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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第十話

 聖神武歴2142年 8月 夏 


シャイン・おう

 「ハアー・・・。」

 『・・・やっぱり、僕、才能ないのかなー。』

 『そうだな、四才から六年ちょっと、武術と魔法、陰陽術等、父さんや母さん、クリスティーンやカナコにキリマル、いろんな人にいろいろ習ったが何一つ使えるようになってないよな。』

 『うっ・・・・・これでも頑張ってきたんだよ。手水の魔法だって・・・・少しは出来るようになったんだから・・・』

 『あれは手水の魔法じゃなくて、手汗の魔法だな。掌の表面がジトとする程度だからなぁ。』

 『うっ、酷い・・・・何にもしてない鳳にそんな言い方されたくないよ。』


 ・・・・。


 『それにしても、カリンねえはその全てに才能が有るよなー。日に日に腕を上げてる。』

 『・・・・・・・・・・・・・・・。』

 『おいおい、そんなに落ち込むなよ。』

 『・・・だって、今、遊びに来てるサーシャ姉さまだってレイピアと精霊魔法を使わせたら、カリン姉さまより上手うわてだし。僕なんて全く相手にならない・・・・・・このままじゃ大切なもの達を守る事なんてとても出来ないよ・・・。』

 『・・・その内、凰にも何か大切なもの達を守れる才能が見つかるって・・・。』

 『・・・そうかなー、鳳の方が大切なもの達を守る力が有るように思うけど・・・。』

 『んー・・・分からんけど、表に出られないんだからどうしようもないだろ。それにお前の努力のお陰で俺達にもある程度、魔力を溜める器がある事がわかったんだ。その内、魔法も使えるようになるって。』



 この世界では子供は四歳前後になると、微弱だが魔法を使うことが出来るようになる。

 その為、四歳になると魔法の基礎の基礎となる、生活魔法を親が子に教え始める。


 魔法を使うには人自身が持つ力だけでは、変換して出来る魔力は小さく使える魔法はたかが知れている。

 その為、術者が術を行うにはこの世界が産み出し、この世界に満ち満ちている力を体に取り込み、又はまとい、若しくはその両方を行いその力を魔力に変換して魔法を使う。


 生活魔法と言うのは人なら誰でも使える魔法で、一般的に日常生活の中で使われるている魔法だ。


 カリン姉さまは生活魔法の基礎である顔や手を洗う手水の魔法や、薪に火をつける為の種火の魔法はカクラ母さまが一度教えただけで出来るようになった。


 手水の魔法や種火の魔法と言うのは子供が最初に教えられる、訓練には最適な魔法だ。

 まず、世界が生み出した力を体に取り入れ、その力を自分の魔力に変換し、その魔力で手や顔を洗える程度の水を手の表面に生み出したり、枯れ草に火をけられる程度の炎を指先にともす魔法だ。



 カリン姉さまは、生活魔法を完全にマスターし、六歳の時には攻撃魔法と防御魔法の初歩である身体強化魔法が使えるようになっていた。


 身体強化魔法とは、魔力により体の体組織や神経系を強化するものだ。

 身体強化魔法を一生の内に使えるようになるのは、3人に1人と言われている。


 ・・・カリン姉さまが、あっという間に生活魔法を使えるようになった時もそうだったけど、身体強化魔法を六歳で使えるようになった時には、カクラ母さまとカンザブロウ父さまは自分の事のように大喜びをしてたなー・・・僕も自分の事のように姉さまが誇らしく嬉しかったけど・・・


 身体強化魔法は、本来なら才能の有る者でも十歳くらいにならないと使えない魔法で、攻撃魔法と防御魔法の初歩であり基礎でもある魔法だ。


 故に、身体強化魔法を使えなければ、他の攻撃魔法と防御魔法は使えないとも言われている。と言うことは、3人に2人は一生攻撃魔法と防御魔法は使えない、と言うことだ。


 因みに、カリン姉さまは十才になった現在、初級の攻撃魔法と防御魔法は殆んど使えるようになり、中級の攻撃魔法と防御魔法の半分を修得してしまっている。

 修得スピードが驚異的だ。

 大賢者クリスティーンにして、「カリンは天才だね。」と言わしめた。


 ・・・カリン姉さまに引き換え、僕は・・・未だに生活魔法の一つもまともに使えない・・・。


 僕は毎日、皆がまだ寝ている時間から起き出して、力を魔力に変換する練習をしているのだが・・・。


 僕は世界が産み出した力を体に取り入れなくても、僕の体は特異な体質らしく常に力を産み出し体外に溢れ出すほど力が満ちている。

 その力を魔力に変換し溜める事さえ出来れば、どんな魔法でも使えるだろうと思うのだけど、魔法の基礎の基礎である手水の魔法でさえ鳳の言ったことじゃないけど手汗程度にしか発動できな程の魔力しか溜められないでいる。


