18:制限器(リミッター)
18:制限器
後半開始三分でコートに立った由那は部長に伝言を伝える。
「え、まあ、佳澄がそういうならそうするけど」
「よろしくお願いします!」
その子が淡々とものを言うのは、佳澄で慣れているし、二人と同じ中学ということで相応の実力を持っていることも分かっていた。
それでも今、一緒のコートに立っていて鳥肌が立つというか、体が震えるような感覚は才能を開花させたときの二人にそっくりだ。
それに佳澄からの伝言は、その子から二歩遠い場所に早いパスを出せ、というもの。
何か企んでいるに違いない。
「いくよ、みんな。点さえ確実に取ればこれ以上引き離されることはないわ!」
部長本人が気付いていない才能があるらしい。
それは場の流れを読むことができる、というもの。
大雑把にいえば今が攻め時か守って我慢しなければいけない時なのかが分かる。
この試合で言えば、残り少ない時間で逆転するために得点チャンスを落とせない、けれど失点はそれ以上にダメだという防衛本能。
しかし部長のセンサーにもはっきりと由那という選手に任せればどうにかなりそうな気がしていた。
「それじゃ、要求通りいくよ!」
「はい!」
前線に走りこんだ由那が相手のマークを引っ張ったままゴール付近へ動く。
もちろんパスコースはさえぎられているが、二歩遠い真横あたりに出せば誰も取れないパスが出せる。それは彼女も取れないはずだけど、迷わずそこにパスを出した。
「血迷ったのか――な!」
「ナイスパスです!」
辛うじて由那の指がボールに届く。
「でもそんな体制からじゃ、例えパスが通ったって」
「すみませんが――」
引っかかる程度の指先だけでドリブルを始めた由那は、一気に加速してドリブルを開始する。
針の穴を通すような繊細なドリブルをトップスピードでこなす由那に、手を伸ばしただけの大学生は置き去りにされてしまう。
「時間がないので一人で行かせてもらいます!」
数えるほどのステップでフリーのになった由那は、仲間の栄子が得意とするレイアップを決めた。
彼女よりリーチの長い相手が届かないパス。それを捕球して、そのまま高速ドライブで切り込んでくる由那の快進撃は続く。
「先輩の分も頑張らせていただきます」
マークの枚数が増えても彼女の領域へのパスを止める術はなく、どうしても二人目を使わざるをえなくする。
その間にフリーになった仲間が得点というパターンも見せ、攻めのパターンが一人で切り込んでいくものとフリーの仲間を使うもの、パスを出すと見せかけて囮にするなど、多様な攻めで一定のリズムができて、部長の感覚が攻めの流れを感じ取った。
こういうときは守りもうまくいって攻撃の時間を長くとることができる。
「あってないような点差! 簡単にひっくり返すよ!」
「はい!」
後輩である由那の頑張りに触発されたのか、ベンチでウズウズしている二人がコート上の部長に合図を送りつつ隣同士で話す。
「佳澄、実は思っていたことがあるんだけど」
「奇遇ね。私もきっと同じことを考えていたわ」
「中学の頃、由那は試合の最後に出てきていつもヒーローみたいだった」
「なら、私たちもヒーローになろう?」
「さあ、いこうか」
「しょうがないわね」
フル出場できないといった二人は、試合のワンポイントでこれからは出ることになるだろう。
その予行演習として二人は立ち上がった。
高円寺高校は、試合時間、残り四分で八重と佳澄を投入して一気に点差を縮めに行く。