10:同窓会の夜
10:同窓会の夜
その日の夜、由那は中村と野田の通う高円寺高校の寮に泊まることになった。
同窓会と称して中学で行われた試合は、元千駄ヶ谷中チームVS去年の全国出場校である田村高校と中京高校の二校の合同チーム。この企画が成立したのは、当初欠席予定だった二名が近場で合宿をしていたため、それならばいっそのこと練習試合をするという名目で集まってしまえばいいという考えのもとである。
その二名というのが元千駄ヶ谷中の黄金世代を築いた残りのメンバーにあたる久世桜と東千波となる。
久世は身長こそさほどないが、ディフェンスリバウンドは絶妙なポジション取りからほとんど負けることがない。総合的な能力も高く目立たないがチームを支える縁の下の力持ちといえる。
それと対照的なのが中学No.1ガードといわれるほどの守備に特化した東千波。ポジションは正ポイントガードのサポートという立ち位置だが、独特のパスセンスは相手だけでなく味方の意表もつくため彼女のパスをキャッチできたのは限られる。
両チームのスターティングメンバ―に豪華な顔ぶれが揃い、わきあいあいとした試合が終わると、一度解散してから久世と東を引っ張って打ち上げに向かい、夜九時を回る少し前に全体で解散となっていた。
ここでちょっとした予定変更があり、千駄ヶ谷高校が不在ということで同窓会二日目に予定していた元千駄ヶ谷中VS千駄ヶ谷高校がなくなってしまったため、全国に散らばった各々の実家に帰るものもあれば、都内の寮へ帰るものも。
そんななかホテル暮らしの由那は、先輩の所に泊めてもらうことになった、という経緯である。
全寮制の女子校である高円寺高校。
そこへ着替えも持たず連れ込まれた由那は、高校三年生が多く住むフロアで手厚い歓迎を受けていた。
「せ、先輩っ。この部屋に、この人数はちょっと無理があるような……」
由那が言うように、二人部屋としては十分な広さだがそこにベッドと勉強机が二つずつ。備え付けのクローゼットや棚に収まりきらない洋服や小物が入った段ボール箱が二、三個ある。
確かにそれだけなら普通に生活するだけには問題ないが、そこに十人強の女生徒が集まってくれば話は別である。
「ねえねえ、八重。この子がいつも話す後輩の子なんでしょ。紹介ぐらいしなさいよ」
「えーと、中学の時の後輩で……どこの高校にいったんだっけ?」
「あ、はい。親の転勤とかありまして、都外の竹春高校というところに通っている田崎由那、高校一年生です。八重さんと佳澄さんの後輩です。よろしくお願いします」
「やだ。八重の後輩なのにものすごく礼儀正しい」
「それはどういう意味だ、コラ」
「佳澄はともかく八重はガサツだし、体も大きくて怖いしぃ」
「「だよねぇ」」
「えー……」
軽くショックを受ける八重は部屋の隅で丸くなっているので、佳澄が同級生のことを紹介していく。
「メンタルブレイクされた八重は置いといて」
「……置いておくんですか」
「ここにいるのはみんな三年生で私と八重の同級生。部活はバスケ部で一緒。部屋がとなりの子とその隣の子、向かいの部屋の子などなど」
「佳澄は佳澄でなかなかに口下手なのだけど、だいたいあっているから。ちなみにバスケ部キャプテンは私なので、もし私たちと戦うようなことがあればよろしくねん」
「はい。そのときはよろしく――お願いします」
「よしよし。そんなみんなでお風呂にいきましょうか。ほら丸まったところでたいして小さくなれていない八重もいくよ」
「へーへー」
「あの、私着替えとか持っていなくて」
「ああ、大丈夫。ここへ来る前に一年の子の部屋からジャージを拝借してきて、下着もコンビニで買ってきたのがあるから使って」
「でも……」
「遠慮はいらないよん。八重と佳澄の後輩なんて由那さんが初めてだから私たちも会えてうれしいんだ。この後もお話をたくさんしてくれると二人の弱みとか握れそうでわくわくが止まらないし」
遠慮がちの由那を半ば強引に風呂場に連れて行く三年生御一行は、週末で実家に帰省している一、二年生のいない寮内を闊歩していく。
他校の生徒を泊めることは校則で禁止されているため、寮監の人に見つからないように小さな由那を隠して進むとすぐに風呂場に着くことができた。