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異世界戦国異聞 <勇女~勇ましき女たち~>  作者: 鈴ノ木
第壱章  隠者の里 平穏
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第八話

シャイン・ほう

 僕(凰)は、今、ひじょーに危機的状況にある。


 今の状況を自分なりに分かりやすく言うと、キ〇グギ〇ラとメカゴ〇ラに狙われるミ〇ラ、といったような状況だ。


 『ふる!その例えふる!・・・それに、その例え分かりやすいの?ていうか冗談言ってないで助けてよ!鳳!』

 『古い人間で悪かったな・・・ていうか助けてよ、と言われてもなー。体を動かせるのは表に出ている凰であって、僕には動かせないし。』

 『・・・カリン1人から逃げるのも匍匐前進ほふくぜんしんしか出来ない僕には辛いのに、カリン以上の強敵が現れるなんて・・・。』


 体の成長速度は僕(凰)よりカリンの方が速いようで、僕(凰)はまだ匍匐前進しか出来ないが、カリンは這い這いが出来るまでになっている。

 それでも、カリン1人だけの内はまだ何とかその魔の手から逃げおおせていたのだが・・・もう1人強敵が現れたのだ。



 あれは、そう数分前の事・・・


 僕(凰)とカリンの頬にカクラ母さんがキスをして、床に僕らを解放した。


 カリンはこの時を待ってましたとばかりに、暖炉で暖房の効いた十八畳程の広さのある部屋を所狭しと僕(凰)を追い掛け回し始める。

 僕(凰)がフェイントや小回りを利かせながらカリンの魔の手を掻い潜ること数分、その強敵は突然やってきた。


 コンコン、とドアをノックする音が聞こえ何時の間にかこの部屋に入ってきていたカナコがドアに近づき、「はい。どちら様でしょうか?」と尋ねると、「私だよ。」と声が返ってきた。

 カナコはドアを開けて、「お待ちしておりました。」と外の人間を招きいれる。


 カリンは僕(凰)を追い回すのを一時中断して、誰が来たのかと興味深そうにドアの方を見ていた。


 僕(凰)はその隙に、カリンから出来る限り距離をとる。


 先ほど母さんが言っていた、大事なお客さんが来たらしい。


 最初に入って来たのは、車椅子に乗って白いローブを纏った魔女のような老婆と、その車椅子を押すクロガネにそっくりな赤髪の青年だった。

 そして、その後に入って来たのは、体が僕より一回り大きい一歳半くらいの赤ん坊を抱えたエルフの絶世の美女だった。


 「カクラ、じゃまするよ。」

 「カクラ様、お邪魔いたします。」

 「お邪魔いたします。・・・お久しぶりですね。カクラ。」

 「クリスティーン、アカガネ、いらっしゃい。お久しぶりですアジーナ、お待ちしてました。いらっしゃい、サーシャ。」


 母さんは3人に笑顔で返事を返す。

 クリスティーンとアカガネはお隣さんだ。


 母さんがアジーナと呼んだエルフの女性は、一瞬ドキリとするほどの美貌で僕(鳳・凰)は少しの間見惚れてしまっていた

 よく見てみるとカナコより耳が短いのに気が付いた。

 もしかしたらハイエルフというエルフの上位種なのかもしれない。

 僕の無いに等しいファンタジーの知識ではなんとも言えない、と言うか前の世界の知識がこの世界にあてはまるのか(いささ)か疑問ではあるが・・・。


 ・・・しかし、彼女は一度も見たことが無いな・・・いや、随分前に一度見たことがあったような・・・。


 その時である、母さんにサーシャと呼ばれたアジーナの抱える赤ん坊の目が僕(凰)を捕らえると、ギラリと輝いたように見えた。と同時に、サーシャはアジーナの腕から逃れようと暴れだす。


「あらあら、サーシャどおしたの?・・・ああ、カリンとシャインに遊んでもらいたいのね。」

と言って、アジーナはサーシャを床の上に解放した。直後、サーシャはよちよち歩きで一直線に僕(凰)の方に迫ってくる。

 それに気付いたカリンも、慌てて這い這いで僕(凰)に迫る。


 ・・・そして現在に至る。


 今現在、僕(凰)はカリンとサーシャに壁際まで追い詰められていた。

 そして、僕(凰)から数十センチ離れたところでカリンとサーシャが睨み合い牽制しあっている、という状況だ。


 彼女たちの視線が絡み合い火花が飛ぶ幻視を見たのは僕(凰・鳳)だけだろうか?


