04:地区予選一回戦
天野箕五子率いる十有二月学園の初戦はお互いに一回戦突破を目指す弱小校同士の戦いになった。
そうはいっても十有二月学園は今年が創部一年目なので過去の経歴もないわけで。
でもメンバーのほとんどが初心者なのも全員が整列した時点でなんとなくわかってしまうわけで。
とにかく不安でいっぱいの一回戦が始まる。
天野がポイントガードということ以外を決めずに挑んで、試合のほとんどを彼女にまかせてしまったのは亜佐美としてはマネージャー失格なのかもしれない。
あえて言い訳をするなら、この試合までに初心者四人がフリーでなら辛うじてシュートを決められるようになった。
それは亜佐美のおかげなのだから十分試合に貢献していると言いたい。
「一本決めてこぉ~」
試合が始まり整列した時からニヤニヤが止まらない天野は、対戦相手からすれば脅威だ。
なぜかって?
そりゃあ、ねえ……。
「なんなんだよ。このニヤニヤして地味なプレーするのに、パスだけはすごい奴はぁああ」
「えーと、確か元碧南中の天野だと思いますよ。私らの代の全国区プレイヤーです」
「ふざけんな!」
普段の天野ならともかく、なぜかニヤニヤが止まらない状態の天野は仲間の私たちから見ても気持ち悪い。
しかもそれ一人に好き勝手やられるなんてたまらなくふざけていると思う。
こうした相手チームの混乱もあって、十有二月学園は一回戦を突破する。
翌日には続く二回戦もなんとか勝てて次は準々決勝である。
学校の教室では、早くも全国出場が決まったかのような盛り上がりで天野がもみくちゃにされているが、用事があるのでその場から引っ張り出して体育館まで連れて行く。
「いい? この地区の予選は学校数が少ないから初めからトーナメント制で、今年の抽選会は運よく反対側のブロックに去年全国に行った二校がいるから、もの凄くラッキーなのは覚えてる?」
「いやー、例え忘れていてもそこまで丁寧に説明されればわからない人はいないと思う」
もちろんこの地区にも去年の結果からのシード校はあるのだけど、この地区で全国常連の高校は、天野以上の本物の化け物がいる霜月高校だけで当然この高校はシード権を持っている。
しかし全国に行ったもう一校は、毎年バラバラのためシード権はいつの間にか一校のみということになったという。
「あと三回勝てば全国なのは覚えてる?」
「それは忘れられないねぇ。遠く離れた姉妹とも電話で絶対に行くって言っちゃったし」
天野の言う姉妹というのは、同じ中学でチームメイトだった三浦姉妹という二人のことだろう。
その姉妹と一緒に天野は二度全国に行っている。
一歳上の三浦司と同じ高一の三浦妹は、東北の高校に進学し、天野は関西に来た。
こうして離れ離れになった今だからこそ
「次会うのは全国で」
というような夢を見ている。
その夢に私たちは手が届くのかどうかといえば、決して届かないものじゃないと思う。
次の準々決勝であんなことが起こらなければ……。