 だからといって僕の能力が低いわけではないと、母さまは言う。


 母さまが言うには、「何故ならシャインが自ら産み出す力で常にこの広大な隠者の森を満たしているのだから、一日にどれ程の力を溢れさせているのか想像すら出来ない。それを手を湿らす程度とはいえうつわに残るほどもの力を一瞬にして魔力に変換するなんて、しかもその時に溢れ出した魔力があっいう間に里を遥かに越えて広がっていく。そんな事はエルフや、恐らく天人さまにも出来ないことよ。」との事だった。


 それに付け加えて婆さまが、「隠者の森からシャインの力が溢れ出さないのは、そこでこの世界がシャインの力をこの世界の力に変換する量とシャインから溢れ出す力の量が拮抗するからだろう。」と言っていた。


 しかし、僕にはそれがどれ程凄いことなのかピンとこなかった。


 『だって、魔力は魔法が使えなければ意味無いし、それに心臓が鼓動を打つように無意識に産み出し溢れ出している力がどれ程凄いものなのか、その中でしか暮らしていない僕には分からないよ。』

 『そうだな、実際にどの程度の恩恵を受けているかなんて隠者の森どころか里の外にも一度も出たことの無い者がわかるわけ無いしな。まぁ、大人達には随分と感謝されているけどな。』

 『う~ん、でも、それよりも、僕は僕よりも年下の子達でも皆魔法を使えるのに、僕には全く使えないという事の方が僕にとっては大問題だよ。』


 そう四年程前、同じように僕が悩んでいたある日、確かカリン姉さまが身体強化魔法を習得した日の夜、僕が父さまと姉さまの三人で風呂に入っていると。


 (この世界では風呂は珍しいらしいのだが、エルフとハーフエルフはキレイ好きでエルフとハーフエルフの家には必ず薪で焚く風呂があるということだ。)


