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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第九話

 聖神武歴2136年 7月 22日


シャイン・おう

 僕とカリン姉さまは一歳半位になった頃には自由に歩き回れるようになっていた。


 僕の家の隣にはこの里で一番大きい練武場が建っていて、里の人達に開放されている。

 その為、何時も誰かが必ず鍛錬をしに、その練武場を訪れていた。


 僕とカリン姉さまは自由に歩き回れるようになってからは、毎日のようにその様子を見に来ていた。

 そして、武術の鍛錬を見よう見まねで真似したり、時には手取り足取り教えて貰ったりしていた。

 また見たことのない魔法や精霊魔法に目を丸くしたりして、自分達にも魔法等が扱えるようになる日の事を夢見て心躍らせていた。 


 武術に関しては二歳になった頃には練武場で武術を里の人達に教えているカンザブロウ父さまとカクラ母さまに、それぞれの流派の型などの基礎を教えて貰うようになっていた。



 そして僕とカリン姉さまが四歳になった日の今日、僕達は朝早くから練武場で母さまの前に行儀良く正座していた。


 「カリン、シャイン誕生日おめでとう。今日から貴方達は四歳になります。四歳になれば微弱ですが魔力を扱うことが出来るようになります。なので、今日から魔法の基礎である生活魔法を教えます。」

と言う母さまの言葉に、僕とカリン姉さまは目を輝かせた。


 生活魔法とは四才くらいから誰にでも使えるようになる基本的な魔法で、朝起きた時に顔を洗うための手水の魔法や薪に火を点けるための種火の魔法等、一般的な生活の為に利用される魔法のことだ。


 『とうとうこの日が来たね、鳳。』

 『ああ、そうだな。』

 『楽しみだね。魔法を使う所を見ているだけでは、どうすれば魔法を使えるのかさっぱり判らなかったもんね。』


 「今日は生活魔法の内の手水の魔法と種火の魔法を教えます。最初は世界の産む力の集め方、次にその力の魔力への変換の仕方、そして魔法の発動のさせ方の順で教えていきます。最初、私が補助をする形で教えるからその感覚を覚えなさい。それじゃあ、先ずはカリンからね。」

と言って、母さまはカリン姉さまの両手をその両手に取り優しく握る。


 「最初は世界の産む力の集め方ね。カリン、深呼吸をして・・・準備はいい?」

と、母さまが聞くとカリン姉さまは大きく深呼吸をして、何時に無い真剣な表情でコクリと頷いた。


 それを見た母さまは優しく微笑んだ後、カリン姉さまの手を持ったその両の手に意識を集中した。すると、カリン姉さまの体に少しずつだが周りから力が集まってきているのが感じられた。

 カリン姉さまもそれに気が付いたようで、一瞬驚きの表情を見せたが直ぐに真剣な顔に戻る。


 「カリン。世界の産む力の集め方は判ったかしら?」

と、暫くして母さまが優しく聞くとカリン姉さまは真剣な表情で自分の両手を見つめながら、またコクリと頷いた。


 「では、今度はその力の魔力への変換ね・・・準備はいい?」

との、母さまの問い掛けにカリン姉さまはコクリと頷くことで返事を返す。


 それを確認した母さまは、再びカリン姉さまの手を持ったその両手に意識を集中した。

 今度はカリン姉さまの中の力が魔力へと変わるのが感じられた。


 「これが魔力への力の変換の仕方よ。判った?」

との問いに、カリン姉さまは頷くことで返事を返す。


 「それでは、次は掌に水を想像し、心で念じるようにこう唱えなさい『我に水の恵みを』と。」


 ・・・。


 「『我に水の恵みを。』」


 カリン姉さまが母さまにならって短い呪文を唱えて少しすると、「わぁ。」とカリン姉さまは喜びの声をあげ、その可愛らしい小さな掌からは水がポタポタと滴り落ち始めた。


 「カリン、やり方は判った?」

 「・・・はい。」

 「それではカリン、今度は自分一人でやってみなさい。」


 母さまそう言われカリン姉さまはコクリと頷くと、母さまに教えられた手順と方法で手水の魔法を一回で発動させた。


 「カリン!よくできたわ!」

と言って、母さまは嬉しそうにカリン姉さまを抱き締めた。


 後で聞いた話だが手水の魔法を一度教えられただけで使えるようになる子供は、そうそうはいないということだ。

 隠者の里の子供は物心付いた時から無意識に魔力を溜めだすハーフエルフだが、手水の魔法は大抵は二・三度教えられて実際に使えるようになるのは、二・三日かかるのが普通なのだそうだ。

