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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(開幕編)
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14:先輩と後輩の関係

14:先輩と後輩の関係




 黒をベースにオレンジ色のロゴが入っているだけのシンプルなデザインのユニフォーム。


 それが今では女子バスケットボール界で最強の王者を示すものになっている。


 もう二年も昔のことになるが、あの二人が入学して最初の大会からずっとそれは続いている。



 一年次の中村八重と野田佳澄は顧問がどれほどの裏金を積んで高円寺高校という無名の高校に入ってくれたのかという話があったくらい有名な選手だった。


 その昨年には中学最強の千駄ヶ谷中でエースを張り、その中学の卒業生を見れば皆強豪校へ推薦で進んでいるのに、ここ高円寺高校のようなバスケが大して強くもない学校へ一般入試で入った二人は異色のケースといってよかった。


 当然のようにその二人を中心にしたチーム作りになると思った二年前の四月、二人は言った。



「私たちは全員で勝つバスケをしたい! 一人や二人が良いだけで、それに合わせて全員が動くんじゃなくて、その二人がダメでも三人目、四人目が代わりになれるチームなら絶対にインハイで優勝できると思うから!」


「私たちは本気で優勝を――全国大会制覇を目指しています」



 その二人がいれば、高校とはいえ全国制覇もそれほど難しくない。


 同学年を含め、当時の三年生から見ても雲の上の存在である八重と佳澄の二人が何を言っているのか当初は誰も分からなかったが、夏のインハイ予選までに徐々にみんなが分かるようになっていた。



 まず、中学時代の監督が佳澄の愛じ――もとい関係者なので高校生向けの練習メニューを考えてもらいそれを全員でやった。


 組織的な攻守やその切り替えは反復練習をして覚える。


 攻撃の要をシューターの佳澄、守備の要を背が高くフィジカルの強い八重が担当することですぐに始まる地区予選にどうにか間に合いそうだった。


 これらの練習を通して二人がチームの中心で間違いないと同学年の子たちは思ったようだ。


 しかし年上の先輩たちは気づいたことがある。


 直接聞いたわけではないが、練習を考えてきて実際に指導をすることもある二人は以前、中学の頃よりも練習量をおとしているのではないかと。


 そう思うようなったきっかけは、ある週末に午前中をいつも通り練習して午後を練習試合にあてた日に、体力面では中学を卒業したばかりの二人に勝っていると思った上級生全員が試合後に死ぬんじゃないかと思うほどぐったりしているところに、さらったした顔で二人がクールダウンと称してランニングをしていた時だ。


 つまりは、トップの二人に合わせて試合や練習をしていけば、ついていけないメンバーが強豪校でない高円寺では必ず出てくる。それも生き残れるのは一握りいるかどうかだ。


 それを少し遠回りになるが、全員で乗り切れるようにしかし負けないバスケを続けられるように二人でなく全員で戦うバスケに拘る。


 あえて茨の道を通ろうとする二人の覚悟に上級生一同は怒るばかりか、同じ思いをもって頑張ろうと口に出さずとも気持ちを通じさせるようになり、チームの雰囲気も昨年の地区予選敗退をした頃より逞しく見えた。



 そうした上級生との連携、基礎能力の向上で激戦区の地区予選を突破。



 都大会までにはさらに練習を積み、エース二人の活躍もあってどうにか全国への切符を手にして全国大会へ駒を進めた。


 この頃には八重と佳澄にも変化があり、八重はボールを持った状態のせめぎ合い――パワー勝負では男子にも負けないダンクシュートを武器に。佳澄は試合の流れを引き込むロングレンジからのシュートを極めて試合の終盤になれば八重以上の脅威を持つ選手に。


 同世代のトップに近い二人の才能が開花してから始まった全国大会は、二人が全試合を支配して優勝したのが一年生の時。


 その年の冬、翌年の夏にも優勝し、その頃には周りの実力も王者の名に恥じないほどに上達していた。




 しかし自分たちより他人を優先した練習、負けることを知らない全力全開のバスケを続けた二人が優勝旗と一緒に抱え込むようになった爆弾は本人たちも気づかないうちに巨大なものへとなっていた。




 そして今から一年前、彼女たちが二年生の冬の全国大会は、高円寺高校が欠場をして主要な全国大会での連覇を止めることになった。




 その本当の理由を知るのは本人である二人だけで、現部長を含めた他の部員達には八重と佳澄の二人が疲労による体調不良ということで、最後の夏に向けてこの二人が無理に試合に出ないように欠場という形をとった。



 それが本当にただの疲労であれば、今の彼女たちは何の問題もなかった。



 ――後輩の由那から見て、高校へ上がって才能を更に開花させた二人が『中学の頃のプレーと変わらない』と思われているのは、やはり問題だろう。



 それはつまり、現状で二人はこの程度の力しか出せない。



 壊れかけのエース、と身近な一人が気付いてもしょうがない。



 できれば功労者の二人が最後の全力を出せる場は今年の全国大会決勝戦であって欲しい。



 その願いを、彼女たちの後輩である少女に託したのだ。



 そして可能であれば、その少女にはエースの二人の近くで優勝の手助けをして欲しい、とも思っていた。


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