12:休日の催しもの
12:休日の催しもの
朝起きると二人に挟まれるように川の字で寝ていた。
いつの間に、と思ったが半目のまま起き上がる。
枕元に置いた携帯に手を伸ばすとまだ時刻は五時前で両側に眠る二人を起こさないように、慎重にベッドを滑り落ちて立ち上がりドアを出ていく。
部屋を出ると上下ジャージの人が目の前を通り過ぎた。
その人は朝のランニングに行くところだったバスケ部の部長さんだった。
「おはよう。昨日は久々にみんなが長風呂で楽しかったよ。ありがとね」
「はい。お、おはようございます」
「どうもスポーツ女子が多いせいか、さっと入ってさっと出て行っちゃう子がほとんどだから、普段は一時間も二時間もお風呂にいるなんてことはないから安心してね」
昨晩、由那自身がのぼせたことを気に留めて心配してくれていることが、申し訳なくて慌てて返事をする。
「えっと、そんなっ、別に!」
「――八重と佳澄から話を聞いてるかな? 夜に伝えて送って言っていたのだけど」
部長さんは優しく語りかけるように話しかけてくる。
音色のような透き通った声に聞き入ってしまい呆けていると、部長さんは聞こえていないのかと思い続きを話し始めた。
「今日はうちの高校が会場になってちょっとした催し物があるの。それを田崎さんに手伝ってもらえると助かるんだけど?」
その優しい声に由那は「はい」と小さく返事をした。
***
高円寺高校を会場にして、夏を間近に控えた五月の終わりに地域との交流を兼ねてこの催しは開かれることになった。
その発端になったのは昨年のインターハイとインターカレッジとで東京都代表が共に優勝したことにある。そのおかげでバスケの競技人口が増え小学生から大人まで多くの人が興味を持ってくれている。
そして開催される一回目の大会は、高校生以上で主に社会人や大学生をターゲットにしたバスケットボール大会。
前後半五分ずつの簡単な予選が行われ、高校生チームで残ったのは高円寺高校だけ。
本選は前後半五分ずつで三試合勝利すれば優勝できる。
その大会に一日だけ高円寺高校のユニフォームを着て由那は試合に出る。
この大会がこれからしばらく由那やその周りの人を巻き込むことになるとは、このとき誰もが思わなかった。