 「だいじょうぶだよ。シャインのめんどうは、わたしがみるから、シャインは、なんにもしんぱいすることないからね。」

と言って、姉さまは洗浄魔法を掛けながら、ワシャワシャと泡を立てつつ僕の頭を洗ってくれていた。


 生活魔法の一つである洗浄魔法を掛けながら頭や体を洗うと、シャンプーや石鹸のような効果を発揮し汚れを洗い落としてくれる。


 「そうか、よかったなシャイン、優しい姉さんを持って。」

 「だって、わたし、おおきくなったら、シャインのおよめさんになるんだもん。」

 「な!・・・お父さんは結婚なんて認めません!例え相手が可愛い我が息子のシャインといえども、カリンを俺から奪おうと言う奴は許さん!」

と、父さまが握り拳をつくり、そう宣言すると、

「いやー!そんなこという、とうさまキライ!」

と、姉さまが僕に抱きつき父さまを睨み付ける。

 「ぐ・・・い、いや、違うんだ、カリン・・・」

と、カリン姉さまに睨まれてカンザブロウ父さまは狼狽うろたえオロオロとする。


 『どの世界でも、娘を持つ父親は同じなんだね。』

 『そうだな・・・それよりも、凰、お前は一生カリン姉に面倒をみてもらうのか?』

 『なんか・・・それは嫌だなー。』

 『なら、何とか成人するまでには魔法を習得するしかないな。』

 『う、まるで他人事のように簡単に言ってくれる。けど、それしかないかー。』


 と、僕は小さく息を吐いて決意を新たにした。が、あれから四年、未だ日常生活で魔法が必要な場面では姉さまに、おんぶにだっこ状態でダメ弟一直線になっている。


 『ほんと、このままじゃ不味いなー』

 『・・・ああ、不味いな。』


 ・・・・・。


 『・・・・ほんと、他人事のように言うね。鳳。』

 『・・・俺にどうしろと?』


 ・・・。


 『はぁ。もう、いいよ。』



 カンザブロウ父さまは身体強化魔法以外に、それなりに攻撃魔法と防御魔法を使えるということだった。


 カクラ母さまは身体強化魔法しか使えない、それも余り得意ではないということだ。

 ただし、カクラ母さまの家の血筋は魔法は得意ではないが陰陽術を得意とする者が多いらしい。かく言う母さまも各種の陰陽術を使いこなし、愛刀の陰陽五行刀を使わせれば向かう所敵なしらしい。


 僕は、その母さまの血筋に期待したのだが・・・。


 この世界の陰陽術(呪術を含む)とは、念の力によりこの世界のありとあらゆる(ことわり)に干渉し利用して、多種多様な事象を生み出すものだ。


 この陰陽術はゴンドアルカ大陸でも、極東の国でしか殆んど使われていないらしい。

 その理由は、生活魔法のように誰にでも使えるというものでなく、その才能がなければ使えないためで他の地域では普及しなかったのではと言われている。


 陰陽術もまた四歳から訓練を始める。

 この世界の理は、陰陽と五行の木・火・土・金・水の生滅盛衰に大きく影響を受ける。

 陰陽術は、念の力によりその陰陽と五行を操る術である。


 陰陽術の訓練は、まず、自分の内にある陰の気と陽の気を感じ取る所からはじめ、それが出来るようになったら自分の外の世界にある陰と陽の気を感じ取る訓練をする。

 次に、陽の気の木気・火気、陰の気の金気・水気、陰と陽の気の土気を感じ取る訓練をする。

 それが出来るようになったら、自信の内に取り入れた世界の産む力を念の力に変換し、その念の力をそれぞれの気に流し込み活性化させる訓練をする。


 まず、最初にやるのは木の中にある金気に念の力を流し込み、金気を活性化させ金属の刃を生じさせてその木を切り倒す。


 ここまで出来るようになるのに才能が有る者で、早くて一年半は掛かるとカクラ母さまは言っていた。が、カリン姉さまは一年ぐらいで一日に一回だけ小さな木を一本斬り倒せるまでになっていた。


 僕はそれぞれの気を感じ取る事までは出来たのだが・・・


 ・・・やはり魔力と同じで、力を念の力に変換することは出来たが、うつわに留め置く事は出来なかった。


 カリン姉さまは魔法以上に陰陽術の才能があるようで、カクラ母さまは、「もう、カリンに教えることはないわ。」と言い、今ではカリン姉さまは式神召喚で、五行の内の一つの特性を持つ五才くらいの両性的な可愛らしい姿をした童子の式神を、召喚したまま常に顕現させ続ける事が出来るほどになっている。


 式神とは、カクラ母さまによると精霊よりも根源的な陰陽五行を司る存在に姿形を与えたもので、その発揮する力は術者の力量に依るらしい。


 『カリン姉は本当に人族なのか?天人とかじゃないよな?』

 『僕は、カリン姉さまの才能の一部でいいから分けてほしい。』


 母さまによると上の位の式神召喚の中でも人形ひとがたで意志を持ち独自で行動する式神を常時顕現させたままに出来るのは歴史上でも数人しかいないということだった。


 ・・・ほんとにカリン姉さまの爪の垢を貰って煎じて飲もうか・・・


 と、僕が真剣に考えていると。


 「カリンがここまでの力を使えるのは、何時も近くにいるシャインのお陰かもしれないわね。」

 「うん。私もそう思う。だって、シャインが近くにいると、私何でも出来る気がするし実際に何でも出来てるもの。」

 「流石は主人あるじさまの弟君おとうとぎみですね。」


 母さまがカリン姉さまの才能の高さは僕のお陰かもと言うと、カリン姉さまは満面の笑みで肯定し、何故だかカリン姉さまの式神童子マロは羨望の眼差し僕を見上げていた。


 そんな、母さまとカリン姉さまの僕に対する何の根拠もない高過ぎる評価に対して、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 『僕、カリン姉さまにこれといった事はしていんだけど・・・』

