12:罠と奇策
12:罠と奇策
竹春高校がメンバーを大きく変えてきて天野が例の三人を止めなくてはならなくなったが、相手の連係ミスから十有二月学園にボールが回ってきた。
なにかを狙ってきたようだが、点差を縮めるためにもこの攻撃は絶対に決めておきたい。
ボールをキープする天野のドリブルにもその焦りから力が入ってしまう。
「天野さん!」
「そんじゃよろしく」
前から下がってきた一姫に声をかけられ、入りすぎていた力が抜けた天野はパスを出す。
パスを受けた一姫はラインアウトぎりぎりまで走っていきそこからシュートを放った。
「全速力で走ってきて、角度のないところからのシュートが入るわけがない」
「いえ、入るわ」
亜佐美がそう断言すると、きれいな放物線を描いてボールはリングの中心を貫いた。
相手のシューティングガードが得意とする角度のないところからのシュートは、この試合中だけは一姫のものになっている。
「速攻! 一本返すわ!」
「「はい!」」
竹春は揚羽からの高速パスをスリーポイントラインまで走ってきた七番がシューター対決に負けじと落ち着いて決める。
攻守の切り替えの早さは流石と思いながら、天野はペースを落として仲間がポジションに着くのを待った。
激しいマークにもあったが、ここでボールを取らるわけにはいかないと辛抱強く我慢をした甲斐もあり三人のシューターが囮になって一姫がボールを受け取りに戻る。
そこへ天野がパスを出せば当然のように一姫を囲むようにすぐにマークがつく。
「せっかくの奇襲だけど、あなたをマークしろって揚羽様にいわれているから」
「そう簡単にシュートもパスもさせないってね」
「三人をフリーにするより危険」
罠に掛けたはずが、相手の罠にはまる形になってしまった一姫がこの窮地をどうやって乗り切るのか試合を見に来た観客は息を呑むが、当の一姫はニヤリとする。
「ほんとうに私にマークを三人も付けて平気なの?」
「どうゆう意味よ」
「待って、なにかおかしい…………!」
一姫のマークについた一人がその異変に気付いた。
こうして一瞬のうちに素早くマークについたのに、その相手は既にボールを持っていなかった。
すぐにボールの行方を追うと彼女たちに指示を出した揚羽が叫ぶ。
「後ろよ! 天野がボールを持っているわ!」
一姫とのワンツーで左へ抜け出した天野はフリーの状態でシュートを放つ。
相手は一番フリーにしてはいけない選手を見逃していた。
シューター三人という餌に、スーパープレーを続けるポイントゲッターの奇策。
その全てを利用してフリーになった真のエースは、少しでも多く点の欲しい場面でスリーポイントシュートを放った。
「これも、入るわね」
練習のときみんなで完成させた数少ない奇策を進化させ、大事な場面で頼りになるエースにボールが渡った。
それにあまり無理をしない人が頑張って遠くからのシュートを放つ意味。
亜佐美が知る限り、公式戦で天野が放った五本のスリーは必ず成功している。
そして六本目のこれもリングに跳ね返りながらも粘り強く入った。
「まるで去年の田村高校のエースのようね。さすが同じ中学出身なだけあって、試合の後半や大事な場面でのシュート精度は一級品ね」
この試合で初めての組織的な攻めに冷静さを欠いた相手は攻撃の手を早くしすぎて、ゴールリングに跳ね返ったボールが天高く跳ね返えされてしまった。
「リバウンド!」
そう叫ぶとボールに向かって十番と五番、一姫ともう一人が飛ぶ。
「ボールの落下地点の予測も、落ちてくる角度も覚えた!」
「それだけがすべてじゃないってね」
センターとして最高のタイミングで飛んだ二人が空中で激しくぶつかり合う。
身長が勝る十番に抑え込まれそうになるが今回はポジションが良いためボールに手が届いた。
「次でボールは必ず奪う!」
「第二ラウンドも負けないって」
一対一の空中戦。
試合に勝つために、そして己の誇りのために負けられない勝負がそこにはあった。