05:訪問者たち
05:訪問者たち
夏の大会まで一ヶ月を切ると練習試合を組むのにも色々な制限がかかってくる。
同じ地区で決勝を争うようなチームとはやれないし、全国区のチーム同士では同じように試合をするのは難しい。
そうなると大会まではまだ日があるが、この時期でしか強豪同士が戦うことはできなかった。
由那たちのいる竹春高校と同地区で強豪というと天野、風見鶏の両エースがいる十有二月学園ともう一校、毎年のように全国大会へ出場している霜月高校。
ここ三年間は夏と冬の大きな大会で全国出場を逃したことは一度もなく、守備的なチームとしても全国で有名だ。
なによりそのチームにいる子津という選手の一対一での強さは異常でまともに抜きに行って抜ける選手は全国でも数えるほどしかいない。
去年の予選では絶好調の風見鶏や天野でさえ彼女の前では無力だった。
一年次からキャプテンマークを付ける子津由美は大会前の強豪との一戦を楽しみにしていた。
「キャプテン、相手校の方が着きました」
「何人?」
「えっ……さすがにそこまでは数えてませんけど」
「二條まゆはいた?」
「はい。挨拶してくださいました」
三年生の子津が一目置く二條まゆという生徒は、すでに今日の練習試合の相手校でレギュラーを勝ち取っている一年生だ。
その選手一人で試合の流れを変えられる、とまでは言わないが、全国では霜月高校より上位に位置する学校なだけに二軍で来れるんじゃないかと微かに思っていた。
ウォーミングアップ中に相手の選手を見ると一軍半のメンバーがここへ来ている。
今日が相手校にとって大事な日ということも分かっているから、このくらいはしょうがないと思っていた。
「千駄ヶ谷高校一年の二條まゆです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。霜月高校三年の子津由美よ。いい試合をしましょう」
由那の元チームメイトが主力の全国第三位のチーム。
練習相手としてはこれ以上ないほどの相手だった。
***
お昼を過ぎた頃、竹春高校には滴と愛数、栄子がいた。
「栄子、陸上部の方はどうしたの? 愛数と一緒にいられなくてホームシックになっちゃったの?」
「いや、自己ベストを更新できたから気分転換にこっちにも顔を出しに来てるだけ」
「いやいや、この愛数の味を一度知ったら忘れられないよ。無理に意地を張ると禁断症状を発症して体の震えが止まらなくなるよ」
「いやいやいや、全然関係ない」
「いやいやいやいや、そんなことないよね」
「ねぇ、この不毛なコントはいつまで続くの? あと愛数はうるさいからそこに正座」
「理不尽だ!」
「わらわら、愛数ざまあw」
「栄子はそこに土下座。今の一言は私の琴線に触れたわ。最悪ね」
「あっれー? バスケ部じゃなくて反省室に入っちゃったのかなぁ」
「うわぁ、それ超うけるね」
「なんか右の子、ボールみたいにちっちゃくてかわいいんだけど」
「「ほんとだぁ!」」
騒がしい連中が体育館に入ってきたかと思えば、荷物を隅においてコートの中央まで歩いてくる。
その五人は竹春の三人がよく知っている名前を言った。
「本当にここに負け犬由那がいるの?」
今日の夕方にもう一本いけたら行きます。