21:監督の手土産
21:監督の手土産
四十後半の男が投げ出された椅子を一つ拾い上げ、元あった場所に戻して座った。
男は指先で自分の頭を数回小突くとおもむろに横を見た。
そこには上級生に軽く引かれて、同級生には怖がられる一年生が仁王立ちしている。
その少女の風貌は、幼さの残る小顔にウェーブのかかった暗めの茶髪の髪を右側にリボンで二つに結んでいる。
普段は周りに敵を作らないような律儀な性格をしているが、バスケの試合でスイッチが入ると性格もバスケも様変わりしてしまう。
それを理解してくれているのは、同じ中学にいた内々のメンバーと当時からの監督くらいで、四月に出会ったばかりの上級生たちからは、
『面白い子だなぁ?』
と、温かい目で見られることが半分。
また、彼女は上下関係を無視して先輩にも厳しい言葉をかけるため、
『面倒くさい』
と思われているようだ。
そのためチームの戦略も全国本番まで時間があるこの頃は偏った戦法をとっていた。
前半の二クォータ分を一年生チームで攻めて攻めて、さらに攻めることで上級生に敵わない守備面をカバーした得点を重ねていく。
後半からは彼女以外が全員交代して上級生の堅い守備で守りきる、というのがベースになっていた。
ここで中学からの名監督として知られる野田が手を加えたこと――というか強制させたことは今年入学したばかりの一年生を試合に出し続けることだけ。
それが結果を結んだのは四月下旬に行われた都内での練習試合のことだった。
この頃から試合中に彼女のスイッチが入るようになり、彼女だけのスタイルが確立したからだ。
***
試合の主導権は子津率いる霜月高校が握ったままなのに、鉄壁な守備がとてもシンプルな方法で破られつつあった。
バスケットでシンプルな戦術――といえばそれは一つしかない。
それは女子同士ならなおさら効果的に働く。
その試合模様を眺める監督は満足げに鼻を鳴らす。
「ふむ。あの子津という選手は、去年もそうだが相当ヤバイな。……ただ、それは一対一で対峙したときであってチームスポーツには――――」
チームを指揮し、コート中央でプレーをする子津の頬が薄く赤みを帯びて火傷をしていた。
それは一瞬前のプレーで彼女の顔面の横をボールが掠めていったからだ。
そしてその正面にはボール出した当人がいた。
「関係ない!」
「そうだ。二條のバスケは――」
「私のバスケはどんな鉄壁も打ち抜くバスケだ!」
「いや、えっと――」
「止められるものなら止めて見ろやぁああ!」
「最後まで言わせてぇ、出番減っちゃうからぁ。監督を空気みたいに扱うのは止めてぇ」
両チームのエースが睨み合い試合は終盤へ移行する。
そのとき先に千駄ヶ谷のベンチが動いた。
それは遅れてきた野田が拾ってきたお土産だった。
「はぁ…………選手交代だ。好きにやってこい」
「はい。監督の監督も約束は守ってくださいよ。この試合が終わったら、ですけどっ」
「あぁ、分かってる分かってる。とにかく二條をサポートしてやれ」
野田は中学生くらいの小柄な少女を投入した。