07:休息
松林中バスケ部の新フォーメーション。
ゴール付近でのプレーが得意で、ゴール下に陣取るチームの大黒柱であるセンター霧沢琴音。
得意と言うほどじゃないが、いざと言うときのダッシュはかなりの武器になり、身体も琴音の次にしっかりしていることから守備よりも攻撃を意識するポジションとしてパワーフォワード七ツ家涼香。
なるべく得点に絡めるプレーを仲間から引き出すポイントガードの初に、守備重視のプレーをするシューティングガードの準。
この二人はチームの後方から全員をサポートする。
残る上園は、自由に走り回れる遊撃手としてスモールフォワードとなった。
練習の合間の休憩中。
琴音達の通う中学の話になり、ちょうど今日返却された定期試験の答案を、初は誰かの鞄からこっそりと持ち出していた。
「ここに誰かの答案がある。これをみんなで誰のか当てよう」
淡々と初は言う。
松林中四人の中で無表情な初だが、おしゃべり自体は嫌いでなくこうやって話の話題を提供することが多い。
逆に、何かと初と比較される純は、自分から話し出す事がほとんどない。
その代わり、人の会話に口を挟むのは得意だ。
周りは初の次の言葉を静かに待つ。
「ヒントね。英語の問四、和訳問題の答え――
おじいさんは向こうにいる少女に手を振った
これが正解の答案で、この回答者の人の答えは――
おっさんは少女の手を取ってどこかへ行った、というほのぼのした風景が一瞬にして犯罪の現行犯になったという」
四人が静かに聞いているのは、決して初がつまらないことをいっているからでなく、話の内容としては中学生が爆笑するほどだった。
その理由はもう少しすれば分かるが、自分の答案だとばれるのが怖くて黙っているのとは少し違う。
「第二ヒント。理科の問二十、暗記問題――
血液中で肺から全身へと酸素を運搬する役割を担っているものの名前は?
正しい解答:ヘモグロビン
間違った解答:ヘモグロミン」
なんとその答案はその一問だけが不正解で、得点は五十点満点中四十九点だった。
上園は、おぉと声を漏らしたが何もかも分かった顔で静かにしている残りの三人は一斉に立ち上がり、そっと初の肩に手を置いた。
「初さんや。いくら話題がないからって、身を削る必要なんてないんだよ」
「普通に高得点でむかついた」
「あたしから見ればまだまだね。でも英語の回答はセンスがあると思うわ」
新加入の上園に気を使った結果が、今の初の惨劇を生んでいた。
ようは初によるお茶目な解答を上園に聞いてもらって笑いが取れたら良いな、という。
上園自身は純粋に得点にうなっただけで、笑いは取れなかったが。
そんな一時もあり、休憩時間は終了。
次の特訓メニューは近隣の小学生チーム+αVS松林中バスケ部。