13:黒色のユニフォーム
13:黒色のユニフォーム
高円寺高校の一員として由那は、背番号十四のユニフォームを借りてベンチに座っていた。
隣にはいずれの試合にも途中出場しかしていない八重と佳澄がいる。
トーナメント一回戦は由那を先発させて後半の五分ずつを八重と佳澄が出る予定だ。
「先輩、やるからには優勝目指して頑張りましょう!」
由那が元気にそう答えると、昨日の今日でそのやる気についていけない二人がいた。
「や、やる気があるのはいいことだな」
「でもまあ一回戦は余裕でしょう」
「……でも相手は大学生みたいですよ」
「いや、昨晩の醜態を見られちゃうと何も言えなくなるけど、これでも二年連続インターハイ優勝してるから」
「私たちを倒すなら、インカレ出場校くらいじゃなきゃ相手にならないな!」
数分後、試合が開始されると数秒で高円寺高校の一人が易々と得点し優勢を保ったまま、試合終了間際には八重が七十点目を豪快なダンクで決めてゲームセット。
由那もポイントゲッターとして、開幕から大会最高得点になるであろう試合を演出した一人だった。
これだけ由那が頑張っているのには、部長さんからの入れ知恵があった。
***
――田崎さん。八重と佳澄に本気のバスケをやらせないで。
朝に聞いた部長さんの言葉を受けて由那はこの試合に参加するのを決めていた。
先輩二人が本気でバスケをやったらどうなるのか、由那には考えても良く分からなかったが、部長さんの話す雰囲気から良くないことが起こりそうな気がしたのだ。
「先輩、やるからには頑張りましょう!」
そうした思いから出た由那の言葉だった。
昨日も中学時代と変わらないプレーを見せてくれた先輩たちが大きな問題を抱えるとも思えなかった。
中学時代の彼女を知らなければ分からないことだけど、竹春高校の一員になった現在の由那のスタイルはだいぶ変わっている。
昨日の同窓会の試合でも、本来のフォワードというポジションよりパス回し中心の一歩下がった位置を主戦場にしたが、中学時代にはトリプルエースと呼ばれるくらい攻撃に特化したスタイルが本来の姿だ。
そしてそれを可能にしていたのは、紛れもなく周囲の力の違いだろう。
由那の周りにいた人といえば、
センターには競り合いになれば負けないエースの片翼がいて、外からのスリーを決めてほしいところで必ず決めてくれるエースの証を持つシューター、滞空時間に絶対の自信を持ち正確なパスを出せるポイントガード、それをサポートしときには奇抜なトリックパスを出せるセカンドガード、リバウンドでほとんどすべてのボールを死守できる技巧派など五人が五人ともエース級の実力を持った個性派揃いだった。
もちろん攻めも守りも一級品だったから、由那も一番得意だった攻めに専念することができたのだ。
それが初心者ばかりの竹春高校では事情が変わり、一人で攻めたり守ったり、ゲームコントロールもしなければならず負担が増えるばかり。それで体調を崩したこともあるが、チーム事情で封印した超攻撃型というスタイルをこのチームでは存分に発揮できる。
「私が先輩の分まで頑張るんだ」
無意識でそんな言葉が零れた。
それを聞いた佳澄は、部長がいらない知恵を由那に与えたのだと微かに感付いていたが口には出さなかった。
二回戦も八重と佳澄を前後半に分けて出場させて安定感のある試合で勝利。
運命の三回戦はこのトーナメントの決勝戦。
そこには昨年度の高校と大学の全国大会覇者の両チームが肩を並べた。
普通に戦えば高円寺高校のダブルエースが全力を出さなければまず勝つことは難しい試合になるのは、まず間違いない。