05:飛べない鳥
この学校が部活動、主に運動部で成績を残すために使った手段というのが、ある一人の女子をあらゆる部活の試合に出すというものだった。
どの部活も人数ギリギリのところが多く、運動神経のいい人が入るだけでだいぶ助かるというところもあったらしいが、私たちのバスケ部で大会の途中から初心者を加えられても困るだけだ。
そのため試合までの一週間で見極めて、必要なければクーリングオフしていいと彼女を管理している生徒会長と話をつけてきた。
その彼女というのが、亜佐美や箕五子と同じクラスの“風見鶏一姫”だ。
さっそく体育館に現れた彼女は3on3に混ざり初心者っぷりを存分に発揮してくれる。
「おーい、風見鶏さん。ゴールはそっちじゃないぞー。バスケットでオウンゴールはなかなかないぞー」
彼女はこの間までサッカー部にいたらしいので、それを含めて今のプレーを茶化すと、焦った様子で走る様子が滑稽だ。
どうして普段おしとやかな私がこんなにツンケンしているのかというと、この日は朝から靴の底がべろんべろんに剥がれ落ちてテンションがダダ下がりだったからだ。
「はい、次は頑張りますっ」
頑張りすぎると空回りする人はどこの世界にもいると思うが彼女はその典型だ。
風見鶏は攻守のどの場面でも姿を現し、絶対に一試合ももたないペースで走り回るが、チームを天野と分けたせいかパスを回してもらえない状態が続き、これは一日目から泣き出して帰るのかなと本気で思ったものだ。
しかしこの学校を変えることができるだけの力を持った彼女は、この短期間で真価を発揮する。
「すみません。実はバスケットって向こうでやったことがあるんです」
「え、そうなの? 向こうって確か、アメリカだよね」
「まあ、直近だとそうですね。それで少しお願いが――」
「ふーん。それができたらミイ相手にゲキアツな展開だ。ミイや亜佐美と違ってバスケを始めたばっかりの私にそれができればだけどね」
「だいたいで大丈夫。ようはインパクトが大事だと思います」
あだ名がミイと呼ばれる天野箕五子を驚かせる作戦を風見鶏ともう一人は思いついた。
それをすぐ実行に移すのがこの学校の生徒らしいと思う。
スピードをましすぐに前へ上がった風見鶏が叫ぶ。
「いま!」
「どうにでもなれや!」
バスケをしているとは思えない掛け声で作戦を立てた相方が、ゴールリング上方にパスを送る。
このパスの軌道を見て、もしやと思う。
すぐにそれは常識とかけ離れていると思い選択肢から消していた。
だから次のプレーには本当に驚いた。
「とどけぇえええ!」
誰もが見上げるようにボールを眺めているところへ、一羽の鳥が跳躍した。
翼があっても飛べない鳥がモチーフになる風見鶏だが、彼女は全身の“バネ”を使ってゴールリングより上に手を伸ばす。
そのまま伸びきった片手を振り下ろすようにして、空中で掴んだボールをゴールに叩き付けるアリウープからの豪快なダンクシュートが決められた。
「これは何度か見たことあるから知ってる」
平然とそう言ってのける彼女に寒くもないのに全身に寒気が走ったのはよく覚えている。