 『二人ともシャインLOVEだからなぁ。』

 『・・・・・・・・・』




 ハーフエルフのカナコさんにも精霊魔法をダメもとで教えてもらおうと思ったのだが、僕にはもちろんカリン姉さまでも精霊魔法を使うことは出来なかった。


 エルフやハーフエルフにしか見えない精霊が、僕にもカリン姉さまにも見えるから若しかしたらと思ったのだけど・・・。


 精霊魔法は普通の魔法と違い教えられるものでなく、エルフやハーフエルフは魂が成長すると自然に精霊魔法を使えるようになるとのことだった。

 精霊が見えるからといって精霊魔法を使える訳ではないらしい。


 エルフとハーフエルフは妖精種の中でも精霊に非常に近い存在で、エルフとハーフエルフは死ぬと肉体は地に帰り魂は精霊になると言われている。


 クロガネやアカガネの使う妖術も妖怪人あやかしびと固有の妖力を使うもので、人間種で人族のカリン姉さまと僕には使えなかった。


 結局、僕は、魔法、陰陽術、精霊魔法、妖術、その全てを使うことが出来なかった。




 僕は魔法等の力が使えないのならばと武術を極める事にした、のだが・・・。


 カンザブロウ父さまとカクラ母さまは、このハーフエルフの里である隠者の里で里の人達に武術を指導している。

 父さまと母さまは、武術に関しては達人と言っていいほど強かった。


 僕とカリン姉さまは二才の時から、父さまと母さまについて武術を学んでいた。


 最初は木刀の素振りに型や受け身の練習で、そういった武術の基本動作はカリン姉さまより僕の方が上達は早く、父さまや母さまに褒められて有頂天になっていた。が、組み手や乱取り、打ち込み稽古や試合稽古など実戦に近い稽古になったとたんカリン姉さまに勝てくなった。


 何故か、僕は相手の攻撃を避けたり受け流したりするのは得意だったのだが、攻めようとすると途端に動きが悪くなる、というか動けなくなってしまうのだ。


 それとは逆に、カリン姉さまは実戦に近い稽古になると急に強くなった。


 五才になって初めてのカリン姉さまとの試合稽古の日、僕が攻めようとして動けなくなった所を姉さまにボコボコにされた。


 そんな、僕に姉さまは、

「シャインは、つよくなくてもいいよ。わるいやつから、わたしが、シャインを、まもってあげるから。」

と、僕を優しく抱き締めて頭を撫でながら言った。

 『・・・ボコボコにした奴がよく言う。』と言う、鳳の愚痴を聞きながら、僕は姉さまのそんな言葉を聞いて嬉しいやら情けないやら涙が出てくる思いをした。


 しかしこの時、僕は自分に誇れる力が二つあることに気が付いた。


 一つは僕の体の再生能力だ。

 僕の体の再生能力は非常に高く、ちょっとした擦り傷や切り傷くらいならついた瞬間に治っていた。

 だからと言って怪我をしても痛くないかと言えば、痛いものは痛い、だから怪我はしたくはない。


 二つ目は僕の唾、涙や血液などの体液が持つ再生治癒能力だ。

 試合稽古の時、何処かに引っ掻けたのかカリン姉さまの腕に切り傷がついていて血が滲んでいた。

 僕はカリン姉さまの腕の傷が目に入った瞬間、ペロッと舐めていた。瞬間、カリン姉さまの腕の切り傷は塞がり傷跡も綺麗サッパリ消えていた。

 これには、カンザブロウ父さまやカリン姉さまだけでなく僕も目を丸めた。


 この力についてクリスティーン婆さまに聞いたところによると、「その力は魔法とかでなく、シャイン独自の力だね。」とのことだった。

 当時はまだちょっとした切り傷くらいしか治せなかったが、それでも、


 「やっぱりシャインはすごい!」

 「ああ、流石は俺の息子だ。」

 「いいえ。流石は私の息子よ!」


 と、みんな僕以上に喜んでくれた。


 それから四年以上たって今では、僕の再生治癒能力は命さえあればどんな重傷だろうと不治の病だろうと完治させ、どんな猛毒だろうと解毒するまでになっている。


 『だが、再生能力だけでは盾にもなれないし、再生治癒能力では後方の治療支援しか出来ない。大切なもの達を守るには力不足だな。』

 『う・・・・・・・・・そうだね。』


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