 親達は暖炉の前で楽しそうに語り合っている・・・。


 最初に仕掛けたのは、カリンだった。


 あっちに行け、と言わんばかりに「あぶー!」と叫ぶと頭からタックルを決めた。

 サーシャはよろめいて踏鞴たたらを踏み腰を床に落とした。

 これは泣くか?と、僕(凰・鳳)が見ていると。

 サーシャは倒れそうになる体をカリンの服を掴み、踏み止まる。

 そして、何するの!と、言わんばかりに「ぶー!」と言って、カリンの顔をその可愛らしい手で連打した。

 対してカリンは、「ぷぎゃー!」と言って、サーシャの体に抱き付き一緒に床に倒れ込むと同時に、サーシャの顔に掴みかかった。

 とうとう2人は、ぴーびーぎゃーぎゃーと、泣きながら引っ掴み合いの喧嘩を始めた。


 ここに至って談笑していた親達は、やっとカリンとサーシャの喧嘩に気が付き慌てて近づいてくる。


 「こら!カリン止めなさい!」

 「サーシャ!カリンを離しなさい!」

と、カクラ母さんはカリンを、アジーナはサーシャを抱き抱え二人を引き離す。


 カリンとサーシャは、びゃーびゃーと泣きながらも、まだヤり足らないと親の腕の中で暴れまわっている。


 それを僕(凰)が、ぼーっと見ていたら、今まで部屋の出入り口の壁際に立っていたクロガネに後ろから抱き上げられた。

 クロガネは優しい眼差しを、僕(凰)に向け優しく抱き締めてくれる。


 『あ、クロガネのいい臭い、お胸ポヨヨ~ンだ。』

と、僕(凰)はクロガネの胸に抱き付く。


 僕(凰・鳳)がクロガネの胸で幸せを噛み締めていたら、「シャインを、こっちに・・・。」と、しゃがれた老婆の声がした。


 クロガネは僕(凰)を胸から引き剥がし老婆の手に渡そうとする。


 僕(凰)は、「あ!あ!」と言いながら手をクロガネに伸ばし、いやいやをするように抵抗する。

 クロガネは一瞬、困ったような悲しいような笑顔を見せたが、そのまま老婆に僕(凰)を手渡した。


 ?・・・・あれ。


 僕(凰・鳳)は老婆に触れた瞬間、何か違和感を覚えた。

 老婆から懐かしく、そして老婆とは思えない若々しい波動を一瞬感じたような気がしたからだ。


 僕(凰)が老婆の膝の上で不思議そうな顔を老婆に向けると、老婆クリスティーンはその皺だらけの顔で優しく微笑んだ。


 「ははは・・・、シャインはこの歳で、もう美女2人に迫られてるのかい。こりゃあ将来が楽しみだねー。」

と、クリスティーンは笑って言った後、僕(凰)を膝の上に乗せたまま暖炉の前まで移動した。


 なんとか子供達をなだめたカクラ母さんとアジーナも、暖炉の前のソファーまで移動し子供達を抱えたまま座る。


 「んー、そうだねー、一つ私が子供達のために昔語むかしがたりをしてやろうかねー。」



 ・・・遥か昔、今では語り継ぐ者もいなくなった物語・・・・


と、クリスティーンは朗々と語り始めた。


 僕(凰・鳳)はクリスティーンの昔語りを聞きながら、心地の良い眠りに落ちていった。


 僕(凰・鳳)は夢を見た。遠い遠い昔の夢を・・・・



(鳳・凰)

