表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(十有二月学園編)
68/305

06:一息

06:一息



 ――教室。


 結局あのスーパープレイは一回だけだったが、それでも私はこの人が使えると思った。


 技術がどうのと言った話にはならないが、一試合を全力で走り回っても余りある体力というのも魅力的だ。


 大会に入ってからは、疲れが残ったまま試合に挑むメンバーが出てきている。


 それは学校での練習ではわからないが、いざ試合になると溜まっていた疲労で走れなくなることなんとなく感づいていた。


 チームの大黒柱である天野も体力・精神力ともに難ありなので、調子が良くても今のままなら勝ち進むのは難しい。


 勝負に勝って試合に負けるということになりかねないのだ。



「ところで永田さん。ポジションはどうする?」



 強制部長の天野が甘えてくるが、ダンク=バスケな風見鶏さんのポジションなんて考えていない。


 そのダンクも、一回成功できるかどうかのものだ。


 なのではっきりと断言することにする。



「あれはベンチでいいわよ」


「永田さんってちょークール。やっぱり何でもできる人は嫌い?」


「別にそう思ってくれてかまわないわ。しれっと他人のチームの世話をしにくる奴がまともな神経なわけないじゃない」



 するすると私の本音が漏れている。


 同じクラスに話の彼女がいるのは忘れていた。



 思い出したのは、男女に分かれて二クラス合同の実技のときだ。


 もともと女子高にするつもりだったらしく、男女の比率が3:7なので体育の授業などは合同で行わないと人数不足になってしまう。


 それを男子基準で考えているので女子は人数過多になることをこの学校の教師は考えてもらいたい。


 せめてもの配慮として当初、女子は卓球、男子はサッカーかソフトボールだったものが、女子がなでしこサッカー、男子が卓球かトレーニングルームでの筋トレということになっている。


 そこで私は風見鶏さんがこの学校で特異な役職をしていることがわかった。


 稀代の魔女といわれる生徒会長の従者のように。


 そこに本人の意思がなくとも結果はついてくるものなのだと。



「それでは一組と五組で試合を始める」


「「お願いします!」」



 本格的にフィールド中央に整列して一礼をする。


 私や天野、風見鶏がいる五組にサッカー部の女子はいないが、特進の一組にはキャプテンの人が一人いる。


 私は試合の様子をフィールドの後ろの方から眺めていた。



 バスケットボールのプレーで花形といえるのはダンクシュートだろう。


 日本女子でダンクをできる人はプロ・アマ合わせても一握りの人しかいないし、スラムとかダンクとかその名前の響きだけでもカッコいい! 青春!と思っている人もいるのかもしれない。


 それをサッカーに置き換えるのならどのようなものがあるのかと考えていた。


 サッカーといえば足でボールを蹴って相手のゴールネットを突き破るものだと、女子の誰かが言っていた。


 その過程でどれほどの必殺シュートが繰り広げられているのか見当もつかないが、ようするにバスケと一緒でシュートが花形なのだろう。


 例えば、この間のオリンピックで金メダルを獲得した日本女子のエースストライカーは、小柄なハンデをものともしないような身軽さでゴールバーより高い位置からのオーバーヘッドで世界を圧倒した。その人の妹だか従妹だかが来年高校生になるとかいう噂だ


 オリンピックと比べては酷かもしれないが、試合を見てみると、守備的位置に下がったサッカー部の人とぶつからないように、相変わらず犬のような走りを彼女は見せている。


 他の誰よりも走っているが、決してボールを持っている時間が多いわけではない。


 献身的にパスの中継役を買って出ているのは、五組にはサッカー部もサッカー経験者もいないからだろうか。



「風見鶏さん、お願い!」


 ゴール前に走っていた彼女の前にボールが行く。


 後ろからはサッカー部が追いかけてきているため、トラップせずダイレクトでシュートを放ちに行くが、たった二、三日サッカー部にいただけの人には過ぎたプレーだ。


 それに相手キーパーの好判断で、前に出てきてシュートコースをほとんど消している。


 よく見れば、サッカー部が真剣勝負でもないのに細かな指示を飛ばしてのプレーだ。



「シュートは打たせないわ!」



 正面を見据えたままの風見鶏さんは、シュートの瞬間だけ足元をみる。


 ただ正面に蹴るだけではだめなのを感じ取り、ボールの下を掬い上げるようなボールタッチでキーパーの頭の上を超えるループシュートを放った。



 ボールはふわりとゴールに吸い込まれるように飛んでいくが、惜しくもゴール上部のバーにあたって跳ね返されてしまう。



 まるでドラマの最終回で主人公のいるチームが惜しくも敗退するワンシーンにも見える。



 しかし普通の考え方を持つ私でない彼女はここで終わらなかった。



 その場にいた全員が足を止めてボールの行方を追っている最中。


 彼女だけはボールの跳ね返る方向へ即座に走っていき、細く長い脚を振り切った。


 それはオリンピックに出ているような人が神懸かったときにできるような見事なボレーシュートで、この年の女子サッカー部が強豪と当った決勝で試合を決めつける一撃に使ったものだという。


 サッカー一筋の女子が何年もかけて習得したことをその試合の中で覚えてやってしまうのが風見鶏一姫というスーパーウーマン。


 私の考えが間違っていなければ、天野とは違った方向で好きになれなさそうなタイプだ。





 翌日の土曜日、準々決勝の相手は昨年いい結果を残している強豪。


 試合には風見鶏もきているが、ベンチスタートにした。


 これまで通りのメンバーでいって勝てない相手ではない。


 そのはずだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