09:準決開始!
09:準決開始!
初出場で準決勝進出と聞けば、チームも良いムードになっているはずだ。
それなのに、あと一つ勝てば全国に行ける試合直前のミーティングは、重苦しいムードだった。
前の試合から一週間空いての準決勝戦、翌日には決勝戦もある。
その間、走ることも禁止で絶対安静をした天野は、足の腫れも引き医者からのオーケーサインをもらっている。
チームに短期間で馴染ませた風見鶏も調子が良ければポイントゲッターの資質が芽生えかけていた。
それら色々な話を総合して亜佐美は決断した。
「この試合。スタメンから天野を外すわ」
試合に勝つために天野が絶対に必要だが、試合の頭から出してまた怪我をされたら二度とコートには戻せなくなってしまう。
今日対戦する竹春高校は主力の一年生をローテーションで回す変なシステムがあることが前の試合を見ていてわかったことだ。
ゴール下に強い十番とドライブで切り込む五番、外からのシュートが強力な七番。
この一年生たちを一人ずつ出場させているが、エースナンバーを背負う四番だけはフル出場していた。
だから準決勝でも、それまでと同じでく十番と四番だけがまず出場していた。
「十番のマークは風見鶏が行きなさい! 相手は同じ一年生だけどフィジカルでぐいぐい来るタイプだから相性は悪くないはずだわ」
一姫は身体能力だけなら超高校級だ。
練習しているところを見ているだけでも、身体の上手な動かし方というのを知っているのがよくわかる。
成功率が極端に低いダンクシュートは練習させなかったが、基本的なプレーは初心者よりはできるようになったはずだ。
「風見鶏さん。いくよ」
「はい!」
天野の代わりにポイントガードを任せたのは、一姫のダンクを演出した金子がやっている。
その金子からのパスをフリーで受けた一姫は、素早いターンでマークを振り切るとゴール下まで一気に踏み込んだ。
そこへ竹春高校のエースが立ちはだかる。
背格好は一姫と一緒で高めの部類に入る百七十くらい。バスケット選手という雰囲気があることから中学でもバスケをしていたのが伺える。
一年生でエースナンバーの四番をつけてそこにいるのが既に異質だ。
十有二月学園の試合を見ていたその四番が一姫に話しかけてくる。
「はじめまして。ようやく全国で名の知れた選手と試合ができて嬉しい限りよ」
「それは天野さんのことを言ってるの? 今日はベンチなんだけど」
「あんたの動きも面白いわ。十分潰し甲斐があって」
「そりゃどうもっ!」
足元を爆発させ、相手が隙を見せてくれたところへ迷いなく一姫は突っ込んでいく。
そのスピードはボールを持っていると感じさせないくらい素早いものだったが、これに相手の四番はくらいついてきた。
「動きがいくら早くても、同じ動きなら止められる」
「以前に見せた覚えはないけどっ」
「例え目が見えなくても、それは止められるものなのよ」
一姫のスピードに対応したというには早すぎる動きで、四番が再び前に現れる。
ゴール下まで詰めたが、距離にして二、三歩しか前に進めていない。
密着された状態から抜いていく方法をまだ知らない一姫は、パスを出そうと周りを見渡すが、この一瞬の迷いで四番がボールをスティールした。
立場が逆転し四番を彼女が追う形になる。
「取られたら取り返す!」
「まだ試合も序盤だから、付き合ってあげましょうか」
試合を外から見ていると一姫と四番がさっきから言葉を交わしているように見えるのだが、聞こえないなり、その言葉の内容は想像がついた。
それは四番が走るペースを調整して、一姫がギリギリ追いつけるようにしたのがみえみえだったからだ。
「あんた、前の試合でダンクを決めようとしたでしょ。もしあんたがそれをできる選手ならかなりイイ感じになる。その品定めをここでしようか」
「なにをいって……まあいいけど」
「少しでも私についてこれたら――――」
「さっきから何を言ってるのさっ」
四番は踏み込んだ足と反対方向にボールが流れるよう、背中にボール隠しながらドライブを開始し、そのままスピンムーブで空いた逆を抜き去っていった。
一姫がそれにほとんど反応すらできなかったのは無理のないことだった。
その動作の全てが一瞬のうちに行われ、視線だけでパスを思わせるフェイクももれなく入れてくるのだから、逆を取られて棒立ちのまま抜かれるのはしょうがない。
それは天野でさえ止めるのは、まあ難しいだろう。
つまりそれは、いまコート上にいる誰もが彼女を止めることができないということだ。
「――一方的じゃない試合になるってね」
シュッというボールがリングを通過した後の音を立てて綺麗に決まる。
それが風見鶏一姫と佐須揚羽の最初の激突だった。
お昼にも投稿します。