 その時代、僕達は鳳凰と呼ばれていた。


 僕達の傍らには何時も付き従う者が2人居た。

 1人は魔人のゼンオウ、もう1人は妖怪人あやかしびとのゴオウと言った。


 僕達は天人界よりも高い所、この世界の外からこの世界を見守っていた。


 ある日凰の、一度地上界を間近で見てみたい、と言う一言で僕達はゼンオウとゴオウを連れて地上界に降りる事にした。


 僕達は、人の姿に身をやつし地上界を見て周った。


 地上界には色とりどりの草木が生い茂り、虫から人に至るまでありとあらゆる生命がその生を謳歌していた。

 その生命達の煌めきは、僕達の目にはキラキラとまばゆく光る宝石のように映っていた。


 そんな道中、凰が1人の人族の青年と恋に落ちた。


 鳳は猛反対をしたが、凰はそれを無視してその青年と一緒になってしまった。

 鳳は激怒し奥に篭り、凰がどんなに呼んでも二度と出てこなかった。


 その内、機嫌を直して出てくるだろう、と凰は鳳を放っておく事にした。


 気の遠くなりそうな程長い年月生きてきた中で、地上界で人族の青年と過ごした時間は、ほんの一瞬、まばたきするほどの時間も無かった。


 しかし、その青年との間に人族の子供を2人儲もうけ、私はこれまでには無い幸せを感じていた。

 そんな中で、私は鳳の事を忘れていった。


 私達は、魔人ゼンオウ妖怪人ゴオウを創造し、世界を産み、エルフ(ハイエルフ)を創造し、世界と交わり天人を産ませた。

 皆、生まれたと同時に与えられた使命に従って、自分の意思を持ち生きて行動していた。


 私は創造した者達や産んだこの世界が全てを愛おしい。


 しかし、人族との間に出来た子供達は別格だった。


 自分の体内で、十月十日生命を育むと言う行為が初めてで、それがせいか日に日に育つ命を体内に感じその命のぬくもりに、切なく涙が出てくるほどの愛おしさを感じた。


 生まれた子供達は、私や青年が居なければ直ぐに死んでしまう程か弱く儚い。

 それがゆえに、必死に生きようとするその小さな命の所作や表情に、この上ない愛しさを感じずにはいられなかった。


 子供たちが、赤子から少女、少女から大人の女性へと成長していく。


 その間には、世界を外から眺めているだけでは経験出来ない事が数多く起きた。


 まず、私達と共に在ったゼンオウとゴオウが私のもとから旅立った。

 寿命を感じ取ったゼンオウとゴオウは、「鳳凰さまに大事ある時は、我が血と力を継ぎし者が必ずや馳せ参じます」と誓い、私の許を去っていった。


 最も心に残ったのは、最愛の人の死だった。


 人族の青年の寿命は私から見れば遥かに短い。

 その短い寿命の中で、精一杯私だけを愛し私だけを見てくれていた人だった。

 私の長い生の中で、そんな者は一人もいなかった。

 私はこの時、初めて本物の悲しみというものを知ったのかもしれない。


 でも、私にはまだ2人の娘達がいた。

 彼女達のお蔭でこの悲しみを乗り越えられたのだと思う。


 娘達は私の血を受け継いでいるため、エルフや天人よりも長命だった。


 この頃の私は世界の事を忘れ娘達の幸せだけを考えていた。


 そんな時だった、エルフと天人が緊急事態を知らせに私と娘達が住んでいるこの森に駆け込んできたのは・・・。


 私達(鳳・凰)が地上界に降りたとき、私達の力がまだ幼いこの世界の地上界に悪影響を及ぼさないように、自分の力を抑える為の魔法印を施したペンダントを身に付けて来ていた。

 だが、この魔法印は鳳と凰の力、死と生、破壊と再生、陰と陽の表裏の力が相殺し合い、もしくは支えあって安定した状態の時に効果を現す物だった。

 どちらかが欠けた状態では効果を発揮しない。


 鳳は奥に閉じこもりっぱなしだった為、休眠状態になってしまっていた。

 その為、鳳の力は最小になり。

 結果、ペンダントで抑えきれなくなった私の力が、この幼い世界の地上界に垂れ流されてしまっていたのだ。


 これが長い年月を経て成熟した世界ならば私の力をその世界の力に変換して、その世界に生きる生命達にいい影響を与えられただろう。


 しかし、この世界はまだ幼かった。


 この世界の力に変換されきれなかった私の力は、私の力に順応も抵抗も、ましてや受け流すことも吐き出すことも出来ない未熟な生命達の中に蓄積していき、その体と精神を少しずつ変質させていった。