 ハーフエルフは物心付いた時から微弱ながら精霊魔法を使えるという事だが、生活魔法などの普通の魔法は人族と変わらず四才位から覚え始めるということだった。


 「それでは、次はシャインね。」

 「はい!よろしくお願いします!母さま。」

 「はい。では両手を出して。」

と言われ、僕が両手の掌を上にして出すと母さまの大きな手が僕の小さな手を手の甲から覆うように優しく握る。


 『母さまの手、大きくて温かくて気持ちいい・・・・前世の、母さんの手もそうだったよね』

 『ああ・・・そうだな。』


 そんなカクラ母さまの大きな手の温もりを感じながら、ふと、僕と鳳は前世での母さんの働き者の手を思い出し、知らぬまに涙が頬を伝っていた。


 ・・・!?

 「どうしたの!シャイン!」


 母さまは僕の涙に気が付くと、驚き慌てて僕の頬に両の手を当て親指で涙を拭いながら心配そうに尋ねてきた。


 「だ、大丈夫です。何だか嬉しくて知らないまに涙が出てしまいました。」

 「そぉ?・・・そんなに魔法を覚えたかったの?シャイン。」

 「・・・はい。」


 僕は頬に当てられた母さまの両の手を自分の頬に押し付けるように両手でさわりながらどもりつつも微笑み答えると、母さまも心配そうな顔を優しい笑みに変え、ほっとしたように僕に優しく声をかけてくれる。


 「それでは気を取り直して、練習を始めましょうか。」

と言って、僕に笑みを向ける母さまに対して、

「はい!よろしくお願いします!」

と、僕も笑顔で元気に返事を返す。


 ・・・・。


 「シャインは、世界の産む力を集める必要は無いわね。自ら溢れだす程の力を産み出しているのだから。これは凄いことよ、シャイン。さっきカリンには世界の産む力と言ったけど、実際の所、カリンが魔力に使った力も私や里の者たちが里や森で魔力の素として使っている力も殆どが世界の産む力ではなく、里や森に満ちているシャインの力なのよ。」

と、母さまが言うと、「シャインって凄いんだー。」と、カリン姉さまは羨望の眼差しで僕を見つめてくる。


 母さまに凄いことだと言われ、カリン姉さまに羨望の眼差しで見つめられると僕は嬉しい反面面映おもはゆく感じられ、口の端をゆるめながら顔を暑くして俯いた。


 「ふふ、シャインは照れ屋ね。」

と、母さまは微笑みながら言い。


 少しして、「それでは、その力を魔力に変換します・・・準備はいい、シャイン?」と、母さまは僕の手を優しく握り直して真剣な顔で僕を見つめてくる。


 僕は「はい!」と、元気よく応えた。


 それから母さまは僕の手を通して僕の力を魔力に変換しようと集中しる。すると、僕は脳の芯の方に熱のようなものを感じ始めた。


 ・・・これに意識を集中すればいいのかな・・・


 と思い、僕がその熱に集中すると一瞬、僕の産み出す力が魔力に変化した。が、直ぐに元の力に戻ってしまう。というよりも、せっかく魔力に変化した力が僕の無意識に産み出す力に押し流されてしまうのだ。


 「これは・・・」と、母さまは当惑するような表情を見せたが、直ぐに母さまは僕の力を魔力に変換しようと再度集中する。


 しばらくの間、母さまと僕は僕の産み出す力を魔力に変換させ続けたが無駄に終わった。


 気が付くと、僕も母さまも汗だくになっていた。


 「はぁー、シャイン、貴方のその産み出す力を抑えたり止めたりすることは出来ないの?」

 「う~ん。分かりません。自分の意思に関係なく産み出しているみたいだから・・・」

 「そぅ。」


 ・・・・・。


 「はぁー。」と、再び母さまは一つ深い溜め息を吐き、「私では無理ね・・・クリスティーンを呼んでくるから少し待ってて。その間二人とも休んでなさい。」と、少し寂しそうな笑顔を見せた母さまは腰を上げ練武場を出ていった。


