朝の訪問者
寛子と由美は玄関口で呆然として立っていた。
まさか、朝から弘雅が訪問してくるとは思いもよらなかったからだ、寛子は少し顔を引きつらせて由美の後ろに隠れた。
その姿を見た弘雅は「ヤレヤレ!嫌われたな」と言った表情で寛子を見ている。
美沙子は弘雅と寛子の起きた出来事を知らないので「どうしたの?」と言った表情だった。
そんな中で由美が弘雅に少し刺がある言い方で、弘雅に訪ねた。
「何の用で来たの?」
「おいおい、俺は寛子と一緒に登校しようと思って迎えに来た」
「はぁ!?昨日、寛子に結構な事したのに?」
「………やっぱり、聞いたのか?」
「全部、聞かせて貰いました!」
「それで、この態度か?………俺って嫌われ者だね!」
「当たり前でしょ!見なさい、寛子が怯えているでしょ!」
「………確かに昨日は、やり過ぎたと反省はしているよ!」
「何故、寛子に謝らないの?」
「………忘れていた」
そう言うと、弘雅は寛子の方を見て頭を下げて謝ってきた。
「昨日は済まなかった!」
いきなりの弘雅の謝罪に、寛子はどう反応していいのか分からず、オロオロしながら返事をした。
「も、もういいから!」
美沙子は、由美達のやり取りを見ていて大体の状況を理解した。
そんな中、リビングにいた陽子が玄関口が騒がしいと思い、やって来た。
「どうしたの?まだ学校に行ってないの?」
「あっ!お母さん!」
まさかの陽子の出現で皆が固まった。
弘雅は慌てて、陽子に挨拶をした。
「お久しぶりです!」
「おお、誰かと思えば井上君じゃない!どうしたの?こんなに朝から来るなんて?」
「篤の容態が気になって様子を見に来たんですが、誰もご自宅には居なかったので、もしやと思いこちらに来ているのでは思いまし来ました」
(嘘ばっかり付いて、本当は寛子を迎えに来たくせに!)
由美は弘雅の説明の聞いて、心でそう思っていた。
陽子は篤の事を聞かれたので少し困り、今の状況を怪しまれないように弘雅にこう言った。
「そうだったの?………篤は少し具合が悪いから、入院させているのよ!」
「「「「!?」」」」
(私、いつ入院したのお母さん?)
(陽子さん………少し強引では!)
(……………陽子……適当に言ったわね~!)
三人はそれぞれ、陽子の苦し紛れの言い訳に内心思った。
そんな中、弘雅は寛子の秘密を知らないので、本気で陽子の言葉を信じて訪ねた。
「篤は大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ!知り合いの病院に一時的に入院してるだけだから!」
「そ、そうなんですね!」
「心配してくれてありがとね!」
「まあ~、代わりに寛子が退院したから宜しくね!」
「寛子の事は任せて下さい!お義母さん!」
「……………井上君!…今…寛子の事、呼び捨てにしたわよね!それと私は貴方のお義母さんではないから!言葉には気を付けてね!」
「…………………はい!」
陽子は静かに能力を開放しながら、弘雅を威圧していた。
弘雅は汗をダラダラ流しながら、小さく返事をした。
「それよりも、あんた達!学校は行かないでいいの?」
「「「あっ!?」」」
三人はすっかり忘れていたので、慌てて美沙子と陽子に頭を下げると、学校へと向かって行った。
その姿を見送りながら、陽子は溜息を吐いた、その横で美沙子が意地悪そうに陽子に言ってきた。
「これから、大変よ!寛子ちゃんモテそうだし!」
「………誰が来ても寛子はやらない!」
「ふふふ、陽子も母親やってるわね~!」
「………本当にいつの間にか親になってしまったわね!」
「そうね~!でも、それが運命だったのよ~!」
「…………そうね!でも、気になる事があるのよ……」
陽子は考え事をしていた。
美沙子は考え込んでいる陽子に聞いてみた。
「どうしたの~?」
「ちょっと、寛子の事で気なって……」
「寛子ちゃんの事で~?」
「そう、寛子の翼についてなの!」
「綺麗だったわよね~!」
「そうね………でも、あの子の翼が現れる開放値がおかしいの!」
「開放値が~?」
「そうなの!昨日の朝も寛子に翼を出させたけど、昨日は30%ぐらいで翼は現れたの!」
「!?……………それって~!」
「そうなの…………あの子、能力が成長してるの!」
「そんな~…………まだ、一日しか経ってないのよ~!」
「だから、私も不安なの………」
「…………どうする気なの~?」
「今は見守るしかないわ……でも、私の手に負えなくなったら、その時は………」
「…………………………」
美沙子は陽子の返事に黙り込んで、子供達の向かった方を見ていた。
一方、寛子と由美は少し距離を取って、歩いて来る弘雅に警戒をしながら登校していた。
そんな態度に弘雅は不満を抱いて、寛子達に話し掛けてきた。
「何でそんなに距離を置いて歩くのさ?」
「貴方ね!寛子にセクハラした上で言ってるの?」
「………………」
「見てご覧んなさい!寛子が怯えているでしょ!」
「それに付いては、さっき謝ったじゃん!」
「謝っても許されない事があるの!」
「えーーーーー!」
「だから、私達からもう少し離れて歩いてよね!」
「これ以上、離れたら一緒に登校する意味がないじゃん!」
「こっちは貴方とは、一緒に登校する気はありませんので!」
「…………つれないな~!」
寛子は由美にの傍を離れないでずっと無言のままだった。
学園の近くまで来ると、同じ制服を来た人の姿が多くなって来たが、生徒達に少し違和感を感じた。
寛子達の姿を見ると何かコソコソと話したり、寛子をチラチラと見たりしていた。
「ね、ねえ、由美?………何か変なんだけど………」
「そうね………やけに、見られているわね……」
「何かあったのかな?」
「気にしない、気にしない!」
「だって………」
「学校に行けば何か分かるんじゃないの?」
「そうだね!」
「なら、急ぎましょ!」
由美がそう言うと、寛子と由美は学校へ急いだ。
………………その後を、ストーカーみたいに歩いて行く弘雅がいた。
 