 そんな中で生まれてしまったのが、魔獣や妖獣、トロールやゴブリン等、私の力により膨れ上がった自分の力に飲み込まれた者、自分の欲に飲み込まれた者達だった。


 これを放置すれば私達が愛してやまないこの世界は混沌に飲み込まれ、死の世界になる事が目に見えていた。

 しかし、この事態を私では収めることが出来ない。

 この事態を、収められるのは私とついにあり、私とは表裏の関係にある力を持った鳳だけだった。


 『鳳、お願いだから起きて!』


 私は涙ながらに懇願した。


 この事態を招いたのは自分の我がままだ。

 だから私はどんな罰でも受ける。

 この命を投げ出してもいい。

 だから、お願いだから、この世界を救って!と。


 はあ~~~・・・・。


と、鳳は盛大な溜息を吐いて奥から目覚めてきた。


 『鳳!よかった・・・ごめん・・・。』

 「『わかってる。俺もこの世界は大切だ。』・・・天人七種族、エルフ、そして娘達・・・必要な者達は、揃っているな・・・。」

と言って、俺は周りを見回した。


 娘達は母親の変化に驚いていた・・・母親が突然男になったんだ、当然の反応だな・・・が、俺は構わず話を続ける。


 「今から俺が十年の猶予を作る。その十年の間に天人七種族は、それぞれ人間の内から1人この世界を任せられると思う者を選び出せ。そして、その7人の内よりさらに優れた者で、この世界の声を聞き、この世界の思いを感じ取れる者を1人選出せよ。その者に俺(鳳)の力を与え、この世界に溢れた凰の力を抑制させると同時に、この世界が成熟するまでその者にこの世界の調律調和を任せる。その者の力が弱まるか、亡くなった場合には後継を選び出せ。エルフは、その者の補佐を全力で勤めよ。そして・・・」


 俺はこの世界に溢れた、凰の優しく世界を包み込むような力を十年分中和させるため、凰の力とは真逆の俺の荒々しく世界を鍛え上げるような力を一瞬解放する。


 と、同時に・・・


 ドッッ、グチュミキミキグチミチグチュグチュッッ・・・・・・グボッッ!!

 !!!!!!!!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!


 『鳳!!』


 俺はいきなり自分の左胸に右手を突き立て、心臓を引き抜いた。


 それを感じ凰は絶叫し。

 それを見た他の者達は絶句し、娘達は卒倒しかけている。


 それに構わず俺は、その自分の心臓をぎょくに変える。


 「そして・・・娘達には、俺の心臓を預ける・・・天人達の選出した者に・・この玉から染み出す・・・お、おれの血を飲ませよ・・・それで・・その者は・おれ(鳳)の力を・・授かることになる。」

と言って、顔を青ざめさせた娘達に俺の心臓である玉を手渡す。


 『鳳!鳳!・・・な、なんてことを・・・』


 凰は泣き出しそうな声で叫んでいた。


 『大丈夫だ・・・凰の心臓があれば・・おれ達が活動停止することは無い。・・・それに・・これは、凰を・・止められなかった・・・おれへの罰だ。』

 『ごめん・・・本当にごめんなさい。・・・まさか、こんな事になるとは思わなかった。』

 『もう、いい。・・これ以上は・・無いと言う、幸せを・・凰を通して・おれも感じていた。・・・だから、凰を止められ・・なかった。・・・だが・・凰にも・きちんと・・罰は受けてもらう。』

 『分かった!分かったから、どうすればいいの!鳳の気配が、どんどん薄くなっていってる!だから早く教えて!』

 『凰・・お前は・・おれ達の・・・力に影響を受けない・・成熟した・世界に・・・渡り、人の子として・・転生し、人として暮らすんだ・・・この世界が・・成熟し・・・おれ(鳳)の力を・・必要としなくなるまで・・・何度でも・・・おれが・・心臓を・とり・・・戻せる・・ように・なるまで・・』

 『分かった!分かったから、早く休眠状態に入って!じゃないと本当に消えちゃう!』

 『ああ・・後は・・・任せた・・・』


 ・・・・・・・・・・・。



シャイン・ほう

 ドッ!!ゴッ!!

 『『・たっ!!』』


 僕(凰・鳳)は、サーシャの頭突きとカリンの蹴りを脇腹と顔面に同時に受け目を覚ました。

 僕達は何時の間にやら3人とも同じベビーベッドで寝かされていた。


 『・・・やめてほしい・・・この2人と一緒に寝かされると、命が幾つあっても足りない気がする・・・。』

 『・・・ねえ、鳳・・・なんか・・いいような悪いような夢を見てた気がするんだけど・・覚えてない?』

 『・・・僕も、そんな気はするが・・・覚えてないな。』

 『なんか・・・最後に、鳳が消えちゃうような気がしたんだ・・・鳳、ぼくを置いて何処かに行ったりしないよね?』

 『・・・なに言ってんだ。消えることはあるかもしれないけど、人格だけが体から離れられる訳がないだろ。』


 ・・・・・・・。


 『・・・消えないでよ!』

 『消えねーよ!』

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