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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(開幕編)
96/305

19:彼女たちのヒーロー

19:彼女たちのヒーロー




 コートに入ってくる二人に部長が声をかける。



「無理しないでよ。もう来月からは地区予選なんだから」


「はいはい」


「はいは一回って部長に言われるわよ」


「ま、頑張りましょう」


「「言われなくても!」」



 フォーメーションを弄って八重をポイントガード、佳澄と部長、由那を攻めにする。


 由那の動きを熟知している八重からのボールを由那経由で佳澄が受け取った。



「前半は、どうも」



 奇しくも前半と同じ人が佳澄とマッチアップした。



「無意識に手を抜いた前半とは違う。全力を見せましょう」



 それを言うなり佳澄が前半と同じように独特のステップで抜きにいこうと見せかけ、シュートを放つ機会を伺う。



「ほうら、もっと近くに来ても大丈夫ですよ。怖くない、怖くなぁい」



 安い挑発に相手が乗ってこない。


 八重ならホイホイ乗ってくるのに、と頭の中で思い佳澄は動き出す。



「はい――」



 マークを外せないまま佳澄は強引にシュートに行く。


 それを叩き落とそうと相手が足に力を入れると、



「あ、あれ?」



 誰かに引っ張られたように体が後ろに傾いて倒れそうになる。


 その間に佳澄はスリーポイントシュートを冷静に決めて自陣に戻っていく。


 その際に一言だけ残した。



「はい、入りました」



 ニ、三歩よろめいた大学生は、ようやく佳澄が行ったことに心当たりがあることに気付いた。


 それは去年のインハイで高円寺高校とやったという後輩が、一度も止められなかったシュートが二つあるといっていたことだ。


 その一つが、シュートブロック不可能な野田佳澄のミドルレンジだ。


 一度見ただけでは良く分からないが、実感してみて初めて分かる怖さがある。


 流石に高円寺高校のエースの片翼は天才型というだけはあると思った。



 次に、シュートをはじき返した八重が、ボールを味方に託して上がると、ゴールリング付近にふわりとしたボールが上げられる。



「やっぱ佳澄はすごいな。あんなのが相手だったら怖いだろう」


「ここは中村八重だと思っていたよ!」



 八重のダンクを防ごうと、ゴール下に集まった四人が交錯して八重は合計六本の腕を片手で受ける形になる。



「この程度で防げると――思うなよ!!」


「うっそだろ……」



 空中で静止したかと思うくらい力と力のぶつかり合いになったが、それぞれの体重以上の力を発揮した八重が押し切ってゴールリングにボールを叩き込む。


 天才型の佳澄に対して、もう片翼のエースは圧倒的なパワーで彼女らしく、競り合いなら五人が相手でも負けないバスケをして決め台詞をいう。



「はい、ドーンってか。久しぶりに言ったな」



 負け惜しみらしく大学生の一人が言う。



「くそっ、これまでの試合や前半とは大違いじゃないか」



 その言葉を聞けて嬉しかったのか、二人は声をそろえて言う。



「「まだまだ、こんなもんじゃないですよ」」



 これらプレーで一気に五点差にした高円寺高校にそのまま流れが来るか、と思ったが、部長の感じた流れはそう告げていない。



「八重と佳澄、ナイスプレーだよ。次は守るわ。そういう感じがする」


「私の感覚もそう言ってる」


「じゃあ、守ろうぜ」



 ここからはワンプレー毎に両チームの意地が見えた。


 インハイとインカレ出場校同士が、町内会の運動会程度のこの大会で死力を尽くして戦い合った。


 高さで対抗できる八重と佳澄が守りの要になって攻撃は残る三人がする。


 大学生は選手交代で速さのある選手を入れて大人げないと言われてもいいくらい高校生を置き去りにするプレーを見せるかと思えば、それに負けじと高校生チームの一年生が丁寧なドリブルで淡々と決めて、とうとうラストプレーになった。



「ここは、決めます!」


「絶対に通さない」



 佳澄がマッチアップした大学生と由那がマッチアップし、ゴール下には八重が、スリーポイントラインには佳澄がいた。


 本気になった先輩の凄さを由那はとても近いところで感じることができた。


 そして今まで感じたこともないような一体感と実力のある周りからの影響もあって、少女も進化する。



「――――!」



 何かに躓いたように尻餅をつく大学生。



 その横を通り過ぎていく由那。



 そう周りからは見えていた。



 何が起こったのかわからないままフリーになる由那に試合の残り時間からシューターである佳澄以外のマークが止めに行くと、急加速した由那が強引にゴールへ沈めに来る。



 身体を当てるように跳躍して、彼女の腕に相手の腕が当たっても動じずに正確無比なシュートがリングに掠ることなく貫いた。



 バスケットカウントが取られることもなく、そこで試合終了の笛が吹かれる一瞬の出来事。



 由那が最後に見せたプレーは、中学からずっと見てきた二人の先輩がそれぞれ持つスタイルを自己流に消化させたものだった。



 これだけのチームにいたからできただけで、もう一度やってと言われてもできないだろう。



 超攻撃型のスタイルだからこそ生まれたものが今のプレーに集約されていたことになる。



 試合結果は、51対49で見事高円寺高校がこの大会の優勝を決めた。






 ***

 試合が終わった後、由那は中学の時の先輩である八重と佳澄の二人に呼ばれて人があまりいないところへ呼ばれた。



「ありがとう。おかげでいろいろ吹っ切れたよ」


「由那の知らないところでね」



 先輩たちが笑いあうのを見て由那はなんだか安心した。



「そうだ。本当は言わないつもりだったけど、やっぱりいうことにする」


「そうね。由那が良ければだけど」


「私たちと一緒に――――――――」



 先輩二人が由那へ手を差し伸べる。



 その言葉は由那の心を大きく揺さぶることになった。



次回、思ったよりずいぶん長くなりましたが時間軸でいうと前日の竹春高校に話は戻ります。

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