 そんな母さまを見送ると、「大丈夫?」とカリン姉さまは自分が持っていたタオルで、僕の顔を心配そうに覗き込みながら汗を拭ってくれる。


 「・・・大丈夫、ありがとう。カリン姉さま。」

と、僕は何処かぎこちない笑みをカリン姉さまに向けた。


 そんな僕達を、練武場の出入り口の壁際に立っている、何時も僕の後を付いて回っているクロガネが微笑ましげに見つめていた。



 それから暫くして母さまがクリスティーン婆さまを連れて戻ってきた。


 「シャイン、魔力がうまく溜まらないんだって?どれ、私が少しみてみようかね。ほら、手をお出し。」

と、婆さまは僕に優しく微笑みかけてきた。

 僕は婆さまの車イスに近づき膝立ちになって婆さまの膝の上に両手を出した。

 その僕の手を婆さまは優しく握ると、柔和な笑みを浮かべたまま目を閉じた。


 「ふむ、やはり・・・・これは私でも無理だね。」


 暫くして婆さまは目を開けると、申し訳なさそうな表情でそう言った。


 「シャイン、よくお聞き。お前さんはその特異な体質のせいで通常の方法では魔法は使えないよ。」

 「え!?じ、じゃあ、どうすればいいの?」

 「・・・・すまないね。今のお前さんではどうしようもないんだ。おそらくね・・・」

 「そんなぁー・・・」


 ショックの余り僕が泣き出しそうな顔でいると。


 「そんな泣きそうな顔をしないでシャイン、貴方は凄いのよ。貴方は気付いていないかもしれないけれど、貴方は魔法が使えなくてもこの隠者の里や森を邪気邪念などの邪悪なものから守ってくれているのだから。」

と言って、母さまが後ろから優しく抱き締めてくれる。


 「・・・ど、どぅいぅごと?」

と、僕の顔の真横にある母さまの顔を見て僕が半べそ状態の掠れた声で聞くと、

「シャイン、貴方が産み出し溢れ出だす無垢で清らかなその力が、里や森を覆い尽くして邪悪なものを近付けさせないのよ。」

と、母さまは僕の頭を優しく愛しそうに撫でながら言う。


 「え!そうなの?」と、僕が驚いて聞き返すと、「そうなのよ。」と、母さまは優しく微笑んで応えてくれる。


 すると、隣で聞いていたカリン姉さまが何故だか、「やっぱり、シャインは凄いんだー。」と、目を輝かせながら嬉しそうに僕を見つめていた。


 「母さま・・・でも、だからと言って、悪意を持ったもの全てを防ぐ何て事は出来ないでしょ?」

 「・・・確かに、その辺りは何とも言えないわね。」

 「生活の為にも必要だけど、大切な人達を守るためにもやっぱり魔法は使えるようになりたいよ。」

と、僕が悔しそうに言うと、

「シャイン、ちゃんと私の言ったことを聞いてたかい?・・・言っただろ、今の(・・)お前さんでは、と。」

 「・・・・どういうこと?婆さま。」

 「この先全く魔法が使えないと言った訳じゃない。ただ、お前さんが魔法を使えないのは、私の憶測の範囲でしか言えないが・・・・」と言い、婆さまは一瞬チラリと母さまの方へ目をやってから、「・・・・それでも聞きたいと言うのなら、お前さんがもう少し大きくなってから話してやるよ。まあ・・・・だから、今の私に言えるのは、諦めずに頑張りなということだけだね。」

