10:自称全知全能
10:自称全知全能
数回見ただけであらゆるプレーを自分のものにできる風見鶏一姫の魔法には、はっきりとした弱点がある。
まだ高校生の一姫の周りには全国から呼ばれた天才と呼ばれる生徒がたくさんいる。
そのうちの一人が天野や永田なのだが、一姫はそうした人たちのプレーを真似することはできなかった。
いつかの少女に一姫の力は“憧れの魔法”と言われていた通り、憧れまでは急激な速度で上達するが、一線を越えるようなことは決してなかった。
学生の範疇ならその一線を知るようなことはほとんどないが、天才の多い十有二月学園ではそれがよくわかってしまう。
自称全知全能の神といっている生徒会長と一姫が勝負をしたことがある。
勝負方法は簡単なものならジャンケンから始まり、適当なスポーツを選んでやったが、そのすべてで一姫は一度も勝てなかった。
大事な地区予選準決勝戦でも当初の想像より、一姫の力はたった一人にほとんど通用しなかった。
「一姫は思ったより真面目にやってるようだのう」
「誰――かと思えば、全知全能の神とおっしゃっている生徒会長じゃないですか。こんなところまでどうしたんですか?」
学校の目標である全国出場できるかどうかを会長が見に来ることを思い出した。
「あぁ、風見鶏さんを見に来たんですね。ご覧のとおり無残に散ってますよ」
「毒を吐くなぁ。アサミンはそういう子だった?」
「アサミン言わないでください。どこで知ったんですか?」
「機密情報」
「会長は本当はいくつなんですか?」
「アサミンの一つ上の十七歳なんじゃない?」
「たまに会長の身長が縮んでいるという学校の怪談は本当なんですか?」
「それは不思議だのう」
「さっきからしゃべり方が俗っぽいですよ」
「個性を持とうと思っての」
「あぁ、確かに強烈な個性を感じて胸クソ悪いですね」
「毒を吐くなぁ」
「吐かせているのはどこの誰なんでしょうね」
「意外と余裕なのじゃな」
「試合時間はたっぷりありますし、風見鶏さんはここからでしょう?」
「確かに。魔法も使っていないようだしのう」
「魔法って、ただ足が速くなってジャンプ力が上がるだけのなんちゃってマジックのことですか?」
「だいたいそんな感じだのう。もう少し補足するなら、一姫はもともと体力も常人並で、普通の少女だったんだがな」
会長は一姫の話を続けた。
「幼馴染であり、姉でもあった。少女の命を奪ったあの日を境に、二人分の命を一姫は背負っている」
それは風見鶏一姫という不思議な少女の衝撃的な秘密だった。
夕方にも更新します。