20:もう一人の後輩
20:もう一人の後輩
昨年県ベスト四の竹春高校にいる由那や全国大会出場校である高円寺・田村・中京にそれぞれ在籍する中村と野田、久世、東の出身中学である千駄ヶ谷。
そこが全国制覇できなかったのは過去十年で一度だけだ。
そのときのエースが“二條まゆ”という当時バスケの才能に乏しかった少女だった。
***
竹春高校に乗り込んだ五人は現在の千駄ヶ谷高校のレギュラーに早くも名を連ねるほどの実力者揃いだ。
中学の頃からそれぞれのポジションが明確に決まっていたことと、当時の監督が今の高校の監督であることで早い段階から試合に出させてもらっているというのもある。それでも一番大きな要因は一年生にしてチームの副キャプテンを務めている少女が馴染みやすいメンバーとして試合に出されている。
中学と同じメンバーで試合をすることができるため、チームプレイも三年来の友のようにすることができる。
「佐前と佐須なんて聞いたことないけど」
「あんたが秒でボールを取られるなんて、そこそこやりそうじゃない」
「うるさいな。油断だよ、油断」
「でも、バスケは実力が全て」
「まゆには悪いと思うけど、もう少しやっていこうか」
十点先取のミニゲームから始まった竹春VS千駄ヶ谷の試合は、3on3からお互いに二人加えて5on5となり、途中参加した上級生の活躍で竹春がカウンターから点を奪ったところだ。
その上級生二人の実力を見て、露骨にやる気になった千駄ヶ谷が点差なんて関係なく全員で攻めに転じてくる。
竹春も足の速い栄子が戻って四人で守備に行く
ポジションから最初のチェックに栄子が行き、パスコースを愛数と滴が塞ぐ。
残り二人のマークには中間をとるようにして揚羽がついた。
「さっそくリベンジにいけそうね。ほいっと」
「上等!」
パスを出すには少し窮屈だったが、先程ボールを奪われた田蒔に早いボールを入れる。それに揚羽がつく。
「マークが甘いよ!」
今度は油断も奢りもない田蒔は冷静に、フリーになったもう一人にパスを落とし速攻で点を取り返した。
「おぉ――ってこのくらいは普通か」
その流れるようなパスワークに声を漏らす揚羽だが、今度は自分たちの番だと近くにいた愛数の背中を押して顔を上げさせる。
その視線の先には生意気にも自信過剰な相手校の一年生たちがいた。
***
その頃、霜月高校に遠征している本当の千駄ヶ谷は得点を最小限に抑え込まれてしまい二十点ビハインドで後半戦に臨むインターバル中だった。
後半からは、メンバーを一新し点差を縮めていきたいところだが、交代するメンバーがいつもより五人も少ないため、副部長の二條が頭を悩ませていた。
そこへOBのせいで遅れた監督が車で到着すると、体育館の中から大きな音が聞こえてきた。
聞き覚えのある音に監督はため息を漏らす。
「ここを相手にもうスイッチを入れているというなら、予定より大きく点差が開いているのかな。もしくはあいつらのことだから、何かやらかしてベストメンバーでやっていないのか」
遅れると伝えなかった監督の野田も悪いのだが、試合の詳細を連絡されていないので想像で考えていた。
あの特殊な性格の二條がスイッチを入れたというのなら、早くいかなければ問題が起きる可能性が高い。
中学の時、あれほどバスケの才能に恵まれていない選手も稀だったので印象に残っている生徒の一人だが、その解決策として会得したのがアレとなると監督として泣けてくる。
彼女の特殊な性格というのは、あまり褒められたものじゃない。
――体育館では二條が自分たちのベンチのスペースが空っぽになっているのを仁王立ちをしながら見下ろしていた。
そのスペースにあったはずのパイプ椅子は、不思議な力が働き、壁の方まで蹴り飛ばされて乱雑に置かれている。
それを二、三年生は「うわぁ」と引きぎみに見て、一年生は怯えていた。
「あぁああ、くそっ! あいつら帰ってきたらタダじゃおかない!」
その惨状はベンチに戻ってきた二條まゆが癇癪を起こしてできたものだった。
彼女がベンチに戻るなり、大きく振りかぶった右脚で整然と並べられているパイプ椅子を蹴散らした。大きな音がして会場内の注目を集めるが、その筋の人は知っていることなので、気にする様子もなかった。
当の二條まゆの方といえば、これまでの敬意を含んだ礼儀正しい口調からただただ乱暴なものへと変貌していた。
これが二條まゆのプレイスタイルを変化させるスイッチを入れた状態になる。
「まぁいい。あいつらが帰ってくる前に逆転して吠え面かかせてやる。そんで罰則でも与えればいいや――――――――うん、楽しみ」
さらに彼女のスタイルは全国区の選手と比べて見ても特殊で決まったポジションを持たないことに利点がある。
それがどういったものなのか、
そして『戦艦』の異名を持つ彼女のスタイルは後半から披露される。