。ごめんなさーい。」」


 シャインとの結婚を、カリンと言い争っていたら、カンザブロウおじさまに叱られてしまいました。

 そこに、「父さま、僕は今度、何をしたらいいでしょうか?」と、シャインが練武場に入ってきた。

 私とカリンは恥ずかしくなって 、「「きゃーっ」」と、言ってシャインから距離をとる。


 「こら!二人とも!」

と、また叱られてしまった。

 「カリンとサーシャは、あと素振り十回。シャインは三十回やったら上がれ。」

と言って、カンザブロウおじさまは格子窓から床に差し込む日の光を見て、「それが終わったら、もうお昼だから、汗をぬぐって服を着替えて家に戻りなさい。」と言い。

 わたし達は、「「「はーい。」」」と答えて、それぞれ言われたことをやり始めた。



 私とお母さまは、この隠者の里に遊びに来る時は何時もカリンとシャインの家にお泊りさせてもらっている。


 何時もじゃないけど、ここに来るとカリンやシャインと共に、武術の達人であるカンザブロウおじさまやキリマルさまに武術を教えてもらっている。


 また、この家の隣に住んでいる、この隠者の森の主で大賢者様でもあるクリスティーン様に魔法等を教えてもらっています。


 ただ、陰陽術はカクラおばさまに教えてもらったのですが、私にはその才能が無かったようで使えませんでした。


 カリンには、その全てに才能があるようで、ここに来るたびに前よりも確実に力を付けてきているのが目に見えて分かります。


 ですが、レイピアと精霊魔法を使えばカリンには負けません。いえ、誰にも負けないくらい強くなって見せます。

 そして、私が治癒の力以外何の力も使えず、武術の下手なシャインを、ずっと側にいて守ってあげたい。と、そう思ってます。


 だから・・・、

 「母さま、私、シャインと結婚したい!」

と、隣で食事をしているお母さまに私の気持ちを打ち明けた。


 「・・・そうですね。サーシャは今年で十一歳、シャインは十歳になったところでしたね。わが国では十五歳になり両家の承諾があれば結婚できます。もうそろそろ、婚約してもいいかもしれませんね。」

 「だめー!シャインは私と結婚するの!!」


 お母さまが私とシャインの婚約を口にすると、シャインの隣で食事をしているカリンが叫んでシャインに抱きつき、私を睨み付けてきた。

 それに対し、私も負けじと睨み返す。


 「そうね・・・。これは、本人達の気持ちを第一に考えるべきでしょうから。二人が結婚できる歳になった時の、2人の意思に任せるべきだと私は思います。」

と、カクラおばさまが難色を示す。


 「・・・分かりました。・・・では、こうしましょう。二人が結婚できる歳になった時に二人の内どちらか一方でも結婚したくない、と言うのでしたらこの婚約は解消すると言うことで、解約権付きの婚約と言う事では?」

 「ですが、アジーナ、あなたの国では混血はうとまれるのでは?」

 「そうですね・・・。ですが、その内そんな事を言っていられない時代が来るでしょう。ならば、臣民を導くべき王族が先頭にたって行動すべきだ、と私は考えています。」

と、お母さまが言うと、カクラおばさまは助けを求めるようにクリスティーン様を見る。


 それに対し、「私はそれに対して、どうこう言う立場に無いね。・・・それに、解約権付きなんだろ。最終的には本人達次第てんだから、良いんじゃないかい?」と、クリスティーン様が言うと、

「・・・分かりました。アジーナがそこまで言うのでしたら。仕方ありませんね・・・。」

と、カクラおばさまは渋々といった感じで承諾した。

 お母さまが、カンザブロウおじさまに視線を向けると、「カクラが良いと言うならば、俺は構わない。」との言葉を頂けた。


「よかった・・・。ご承諾いただけて。」

と、お母さまは安堵の息を吐いて満面の笑みをこぼした。

 そして、後は貴女次第よ、と言うように私に厳しくも優しい視線を向けてくる。

 対して、私は真剣な眼差しを返し、コクリと頷いた。


 ふと、カリンの方を見ると、「ぶー!」と言うような膨れっ面をして、こちらを睨んでいた。


 「カリン。何時までも膨れっ面をしていないで、貴女も頑張りなさい!」

と、カクラおばさまがカリンを叱咤しったした。


 「カカカ・・・。シャイン、モテモテだなー。」

 「あなた!シャイン様をからかわない!あと、様を付けなさい!様を!」


 少し離れた、この家の使用人達用の円卓で食事をしているキリマル様がシャインをからかって、隣に座っているカナコさんに叱られた。


 普通、主人一家と使用人達の食事の場所は別々の部屋にするものだけど、カクラおばさまの、「大勢で食べたほうが楽しいでしょ。」と言う一言で、みんな同じ部屋で食事をするようになったのだそうです。


「妬くな、妬くな、カナコ。お前は毎晩しっかりと可愛がってやってるだろー。」

「な!ななななななにを言ってるんですか、あなたは!!け、結婚する時、あなたは約束したではありませんか!使用人として、カクラ様と、そのご家族に仕えると!ならば、主と、そのご家族を敬う態度をとるべきです!」


 カナコさんはキリマル様にからかわれ、最初、かなり動揺したが直ぐに立ち直りさらにキリマル様を叱りつける。

 カナコさんとキリマル様は、去年結婚されたのだそうだ。


 「いや、わしも最初の内はそのつもりでいたのだが・・・。カクラ様とカンザブロウ殿に、「気色悪いから公の場以外は何時もどうりにしてくれ。」と言われてしまってな・・・。」