と言うと、婆さまは私の仕事は終わったとばかりに、さっさと練武場を出ていってしまった。


 ・・・・。


 「はぁー、しょうがないわね・・・・シャイン、どうする?もう少し頑張ってみる?」

 「・・・・・僕の力を魔力に変換する方法は分かったので、取り敢えず僕一人で頑張ってみようと思います。」

と言うと、「そぉ。」と、母さまは少し寂しそうな顔をする。


 「なので、母さまはカリン姉さまに種火の魔法を教えてあげてください。もし、分からないことがあったら聞きますから。」


 ・・・。


 「そうね・・・そうしましょうか。分からないことがあったら、何時でもいいから声を掛けてね。」

と言い、母さまは寂しそうな表情に笑みを浮かべた。が、母さまはそのままカリン姉さまに向かい種火の魔法を教え始めた。



 『さて・・・取り敢えず、どうすればいいのかな?鳳。』

 『そうだな・・・力を魔力に変換出来ないわけでは無いんだよな。』

 『うん。』


 ・・・。


 『一般的に魔法を使うには、世界の産む力を体に取り入れ魔力に変換し、それを利用して魔法を発動させるということだよな。』

 『うん。』

 『それに対して、俺達は世界に力を放出している。その力を魔力に変換する事は出来るが体に留め置く事が出来ない。その為魔法も発動させられない、と。』

 『うん、そうだね。』


 ・・・・。


 『一つ気付いたのだが・・・』

 『なに?』

 『魔法を使うには、多分その魔法にみあった量の魔力が必要になるよな。』

 『・・・うん。』

 『ということは、大小個人差はあるだろうが魔法を使うには、その素である魔力を蓄える器が必要になるよな。』

 『・・・・・そうだね。』

 『ならば、魔力の素にもなる力を産み出し放出している俺達のその器はどうなっているのだろう?魔力を作り出しても直ぐに体外に放出されてしまうのは・・・・』

 『・・・器に蓄えられている力の表面しか魔力に変えられていなくて直ぐに溢れ出しているのか・・・若しくは器が小さすぎるか無いかで力を魔力に変えられても直ぐに体外排出されているかの何れかかな・・・』

 『後者の場合だと最悪だな・・・』

 『・・・うん。本当に後者だったら魔法は一生使えないって事だよね・・・』


 ・・・・。


 『まぁ、悩んでいても始まらないな。取り敢えず、出来ることからやっていくしか無いだろう。』

 『・・・うん。何をすればいい?』

 『そうだな、今やれる事は一つだけだな。俺達が産み出す力を出来るだけ大量にしかも瞬間的に魔力に変換出来るようになることだな。俺達がどの程度の量の力を産み出しているか分からないが、それで魔力が少しの間でも体に留まるようになるようなら俺達にもある程度の器があると言ってもいいんじゃないか?』

 『うん、そうだね。それに少しの間でも魔力が体に留まれば多少は魔法も使えるようになるかもしれない。』

 『そういうことだ。』

 『少しでも可能性が有るなら頑張ってみる価値もあるよね!』

 『おう!頑張れ!応援しているぞ!』

 『うん!頑張る!・・・ん?よく考えてみたら頑張るのは僕だけなんだよね?僕と鳳は二人で一人なのに・・・・なんだか釈然としないなー。』

 『・・・仕方ないだろ、まあ俺の分も頑張れ。』

 『むー・・・・』


 僕と鳳?(厳密に言うと僕が)は、今やれる事を懸命にやっていくということを決め、僕の産み出す力を出来るだけ大量にしかも瞬間的に魔力に変換出来るように特訓を開始した。


 僕が強く意志を決め特訓を開始した頃には、カリン姉さまは種火の魔法も手水の魔法と同様に、直ぐに使えるようになっていた。


 基本的に隠者の里の子供達は魔法を使えるようになるのが、他の地域や国に住むハーフエルフの子供達よりも早いという。

 その理由は、隠者の里や森には他の地域や国には比べようが無いほどの濃密な魔力の素となる力が満ちているためだという。


 普通、大人になれば無意識に世界の産む力を体(器)取り込み魔力を溜める事が出来るようになるが、意識して急速に魔力を溜める事も出来る。

 意識して急速に魔力を溜めるのにかかる時間は、器がスッカラカンの状態から満タンになるまでに普通で二日から三日、早い者でも丸一日は掛かるという事だ。

 それが、隠者の里に住まう者達は一瞬とまでは言わないが、遅いものでも半日程で満タンになるという。


 それほどまでに濃厚な力に満たされた所に住んでいるのだ、他の地域や国に住むハーフエルフの子供達よりも魔法が上達するのが早くなるのも不思議では無いだろう。


 そのなかでも、人族であるカリン姉さまが魔法を使えるようになる早さは驚異的だった。


 母さまはカリン姉さまが手水の魔法をあっという間にマスターしたことは、カリン姉さまの才能が素晴らしいのだろうということで普通に喜んだが、さすがに種火の魔法まであっという間にマスターしたときには目を丸めて驚きの余り少しの間固まっていた。が、我に返ると「この子は天才だ」と、おおハシャギを始めた。

 カリン姉さまも母さまに褒め称えられて大喜びしている。

 僕もカリン姉さまの才能が自分の事のように嬉しく感じられ、母さまやカリン姉さまと同じように喜び母さまと目が合った時満面の笑みを見せたつもりだったのだが、母さまは不意に申し訳なさそうな辛そうな顔をして僕を抱き締めた。


 そして、「シャイン、貴方はもっと凄いのよ。」と、僕の耳許でそう囁いた。

 いったい僕はどんな顔をして笑っていたのだろう・・・

 

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