09:同窓会、初日
09:同窓会、初日
ここへ戻ることは二度とないと思っていた。
両親と泊まっているホテルからバスで三十分ほど揺られて、由那は千駄ヶ谷中学に来ていた。
今日はここで千駄ヶ谷中学を卒業した先輩たちが集まる同窓会のようなものが企画されていた。その日付というのが由那の二個上の代の人たちが試合で初めて勝った記念日ということらしい。
朝早く欠伸をしていた守衛さんにペコリとお辞儀をして入れてもらい真っ直ぐに体育館に向かうと、すでに何人か先に来ている人がいた。
「おはようございます。お久しぶりです!」
そこにいたのは、元千駄ヶ谷中ダブルエースの中村八重先輩と野田佳澄先輩。
現在は、日本一の高円寺高校でエースを張っている人たちだ。
「うぃっす」「おはよう」
他にも何人か見覚えのある人たちがいて三年前の、由那が入学したばかりの記憶が蘇ってくるようだった。
「……どうして外にいるんですか?」
「いや、野田がまだ来ていないんだよ」
ここでの野田は野田先輩のことではなく、その先輩の叔父に当たる元千駄ヶ谷中、そして現千駄ヶ谷高校の監督のことである。
千駄ヶ谷の歴史に名前を刻んだ監督ということで、いまでも臨時でコーチをしている野田さんに頼んでこの日は体育館を空けてもらう予定になっていた。理由としては中等部が遠征中で現監督がいないことと身内の方が連絡を取りやすかったからだ。
野田先輩が携帯にキツイ言葉をぶつけて叔父に早く来るように言っているが、待っている方は呑気なものであった。
中村は遠くの高校へ進学した二人とメールをして他の人たちも仲間内で雑談をしている。
ここへ来ているほとんどが、例のごとく千駄ヶ谷高校以外の都内の高校へスポーツ推薦で進学しているため、今でもバスケを続けているしこうやって集まるときも集まりやすい。その中で実力の上下はあっても部活に青春をすべてつぎ込んでいる人たちである。
「そういや、由那は今日の日程聞いてたっけ?」
「いえ、場所と時間くらいしか知りません。あと、明日もなにかあるんですよね?」
「ふふん。それは明日になってからのお楽しみ、っということで」
昔と比べても背が伸びたところ以外は、ほとんど変わらない中村先輩。中学時代はセンターやパワーフォワードのチームの最前線を走っていて、いまでは高校女子を先導する選手になっている。そのプレイスタイルから日本人離れとよく言われているが、実際に対戦したことのある選手からは難攻不落の要塞とまでいわれている。
向こうで電話をしている野田先輩は、中学の頃はボーイッシュな格好を好んでいたが、ずいぶん女性らしい服装を着こなす大人の女性という感じになっていた。中村先輩と同じ高校へ進学したためシューティングガードを主戦場とするが、中村と同程度のプレイもすることができる。特にマークを背負った状態でのシュートは、彼女がフリーのとき以上の脅威だという。
「今日の日程は、鍵が到着し次第アップをして、試合をする。千波と桜のいる二校の合同チームと元千駄ヶ谷中チームでね」
強いところと対戦するときの先輩たちの表情は本当に楽しそうで、昔と変わらない。
それに比べて、由那は自分のことがどう先輩たちに映っているのか気になっていた。