02:再始動
赤坂高校との練習試合を経て部活動から同好会に格下げされた竹春高校女子バスケットボール部は、二ヶ月後の地区予選に向けて新しい一歩を踏み出していた。
正式な部に戻してもらう方法はまだ見つけていないが、日々の練習を怠らないようにしていたが、今、体育館には、三人しかいない。
本来いるべき場所のある山田三咲は、個人と団体の大会を控えているため、一ヶ月間はバスケ部に出ないつもりだ。
男子に勝る高身長と柔道で鍛えた下半身の粘りは三咲の長所としてバスケにも生きていた。
しかし一対一で目の前の相手を倒せば良いだけの柔道を続けていて、近頃まで仲間の大切さについて勘違いしていた彼女は団体戦での出場はおろか、個人戦でも格下に敗北してしまう精神面の弱さを見せる場面がしばしばあった。
そこへ由那を始めとするバスケ部の皆と試合をしたことで、仲間の大切さに気付いた彼女は自分の居場所だった柔道部で個人と団体戦での両方の全国出場を目指している。
もう一人、バスケ部を休んでいる大塚栄子は、陸上部の大会の調整に忙しくしていた。
元々バスケ部に参加するのも反対されており、短中距離走の選手として大会にも登録されている。
陸上部に欠かせない存在なのだ。
これからバスケ部と陸上部を兼用する条件として、今度ある合宿までに四月の頃の自己記録を更新することを出されていた。そのため長く走れるように鍛えていたバスケ部を一旦休んで、昔の感覚を取り戻すように頑張っている。
こうなると十分な練習が出来なくなった残る三人は、ランニングと基礎トレーニング中心の練習になり、男子バスケ部が走り込みをしている時間だけゴールをこっそり貸してもらっている。
「本日のスリーポイントシュートフェスティバル!」
「はいはい、それでルールは?」
元気に叫ぶ少女とそれを面倒そうに扱う女子は、上下愛数と滝浪滴。
小学生くらいの身長の愛数はそれを補うために、作戦や陣形を覚えてチームに貢献する小さな勇者だ。前の試合ではエベレストのように背の高い選手のプレーを覚えて、その人の進路を邪魔するために身を投げ出す活躍をした。
しかし試合以外での少女は少しお茶目が過ぎて仲間を困らせることが多い。
ムードメーカー半分、トラブルメーカー半分といったところだ。
「スリーポイントの所から撃って、一番入らなかった人がジュースを奢るの!」
「それでいいなら、別にかまわないけど」
愛数のお母さんに見える滴は、竹春では数少ないバスケ経験者だ。
個としての能力も高く、チームのことや練習方法などを考えることも手伝って、縁の下の力持ちでもある。
「それじゃ、愛数からいっくよぉ」
「ちょっと待って!」
「なんだよ、由那。お金がないなら貸してあげるから気にすんな」
「どうして愛数ちゃんがそんなに強気なのか分からないけど、愛数ちゃんのスリーは……」
「せいぜい五本に一本ね。ゴールまでボールが届かないエアボールがほとんどの」
「それは昨日までの愛数。今日の愛数を昨日までと同じと思わないで」
「ならいいんだけど」
「まあ、私たちはいいものね」
このミニゲームを含め、バスケ関連でなら愛数に二人はほぼ負けない。
部長である由那は、変に強気なところのある愛数にジュースを奢らせてしまうんじゃないかと心配で仕方がない。
由那といえば、中学最強の千駄ヶ谷出身の元一年生エース。
実力だけなら並の高校生の遥か上をいくが、普段はおっとりした普通の子で、気の強い滴の方が部長っぽいとよく言われる。
「くわぁあああ。負けた!」
「今日は調子が悪かったなぁ。十本中七本か。私はレモンティーで」
「ごめんね愛数ちゃん。えっと私はメロンソーダでお願いします」
「ダッシュでね」
「はいはい、行けばいいんでしょ。ダッシュで……」
「愛数ちゃん、あんまり走らないようにね。この後は走り込みだから」
「えー、由那は相変わらず鬼だなぁ」
「そんなっ――――シャトルランの方がいいの?」
「良くないよ!」
どこかズレた考えを持つ由那に想像以上の鬼メニューを押し付けられないよう、愛数は買い出しに行き、残る二人が後片付けをした。
そこでふと滴が思いついたことを口に出す。
「そういえばさ。男子と女子が勝負をして、もし私たちが勝てたらコートを半分貸してもらうってのはどうかしら」
「うーん、一度秀人に聞いてみようか?」
「それがいいわね。私からも聞いてみとく」
その翌日に体育館の使用権を賭けた男子と女子のミニゲームが行われることになった。