闘いの行方(前編)
陽子が屋根の方に視線を向けると、そこには男が立っていた。
寛子も男を見つめると、陽子に言った。
「ねえ、お母さん………今度は私が闘う!」
寛子は真剣な眼差しで陽子を見て言った。
「…………ダメよ!」
陽子は少し間を置いて、寛子に言った。
寛子は陽子の返事に納得がいかなくて、どうして闘わせてくれないのか聞いてみた。
「どうしてよ!!何で私じゃダメなのよ!!ちゃんと説明してよ!」
陽子は寛子の興奮気味の質問に対して、落ち着いた態度で答えた。
「あのね、貴女には私の血を引いているから[黒の刻印]の因子があるのよ!だから、あの男と闘えば少なからず、寛子の中の[黒の刻印]が目覚める可能性があるのよ!だから、今の段階では寛子はあの男と闘ってはダメなのよ!」
陽子は寛子の目をじっと見つめて説明をしたが、寛子は納得が出来ないで首を横に振ると、陽子に質問をした。
「それだったら、お母さんも同じ事じゃない!お母さんも[黒の刻印]の因子を持っているんだから一緒じゃない!それに、お母さんが言っている事は【天羽】の血を引いている者は、堕ちた者と闘うと[黒の刻印]に惹かれるって、言っているみたい………」
陽子は少し罰の悪そうな顔をすると(ちょっと、説明が悪かったかな………)と思いながら、寛子にもう一度、説明をした。
「ごめんね。説明が悪かったわ!詳しく説明するわね。[黒の刻印]の因子を持つ者は【天羽】の一族の中でも、ずば抜けた能力を持った者だけなのよ!だから、【天羽】の血を引く者の全てが堕ちた者と闘っても、惹かれる訳じゃないのよ!それに、私はあの男が言っていたと思うけど、[黒の刻印]とは真逆の能力を持っているから、あの男と闘っても大丈夫なのよ!」
「………真逆の能力ってどういう事?」
「貴女が、さっき私に聞いて来た、光の属性の能力の事よ!」
「その能力が[黒の刻印]に対抗出来る力………」
「そうよ………私はこの力を[白の天御]と名付けたのよ!」
「……………[白の天御]って…ちょっと、お母さん………」
「カッコイイいいでしょう!気に入った?でも、得に深い意味はないわ!」
「そ、そうなの………」
(どう反応すればいいのよ!それにセンスが微妙………)
寛子は顔を引き攣らせながら思っていると、陽子はそんな表情をしている寛子の顔を見て、口を尖らせて言った。
「寛子!貴女、今失礼な事を思ったでしょ!」
(!?)
寛子は慌てながら、顔を横に振りながら答えた。
「そ、そんな事、思っている訳ないじゃない………べ、別にセンスがない何て思ってないから……あっ!?」
「やっぱり、そんな事を思っていたのね………」
寛子は申し訳なさそうに、母親に謝った。
「ごめんなさい………」
陽子は不機嫌な顔をして、寛子に言った。
「どうせ、お母さんはセンスがありませんよ!」
「………もう、誤ってるのに……分かりました!お母さんの好きにしていいから!」
「本当ね!だったら、私があの男と闘うわよ!」
「えっ?でも………」
「ダ−−−−メ!好きにして良いって言ったでしょ!」
寛子は母親がこうなると、手が付けられないのが分かっていたので、仕方なく男と闘うのを諦めて母親に言った。
「分かりました!でも、闘うからには絶対に勝ってよ!」
「任せなさい!でも、手出しは無用よ!分かってる?」
「はい、はい!分かっているって!」
「返事は一回で宜しい!」
陽子は娘の投げやりな返事に、少し青筋を立てながら、再び男の方を見ると、男に向かって話し掛けた。
「随分と待たせたわね!貴方の相手は、やっぱり私がする事になったから、覚悟してね!」
「……………」
男は無言のまま、陽子を見ていたが一瞬だけ寛子を見ると、再び陽子に視線を戻した。
男の視線を見ていた陽子は溜息を吐いて思った。
(………やっぱり、寛子に興味を持ったみたいね………不幸な女ね………寛子!)
陽子はそんな事を思っていると男が話し掛けてきた。
「………では、そろそろ始めていいかな?」
男の返事に陽子は「そうね!」、と返事をすると男が立っている場所へ移動して男と向き合うように立つと構えた。
男の方も陽子が戦闘体勢をとったので、構えると直ぐに陽子に向かって飛び出すと、陽子に上段右回し蹴りを放った。
陽子はその蹴りを左手で防ぐと、男に向かって右足で前蹴りで男の腹を狙ったが、男は左手で陽子の前蹴りを掴むとそのまま右足を上げた。
陽子は右足を上げられたので、後ろに一回転して踞んだ状態で着地すると、そのまま右足で男の足に足払いをしたが、男はジャンプして足払いを避けた。
男は空中で陽子に対して右足で踵落としを放ってきたが、陽子は右足を空振りした勢いを利用して身体を一回転させて、そのまま右足を男の踵落としに向かって蹴り上げた。
陽子は男の右足に蹴りを当てる事で、男の踵落としを防いだ。
お互いの攻撃は当たらなかったので一旦、お互いに距離を置くと陽子は笑うと男に話し掛けた。
「貴方、卑怯な事しなくても、強いじゃない………」
陽子の言葉に、男も不気味な笑いを浮かべて答えた。
「………お前もな…………」
陽子は久しぶりの闘いに、楽しくて仕方なかった。
自分が最後に闘いを満喫出来るのは何時以来だろうか。
陽子は思い出してみた。
(20年前に本気で闘った以来、その後は誰とも闘った記憶がないわね………それにしても、身体が鈍って、目で追えていても身体がついて来ないわね………)
陽子はそう思うと、陽子は自分の身体に肉体強化の能力を掛けた。
すると、陽子の身体を光が覆った。
それを見ていた男も、身体に肉体強化の能力を掛けると、男の身体にも黒い光が覆った。
男は不気味な笑みを浮かべたまま、陽子に話した。
「………次もこちらから行かせて貰うぞ………」
男がそう言うと、陽子に向かって行き、左手で拳を連打して来ると、陽子は流れる様に男の拳を避ながら男の左側に回り込んだ。
陽子は空振りした姿勢の男の脇腹に向かって、右手で掌底を放ったが男は陽子の掌底を右手で受け止めた。
「あら?」
陽子は直ぐ様、右足で男の延髄に回し蹴りを放ったが、男はしゃがんで回し蹴りを交わした。
男はしゃがんだ状態で、蹴りの軸になっている陽子の左足に向けて右足で足払いを放った。
「………先程のお返しだ………」
「惜しいわね!」
すると陽子は左足だけでジャンプして先程、男がしたみたいに空中で右足を高く上げると、踞み込んだ状態の男に向かって踵落としを放った。
「こちらこそ、お返しよ!」
「クッ!?」
男は陽子の踵落としを避ける事が出来ずに急遽、黒い氷の盾を作り出して陽子の攻撃を防いだ。
陽子は一旦、距離を置いて笑みを浮かべて男に言った。
「少しは勘を取り戻して来たみたいね………そろそろ、覚悟はいいかしら?」
陽子がそう言うと、男は相変わらず不気味な笑みを浮かべて返事をした。
「………お前こそ、覚悟は出来ているのか?………」
男の言葉に陽子は少しムカついたが、陽子はある作戦を思い付いてニヤつくと、男に自信満々で言った。
「ちょっと、苛ついたわね………貴方をボコボコにしてあげるわ!」
 




