その子は誰?
シーーーーーン
まだ授業中なのに教室の中は静まり返っていた。
クラスに居る誰もが由美が手を繋いている凛を見ていた。
由美は心臓をバクバクさせながら冷汗をかいていた。
(ど、ど、どうしよ!!な、何で篤に戻ってないのよ!!)
そんな事を思う由美だったが、元はといえば、ちゃんと凛が篤に戻るのを確認しないで勝手に連れて来た由美の失態だった。
由美は焦りながらこの状況をどうやって誤魔化そうか必死に考えるが、焦りの余り上手く頭が回らない。
一方、凛は沢山の人から視線を浴びて恥ずかしさや気まずさで、ずっと下を向いたままだった。
シーーーーーン
沈黙が支配する空間で一人の男子が由美に話し掛けてきた。
「なぁ〜後藤!お前が連れてる子って誰なの?何かメチャクチャ可愛いんだけど、良かったら紹介してくれよ!」
こんな事を質問したのはクラスの誰もが認めるKY(空気読まない)野郎の佐藤 翼だった。
しかし、クラスの男子は皆、内心で(よくやったKY翼!!)や(やはり、お前はやれば出来る男だ!!)など翼を褒め称えていた。
翼の質問に何と答えて良いのか、由美はただ言葉を詰まらせていた。
「えっ、えっと、こ、この子は………」
「どうしたん?早く紹介してくれよ!」
「……………」
翼は由美を煽るように言うと由美は困り果てて、ついには黙り込んでしまった。
普段は活発で強気な由美に何時もいじられている翼は由美の態度を見て
(おお!!何時も強気な後藤が何も言えないなんて、これはチャンスだぜぇ〜!!我、日頃の恨みをここで返す!!)
と思うと、更に由美に対して煽りだした。
「早く紹介してくれよ!多分、クラスの男子も同じ事、思ってるぞ!!なぁ〜みんな!!」
「「「「おぉぉぉぉ!!!」」」」
翼の言葉に男どもは雄叫びを上げた。
「ちょっと貴方達、まだ授業中なのよ!」
和美が興奮し雄叫びをあげている男子達を注意したが、目の前の美少女に夢中になっている男子達は和美の言葉などに耳を傾けようともしなかった。
「ハアハア………メチャ可愛い!!」
「やべー………モロに好みだ!!」
「ま、先ずはお友達になって欲しい………」
「か、彼氏いるかな?」
「か、可愛い………ペロペロしたい!!」
興奮した狼達(野郎達)は意味不明事を呟きながら、席から立ち上がるとジリジリと由美と凛の方へと距離を縮めて来た。今にも小動物(凛)に襲い掛かるように、流石の由美も身の危険を感じ、すぐさま凛を守るように抱き締めた。
男子達は由美達に一斉に襲い掛かった。
「「「「ヒャッハーーー!!!」」」」
その時だった。
「神の拳!!」
理性をなくし由美に襲い掛かろうとしていた男子達の頭上に拳が現れると一斉に降下した。
ガツッ!!ガツッ!!ガツッ!!ガツッ!!
「「「「いてぇぇぇーー!!!」」」」
拳を浴びた男子達は一斉に頭を押さえてしゃがみ込んでいた。
その中にはドサクサに紛れて先程まで由美を煽っていた翼の姿もあった………隙も油断もあったもんではない。
一方、凛を守るように抱き締めて目を閉じていた由美は突然の男子達の呻き声を聴くと振り向いた。
一体何が怒ったのか理解出来なかったがクラスの女子達がとある方を見ていたので視線を追って行くと腕を組み仁王立ちの暁先生がいた。
暁はとても深い溜息を吐くと頭を押さえてしゃがみ込んでいる男子生徒達に席に戻るよう指示すると男子達は不満そうな顔をしながら自分の席へと戻って行った。
「はぁー………お前等(男子生徒)は盛りのついた猿か?特に佐藤!お前はその性格を直さないと彼女なんて出来んぞ!」
暁が翼に向かって言うと翼はジト目で暁を見てボソボソと何かを呟いた。
『自分だって彼氏いない癖に………先生も、その性格を直した方が………えっ!?』
「神の拳バージョン2!!惨殺拳」
翼の言葉が聴こえたのか暁は青筋を立てながら〝神の拳″を発動させると、翼の目の前に手首から先だけの拳が作り出した。
「さ、流石にそれはヤバイって!!」
翼は顔を真っ青にして暁の方を見ると不敵な笑みを浮かべて自分に向かって中指を立てている。
「OH MY GOD!!!!!」
焦る翼に対して暁は「kill you!!」と言うと親指だけを立て自分の首を切る仕草をしてから親指を下へ向けた。
すると、翼の目の前で待機していた拳がゆっくりと回転を始め段々と回転数を上げて行く。やがて拳は『キュイーン!!』と音が聴こえるぐらいの高速回転へと変わると拳の後部から激しい炎のジェットを吐き出すと殺人ナックルと化した拳は翼の顔面に飛んで行った。
キュイーン!!!
バキッ!!!
メキッメキッメキッ!!!………バタン!!
嫌な音が教室の中で鳴り響いた。
クラスの皆が翼の方を見ると、そこには椅子ごと後ろに倒れ顔には拳がめり込み未だに高速回転をして翼の顔を血だらけにする姿があった。
((((え、えげつない!!!))))
クラスの皆は震えた。
「さ〜て、邪魔者もいなくなった事だし後藤よ、その子は誰だか説明してくれると助かるだげどな〜!」
暁の言葉に由美は(ついに来た!どうしよう!どうしよう!)と思いと挙動不審になっていた由美に対して暁はニッコリと笑い手招きをした。
顔を引き攣らせて「ゲッ!!」とした表情を露骨に表らにすると暁の笑みが怖い笑みへと豹変した。
(怖いよ………助けてーーー)
クイクイ!!
「ん?」
由美は服を引っ張られたので後ろを見ると、申し訳なさそうな顔をした凛が由美の制服を掴んでいた。
「………もう、逃げられないよ由美さん」
「凛ちゃん………」
「もう、覚悟を決めたから大丈夫だよ!」
凛はこれ以上、由美に迷惑を掛けられないと思うと顔を上げて暁の立つ教壇まで進んだ。
「あっ!?待って!」
慌てて由美も凛の後を追って教壇へと向かう。
暁は二人が自分の側まで来ると由美の方を見て質問をした。
「ちょっと邪魔が入ったけど、話しを戻そうか?ねぇ、後藤、この子は誰なのかな〜?見たところこの学園の生徒には見えないけど?」
「そ、それは………」
「それは?どうした?」
「こ、この子は………えーと………」
「どうした後藤?説明出来んのか?」
質問に答えない由美に苛々してきた暁は怒り口調で怒鳴るように言った。
「…………」
「次は黙りか?」
暁に責めらている由美を黙って見ていた凛は黙っていられなくなり、口を開いた。
「由美さんを責めないで下さい!紹介が遅れて申し訳御座いません………私は【海外 篤】の妹の【海外 凛】です!」
凛はそういうと暁やクラスの皆に深くお辞儀をした。
「あっちゃーー言っちゃった………」
由美は苦虫を噛んだ様な表情して首を横に振った。
暁やクラスメイト達は凛の紹介に最初はポカーンとしていたが、やがて我に戻ると大声をあげた。
「「「「「えぇぇぇぇーーーーー!?」」」」」
 




