後悔
「そ、それは………」
京香の言葉に顔を歪めてしまう凛に対して、興味津々な表情で見つめる京香がいた。
「どうしたのですか?凛様」
「い、いえ………何でもありません」
「では、先程の質問の続きなんですが、凛様はどうして一族の過去に詳しいのですか?」
「………分かりました!お答えします。まず、私が一族に詳しいのか説明しますね!」
「はい、どうしてですか?」
京香は凛から話しが聞けると思うと高鳴る興奮を抑える事が出来ず、凛の目の前まで身を乗り出してしまった。
余りの至近距離に凛は思わず後ずさる様に下がりながら京香との距離を取った。
「ちょっと、京香さん、近い!近いって!!」
「あっ!?申し訳ございませんでした………私とした事が………」
「分かってもらえればいいですよ。ちょっと驚いただけでしたし……気にしないでください!」
「本当に申し訳ございませんでした。私は昔から興奮すると周りが見えなくなってしまう性格なもので、よく主様からも注意は受けておりますが、こればかりはそうそう直るものではないもので………」
「そうなんですか………何か大変そうですね………」
「グズン……そうなんですよ。何度も直そうと努力をしたのですが………ダメでしたので諦めました!」
「そ、そうですか………」
ドヤ顔でそう言い放った京香を疲れた表情で見つめる凛だった。
そんな中、話しが一向に進まないと感じた由美は、二人を威嚇するようにワザと咳をする。
コホン!!
「ねえ、そろそろ本題に戻ってもいいと思うんだけど、どうかな?」
「「!?」」
慌てながら二人は頷く。
「す、すいません……話しがずれてしまって!」
「申し訳御座いませでした……調子に乗ってしまいました。」
二人が申し訳なさそうに謝る姿を見て、由美はうんうんと頷いた。
「二人とも分かれば宜しい!で、話しの続きをお願い、凛ちゃん!」
「あっ!?は、はい、私が一族について、何故詳しいと言う事でしたね?」
「うん、そうだよ!」
「それはですね………」
「「それは?………ゴクン!!」」
凛の答えを、由美と京香は生唾を飲み込み今か今かと待った。
「分かりません!」
ズゴッ!!
思いもよらない回答に二人は思わず、転けてしまった。
「ち、ちょっと、こんだけ引っ張って、それはないでしょ?」
「そうですよ!凛様!!」
由美と京香は立ち上がりながら、凛にツッコミを入れた。
二人にツッコミを入れられた凛はあたふたしながら、申し訳なさそうに頭を何度も下げて謝った。
「すいません、すいません………」
必死に謝っている凛を見て由美も京香も顔を見合わせるてクスッと笑うと再び凛を見つめた。
「もういいわよ。それより何故、分からないのに、それだけの事を知っている方が気になるよ!」
「そうですね!」
「それについては、どう話して良いのかわからないのです………私がお兄ちゃんの中で体験した事でしたら話せますが?」
「何か難しい事になって来たわね………まっ!凛ちゃんの体験談でもいいわ!」
「私もそれで構いません!」
「本当にすいません……では、私の体験した事を話します」
「お願い!」
「お願いします!」
凛は背中から生やしている光の翼を消すと夜空みたいな上空を見ながら静かに語り出した。
「あれは、お兄ちゃんが二回目の能力の使い過ぎで女性になった時の事なのですが、当時、私は第一形態だったお兄ちゃんの外に出る事は出来ずにお兄ちゃんの内側で一人外の世界を見るだけの時を送っていました………」
「そ、そんな………今まで凛ちゃんはずっと孤独な時間を過ごしていたの?」
「そんな………」
由美と京香は凛が過ごして来た孤独な時間を自分に置き換えて考えると、とても自分では耐えられないと思った。そして、同時に由美は今まで自分達の側に居た凛に気付いてあげられなかった自分自身に対して怒りが込み上げて来た。
「凛ちゃん………近くに居たのに気付いてあげられなくて、本当にごめんなさい!私は………昔から貴女に助けて貰ってばかりで何一つ恩返し出来なかった………それだけでも十分に駄目なのに………それに本当は死んだと思っていた貴女が実はこんなに近く私の側に居たのに気付てあげる事も出来なかった………本当に私って最低だよね………」
由美は自分自身が許せなくて、声を震わせながら今にも泣きそうな表情で凛に頭を下げた。
そんな由美を、凛は優しい笑みで見つめて首を横に振った。
「由美さんは最低なんかじゃありませんよ。由美さんが私に気付かなかったのはしょうがない事ですよ!だって、死んだ人間が側に居るなんて誰だって思いませんし、それに私の魂がお兄ちゃんの中に入る事態が非常識な出来事だったんですから………でも、ずっとお兄ちゃんの中で見ていて気が付いたのですが、普段、由美さんはお兄ちゃん達の前では気丈に振舞っていたと思われますが、魂だけになったお掛けか、私には何となく由美さんの心の中が分かってしまいました………」
「な、何が分かったの?」
凛の言葉に思わず由美はビクッとしてしまった。
「由美さん………」
「な、なに?」
「そろそろ、自分自身を許してあげて下さい!〝あの時″に起こった事は決して由美さんのせいでは無いのですから!だから、何時迄も自分自身を責めるのは辞めて下さい………私は後悔していません!むしろ嬉しいと思いました!」
この時、由美は凛に心の中を見透かされた感じがした。由美は必死に強がろうとして言葉を返すが、無意識に言葉が詰まる。
「でも、でも………私が……あの時………ヒック……ヒック……」
「由美さん………もういいんですよ」
今まで必死に気丈に振る舞い強い自分を演じて来た由美は凛が後悔などしてなく、むしろ嬉しかったという言葉を聞くと今まで我慢していて感情が溢れて出して、気が付くとボロボロと大粒の涙を流していた。
「もう、自分自身を許してあげて下さい!そんな由美さんを見ている方が辛いです………」
「でも………」
「先程も言ったでしょ?私は何も後悔していませんよ!現にこうして由美さんに会えたんですからね!」
「うわーーーん!!」
由美はその場で子供のように大声を出して泣き始めた。そんな由美を優しく包むように、凛が抱き締めた。
そんな二人を京香は優しく見守っていた。
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由美が泣き止むまで、凛は何度も由美の頭を撫でてあげた。
漸く由美が落ち着きを取り戻すと、京香から貰ったハンカチで目元の涙を拭くと凛と京香に対して謝った。
「二人ともごめんない………私はこの………」
由美の言葉に凛も京香も首を振り、「最後まで言わなくても、言いたい事は分かります」と優しく言った。
二人の言葉に由美は申し訳なさそうな表情をしながら少し照れてしまった。
凛は由美が落ち着きを取り戻た事を確認すると話しの続きを始めた。
「では、話しの続きをしますね!」
「うん」
「はい!」
頷く二人を見て凛は、静かに語り出した。
「あれは確かお兄ちゃんが由美さんと対戦試合を始めた時の出来事です。あの時、お兄ちゃんは特殊能力に目覚めたのですが………実はあの時、もう一つの出来事あったのです!」
「な、何があったの?」
「き、気になります!」
由美も京香も食い入る様に凛に訪ねた。
「あの時、私はお兄ちゃんの中で少女の姿をした天使に出会ったのです!」




