結界
陽子の視線の方を寛子達も見ていたが、特に何も感じる事が出来なかったので、寛子が陽子に「お母さん、どうしたの?」と聞くと、陽子は視線を外に向けたまま「噂の人が来てるたいよ!」と言うと、零が立ち上がり、陽子に「兄が近くにいるんですか?」と言うと、陽子は「そうよ!」と言って頷いた。
結界のおかげで陽子以外には、零の兄の存在を感じる事が出来なくて、陽子が「話しも済んだし、もう、此処の場所も知られちゃったみたいだから、結界もいらないわね!」と言うと、家に張っていた結界を解くと、急に寛子と由美は能力の干渉を受けて、気分が悪くなった。
そんな中で、陽子と美沙子は零の兄の干渉を受けているはずなのに平然とした顔をして二人で会話し始めた。
「ふふふ、零クンのお兄さんはやる気満々みたいね〜!」
「そうね………[黒の刻印]の能力を隠す気はないみたいだしね!」
寛子と由美は、二人の平然とした顔を見て(お母さん達は、この干渉の中で平然としていられるの?………うぷっ!気分が悪い………)と思いながら二人共、吐かないように口に手を当てていた。
零は[黒の刻印]の共鳴を感じると、自然と口がニヤついて(今度こそ、逃がさないよ兄さん………)と思いながら、共鳴を感じる方を見ていた。
陽子が気分悪そうにしている寛子と由美を見て「二人共、大丈夫?これからお客の相手をしないといけないから、外に行くけど一緒に来る?」と話し掛けると、寛子と由美は吐くのを我慢しながら、頷いた。
陽子は美沙子の方を見て「なら、行きましょうかね!お客さんも、お待ちだしね!」と言うと、美沙子も「そうね〜!」と返事をして、玄関の方へ向かった。
寛子と由美と零も二人の後を追うように、遅れながらも玄関の方へ向かった。
寛子達が玄関から外に出てみると、直ぐに違和感を感じた。
「「「!?」」」
外の雰囲気が一辺にして変わったので、寛子達は混乱していると、先に出て行った陽子が寛子達を見て話し出した。
「これは、[黒の刻印]を持つ者の空間結界よ!」
「「「空間結界!?」」」
寛子達は陽子の言った能力に理由が分からなかったので黙って、陽子の言う事を聞いていた。
「久しぶりにこの空間結界の中に入るけど寛子達は初めてだから教えとくわね!この空間結界は通常の空間とは切り離されて作られた空間なの!だから空間結界内で壊された物は結界を解除して通常空間に干渉をしないから、戻っても壊されてなかった事になるのよ!」
陽子の説明で、大体の事は理解した寛子達だったが少し結界内での違和感はまだ消えていなかったので周りを見回していると、寛子が違和感の正体に気が付いた。
「えっ?………人が一人もいない…………どうしてなの?」
寛子の言葉に由美も零も周りを見渡してから違和感の正体に気付いた。
寛子は陽子に「これってどういう事なのお母さん?」と尋ねると、陽子は少し引きつった表情をして答えた。
「この空間結界の中は、作った者が許可をしない者は空間結界から弾き出されるのよ!」
「でも、それって周りに迷惑を掛けないで済むから、こっちにとっては都合の良いものじゃないの?」
「寛子………気楽に言ってるかもしれないけど、この空間結界の本来の目的は狩りをする為のものなのよ!」
「か、狩り?」
「そうよ!この空間で命を落とした者の身体は通常空間には戻れないのよ………それに、通常空間に戻った瞬間に命を落とした者は、存在自体が無かった事になるのよ!」
「そ、存在が消されるの………」
「そうよ!だから、この空間内で絶対に命を落としてはダメなのよ!」
「ここから、出る方法はないの?」
「出る方法はね………この空間結界を作った物を殺すか、作った者が自ら結界を解除するの2つだけなのよ!」
「………それ以外にないの?」
「あっ!もう1つだけ方法があったわ!」
「何なの、お母さん?」
「それは、この結界を作った者をボコボコにして意識を失わせる事よ!」
陽子が嬉しそうに言うと、寛子は少し苦笑いをしながら思った。
(うちのお母さんて、どうして血の気が多いのかな?)
寛子は自分の母親の性格にもう笑うしかなかった。
そんな寛子を見ていた由美は、寛子の気持ちが分かったのか、同情した目で見ていた。
一方、寛子達の後ろで零は寛子の自宅の向かいに見える家の屋根の方を黙って、見つめていた。
陽子が零の方を見て話し掛けた。
「零クンは、既に分かってるみたいね!」
「ええ、兄の存在を嫌って言う程、感じます………」
「と、言う事みたいよ!早く出て来なさい!」
陽子が自宅の向かい側の家に向かって、そう言うと家の屋根に黒いコードを着た長身の白髪の男が現れた。
その男を見て、零は今まで抑えていた感情を爆発させて、男に叫んだ。
「やっと見つけたぞ!」
「………………」
男は零の言葉に返事はせず、黙ったまま零を見下ろしていた。
零は兄のそんな態度に、感情を更に高ぶらせて叫んた。
「アンタのせいで、親父やお袋や陽菜がどれ程、辛い目にあったのか分かっているのかよ!」
「………………」
「アンタは好き勝手に生きていけばいいけど、残された者の気持ちも、ちょっとは分かれよ!!」
「………………」
「………それに、アンタがいない間に、陽菜が危険な状態だったんだぞ!!」
「……………関係ない」
「か、関係ないだと!!アンタ………何を言ってるのか、分かってるのかよ!!」
「俺は人を超越した者だ………人の繋がりなど不要なもの………」
「超越しただと!単に人間を辞めただけじゃねえか!!」
「………それが理解出来ないとは、愚かな奴だ………」
「ああ、愚かな奴で結構さ!人間を辞めるぐらいなら、俺は今のままでアンタを止めるみせる!!」
「………お前には無理だ………」
「闘って見ないと分からないだろ!それに前の俺と思うなよ!!」
「………もう、お前と語り合う必要はない……消えろ」
「!?」
男は零に向かって、右手を突き出すと衝撃波を放った。
いきなりの攻撃に、零は(避けられない!)と思って素早く防御の体勢を
とった時、陽子が零の正面に立ち、能力で盾を作った。
「天羽流 光玄武!」
陽子がそう叫ぶと、陽子の正面に光の盾が出来て、衝撃波を防いだ。
零は目の前で、起こった出来事を茫然と眺めていた。
光の盾を解除して、陽子が男に対して言った。
「挨拶がわりにしては、物騒じゃないの?それに、貴方の相手は私よ!」