 「・・・・・・はあー。・・・もう、いいです。」

と、カナコさんはうな垂れた。

 その隣に座っているクロガネさんは、何故だか羨ましそうに私を見ている。さらに、その隣のアカガネさんは黙々と食事を取っていた。


シャイン・おう

 「はあー・・・、やっとけた・・・。」

 『・・・今日は、溜息の多い日だな・・・。』

 『しょうがないじゃないか。アジーナおば様がサーシャ姉さまと僕を、こ、ここ婚約させる・・・なんてこと言うから、サーシャ姉さまは大喜びして、カリン姉さまはサーシャ姉さまに敵対心燃やして僕に纏わり付いて来るんだから・・・。』

 『・・・どうやら、凰は母性本能をくすぐるタイプのようだな。』

 『えー、僕は守られるよりも守るほうが良いよ!』

 『だが、現状、能力的には完全に彼女達のほうが上だよな・・・。』

 『う・・・。ま、まだ子供だから!この先、成長したらどうなるか分からないもん!』

 『いや・・・。前に婆さまも言っていたが、恐らく今のままではこの先も変わらないだろう。・・・凰、お前も気付いてるはずだ、俺達には何か大切なものが欠けていると言うか封じられていると言うか・・・それを取り戻すまでは・・・この先も俺達が強くなることは無いだろう。』

 『・・・うん。・・・でも、その大切なものって、何?』

 『・・・お互いに欠落している感情か、他の何かか、それは俺にもまだ分からん。』


 ・・・・・。


 僕(鳳・凰)が、何時ものように自問自答しながら歩いていると、目的の部屋の前に着いていた。


 コンコンと扉を叩くと、「どうぞ。」と言う、カクラ母さまの声が返ってくる。

 「失礼します。かあさま。」

と、僕が扉を開いて中に入ると。

 「・・・どうしたの?シャイン。」

と、母さまは優しい笑顔を向けてくれる。


 「あの・・・、さっきのお話なのですが・・・。」

と、僕は不安を口にしようとして言いよどむ。


 大切な人達との結びつきが強くなると、どうしても思い出されるのだ。


 あの辛く悲しい前世での記憶が・・・。


 そして、僕には、まだ、その大切な人達を守れるほどの力が無いという事と、この先その力を得られる目途もたっていないという事に焦燥感を感じずにはいられなかった。


 「ああ・・・。そんなに心配しなくて大丈夫よ。・・・それとも、シャインはサーシャの事、嫌い?」

と、母さまに聞かれ僕は頭を横に振る。

 「まだまだ先の話よ。その頃には貴方も大きくなって、自分が如何したいのか自分が判断して行動できるようになっているわ。だから、今は、そんなに心配しなくて大丈夫よ。」

と、僕の不安を感じ取って母さまは優しく微笑んで、そう答えてくれる。


 そして、不安で泣き出しそうな顔をした僕を母さまは優しく抱きしめてくれる。


 母さまの返答は分かっていた。

 僕の気持ちが分かるわけも無く。

 しかし、過去の、前世の忘れたくても忘れられない記憶、その為、多少なりとも人の好意を拒絶せずにはいられなかった。


 今はまだ、何も大切な人たちを守るための力を得られてはいないのだから。


 僕は母さまの、その優しさと温もりに耐え切れず、しがみ付き、『大切な人たちを、今度こそ守りたい!その力が欲しい!!』と、わんわん、と泣き続けた。

 母さまは最初の内困惑していたが、すぐに僕を優しく抱き締め直し僕が泣き止むまで母さまは、ずっと優しくなだめるように僕の頭を撫で続けてくれていた。


 僕が泣き止んだ後、母さまは、「あらあら、ハンサムが台無し。」と、微笑むと自分のハンカチで優しく丁寧に涙と鼻水でグシャグシャになった僕の顔を綺麗に拭ってくれる。


 ふと、僕が母さまの机の上を見ると、何か作業をしている最中のようだった。


 「ひっく・・・。母さま、何をなさってたん、です?」

と、僕がしゃくり上げながら聞くと。

 「ん? ああ、来週、行商人のカルハンが来るから、それまでに頼まれた呪符と護符を仕上げちゃおうかと思ってね。」

 「呪符と護符って、売れるの?」

 「そーよ。今は乱世の狂気絡みで、犯罪が多発したり戦場が混乱したりしてるんですって。で、この呪符か護符を持っていれば、その乱世の狂気から身を守ったり祓ったりすることが出来るのよ。」

 「それじゃー、母さまも呪符や護符を持っているのですか?」

 「ふふふ。前にも言ったけど、私の護符、いえ、この隠者の森と里の護符は、貴方よシャイン。」

と、カクラ母さまは悪戯っぽく笑い、僕をまた優しく抱きしめながら言う。


 「はい?」『・・・母さま、なに言ってるんだろう?』

 『さあー?「こんな、可愛い子が居るんだから、乱世の狂気なんて寄って来るわけ無いじゃない。」と言う、親バカ的な発言か?』

 『・・・そんな性格じゃない、と思うけど・・・。』


 ・・・。


 『冗談だ。忘れたのか?凰。昔、母さまが言っていただろう。俺達の体から溢れ出し隠者の里や森を覆っている力が邪気邪念などの邪悪を近寄せないと。』

 『ああ、そういえば・・・』

 『思い出したか?』

 『うん・・・・でも、それは隠者の里や森の中ではの話だよね。仕事で隠者の森を出なければいけない人達は守れない。』

 『ああ、そうだな。』

 

 「・・・・・・あの、母さま、その呪符と護符の作り方を僕に教えてください。」

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