二人だけの時間3と謎の少女
突然の零の言葉に寛子は戸惑いを隠せなかった。
「さっきの君の質問に答えるから、聞いてくれ…………」
零が言った言葉が寛子の頭の中を何回も繰り返される。
(えっ!?こんな時に言うなんて………まだ、心の準備が………)
寛子は戸惑いを表情には出さない様にしていたが、内心では、かなり焦っていた。
しかし、そんな寛子の心境など知るはずもない零は自分の気持ちを言葉にし始めた。
「寛子さん………俺は何時も君の事を見ていたよ………君は何時も自分の事より他の人の事を気遣ったりする優しさを持っているし、一度決めたら曲げない真っ直ぐな性格も、それに………君の外見だって俺の好みなんだ………俺は君に出会えた事に心から感謝するよ!………ごめん……何か臭いセリフで………」
零はそう言うと、恥かしそうに頭をかいていた。
しかし、寛子は零の言葉を聞いて顔を横に振って言った。
「そんな事ないです。私の事………見ていてくれたんだ………とても嬉しいです。こんな私を好きになってくれて………零さん………ありがとう!」
寛子は何時の間にか涙をポロポロと零していた。
零は寛子が泣いている姿を見て、寛子を抱きしめた。
「すまない……また、君を泣かせてしまった………」
寛子は零の胸の中で涙を零しながら言った。
「ううん………これは、嬉しくて出た涙だから、気にしないで下さい。」
「そうか………」
「何だか私………もっと零さんの事が、知りたくなっちゃった……これからも宜しくね!零さん」
「ああ……これから、たくさん俺の事を知って欲しいよ………俺の方こそ宜しく頼むよ!」
二人は空一面に広がる星の下で二人だけの時間を過ごした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二人が抱きあったまま少しの時間が流れた。
寛子と零は寄り添っていたが、急に自分達の身体の異変に気が付いた。
「「!?」」
二人は能力の共鳴にも似たものを感じた。
零は直ぐに寛子を庇うように寛子を自分の後ろに隠すと、反応があった方向を見た。
寛子も零の背中に隠れながら反応があった方向を見ていた。
「零さん………この反応は?」
「寛子さんも感じたのか?………この感じは刀真でも【天羽】や【光守】の人間の感じでもない………何者だ?」
「ええ………私もそう感じました………この感じは………わた!?」
「寛子さん黙って!!来るぞ!!」
零は寛子の言葉を遮ると鋭い視線で森の方を見た。
すると、手を叩きながら木の影から一人の少女が寛子と零の目の前に現れた。
現れた少女は黒髪で腰の付近までありそうなストレートな髪を揺らしていた。
少女の瞳は吸い込まれそうな真っ黒な瞳で、服装も上から下まで黒いゴスロリの格好をしており、見た目からして、15歳ぐらいだろうと思われた。
「ごめんなさい!二人の邪魔をするつもりは無かったんだけど、何か出るタイミングを逃しちゃったの!」
少女はそう言うと、寛子と零の前に立ち止まりお辞儀をした。
「初めてまして!」
寛子と零は少女から感じる得体の知れない存在感に緊張が更に増した。
「お前は何者だ?」
零がそう言うと、少女はクスッと笑うと零の質問に答えた。
「私?………私は私よ!」
零は少女の答えに苛立った。
「答えになっていない!!おちょくっているのか?」
零が叫ぶと、少女はまた笑いながら零に言った。
「では、貴方に質問にしますが、貴方は自分が何者なのか、ご理解してるの?」
零は少女の質問に馬鹿馬鹿しいと思いながら答えた。
「ああ……分かっているさ!」
零がそう言うと、少女は唇に人差し指をあてて言った。
「本当に分かっているのですか?」
「何が言いたい!!」
零は少女な質問に怒りを滲み出しながら言った。
「怖いですね!そんなに怒らなくても良いじゃありませんか?私はただ、貴方の存在理由を聞いているのです!」
「存在理由だと?」
「そうです!人は生まれて来たからには、何かしら存在する理由があるはずなのです!私は貴方に自分の存在理由が分かっているのかを聞きたいだけです!」
「俺の存在理由だと………」
零が考え込んでいると、少女はまたもやクスッと笑うと零に話し掛けた。
「その様子だと、自分の事が分かっていない様に見えますね!」
零は少女の言葉を認めたくなかったので、逆に少女に質問した。
「なら、お前は自分の存在理由は分かっているのか?」
少女は零の質問に笑顔で答えた。
「ええ、分かっていますよ!少なくても貴方よりはね!」
「なら、お前の存在理由やらを教えて貰おうか!」
零はそう言うと、何時でも戦闘が出来る体制をとった。
零の言葉に少女も構えたが、二人の間に先程まで零の背中に隠れていた寛子が飛び出した。
「待って!零さん!!」
零は寛子の姿に驚き構えを解いて言った。
「な、何をしているんですか?寛子さん!?」
零がそう言うと、寛子は顔を横に振りながら言った。
「ダメよ!!まだ、敵なのか分かっていないのに………ちゃんと話し合いましょう!!」
寛子の言葉に零は一呼吸すると、肩の力を抜いて寛子に言った。
「分かった………確かに俺がどうにかしていた………すまなかった!」
「分かってくれて、ありがとう。零さん!」
寛子は零が納得してくれたので、ホッと胸に手をあてると、次に少女の方を見て話し掛けた。
「ねぇ………貴女のその感じは………一体何者なの?」
質問された少女は、構えを解いて笑顔で答えた。
「それについては、まだ今の段階では教えてあげれません………でも、その時期が来たらちゃんと教えます。だから、今日は挨拶だけです!」
「……………分かった!」
寛子はそう言うと、少女は嬉しそうに言った。
「流石ですね!納得してくれてまして有難う御座います。………でも、そろそろ帰る時間なんですが………お礼にちょっとだけ、面白いものを見せてア・ゲ・ル!!」
少女がそう言うと、少女の周りに光の粒子が出来始めると、少女の黒髪がフワッと舞い上がり髪の毛の根元から毛先に向けて紫色に変色した。
そして、紫の髪の中に白い髪が所々、メッシュの様に入っていき、次に黒い瞳が青色の瞳に変わった。
「!?」
「こ、これって!?」
寛子と零が驚いていると、少女は自分の目の前に右手を突き出して円を描く様に回すと、少女の前に空間の穴が出来た。
「「!?く、空間干渉能力………」」
寛子と零が更に驚いていると、少女は寛子と零に話し掛けた。
「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね!………私の名前は"イヴ"です。宜しくね!寛子姉ちゃん、零兄ちゃん!それから、由美姉ちゃんにも伝えといてね!じゃ〜バイバイ!!」
少女は手を振りながら空間の中に消えて行った。
イヴが去ってから、寛子と零はその場に固まっていた。




